銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

40 / 61
第40話.竜と人と

 ルーツから異変の元凶について聞いた日から数日後、とうとう俺たちは霊峰の麓の近くまで到達していた。

 

「もうすぐそこだ……」

「うん。あと少し」

 

 雷狼の里から脱出してからもうどれぐらいの日が経ったのだろうか。森の中は深い霧で覆われていて昼夜の判別がつきにくいところもある。なので正確な日にちを覚えてないのだ。それでも結構な日が経っているだろうな。マジでこの森広すぎる。

 

「そういえばルーツに霊峰にいる奴について尋ねられなかったな」

「でも大体予想はつく。霊峰に住む強大な存在といえば……」

 

 まあ澪音の意見に俺も同意だ。恐らく待ち受けているのは嵐を司り、移動するだけで大災害としての記録が残るほどの存在。霊峰から時たま吹き下ろされる強烈な風も、あいつがいるなら説明がつくしな。

 

 そうしてあいも変わらず2人で森の中を進んでいる時だった。前方の方から何かがぶつかり合ったりするような音が聞こえてきた。この森の中だともはや珍しくもない現象だ。モンスター同士が戦い合っているのだろう。

 俺と澪音は頷き合いながら、相手に気づかれないよう慎重に歩き始めた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 戦いの音が近くなってきたので俺たちは手頃な茂みに体を隠してその様子を伺うことにした。しかしその戦闘の光景を見た瞬間、俺は目を疑った。

 

「カナト、そっちに行ったわよ!」

「OKエリン! はぁぁぁぁ!!」

 

 なんと戦っていたのは狂乱したモンスター同士ではなく、モンスターと人間。それも俺がよく知ったハンターだったのだ。スラッシュアックス使いのカナトと弓使いのエリン。彼らが狂乱したナルガクルガと戦っている。

 あいつらがここにいるってのは驚きだが、それ以上にあの2人ってあんなに強かったっけ? 2人の連携の精度や立ち回りは以前戦った時と比べて天と地ほどの差があるだろう。今の2人が相手だったなら、あの時の俺は負けていたかもしれないと思えるほど、カナトとエリンは強くなっていた。

 

 そうこうしているうちにカナトが止めの一撃を決めて勝負は決したようだ。彼らは少しばかり息が上がっているものの、まだまだ余力を残しているように感じる。見た感じあのナルガクルガは結構強そうだったんだがな……この森は奥に行けば行くほどモンスターが強くなってくる。ここはほとんど森の中心部に近いので、モンスターの強さもそれなりものになってくるのだ。改めて彼らの成長ぶりに驚かされた。

 

「お見事でした。これぐらいの強さのモンスターなら、もう私が手伝う必要はありませんね」

 

 げ! ティナもいるのかよ! 

 カナトとエリンの成長ぶりに驚いて気がつくのが遅れてしまったが、奥の木陰から純白の装備を身に纏った少女、ティナが出てきた。歴代最強と称される彼女のオーラは相変わらず凄まじく、隣にいる澪音も彼女の姿を見て目を見開いている。

 

「ありがとう。ティナさん」

「でも気をつけて。まだ近くにモンスターがいる気配がするわ」

 

 まさかエリン、俺たちの気配に気づいているのか!? 前はハンターの卵のように思えていた彼女も今や歴戦のハンターのような風格になっちまったなぁ。

 

「それはその木陰で身を隠している彼のことですか? もう気づかれているのは分かっているでしょう。出てきたらどうですか?」

 

 俺たちの隠れている茂みを見ながらティナがそう言った。

 まあ彼女がこの距離で俺らに気づかないわけがないよな……あれから隠密の腕もあげたと思っていたんだけどな……悲しい。

 

「士狼? どうするの?」

 

 澪音は相変わらずティナの存在を警戒して激しく緊張しているようだ。まあ無理もないだろうけど。あんな規格外の存在、前世では絶対にいなかっただろうからな。

 

「大丈夫だ。彼女達とは顔見知りなんだ。出て行っても何もされないさ」

 

 そう言いながら俺は茂みから姿を現した。モンスターがいるのは分かっていても、それが俺だというのは分かっていなかったのかエリンは驚いたような顔をしている。

 

「久しぶりだな、ティナ。それにそこのハンター達も」

「やっぱり貴方でしたか。よく会いますね。あれ? 私貴方に名前教えましたっけ?」

「風の噂で聞いたんだよ」

「風の噂でって、面白いことを言いますね。ふふふ」

 

 風の噂って言葉はこの世界じゃあんまりメジャーな言葉じゃなかったのか? まあウケてるようだしいいか。

 

「もう一体後ろにいるようですが、そちらは仲間でしょうか?」

「あぁ。おい澪音ー! お前も早く出てこいよ!」

 

 そう呼びかけると澪音がおずおずと茂みから姿を現した。まだティナを怖がっているのか? あ、いやただの顔見知りか……こいつ前世から俺と両親以外には全く懐かなかったからなぁ。

 

「ミオン、というのは彼女の名前ですか?」

「あぁ。てかお前澪音が女だってよく分かったな」

「人間の男女を見分けられるように、モンスターのオスメスぐらい見分けられますよ?」

 

 え? マジ? 俺未だにジンオウガ以外の雌雄の区別つかないんですけど? 

