銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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遅くなって申し訳ありません……


第4話.暴食の王

 初めての戦闘を経験してから2ヶ月。この世界に来て3ヶ月あまりが経過した。

 

 依然として俺の体は成体には至ってない。まぁ当然っちゃ当然だろ。そもそも、こんなに早く青年期と思えるほど体が大きくなるとは思ってなかったのだ。

 まぁ、それはいい。そんなことより、もっと重要なことが分かってしまったのだから。

 

 それは、加護の本当の力というやつだ。確証はないし、証明も出来ないのだが、俺はこの答えで合っていると確信している。

 加護の力はおそらく『能力吸収』。気づいたきっかけはルドロスを倒した数日後のことだ。

 

 何気なしにくしゃみをした途端に、口から水の塊が飛び出してきたのだ。うわ……この言い方だと、俺がくしゃみの途端に唾をまき散らしたかのようじゃねーか。

 そう言う意味ではなく、本物の水球だ。現に水球が当たった岩は少しだけ削れてたし。

 

 その時は驚いたものだが、冷静になって考えてみると、あれはルドロスの水球攻撃なのでは? と思い至った。

 そもそもジンオウガに水袋は無いし、水を操るジンオウガってのも聞いたことがない。だったら、あとは俺がまだ未発見の新種か、加護の力かのどちらかだろう。

 まぁ十中八九加護の力だろうな。俺の見た目は完全に原種のジンオウガだし。新種だったら多少なりとも原種とは違ったところがあるだろう。

 

 それにしても、能力吸収とは……これは便利なんてレベルのもんじゃねーぞ。例えば属性。雷属性が使えるジンオウガは、雷に耐性がある。そして弱点は氷属性。これは誰でも知ってることだろう。

 じゃあ、ジンオウガが氷属性を使えたら? 氷に耐性を持てる。つまり弱点がなくなるってことだ。

 

 これはヤベーもんをもらっちまったな……まぁ死ににくくなるなら大歓迎なんだけどな。いつかは全属性をゲットしたいなぁ。

 さて、現状確認も終わったし、今日の探索に行くとしますかね。

 

 

 ……Now loading……

 

 

 この頃の日課となっている狩りを終えて腹を満たしたあと、いつもの散歩コースを歩くことにした。

 コースはエリア1からスタートして、4、5、6、7と経由してエリア9に戻ってくるというもの。

 

 それにしても、やはり現実とゲームでは全く違うということをヒシヒシと感じられるな。エリア4は朽ちた家屋がポツポツとあるのではなく、廃棄された村という感じで、まだまだ朽ちかけの家が多く存在している。

 エリア5はゲームのよりももっと広く、ドボルベルクが3匹暴れまわっても狭くは感じないと思えるほど。

 エリア6なんてすでに人間より大きい俺でさえ、足がつかなくなりかけるところがあるぐらい深い川が流れている。

 

 実際歩いてみるとわかる、ゲームと現実の違い。まぁゲームの中に入ったわけじゃないから当然っちゃ当然か。

 

 そんなわけで今いるのはエリア5。

 大型モンスターの気配もなく、のんびりとエリアの真ん中を歩いている時だった。少し遠くに、何かがある。不審に思いつつも近づいてみると、なんと息絶えたライゼクスだった。

 

 なんでライゼクスがこんなところに……? 本来ライゼクスは渓流には出ないはずだ。もしかしたら、この世界は違うのかもしれないけど。

 まぁそんなことはいい。これは大きなチャンスなのだ。ライゼクスには発電器官がある。そいつを食らえば、俺にも発電器官が出来るってわけ。

 ジンオウガの弱点である、発電を雷光虫に任せっきりという点を、これで克服出来る。

 

 こりゃラッキーだな。誰にやられたのかは知らんが、ここに死体を放置したのが悪いってね。

 ではいただきま〜す。

 

 ライゼクスの発電器官である背電殻を中心に、ペロリと平らげた。味は……まぁ普通だな。

 でもこれで発電器官を得ることが出来た。明日には出来てるかな? うーん、楽しみだ。

 

 と、その時だった。

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 大地が震撼するほどの咆哮が轟く。咄嗟に後ろを振り向くと、そこに奴はいた。

 全身を覆うはち切れんばかりの筋肉の鎧、大きく裂けた巨大すぎる顎。その顎から滴る涎は、地面に落ちるとシュウシュウと音を立てて地面を溶かす酸性だ。

 生態系の破壊者、暴食の悪魔、ゴーヤと呼ばれるイビルジョーが立っていたのだ。

 

