今世界を震撼させている例のあれの影響をもろにくらってしまいまして、すべての対応をそちらに回していた結果全く更新することが出来ませんでした……
今はだいぶ落ち着いてきたので更新を再開させていこうと思います。ただこれからどうなるかわからないので、安定した更新はもしかしたら出来ないかもです。
「……て、……きて、士狼」
ゆさゆさと体を揺らされて、沈んでいた意識が覚醒していく。薄らと目を開けると真っ黒なジンオウガ、澪音が俺の顔を覗き込んでいた。
「ん……あぁ、おはよう澪音。交代の時間か?」
「うん。じゃ後はよろしく……」
そう言いながら、澪音は泥のように倒れ込んだ。相当気を張っていたのだろう。早くも寝息が聞こえてきている。
今俺たちは雷狼の里ではない、自分でもどこかよくわかってない森の中で2人ぼっち休息をとっているところだ。交代っていうのは見張りのこと。そう、見張りを立てないとおちおち寝てもいられない状況になっているというわけだ。
何故こんなことになっているのか……それは数週間前のことになる。
……Now loading……
澪音が正式に群れに加わったことにより、俺の周りはより一層騒がしくなっていた。澪音は寂しい思いをしていたのかあれから俺にべったりだし、暇ができたかと思えばレオンが腕試しだと戦いを挑んでくる。それを回避したとしても今度はランに捕まって戦術指南をしてくれた頼まれる始末。ぶっちゃけ休まる暇もありゃしない。
なのだが俺は実に充実していると感じていた。この世界に来てから半年余り1人で生活していたのが、ここに来て響いてきているのだろうか。仲間と一緒にいるという状況にとても安心感を覚えていた。
こんな生活がずっと続けばいいな、とも思っていた。あんなことが起こるまでは。
その日もいつものように縄張りの見回りを終わらせて、戯れてくる澪音の相手をしていたんだっけ。突然この世のものとは思えない悍しい咆哮が聞こえてきたんだ。
「な、なんだ!?」
「この声、気持ち悪い……」
即座に辺りを警戒して見渡してみるとその原因はすぐにわかった。リオレウス。リオレウスの
リオレウス達は雷狼の里の上空まで飛んでくると、いきなり火球ブレスを無差別に放ち始めやがった。その火力はとてつもないもので、たちまち大きな木々がメキメキと音を立てながら倒れ、瑞々しい緑に覆われていた草原が真っ赤な絨毯へと変貌していく。
「グギャャァァァァァァァァ!?!?」
狂ったような咆哮を上げながらも、リオレウス達のブレス攻撃は終わらない。さっきまでの長閑な光景が、一瞬にして地獄の風景に変わってしまった。非戦闘員であるメスのジンオウガや子供達の悲鳴も聞こえ始めてきた。まさに地獄そのものだ。
「何してやがんだテメェら……ふざけんじゃねぇよ!!」
怒りが頂点まで達した俺は、古龍の力をも使って炎雷状態まで移行。雷ブラスターで上空を飛び交う無数の
しかし相手の数は想像以上に多い。この時は怒りで視野が狭まってしまっていたが、今思い返してみると亜種や希少種もいたような気がする。そして希少種にまで至った個体ならば、極限化状態の奴もいただろう。つまり数でも力でも押されていた俺は、すぐさま返しの火球ブレスを一斉放射されて地面を転がることになった。
「ぐっ……!」
体のあちこちに火傷ができ、うまく立ち上がることができない。このままでは再び一斉放射をくらって致命の一撃をもらうことになる。
とその時、俺の体を真っ黒の霧が包み込んだ。これは……澪音の能力か。
「士狼、逃げるよ」
澪音がそう言った。確かにそれが最善の選択肢だったのだろう。しかし怒りでほとんど我を忘れていた俺にとって、今逃げることなど考えられないことだった。
「ふざけんな……! あいつらを、レオンやランを置いて逃げれるわけないだろうが! 今俺が逃げたら、あいつらだけじゃ……」
「わかってる。でも私にとっては士狼の命が何より大事。それに多勢に無勢。このまま戦ってても勝てる見込みはない」
「そんなこと、やってみなきゃ……!?」
そこで俺の意識が遠のいた。恐らく澪音が俺を気絶させたのだろう。敵が上空という離れた場所にいる今、黒い霧を操る澪音が逃げに徹すれば追いつけるものはいない。そのまま澪音は俺を担いだ(ひきずったともいう)まま雷狼の里から逃げ出したのだ。
……Now loading……
そのあと目を覚ました俺はすぐに雷狼の里に戻ろうとしたが、なりふり構わず逃げてきたこと、そして今すぐ戻ってもなんの解決にもならないことを澪音に説かれて渋々断念した。
その日はその辺で休むことにしたわけだが、異変が起きていたのはリオレウスだけじゃなかったのだ。夜寝ているとこれまた様子がおかしいナルガクルガに奇襲を仕掛けられた。その時は澪音と2人で撃退したのだが、奇襲による先制攻撃を受けるのはいただけないって事で寝る時は片方が起きて見張りをすることにしたのだ。
そして今に至るってわけ。正直何が起こっているのかさっぱりわからない。あれからというもの、森の中は異様な雰囲気に包まれている。1日に1回は気が触れたモンスターに襲われるし、正直気が休まるどころの話ではない。
雷狼の里もなんとか捜索してたどり着いたんだが、そこに残っていたのは一面の焼け野原だけだった。
数時間後、澪音が起きたので今日の行動を確認し合うことにした。
「とりあえずこの異常事態の原因を探りに行かないとな」
「でもあれって狂竜ウイルスなんじゃ?」
「確かにな。でもなんとなくだがあれはただの狂竜ウイルスじゃない気がするんだよな……もっと得体の知れない、恐ろしいもののような気が」
これは本当に感覚に頼った推論でしかない。だがこれでも長年戦場に飛び込んできた身。危機察知能力には一定の自信がある。
「だから俺はそれの原因を調べたい。その過程でレオン達に会えるかも知れないし」
「分かった。士狼がそう決めたのなら、私が何かいうことはない」
「お前なぁ……少しは自分の意見を言ってもいいんだぞ? 我慢とかしてないか?」
「そんなことはない。士狼のやりたいことが私のやりたいことだから」
お前……そんな打ち切りラノベのヒロインが言いそうなことを……
「やった……死ぬまでに言ってみたいワード第5位をついに言えた!」
何か澪音がボソッと言った気がしたが、俺はあえて気づかないフリをしてやった。これも家族だからこそなせる技ってか? てかお前もう1回死んでるだろ。
いや、ホントは分かっている。澪音がそうやっておちゃらけて俺の気分を盛り上げてくれているってことは。妹にそんな心配をさせてしまうなんて兄失格だな……
「よし!」
俺は気合を入れるために思いっきり両前脚で頰を引っ叩いた。
「士狼?」
「いやなに。いつまでもクヨクヨしてられないと思ってな。さて行こうぜ澪音。まずはこの森の中心部に向かってみようか」
「っ! ……うん!」
この事態の真相を暴くため、何より仲間達との再会を誓って俺たちは森の奥へとその一歩を踏み出した。