銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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第39話.降臨

「ここは……一体なんだ?」

「神殿? みたいだけど……」

 

 レオンと別れたあと、俺たちは森の中を進んでいたんだが、その途中で妙なものを見つけた。一見すると朽ち果てた神殿のようなものだ。

 しかしこんな深い森の中に神殿があるってのもおかしな話のような気もするな。もしかしたらこの神殿ができた頃は、ここらへんは森じゃなかったのかも。

 

「見ろよ澪音、ここに像がある」

「ほんとだ……! 士狼、これって」

「ん? ……あぁ! これは!」

 

 朽ちた神殿の中央には一つの龍の像が建っている。所々が崩れてかなり劣化しているが、まだ原型は保っている。そしてその龍の像のモデルに俺たちは強い心当たりがあった。

 

「祖龍……」

「ミラルーツ……」

 

 建っていた像はゲームの中で何度も見たミラルーツそのものだったのだ。一瞬ボレアスかとも思ったが、ルーツはボレアスに比べて体毛の量が多い。そしてこの像はその細かい体毛までをも再現した実によくできたものだった。劣化してない状態が見てみたいほどだ。

 

「なんでこんなところにミラルーツの像が?」

 

 そう思ったときだった。

 

「また会った。祖龍様の御使殿」

 

 いつかのように突然後ろから声をかけられた。振り向くとそこには、砂原で会った古代竜人が立っている。

 

「っ! 誰!?」

 

 いきなり背後に現れた存在に警戒して澪音が臨戦態勢を取ったが、とっさに事情を説明して事なきを得た。

 

「久しぶりだな。そうそう、砂原での件は助かった。礼を言わせてくれ」

 

 砂原では言えなかった礼の言葉をようやく伝えることができた。古代竜人はうんうんと頷きながら俺の言葉を聞いている。相変わらず深い笠を被っているのでその表情はよく分からないが。

 

「それで? 今度はなんの用だ?」

「用があるは我らじゃない。祖龍様自ら話がある」

 

 そう言ったっきり古代竜人はだらんと力の抜けた人形のようになってしまって、話しかけても押しても引いてもうんともすんとも言わなくなってしまった。

 

「どうすればいいんだこれ?」

 

 思わずそう呟いたとき、いきなり古代竜人が光り始めた。古代竜人の小さな体を光が包み込むと、そのまま宙にふわりと浮かび上がる。

 

「な、なんだなんだ?」

「眩しい」

 

 しばらくそのまま様子を伺っていると、次第に声のようなものが聞こえ始めてきた。

 

「あー、あー、聞こえてますかー?」

 

 古代竜人のしわがれたような声ではない、凛と透き通るような少女の声が聞こえ始めたのだ。

 

「この声……お前まさか神様か!?」

「ピンポーン! 覚えててくれて嬉しいよ。久しぶりだね士狼、あと澪音も近くにいるのかな? 再会できたようで何より何より」

 

 俺と澪音をこの世界に導いたあの幼女神。出来事が出来事なだけに忘れることなんて出来るはずもないだろう。

 

「いやー、ようやく君たちとコネクションを繋ぐことが出来たよ。私の力もだいぶ衰えたもんだね」

「神様が直々になんの用だよ? 古代竜人の話では祖龍が用があるって言ってたが?」

「まだ分からないかな? 君ってば鋭いんだか鈍いんだかよく分からないね……ふふん、何を隠そう私こそが──!」

「貴方が祖龍ミラルーツってこと?」

 

 何やら盛大に名乗りを上げようとしたところ、澪音が横からセリフを掻っ攫ってしまったようだ。

 てかあの幼女が祖龍ミラルーツ!? にわかには信じがたいことだ。祖龍ともなればもっとゴツいおっさんでも出てくるのかと思っていたが。

 

「ちょっと澪音! 私の1番の見せ場を奪わないでくれるかな!?」

「あんまりにも焦らすから、つい」

 

 悪びれもなく言い放つ澪音。ルーツのこめかみがピクピクしているのが見える見える。くくく。

 

「はぁー。まあいいや。ともかく私が全てのモンスターの祖。ミラルーツ様です! 敬いたまえ〜」

「ははー、じゃねぇよ! 俺たちは急いでるんだ。用がないならさっさといかせてもらうぞ」

「あぁ、ごめんって! 久しぶりに話すから楽しくなっちゃっただけなんだよ!」

 

 なんかだんだん祖龍としての貫禄とか風格とか、そう言うのが剥がれ落ちていってる気がする……

 俺と澪音のジト目を受けて、古代竜人もといルーツはゴホンとその佇まいを正した。

 

「じゃあ核心から言うよ。今この世界で起こっている元凶を教えにきた」

「それは……本当か!?」

「勿論。モンスターの暴走が加速しているのは、『あの子』が目覚めようとしているからだ」

 

 待て待て待て。いきなりぶっ飛んだ話が飛び出てきたぞ。

 

「あの子っていうのは……?」

「そうだね……『あの子』には正式な名前はない。だから形式的に終わりを齎す災厄の龍。そうだね【終龍】と呼ぶことにしよう」

 

 終わりを齎す災厄の龍、終龍だと? それが今回の異変の黒幕だということか。だが終龍なんてものは前世では聞いたことがない。俺は結構モンハン世界の設定を好んで調べていたんだが、そんな単語は考察サイトの考察にも出てきたことはない。

 まあこの世界はゲームのモンハンと全く同じというわけではないのだから、俺が知らない単語が出てきてもなんら不思議じゃないわけだが。

 

「その終龍っていうのが、元凶でいいの?」

「うん。彼の撒き散らす濃密な瘴気を浴びたモンスターが、今各地で暴走しているモンスターということ」

 

 終龍……そいつが元凶。そいつのせいでランが、皆んながっ……うん? ちょっと待てよ? 