 

「ティナさん、このジンオウガはやっぱり……?」

 

 あ、ティナとの会話ですっかり忘れていたが、そういやこいつらもいたんだった。

 エリンが随分警戒しながらティナにそう尋ねる。

 

「ええ。天狼竜で間違い無いですよ」

「やっぱり……」

「天狼竜……っ!」

 

 カナトとエリンが複雑な表情でこちらを見てくる。俺なんかこいつらにしたっけ? あ、そういえばバスクってランサーが見当たらないな。今日は来てないのか? 

 

「というか天狼竜ってなんだ?」

「あぁ貴方の二つ名ですよ。ギルドマスターが貴方のことを正式に新種と認めたので、新しい名前が作られたわけです」

 

 新種かぁ。やっぱり俺ってもう普通のジンオウガじゃ無いってことだよなぁ。悲しいような強くなってる証拠として嬉しいような。

 

「ところでバスクの姿が見えないんだが、あいつはパーティメンバーじゃなかったのか?」

「それは……」

 

 そこからの話はティナを通訳としてカナト達が俺に話してくれた。怒り状態で我を忘れていた時に、バスクに深傷を合わせてしまったこと。それが原因でハンターを引退したこと。その復讐をしようと俺を追っていたこと。全てを話してくれた。

 

「今ではもう君に復讐しようとかは思っていないよ」

 

 カナトは最後にそう言って笑って見せた。しかしその言葉の節々から自分の感情を押し殺しているというのが感じ取れる。我を忘れていたとはいえ、俺は1人の人生を奪ってしまったのか……

 

「黙って聞いてれば何? 大した確認も取らないまま討伐を決めたのは貴方達の方。それに対抗した結果貴方達に被害が及んだだけの話。士狼は何も悪く無い」

「お、おい澪音?」

 

 いきなり澪音が話に割って入ってきた。俺のことを庇ってくれるのは嬉しいのだが、流石に言葉が厳しすぎるんじゃ無いだろうか……? 

 おいティナ! 「天狼竜の名前はシロウ、ですか……」とか言ってボーっとしてないでお前も止めに入れって! 

 

「そんなことは分かってるさ! いや、初めは分かってなかった……でも仲間達のおかげでそれに気づくことが出来た。だからもう拘ってないって言ったよね!? それに君は誰なんだ? 僕らの問題に他人が勝手に入ってこないで欲しいな!?」

「士狼は私の家族。家族が不当ないわれをされていたから庇った。当然のこと。そんなことも分からないから、バスクって人に怒られたんじゃ無いの?」

「何を〜!?」

「やる?」

 

 やべぇ、一触即発の雰囲気になっちまった……しかもなんて子供っぽいやりとりなんだ……

 ティナはさっきからボーッとしてるのか通訳するだけの機械になってるし、エリンは面倒事が嫌いなのかいつのまにか離れたところで我関せずを突き通している。ハンターside使えないなおい!? 

 

「ま、まあまあ2人とも。ここは仲良くだな……?」

「士狼は黙ってて。この勘違い野郎には1発キツイのを打ち込まないと気が済まない」

「あぁ。君には黙っててもらおうか。お節介女にはいろいろ分からせる必要がある」

 

 あ、さいですか……

 

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 

「君なかなかやるね……ミオンって言ったっけ?」

「カナトこそなかなかやる……認めてあげてもいい」

 

 なんか友情が生まれたんだが。喧嘩して友情が芽生えるとか、君たちはヤンキーか何かですか? 

 2人は疲れ果てたのかフッと同時に笑い合った後ドサッとその場に倒れ込んでしまった。

 

「カナトも言っていた通り、私たちはあなたに何か思うところはもう無いわ。ハンターとモンスターが戦った結果起きた出来事だもの。そもそも復讐とか考えるのがお門違いだったのよ。それを言われるまで気づけないなんて、私もカナトも子供だったわ」

「そうか。そう言ってもらえるとこちらとしても助かる」

「ええ。バスクも謝罪なんて求めてないはずよ。彼、自分を倒したジンオウガが喋ってたなんて言ったらなんていうかしら」

 

 そう言ってエリンは笑っている。確かにハンターとモンスターが戦った場合、どちらが悪いなんてことはないんだろうな。それが密猟団とかの違法集団じゃない限り。

 

「そういや、お前達はなんでここにいるんだ?」

「そういう貴方こそ、こんな森の奥で何を?」

 

 カナトと澪音のドタバタで目が覚めていたティナと情報交換をした。俺は雷狼の里が襲われて、その元凶を止めるべくここまできたこと。ティナはユクモ村がモンスターの大群に襲われた原因を突き止めるため、特別任務とやらでここまで来たことを話してくれた。

 

「どうやら俺たちの目的は一致しているようだな」

「そうですね。ではしばらくの間共闘ということにしませんか?」

「共闘!?」

 

 ティナから驚きの発言が出て素っ頓狂な声が出てしまったが、成る程共闘か。悪くないな。

 

「そうだな。戦力は多ければ多いほどいいしな。俺はそれでいいがそっちはいいのか?」

「私たちのことなら問題ないわよ。そっちも言った通り、戦力は多い方がいいしね」

 

 ぶっ倒れてる2人には後ほど聞くとするが、まあこの感じだと反対の言葉は出てこないだろう。

 

「よし、なら決まりだな。よろしく頼む、ティナ」

「ええ、こちらこそ。シロウ(・・・)

 

 思わぬところで大きな戦力を得ることができたな。さて、あそこで伸びてる2人を起こしたら出発するとしよう。目指す霊峰はあと少しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




感想待ってます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。