銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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今回は久々にガチ戦闘回です。


第34話.森の奥地へ

 里から逃れてきて数日、俺たちは森の奥へ奥へと進んでいた。森の中心部には霊峰ハクサンがあるんだが、数日間歩いてもまだその麓に到達するどころか、まだ山が小さく見える始末。この森は本当に広い。

 前にこの星は地球より大きいと考えたことがあったが、どうやら俺の予想以上に広大なようだ。これほどの森林を擁する大陸の他に、少なくとももう2つ大陸があるんだからな。ちょっと考えられん。

 

「今日はここまでにしておくか」

「うん……結構歩いて疲れた」

 

 日もだいぶ傾いてきたということで今日の探索はここまでということになった。だが探索をやめたからと言って休めるわけではない。いつ気が狂ったモンスターに襲われるか分かったもんじゃないんだ。常に周りを警戒してないといけない。そんなわけで俺たちはここ数日本当の意味で安息をとれたことがないのだ。

 

「ッ! 士狼!」

「今日もか……全くいい加減にして欲しいな」

 

 俺より気配察知に優れた澪音が、モンスターの接近を察したようだ。すぐさま横にしていた体を持ち上げて警戒態勢をとる。

 そしてドシンドシンと大きな何かが近づいてくる音が聞こえてきた。ここ数日の襲撃で、足音だけでどれくらいのモンスターなのかわかるようになってしまったよ。こいつは……かなりデカい! 

 

「グオオオォォォォォォォォォォォ!!」

 

 大きな大木をまるで小枝のようにバキバキと折りながら迫ってきたのは、背中にコブが2つあり長い尻尾をハンマーのように振り回してくる獣竜種。ドボルベルクだった。

 

「澪音! 分かっているとは思うが、奴の尻尾は絶対に食らうんじゃねーぞ!」

「勿論!」

 

 俺と澪音はすぐさま二手に分かれて行動を開始した。同じところに長い間固まっていたら同時にハンマーで潰されかねない。

 それにドボルベルクは見た目通りそこまで素早いモンスターではない。ならば二手に分かれて錯乱するように攻撃した方が、被弾の可能性も少なくなるってもんだ。

 

 現に二手に分かれた俺と澪音を見比べてドボルベルクがキョロキョロし始めた。足を止めて油断しているってこと。

 

「いくぞ澪音!」

「はぁっ!」

 

 そして同時に突撃。鋭い爪による斬撃がドボルベルクの分厚い体皮を破ってダメージを与える。やつからしたら微々たる負傷だろうが、傷をつけられて怒っているのがわかる。

 

「グオオオォォォォォォォ!!」

 

 ドボルベルクはすばしっこく動く俺らを捉えられないと判断したのか、その場でグルグルと回転し始めた。単純な攻撃だが、奴のハンマーのような尻尾がそれなりの速さで振るわれるだけで十分な破壊力を生む。くらったら骨の数本は持ってかれるだろう。

 もし俺がハンターなら尻尾と地面のギリギリを通って奴の足元まで行くのだが、生憎今の俺はジンオウガ。どう考えても尻尾が当たってしまう。しかし、

 

「澪音!」

「了解!」

 

 彼女なら別だ。澪音は他のジンオウガと比べてもかなり小さい部類。しかもこれは偶然なのだがこのドボルベルク、結構デカい。デカいということはそれだけ尻尾と地面の間に距離があるってことだ。この幅だったら澪音なら……! 

 

「よし、成功」

 

 流石澪音。高速で振るわれるもはや鉄の塊と言ってもいいものが迫ってくる中、冷静に尻尾の内側に潜り込むことに成功した。

 そして回転攻撃中のドボルベルクの足元は安地も安地。ぶっちゃけ攻撃し放題だ。

 

 澪音はドボルベルクの足に爪を突き立て、傷を開くように思いっきりえぐった。ドボルベルクの足から鮮血が吹き上がり、苦痛の咆哮が響き渡る。

 そして足に大きなダメージを受けたことによって、ドボルベルクの体勢が大きく崩れた。しかも奴は高速回転中。少しでもバランスを崩せば転倒するのは道理だ。

 砂煙を上げながらドボルベルクの巨体が地面に倒れ込んだ。澪音が作ってくれたこのチャンス、決して無駄にはしない! 