 

「さっき目覚めようとしているって言ってたよな?」

「うん。封印はまだ完全には解けてないよ」

「じゃあ何か? 終龍って奴はまだ目覚めてもないのに世界各地に影響を及ぼしているってことか!?」

「そうだね」

 

 その言葉を聞いて俺と澪音に衝撃が走った。当然だ。寝ている状態でここまでの被害を出せるのだ。もし目覚めて完全な力を発揮したとなれば……終わりを齎す災厄の龍、か。本当にその名の通り世界を終焉に導く力があるってことか! 

 

「君たちには終龍が完全に力を取り戻す前に、今度こそあの子を永遠の眠りに着かせてあげてほしいんだ」

 

 そう言うルーツの声からは、悲しみの感情が聞いてとれる。どうやら訳ありのようだが、今それを聞くのはお門違いってもんだろう。

 

「つまり終龍を殺してくれってことか」

「っ……うん」

 

 だから今するのは確認だけ。より直接的な言葉を使ってみたが、ルーツから反対の言葉が出ることはなかった。

 

「了解した。澪音も問題はないか?」

私達に(・・・)問題はない」

 

 やはり澪音も気付いていたか。

 

「それで、俺たちはこれから何をすればいい?」

「君たちはこのまま霊峰に向かって欲しい。そこにこの大陸を蝕む原因がいる」

「それは終龍じゃないのか?」

「終龍は特に強大な生物を媒介に世界に瘴気を撒き散らしている。霊峰にいるあいつを倒さない限り、この一帯の異変が収まることはないよ」

 

 なるほどな。世界各地で同時多発的にモンスターの暴走が起こっているのはそう言うわけか。より濃い瘴気を纏ったモンスターを各地に散らばらせ、そいつらからねずみ算式に狂竜モンスターを増やしていっているわけだ。

 

「だがよ、世界の危機だと言うんならあんたら禁忌が解決に当たるのが妥当なんじゃないか?」

「世界のパワーバランスとか地脈の関係とか理由はたくさんあるけど、禁忌は自分が治める地から離れることができないんだ。大戦の傷痕が深く残るこの世界ではね。そして私は数千年前の大戦の影響で現界することすら出来ない……」

 

 大戦というと、モンハンの非公式設定であった竜大戦の事だろうか。竜と人が絶滅寸前になるまで争いあったというあの……

 そんなことを考えていると、古代竜人を覆う光がチカチカと明滅し始めた。

 

「もう時間がないみたい。だから必要なことだけを言うよ。終龍の見た目はゴア・マガラに酷似している。地球から来た君たちなら意味がわかるはずだ。あと終龍は覚醒のために膨大なエネルギーを常に欲している。もし見失ったら、エネルギーが集まる場……を……してみて。じゃ…………を祈………………」

「あ、おい!」

 

 光の明滅が激しくなり、辺りが閃光に包まれる。程なくして閃光は収まったが、その時には古代竜人は光っておらず気絶しているのかピクリとも動く気配がない。

 

「時間切れか……現界出来ないとか言ってたし、本来の力が使えないのかもな」

「でも最後に結構重要なことを言ってた」

「だな」

 

 終龍はゴア・マガラに酷似している、か。やはり性質はこちらの方が強いとはいえ、モンスターが暴走しているのは狂竜ウイルスによるものだったんだな。そしてこの瘴気に当てられ続けるとウチケシの実の効果すらなくなると。

 

「確かに恐ろしい能力だ。だがようやく見えてぜ、ラン。お前の仇がよ……澪音、俺は必ず終龍を倒すと誓う。お前はどうする?」

「私は士狼の行く場所にどこまでもついていく」

「はは、お前は昔っからそうだな。だけどありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」

 

 そういうと澪音はにこりと微笑み返してくれた。家族が身近にいることが、こんなに心強いなんてな。

 

 突然教えられた異変の元凶と神様の真実。正直情報過多で頭がパンクしそうなほどだ。でも俺たちの目的は今日の話でより現実性を帯びてきたと思う。

 終龍。あの祖龍ミラルーツが終わりを齎す災厄の龍とまで呼ぶ存在。恐らくこれまでのどんな奴よりも強大な敵となるだろう。だが俺はランに、里のみんなに誓ったんだ。雷狼の里を敵に回す恐ろしさを思い知らせてやるとな。

 吹き抜けになった天井から覗く青空を見上げながら、俺は決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 




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