銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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第36話.sideティナ③ 〜異変の始まり〜

「では今日の特訓はここまでです」

「「有難うございました、ティナさん!」」

 

 毎日の日課となっているカナトとエリンとの特訓を終えて、適度にかいた汗を流すために温泉にやってきたティナ。ユクモ村は温泉が名物なので、これに入るのもティナの日課になりつつあった。

 

「彼らは本当に強くなりました……初めはすぐに倒れてしまっていましたが、今では最後までついて来られるようになりましたし」

 

 温泉に浸かりながらティナは1人思いを馳せる。それはまだカナトとエリンがティナと出会ったばかりの頃。彼らはティナのウォーミングアップにすらついていくことができなかった。

 勿論ティナのウォーミングアップがおかしいというのもあるが。しかし今ではそのウォーミングアップも平然とこなし、その後の訓練もメニュー通りに最後まで通して行えるようになった。

 

 これがどれほど凄いことなのか当事者たちは気付いていないが、数ヶ月ぶりにユクモ村に視察に来たキールが目が飛び出るほど驚いたという出来事がある。

 キールといえばギルドマスターの仕事をしつつも有望な人材をスカウトすることでも有名なのだ。ちなみにティナもスカウトされたものの1人。

 人を見る目は誰よりも優れているキールが彼らの成長を見て驚いていた。カナトとエリンの弛まぬ努力の結果が現れた出来事だ。

 

「出会った頃は上級にもなってなかったハンターだったのに、今では2人だけでかなり上位のG級クエストもこなせるようになりました」

 

 この間彼らは2人だけでG級相当のラージャンを討伐してきたところだ。ティナも一応付いて入ったのだが、彼女が入る隙がないぐらい完璧にあのラージャンを仕留めて見せた。

 G級のラージャンを討伐出来るというのは、もはや英雄クラスの偉業だ。彼らは昔自分たちが憧れていた英雄の道に一歩を踏み出したことになる。

 

「ふふふ。次はどんなことをしましょうか。とても楽しみです……」

 

 他の人との身体能力に大きな差があるティナにとって、自分と同じぐらい動ける仲間というのは本当に嬉しい存在なのだ。

 いずれはあの子のように自分と肩を並べる存在に……そう思うだけでティナの機嫌はうなぎ上りだ。

 

 ティナはニコニコと笑みを浮かべながら温泉を後にした。

 ちなみにこれは余談だがティナには女性のファンも多い。彼女の満面の笑みを目の当たりにして、ノックダウンさせられた女性客がいたりいなかったり。

 

 

 ……Now loading……

 

 

「テオ、今戻りましたよ〜」

「お帰りなさいませニャ、ご主人様」

 

 広すぎる自室に帰るとそこにはルームサービス係のテオが風呂上がりの紅茶を用意して待っていた。

 

「おや、よく私が温泉に入ってきたって分かりましたね?」

 

 気が効くルームサービス係に感心しながらティナがそういうと、

 

「ご主人様、この頃毎日温泉に入ってるニャ。流石に行動パターンもわかってくるってもんニャ……」

 

 呆れた顔をしたテオがやれやれと手を振っていた。

 

「むぅ、そんなに温泉に入ってましたか……ですが温泉に入るのは私のこの頃の楽しみですし、まぁいいでしょう」

「温泉に入りすぎて、しわくちゃにならないといいけどニャ」

「何か言いましたか?」

「な、なんでもないニャ」

 

 テオは噴き出した汗を拭って安堵の息を吐いた。もし今のがティナに聞かれでもしていたら……テオの背中がぶるりと震える。

 

「テオ、何か私に伝達とかきていませんでしたか?」

「あー、そういえば明日キールさんがこっちにくるそうニャ。昼には着くからすぐに顔を見せてくれって。なんでも伝えたいことがあるそうニャ」

「伝えたいこと、ですか」

 

 この時ティナは何となく嫌な予感がするなと思った。しかし自分の思い過ごしだろうと思って特に気にしなかった。

 しかしティナの予感は次の日、当たっていたと知ることになる。

 

 

 ……Now loading……

 

 

 翌日無事にキールが到着したと聞いたティナはギルドの執務室へと足を運んでいた。キールはティナにとって第二の親も同然の人。久しぶりに会えるとなると浮き足立つものだ。

 

「失礼します、ティナです」

 

 執務室のドアを開けると、いつもの場所にキールは座っていた。しかしその表情は久しぶりに娘同然のティナに会えた喜びではなく、眉間にシワを寄せた厳しいものになっている。

 その顔を見て即座にティナは何かよくないことが起こっていることを察した。

 

「何かあったんですね?」

「うむ……実はとても不可思議なことが起きていてな」

 

