銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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遅くなって申し訳ない!
今回は遅くなった分いつもより多めでお届けしています。


第42話.秘めた想い

「夜も更けてきたな……今日はここまでにしよう」

「分かりました」

 

 霊峰の崖を駆け上っていた俺だが、この霊峰めちゃくちゃ標高が高い。全速力で駆け上がってきたつもりだが、気づけば夜中になっていた。

 視界が悪い時に戦闘にでもなったらかなり危険だし、夜が明けるまで待機しようと思ったわけだ。

 いい感じに手頃な横穴を見つけたのでそこで一晩明かすことにしようと思う。適当に見繕った木材に俺が少量の雷で火をつけた、即興の薪を作って暖をとることにした。

 

「…………」

「…………」

 

 パチパチと木が燃える音と、外で荒れ狂う風以外なんの音も聞こえない静まり返った空間。ぶっちゃけいうとかなり気まずい。

 俺は穴の1番奥の方で丸くなってるし、ティナは薪の炎をボーっと見つめているだけで特に動きはない。このまま黙りこくっていると気がどうにかなってしまいそうなので、俺は適当に話題を振ることにした。

 

「なぁティナ。ハンター達って普段はどんなことしてるんだ?」

「いきなりですね……何故そんなことを聞くのですか?」

「いや、ふと気になったというか。このまま沈黙の時間を過ごすのがキツかったというか?」

「ふふ、確かにそうですね。ではハンターになる為にはどうするのか、というところから話しましょうか」

 

 一度話題を見つけて仕舞えば話というのは結構続くもので、俺もティナも自分の周りのことをお互いに話し合った。ティナからはハンターの生活やそれによってもたらされる人々の暮らし、ハンターの階級制度についてなんかも聞いた。逆に俺はこの間まで出ていた旅の話を主にした。意外と旨かった食材や、口で語るには言葉が足りないほどの絶景の話などをした。

 

「平原にある鏡のような湖ですか?」

「ああ。特にあの場所はまっ平らな地形になっててな。湖の水がまるで鏡のように空を映してるんだ。特に夜は絶景だぞ。地平線を挟んで視界が星空いっぱいになる」

「ロマンチックですね……」

 

 ティナは俺の話の中でも絶景の話が気に入ったようで、色々と質問をされた。それに詳しくかつ面白おかしく返答したりして、まあそれなりに楽しい時間だったよ。

 しかし無限に話が出てくるほど俺もおそらくティナもネタが多くない。楽しい時間はあっという間に終わってしまい、また静寂の時間がやってきた。先ほどまでの楽しい時間を取り戻したいと思っていたのだろう。俺はつい気になったことをよく考えもせず口に出していた。

 

「なぁ、なんでティナからは古龍の気配がするんだ?」

「ッ!!」

 

 話した瞬間、やばいと思った。今まで和やかに微笑んでいた彼女の顔から一瞬で笑顔が消え、あまつさえ殺気がまるで衝撃波のように俺の全身を襲った。ティナが発した闘気で小さな薪の炎は消え、あたりは暗闇に包まれる。

 思わず身構えてしまったが、俺が真っ二つになることはなかった。

 

「す、すまん! デリカシーにかける質問だった。今のは忘れてくれ……」

 

 おそらくティナにとって触れられたくない話題だったのだろう。俺はよく考えもせず彼女のパーソナルゾーンに入ってしまったと考え、謝罪した。

 

「いえ、大丈夫です。それより、何故私から古龍の気配がすると……?」

 

 しかし帰ってきたのはこのような質問だった。彼女の顔は暗闇に隠されておりどのような表情をしているのか分からないが、声音からは殺気や怒気などは感じられない。

 

「あ、ああ。実は俺も半分古龍みたいな存在なんだ。だから龍脈……っつっても伝わらないか。古龍の扱う独特な力の流れをティナから感じてな。だから……」

「古龍みたいな存在? 貴方自分で自分のことをジンオウガだって言っていたではないですか」

「いや、それはまあそうなんだが」

 

