銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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第44話.舞うは嵐、奏でるは災禍の調べ

「ゲホッ、ゲホッ!」

 

 ティナの元に近づくと彼女は蹲りながら咳き込んでいた。炸裂する嵐に含まれていた瓦礫が彼女を襲ったのだろう。まああれを食らって吹き飛ばされなかっただけでも凄まじいものなのだがな。

 

「大丈夫か? ティナ」

「なんとか……致命傷には至っていません。それよりシロウは平気ですか? かなり嵐で切り裂かれていたようですが……」

 

 先ほどアマツマガツチとぶつかり合っていた時のやつだな。奴は常に嵐を全身に纏っているから、近づくだけでダメージを受けてしまう。それなのに長時間接触していた俺を気遣ってくれてるのだろう。

 

「こっちもなんとかって感じだ。纏ってる嵐はあいつの中では弱い方なんだろう。多少の切り傷で済んだ」

「なら良かったです……」

 

 かなりのダメージを負ってしまったが、お互いまだ戦えるようで安心だ。流石にこんな化け物相手に1人で戦うのは勘弁願いたいものだからな。

 

「さてどうするかな……今のままじゃあいつには勝てそうにもないぞ」

「……私の古龍の力を使うしかありません」

「ッ! 昨日のあれか」

 

 昨日の出来事があった手前、ティナに古龍の力を使わせるのは心苦しいものがある。だがこのままでは2人ともやられてしまうだろう。ティナもそれが分かっているからこの決断に至ったはずだ。

 

「でもいいのか? その力は体への負担が大きいって感じだったが」

「そうも言ってられないでしょう。少し危ないので離れていてください」

 

 そう言って目を閉じて深く集中し始めるティナ。俺は言われた通り離れたが、いつアマツマガツチがこちらに気を向けないとも限らない。警戒しておかなければ……

 そう思った次の瞬間、ティナの目がカッと見開かれた。その目は昨日も見たように龍のごとく縦に割れている。と同時に巨大な火柱が彼女を中心に巻き上がり、ティナの全身を覆い隠してしまった。

 

 あまりの熱量に近くにいるだけで体が溶け出してしまいそうなほどだ……炎が弱点のアマツマガツチが正気を失っているにも関わらず、警戒の姿勢をとるほどにその火柱から発せられる熱は凄まじい。

 そして火柱が弾けるように消えたその中から、龍の翼と尻尾を携えたティナが現れる。翼はまるで燃えているように真紅に染まっており、長い尻尾は力強さを感じさせる。これがティナの古龍化した真の姿か! 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……さあ行きますよ!」

「おう!」

 

 おそらく彼女のこの状態は長く続くものではあるまい。実際俺も炎雷状態をずっとキープできるわけではないのだ。それほどまでに龍脈というのは凄まじいエネルギーを秘めているということ。

 

 そして古龍化したティナはさらに増して凄まじかった。なにせ元々が規格外の存在なのだ。それが龍脈の力を使ったとなると……正直考えたくないレベルだ。だが真に恐ろしいのはアマツマガツチ。そこまでしないと奴とは渡り合えないというのだから。

 

 ようやく俺たちのことを視界に捕らえたアマツマガツチは、竜巻をブレスのように放ってきた。それも三つ同時に。しかし俺たちはもう先程までの俺たちではない。俺は真っ赤な雷ブラスターで、ティナは神速の一太刀で竜巻を叩き伏せると、一気に距離を詰めるべく同時に駆け出した。

 

「ティナ! 俺が奴の嵐をどうにかする。だからお前は全力の一撃を叩き込め!」

「了解です!」

 

 俺が今回使うのは刃尾だ。そこにディノバルドやアグナコトルから頂いた火属性を纏わせて炎剣を作る。アマツマガツチは火属性が最大の弱点のはず。こいつなら! 