 キールの口から語られたのはこの頃のモンスターたちの異変。なんでも本来の生息地から大きく外れた場所で確認されたモンスターが多数いたり、普段なら好戦的ではないモンスターが暴れまわったりしているとのこと。

 別にこれだけだったらまぁそういうこともあるかで話は終わるのだが、その報告数が明らかに多くなってきているというのだ。

 

「それは大陸各地で見られているのですか?」

「そうだ。だからどこかに強大な……それこそ古龍が現れて、生息域を追われたモンスターが暴れているというわけでもない」

 

 ふむ、と顎に手を当てて考え込むティナ。確かに古龍の仕業ならば分かるのだが、大陸各地ともなるとどうだろう。

 全世界に影響を及ぼす存在。御伽噺の童歌に出てくる伝説の黒龍ならば可能性はあるが、あまりに荒唐無稽のため信じてはいなかった。

 

「モンスターが暴れていると言いましたが、具体的にはどんなふうに暴れているのですか?」

「それが報告によると、見境なく暴れまわっているそうだ。人やモンスター関係なく、目に入ったものは全て襲うようになったものもあるらしい。狂乱といった言葉が浮かぶ有様だそうだ」

 

 そんなのはもはや暴走の域を超えている。暴れているモンスター達に自我が残されているのかも怪しくなってきた。

 新種のモンスターが現れて、何か特殊な状態異常を起こしている……? 

 そこまで考えついたティナは今思っていたことをキールに伝えた。

 

「新種のモンスターか。確かにその線も考えられるな。しかし確証は何もない。新たな疫病のようなものかもしれない」

「疫病……だとしたら怖いですね。今はモンスターにしか報告例は無いようですが、もし人にも感染するようなものだったら……」

「うむ、大混乱が巻き起こるだろう。だからこそ今回の件は慎重に調査をしなければならない。こちらからもG級ハンターを何人か手配して調査にあたってみよう。君はどうする?」

「そうですね。私は……」

 

 こんな時彼女がいてくれれば……

 ティナの脳裏にはツインテールを揺らす、小柄だが1番頼りになる相棒の姿が思い浮かんだ。しかし彼女は新大陸の調査に行ってしまって、今こちらにいない。彼女の眩しい笑顔を思い出して一瞬寂しげな表情を浮かべるティナ。

 しかしまだ頼りになる仲間がいるではないか。自分と肩を並べられる可能性のある、心強い仲間達が。

 

「私はカナトさんとエリンさんを連れて調査に加わります。まぁ彼らが承諾してくれれば、ですが」

「彼らならばきっと答えてくれるさ。では調査の内容を追って報告する。今日は以上だ。……すまんな。きて早々こんなことになってしまって」

「いえ、キールさんのお役に立てるなら私は……」

 

 そう言いかけた時だった。

 

 カンカンカンカンカンカンカンカン!! 

 

 突然甲高い鐘の音が鳴り響いた。

 

「これはまさか……?」

「モンスター襲撃の知らせ!? そんな、この村にモンスターが来るなんて滅多にないのに……キールさんすいません、私行ってきます!」

「あ、あぁ」

 

 ティナが駆け出していって1人執務室に残ったキールがポツリと呟く。

 

「まさかこの大陸でも異変が……?」

 

 

 ……Now loading……

 

 

 この世界の村や街はモンスターの接近を防ぐために周りに鉄柵が張り巡らされている。

 ティナが唯一の村への入口である鉄の門の前にたどり着くと、そこにはあり得ない光景が広がっていた。

 徒党を組んで走ってくるドスジャギィの群れ、まるで鉄柵に蜂蜜でも幻視しているかのように一心不乱に駆けるアオアシラ達、そして空からも火竜夫婦が何組か飛んできているのも見える。

 その他にも数種類のモンスターが、一直線にユクモ村目掛けて走ってきていた。

 

「これは……一体? モンスター同士が群れて襲いかかってくるなんて、聞いたことが……」

 

 その光景にティナは一瞬足を止めてしまうが、すぐに自分のすべきことはこのモンスター達を1匹も村に入れないということを思い出して、すぐさま背中に背負った太刀を抜いた。

 

「ティナさん!」

「これは一体どういうこと!?」

 

 そこにタイミングよくカナトとエリンが駆け寄ってきた。彼らも鐘の音を聞いて大慌てでここまでやってきたのだろう。

 

「分かりません! ですがモンスターの大群がこの村に押し寄せようとしています。私たちはあれらを食い止めなければなりません!」

 

 数では圧倒的に劣っている。しかし

 

「了解!」

「1匹たりとも村に入れてなるものか!」

 

 この頼もしい仲間と一緒ならば……! 

 

 ティナ達ハンターとモンスターの大群による前代未聞の戦闘が今、始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

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