 参ったな……確かに俺はジンオウガだとティナに言ったし、自分もジンオウガのつもりだ。だが古龍化してるのは間違い無いし、それをどうやって彼女に伝えるべきか。

 能力吸収は俺の切り札みたいなもんだ。それを知られるのはなぁ……でも踏み入った話をしたのは俺からだ。だったら俺も秘密の一つや二つ、話すのが道理というものだろう。

 

「信じてもらえるか分からないが……俺は食った生物の力を取り込むことが出来るんだ。半分古龍っていうのは、前に古龍の一部を食べて体が古龍化しかかってるってわけ」

「生物の力を、取り込む? にわかには信じられないですが……それを信じるならば、貴方の特異な力も説明がつくというわけですね。成る程……」

 

 それからティナは黙ってしまった。俺が言ったことを少しは信じてもらえたのだろうか? 

 

「分かりました。貴方の言ったこと、信じましょう」

「本当か?」

「ええ。貴方が見せた様々な技の数々。それらが先ほどの話の裏付けとなりますから。そしてここまで話してくれたんです。私も自分のことを話さなければなりませんね……」

 

 俺はデリカシーのない発言のお詫びとして話したんだが、何故か彼女も自分の秘密を明かそうとしている。勘違いなのだがそれに茶々を入れるのはお門違いというものだろう。俺は黙って聞いていることにした。

 

「今から見せるもの、話すことは一切他言無用でお願いします」

 

 そういった瞬間、ティナの存在感が大きくなった気がした。そして彼女から発せられるオーラも、先ほどまでに並べてかなり大きくなった。元々凄まじいオーラを発していた彼女のそれが、また大きくなったことで俺は驚いてつい飛び起きてしまった。

 

「驚くのはまだ早いですよ」

 

 そういうとティナは指先から炎を灯して(・・・・・・・・・)辺りを照らした。そして目に入ってくるのは、変貌した彼女の姿だった。

 

「これは!?」

 

 なんとティナの背中から龍の翼が生えているのだ。よく見ると背中の方から尻尾が伸びているし、目も爬虫類や竜のように縦に割れていてとても人間のそれには見えない。

 

「私は龍と人間のハーフなんです」

「ハーフ……ってあのハーフか? 龍と人間の子供ってこと!?」

「はい」

 

 そういう彼女の顔はすごく悲しそうだった。そんな顔を見て驚いて機能停止していた脳が冷やされて、冷静な思考が戻ってくる。

 

「龍と人間の間に子供が生まれるのか……」

「いいえ。生まれませんよ。普通なら、ね」

「まさか!」

 

 俺の脳裏に浮かんだのは生態実験という文字。前世では嫌というほどそれ関連の怪しげな施設を壊滅させてきた。中には意味不明な配合をされたキメラのような生き物がいた研究施設もあったな。とにかく道理を外れた外道の所行だ。

 

「貴方の想像通りでしょう……わ、私は……うっ」

 

 次の瞬間ティナは激しくむせ返った。見ると彼女の額には玉のような汗が浮かんでいる。相当無理しているらしい。

 

「おい、無理はするな! 話したくない内容なら無理に話さなくていい!」

「……ッ!」

 

 そういうとティナはスッと体の力を抜いた。途端に龍の翼や尻尾は消え失せ、縦に割れていた目も元に戻った。

 先ほどのティナの突然のえずき。おそらく拒絶反応だろう。小さな頃に体験した恐ろしい出来事が彼女の脳裏にフラッシュバックしたというわけだ。

 

「少しは落ち着いたか?」

「……ハイ」

 

 少しやつれたように見えるが、落ち着いたかどうかは怪しいところだ。とりあえず俺は再び薪に火をつけると、暗闇に包まれていた空間に明かりが戻った。

 するとティナが小刻みに震えていることに気づく。回り込んで顔を覗いてみると、彼女は焦点の定まらない虚な目で此方を見つめ返してきた。明らかにヤバイ。

 

