銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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戦闘描写って難しい……

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第43話.頂上

 頂上に近づくにつれて叩きつけるように強くなっていく風に逆らいながらも、俺たちはとうとう頂上に到達していた。そしてそこで目にしたものは、神話の存在。

 

 曰く、霊峰に住む嵐の化身。曰く、大いなる厄災の龍。嵐を纏って宙を舞い、豪風と共に姿を表す自然の化身。森羅万象遍くを薙ぎ払う圧倒的暴力。祖から生まれし真なる龍。

 人々から『天の神』と呼ばれ恐れられるその名は嵐龍アマツマガツチ。

 

 大自然の化身が悠然と空を舞っている姿を見て、俺はやはりと思った。霊峰から大森林に瘴気を撒き散らしていたのはアマツマガツチだったのだ。見ればわかる。その美しいはずの純白の羽衣は薄らと紫色に変貌し、目は妖しく紫色に光り輝いている。そして奴の体からは絶え間なく瘴気が漏れ出しており、風に乗って麓まで流れていっているようだ。

 

「アマツマガツチ……やはりこいつが原因だったか」

「貴方から聞いてはいましたが、やはり実際に目にすると驚きますね」

 

 とその時、アマツマガツチが異物の存在に気づいたのかこちらに目をやった。そして奴と目があった瞬間、まるで重力が増したかのような感覚にとらわれる。アマツマガツチという圧倒的存在から放たれるオーラが、そう錯覚させているのだ。

 

「ギャオオオォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 そして放たれる咆哮。それだけで空は嘶き突風が巻き起こる。絶え間なく雷が起きている空は、奴の心情を表すかのように真っ赤に染まっている。

 やはり理性を失っているのだろう。アマツマガツチは真なる古龍と古代竜人が言っていたはず。ならば会話できるレベルの知能は持っているはずだ。だが目の前の存在からはまるで知性など感じない。凍てつくような殺気が送られてくるだけだ。

 

 アマツマガツチは目に入ったもの全てを攻撃するのだろう。今にもこちらに突っ込んできそうな雰囲気だ。それほどまでに瘴気の侵食が進んでしまっている。こいつ自身には本当は罪はないってのに……

 

「さてティナ、覚悟はいいか?」

「勿論です。そっちこそ足が震えてませんか、シロウ?」

「これは武者振るいだ!」

 

 そう言いながら俺は駆け出していた。走っている途中で超帯電状態に移行し、さらに龍脈を使用する準備を始める。龍脈を使うには少し時間がかかるのがネックだな。

 まずは手始めに雷ブラスターを発射。蒼電のレーザーが一直線にアマツマガツチを襲う。しかしアマツマガツチが一鳴きしたかと思うやいなや、奴の周りに分厚い嵐の壁が出現して俺の攻撃を完璧に防いでしまった。

 

「おいおいマジかよ。あんなにあっさり塞がれるとか……」

「本当にシロウは多芸ですね」

「まあな。それよりあの嵐の壁がある限り近づけないが、どうする?」

「壁があるなら切り裂くだけです!」

 

 んなめちゃくちゃな、思ったがなんとティナはその小さな体でアマツマガツチの嵐の壁を真っ二つに切り裂いてしまったのだ。流石に驚いたが、ティナが切り開いてくれた道を無駄にするわけにはいかない。俺はもう一度雷ブラスターを発射した。しかし……

 

「効いてない、だと……?」

 

 雷ブラスターはアマツマガツチの皮膚をほんの少し焼いただけで、どう見ても有効打になっているようには見えない。確かに龍脈の力を使ってないとはいえ、効かないなんてことあり得るのかよ!? 