 

 澪音が攻撃している間に溜めていた雷エネルギーを両前脚から一気に迸らせる。そして大きく飛び上がり、落下のスピードを加えた落雷スタンプをドボルベルクに叩き込む。

 両前脚がドボルベルクの横っ腹に吸い込まれるのと同時に、雷エネルギーを解放。落雷のような爆音が辺りに響き渡った。

 

 雷エネルギーをすべて解放し切ったあと、素早くドボルベルクから離れる。これで仕留めたとは限らないからな。密着した状態から反撃を喰らいたくはないし。

 そんな俺の横に音もなく澪音がやってきた。

 

「ナイスサポートだ澪音」

「あれぐらい朝飯前」

「いやほんとに凄いよ。眉一つ動かさずにあの中に飛び込めるのは」

「褒めても何も出ない……っ。それより油断しないで。まだ終わってないかもしれない」

「分かってるさ」

 

 澪音はうまく隠したようだが、今のは彼女の照れ隠しだ。昔から褒められるのに慣れてない奴だったからなぁ。

 っといけないいけない。久しぶりの澪音との戦闘でどこか浮かれてたようだ。決着もついてないのに戦闘と関係ないことをこんなに考えてしまうとは……集中しなければ。

 

 いまだに目の前からは黒煙がもくもくと上がっている。普通の生物なら確実に死んでいるだろうが……そんな生温い世界ではないことを、ここまで嫌というほど経験してきた。

 

「グオオオォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 突然響いた咆哮と共に、黒煙を突き破ってドボルベルクが突進してきた。そのスピードからは死にかけという言葉は感じられず、今だに奴はピンピンしているということが窺える。

 

 再び二手に分かれてその突進を避けるが、ドボルベルクは周囲の木をなぎ倒しながら大きく弧を描いて旋回。狙いを一体に絞って再度突撃してきた。狙われたのは澪音だ。

 

「澪音! 少し奴の注意を引いておいてくれ!」

「分かった!」

 

 体の小さな澪音はどうしても俺と比べて火力が出しにくい。しかしその小柄を生かした戦い方だってある。例えば今の錯乱。小柄ゆえに相手の攻撃を回避しやすいという利点を生かして、ヘイト集めとして一役買ってくれている。

 それに対して俺は火力は出るけどどうしても攻撃が大振りになりやすい。今までも相手の隙をついたり大きく体勢を崩させた時にしか大技は放たなかった。

 俺と澪音。互いが互いの弱点を補っているのだ。

 

 今ドボルベルクの意識は完全に澪音1人に向いている。俺は気づかれないように奴の背後に回り込み、完璧な死角へと立った。

 先ほどの攻撃で使い切った雷エネルギーはすでにチャージし終わっている。そいつを今度は全て刃尾に集めて解き放つ。

 刃尾が蒼雷で覆われ、激しくスパークを放ち始めた。準備は完了だ! 

 

 澪音のことしか見えていないドボルベルクの背中に、蒼雷を纏った刃尾での一閃を放つ。横一文字に傷が刻まれ、勢いよく鮮血が吹き出した。

 しかしそれだけでは終わらない。蓄積された雷がつけたばかりの傷を激しく焼くのだ。傷口を高電圧で焼かれる痛みは想像を絶することだろう。

 

「グオォォ……ォォ……」

 

 ドシーンという音を立ててドボルベルクが地面に倒れ込んだ。そのままピクリとも動く様子はない。

 

「ふぅ……勝てたか」

「私と士狼が組んでるんだし。当たり前」

 

 とか言いながらまるでふんす! とでも言いたげな顔をしているが。まぁいいか。それよりも、だ。

 

「気付いてるか澪音? この森、奥に行けば行くほどモンスターが強くなってやがる」

「そうだね。最初の方は私だけでも余裕だったのに、今ではこれだし」

 

 やはり森の奥には何かがあるというのだろうか……あるとしたらゴア・マガラか、それとも全く違う別の何かか。何にせよ、気を引き締めなければいけないのはこれからのようだ。

 

 

 

 

 


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