「私は、人間ではありません。そしてそれが仲間達に知られるのがたまらなく怖い……言おうとしたことはありましたが、結局口からは何も出なかった。だってそうです! 私が人でも竜でもないバケモノと知ったら、きっと彼らだって私から離れて──!」

「ティナは人間だ!」

 

 思わず叫んでいた。もう見ていられなかったから。今のティナはかつての外道共に捕われていた子供達そっくりで、見ていられなかった。

 

「ティナには人も竜も分け隔てなく思いやれる心がある。ティナには他人を気遣う優しさがある! 数日しか共にいない俺如きの軽い言葉でしかないが、ティナは人間だ。だから自分のことをバケモノだなんて言うな……」

「でも……でも!」

「仲間に知られるのが怖い、一緒にいたい、離れて欲しくない。人間らしい感情と欲も持っている。そんな奴が人間じゃなかったら、世の中みんなバケモノになっちまうぜ?」

「うっ……くっ…………うぅう」

 

 俺の言葉なんて軽い。それはわかってる。ティナとはまだ数日の付き合いだ。その程度で彼女の全てが分かったなんて傲慢なことは言わない。だけど、目の前にいる弱った少女を励ましたかった。かつては出来なかった。俺にも感情が無かったから。でも今は違う。

 それから静かに声を抑えているティナの周りを囲うように、俺は丸くなって見守っていた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「落ち着いたか?」

「はい。申し訳ありませんでした……」

「本当に落ち着いたんだろうなぁ?」

「もう、意地悪を言わないで下さい!」

 

 この調子なら大丈夫だろう。先ほどのティナは明らかに精神に異常をきたしていた。あのまま放っていたら壊れてしまいそうだったが、なんとか持ち直せたみたいでよかったよ。

 

「それより謝るのは俺のほうだ。ティナをこんなに追い詰めたのは俺が話を振ったからだし。本当に済まなかった」

「い、いえ! 確かに話を振ったのはそちらですが、私が勝手に喋ったことです。貴方が悪いわけでは……」

「そ、そうか?」

「はい。思えばなんであんなに喋ったのか……自分でも不思議なくらいです」

 

 おそらくだが、それは俺がモンスターだからだろう。先ほどの彼女の言葉を聞いた感じ、ティナは自分が龍との混血なのが他の人に知られることに強い恐怖を感じている。だから今まで誰にも話さなかったし、話そうとしても失敗してきた。

 しかし俺はモンスターだ。だからティナの今まで押さえてきた恐怖心や罪悪感なんてものが一気に解放された結果が、先ほどの取り乱しようだと考える。

 

「もし、溜め込んでいるようなら遠慮なく俺に話せ。いつでも聞いてやるから。あ、無理して話したくないことまで話さないように!」

「ふふ、了解です」

 

 そうして微笑んだ彼女の顔は憑き物が落ちたかのように晴れ渡っていた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 次の日、朝早く起きた俺とティナは山頂への道についていた。嵐のせいで崖崩れが頻発しており、回り道したりやり過ごしたりなど時間がとられているが、着々と頂上には近づいてきている。

 

「あの、昨日はありがとうございました」

 

 そんな時ティナからこんなことを言われた。

 

「あそこまで踏み入った話をするのは初めてでした。お陰で胸の奥のざわめきが少しなくなった気がします」

「ならよかった。俺もティナの意外な一面を見られたしな?」

「貴方こそ意外と意地悪なんですね……でもこれをきっかけに、彼らにもこの話が出来るよう努力してみようと思います」

「そうか……無理は、するなよ?」

「勿論です!」

 

 この調子ならティナは大丈夫そうだな。昨日は焦ったものだが、なんとかなって一安心だ。さて山頂まではあと少し。ここからは気を引き締めていかないとな。

 昨日よりさらに強まった背中にいる最強剣士との絆を確かに感じながら、俺は崖を登る足に強く力を入れた。

 

 

 

 

 

 




最強と言われてもティナはまだ15歳の少女。いろいろ背負うにはまだ幼すぎるし、空回りもしますよね。
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