 

「はぁっ!!」

 

 呆然としてるとティナがアマツマガツチに切りかかった。しかしそれすらもアマツマガツチの鎧のような皮膚に塞がれて薄皮一枚を切るにとどまっている。

 

「ふむ。予想以上に硬いですね」

「そんな冷静にしている場合かよ!?」

「大丈夫です。次はもっと威力を上げるので。私がアマツマガツチに攻撃できるよう援護してください!」

「お、おう!」

 

 アマツマガツチにまだ動きはない。ロクな攻撃を与えてないので敵として認識してないのかもしれない。先程はこちらを見て咆哮した気がしたが、正気を失っているのでたまたま咆哮を上げただけだったのかもな。

 

 とりあえず奴が纏っている嵐の壁をどうにかしないと話にならない。俺は激しい風が吹く中なんとか雷光虫を集めて真帯電状態に移行しさらに火力を高める。そしてその高めた火力を爪に収束させた。この頃気づいたのだがこの漆黒の爪は導電率がとても高いのだ。なので雷を集めやすい。

 収束した雷は爪を伝ってオーラ状に展開され、俺の爪を一回り大きくさせる。そしてその状態の爪を嵐の壁にねじ込んだ。

 

「ぐおおおお……!」

 

 そしてこじ開けるようにして嵐の壁を引き裂く。

 

「いけ、ティナ!」

「ありがとうございます!」

 

 壁にできた隙間からティナがアマツマガツチに肉薄した。その構えはいつか見た抜刀術の前の構えに酷似している。そしてアマツマガツチの眼前で大きく踏み込んで急停止。今まで出していた速度を急激に止めたことによって生まれたエネルギーを、全て抜刀の瞬間に解き放った。ギャインという金属が擦れたような音があたりに響き渡る。

 

「ギャオオォォォォ!!」

 

 見るとアマツマガツチの腹から血が噴き出している。ティナがあの鎧のような皮膚を貫通して、アマツマガツチに傷を負わせたのだ。

 

 しかしここまではアマツマガツチが動かなかったからできただけのこと。そして傷を負わせた今アマツマガツチがついに俺たちのことを敵と認めたらしい。空をつんざくような咆哮をあげた後、今まで微動だにしなかった巨体が動き始める。そしてその動きは巨体に見合わず俊敏だった。

 さらにアマツマガツチは宙に浮いているので3次元的な行動が可能だ。そしてそれがいかに脅威かということを、俺たちは思い知らされることになる。

 

 アマツマガツチが鞭のようにその巨大な尻尾を叩きつけてくる。俺はそれを後ろに飛んで躱そうとしたのだが、尻尾に纏われていた暴風が地面に叩きつけられたことによって爆発のようなものを起こし、土や岩の破片が散弾銃のように襲いかかってきた。

 

「マジかよっ!!」

 

 咄嗟のことで避けられなかった俺は、まともにそれを喰らって後方に吹き飛ばされてしまう。しかしここにいるのは俺だけではない。俺に意識が向いているうちにティナがアマツマガツチに攻撃を仕掛けたのだ。だがアマツマガツチは空中で体をくねらせてティナの方に振り向くと、風の塊を3発撃ち出した。それに当たるティナではなかったが、余りに強力な風が吹き荒れたために切り込めずにいる。その間に体勢を立て直した俺は一旦ティナのそばに近づいた。

 

「流石古龍というか……攻撃がダイナミックすぎる」

「しかも彼の使う風が強すぎてまともに近づくのも難しいですね……」

 

 近づけば暴風によって行手を阻まれ、遠ざかればブレスで狙撃しつつ自身は嵐の壁で防御。正直言って攻防が完璧すぎる。なんとかしてアマツマガツチの風を弱めらないものか……古龍の力の制御は角で行うことが多いと聞いたことがあるが、角を破壊するには結局近づかないといけないしなぁ。

 

「ガァァァァアアアア!!!」

 

 長考する暇も与えてくれず、アマツマガツチが線のように鋭い水のブレスを放ってきた。俺とティナは左右に分かれるようにして避けたが、ブレスが大地を易々と切り裂くのを見て背筋に冷や汗が走る。

 さらにアマツマガツチは一鳴きして小規模の竜巻をなんと8つも生成した。幸いそれらの動きは速くなかったが、不規則に揺れる竜巻があちこちに出現したことで相当な移動制限をかけられたと言ってもいいだろう。触れただけで体が千切れ飛びそうなほどの威力だしな。

 

 畳みかけるように俺に突進してくるアマツマガツチ。竜巻が両サイドにあることよって動きを制限されてしまった俺は、それを正面から受け止めるしかなかった。俺の体の2倍以上はあろう巨体に突進されて、踏ん張っているのにものすごい速さで後方へと押し込まれてしまう。あと少しで岩に叩きつけられるといったまさにその時、龍脈の使用準備が完了した。