 そいつを視界に捉えた瞬間から、俺の本能がけたたましく警鐘を鳴らしている。奴には勝てない。今すぐこの場から逃げろ、と。

 だが俺はその場から動けずにいた。それも当然。今一瞬でも気を抜いたら、死ぬというのが分かっているからだ。それぐらい、俺と奴の間には戦力差が存在している。

 

 どうやらイビルジョーは自分の獲物をとられたことに、怒り狂っているようだ。

 失敗したぜ……まさかあのライゼクスを仕留めたのが、イビルジョーだったなんてな……このまま逃がしてくれそうにもないし、戦うしかない、か。だが戦っても敗北は必至。なんとか隙をついて逃げるしかない! 

 

 こちらの方針がある程度固まり、意識を戦闘用に切り替えた時、イビルジョーにも動きがあった。深く腰を落として、両脚で強く大地を踏みしめているように見える。おそらく力にものを言わせて突っ込んでくるつもりだろう。

 それならばこちらにも対処は可能だ。まっすぐ突っ込んでくるならば、横に飛んでそれを回避。そのあと……!? 

 

 俺の思考は最後まで纏まることは無かった。気がついたら、俺の体は宙に浮いていたからだ。それがイビルジョーに突撃されて吹き飛ばされたということに気づいたのは、勢いで大木に叩きつけられた後だった。

 

 ぐはっ……ば、バカな。奴が動き出した瞬間が全く分からなかった……まるで砲弾のような攻撃だ……! 

 

 見ると奴が通ったであろう地面は、炎で焼かれたかのように焼け爛れている。イビルジョーが炎を使うはずもないし、あれは摩擦熱で地面が燃えたという証拠だ。

 

 イビルジョーはすでに体制を整えて、こちらに向かって来ようとしてきている。このまま倒れ込んでいてはマズイ。痛む身体を必死を動かし、なんとか立ち上がる事に成功した。

 

 くそっ、足へのダメージがバカになんねーな……薬草をバクバク食っていたお陰で、自然回復力には自信があるが、今すぐ全快ってわけにもいかない。早々に切り上げなければこちらが不利だ。

 すでに雷光虫で電力は補完済み。あとはアレをやるだけなんだが……タイミングが難しい上に、一回ミスるとすぐには連発できない。そしたら俺の負けだ。しっかり見極めなければ。

 

 今度は突進するのではなく、ゆっくりと近づいてくるイビルジョー。勝ちを確信しているのか、その顔からは見下すような視線が感じられる。

 

 バカにしやがって……そんな態度を取ってられるのも今のうちだからな! 

 

 すぐ近くまで迫ってきたイビルジョーが行動を起こす。巨大な顎での噛みつき攻撃だ。

 だが先ほどのようなスピードはない。これならかわせる! 

 顎が俺の体を捕らえるギリギリまで引きつけてかわす。その瞬間、イビルジョーと俺の体が、かつてないほどに近づいた。

 

 ここしかない! くらえ、フラッシュ!! 

 

 ありったけの電力を使用して、体全体を発光させる。モンハンでいうならば擬似閃光玉か。ともかくそれはイビルジョーの眼前で発動し、奴の視界を奪う事に成功した。

 

「ガァァァァ……ガアァァァァァァァァァ!!!!」

 

 突然目が見えなくなった事に驚いたのか、イビルジョーはその場でジタバタ暴れるのみ。

 逃げるなら今しかない!! 

 

 僅かに残った電力で脚力を強化し、その場から全力離脱。もちろん逃げた痕跡を残さないよう注意したし、途中から気配を消すことも忘れない。

 そんなこんなで、ようやくエリア9の家にまで戻ってくることが出来た。エリア9はエリア7からの入り口が思った以上に狭く、イビルジョーでは通り抜けられないと思う。エリア8からの道は言わずもがな。あの巨体が洞窟に入れるわけがない。

 

 はぁ〜。なんとか逃げ切れたようだ……ライゼクスを見つけたのはかなり幸運だったが、イビルジョーに出会うとか運ないなぁ。しかもあのイビルジョー、俺が知ってるのよりもなんか体色が黒かったし。変異種とかじゃねーだろうな? 

 ともかく疲れた……今日はもう寝よう。

 

 そのまま最低限の警戒はしつつ、眠りに落ちた。少し経ったのち、俺を逃した怒りからか、イビルジョーの咆哮が渓流中に響き渡ったのだった。

 


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