 

 俺は即座に炎雷状態に移行。蒼電が赫く燃える緋雷へと変貌し、電力が大幅に向上する。それすなわち雷によって強化されている俺の筋力がさらに強化されたということ。地面を踏み抜く勢いで体を固定し、なんとかアマツマガツチとの力比べに対抗していく。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 その結果なんとか踏みとどまることに成功した。しかしアマツマガツチは常に嵐を纏っているわけで、接触しているだけで鋭い風に切り刻まれている。確かにダメージは洒落にならないが、お陰でアマツマガツチを捕らえることができたぜ! 

 

「ティナ、今だ!!」

「はい! 奥義三の太刀『剣舞』!!」

 

 ティナが放った奥義とやらはまさに凄まじいの一言だった。ほとんど一瞬の間に10、いや15回の斬撃を行なったのだ。龍脈の力を使っている俺ですらほとんど目で追えないほどの速さ。普通の人が見たら一太刀分にしか見えないことだろう。その威力も凄まじいもので、アマツマガツチの背中から大量の血が噴き出した。これは相当なダメージになったはずだ。

 アマツマガツチが怯んだ隙に俺は脱出。再びティナと合流した。

 

「今のは結構効いたんじゃないか?」

「はぁ、はぁ、そうですね。流石にこれでダメージなしとか言われたら為す術がありません」

 

 そういやティナの息が上がっているところとか初めて見たな……それほど先程の奥義ってのは使用に負担がかかるものなんだろう。

 そんな会話をしながら、ティナの攻撃を喰らったあと微動だにしないアマツマガツチを警戒しながら見つめていると、突然

 

「グゥゥゥゥ……ォォォォォォオオオオオオ!!!」

 

 これまでものとは全く違う、聞いただけで全身の毛がよだつような恐ろしい咆哮をアマツマガツチが上げた。

 

「うっ、これはなんだ!?」

 

 そう思ったのも束の間、空から巨大な竜巻が3本出現した。まるで巨大な柱が落ちてきたかのような衝撃を持って地面に激突したそれは、その凄まじい風圧で辺りのものを吸い上げ始める。

 

 そして大量の瓦礫や木の破片を取り込んだ、質量ある竜巻と化したそれらが一点に集まり始めた。特大の風の力が一点に収束して、圧縮されて、一つの塊にって……こいつはやばい!! 

 

「ティナ、避けろぉぉぉ!!」

 

 気づいた時には遅かった。前世で理科の実験でやった圧縮と膨張。それを何万倍もの規模で行ったものが目の前で炸裂したのだ。限界以上に圧縮された空気が膨張する力というものはとんでもないものだ。下手な爆弾より強烈な衝撃が全身を襲い、俺は一瞬にして彼方へと吹き飛ばされた。

 何度も地面を跳ねながら吹き飛ばされていく間に意識を失ってしまったのだろう。気づいた時には俺の体は地面に横たわっていた。クラクラする頭を振りながらゆっくりと起き上がると、全身に激痛が走る。激しく地面に何度も打ち付けられたせいで、あちこちを打撲してしまったようだ。

 

「う、く……ティナは、無事か?」

 

 痛む体で辺りを見渡してみると、純白の装備がボロボロになりつつも剣を地面に刺してなんとか踏ん張っている彼女が見えた。俺は吹き飛ばされたというのにティナは剣一本であの暴風に耐えたというのか。

 しかしやはりダメージは負っていたようで、暴風を凌ぎ切ったあとその場に片膝をついて蹲っている。

 

「ギャオオオォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 より一層紫色の目を輝かせたアマツマガツチが、勝ち誇ったかのように天に向かって叫んでいる。その体に先ほど受けた傷はほとんど無く、早くも再生が始まっているのが分かる。

 

 勝てるのか? 俺たちは、あの暴風の化身に……! 

 

 圧倒的な戦力差を見せつけられて、俺は宙で咆哮を上げるアマツマガツチを睨みつけることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 




続きます!

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