 地面を踏み抜く勢いで一気に空中に飛び出した俺は、体を一回転捻ってその勢いを利用した一振りをアマツマガツチの嵐の壁に叩きつけた。刃尾と嵐がぶつかり合って嫌な音が響き渡る。

 

「ここが踏ん張り時だ……行くぞぉ!」

 

 より一層刃尾に力を込めて、強引に嵐の壁を叩き割った。その向こうでは忌々しげにこちらを睨みつけるアマツマガツチの姿が。

 と同時に俺の背中の上を通ってティナが現れる。古龍化したことによって生えた翼を使って飛行しているのだ。十分アマツマガツチに近づいたティナが鞘から太刀を引き抜くと、その刀身が真紅の炎に包まれる。やはりというべきか、ティナが宿している古龍の力は火属性なのだろう。

 

「アマツマガツチの能力は角が司ってる! 狙うなら角だ!」

 

 俺の言葉にティナはコクリと頷くとさらに飛翔。一気にアマツマガツチの眼前に躍り出た。そしてその炎の太刀をアマツマガツチの角目掛けて横一文字に振るう。しかし流石はアマツマガツチの最重要器官というべきか、簡単には折れてくれずにティナの太刀を受け止めている。

 

「はああぁぁぁ!」

 

 掛け声と共にティナがより一層太刀を握る力をこめた。それに呼応するかのように太刀から迸る炎の勢いが増し、ジリジリとアマツマガツチの角を削っていく。その結果、アマツマガツチの黄金の双角の内の一本が根本からポッキリと折れた。

 

「グオオオォォォォ!?」

 

 驚いたように鳴くアマツマガツチ。その体からは一目瞭然なほどに嵐の力が弱まっていた。やはり古龍の弱点は角で間違いないようだ。

 しかしこれでアマツマガツチを倒したわけではない。片角を失って怒り狂ったのか、手当たり次第に空から竜巻を落としてくる。だがやはりそれらには先程までのような凶悪な力は宿っていない。

 

 雷エネルギーを溜め込んだお手でそれを叩き潰して雷ブラスターを放つ。炎雷状態で威力の上がっているそれはアマツマガツチの左腕の羽衣を纏めて焼き払った。痛みで激しく暴れるアマツマガツチの巨体に怯むことなく今度はティナがその懐に入り込み、先ほどの『剣舞』をもう一度放つ。鮮血が激しく舞い散り、より一層アマツマガツチにダメージを与えた。

 

「グオオオォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 想定外のダメージで怒りが強くなったのか、アマツマガツチが一際力強く吠える。それに呼応して天からさらに竜巻が降り注ぎ、吹き荒ぶ突風は俺の体でさえも吹き飛ばさん限りに力強くなった。片角を失っているのに、なんてパワーを残してやがる……

 だが何のこれしき! 降り注ぐ竜巻をジグザグに走行することで躱し、アマツマガツチに渾身のお手攻撃を放つ。それは奴が体をくねらせることによって躱されてしまったが、本命はこっち。振りかぶっての刃尾の一撃だ。これはしっかりと命中し、多大に含まれた雷エネルギーが炸裂、放電の如き稲妻がアマツマガツチを襲う。

 

「あとは任せてください!」

「おうよ!」

 

 スイッチの要領で下がった俺の代わりにティナが前に出た。構えは先ほどと同じ抜刀術のもの。しかし素人目にもそれが先ほどの一撃とは全く違うものだということが分かった。

 

「奥義一の太刀『瞬閃』!」

 

 まさに閃光の如き一撃。ティナが放った抜刀術は俺にはその出だしが全く見えなかった。炎の太刀が空間を引き裂かんばかりの勢いでアマツマガツチを一閃し、その態勢が一気に崩れる。ここが決めどきだ! 

 

 苦し紛れに奴が放った水のレーザーをかわして大ジャンプ。アマツマガツチの上をとった。そして両前足に炎雷状態によって極限まで高められた雷エネルギーを全て凝縮する。俺の十八番、落雷スタンプだ。だが当然それを黙って見ているアマツマガツチではない。流石にまずいと思ったのか、大きく口を開けてブレスを放つ構えをとる。

 

「させませんよ!」

 

 そこはティナのナイスフォロー! 顎の下から突きを放つことでブレスの照準をずらしてくれた。見当違いの方向に飛んでいくブレスを横目で見ながら、俺は落下の態勢に入った。

 

「落ちやがれぇぇぇーーー!!」

 

 落雷スタンプはアマツマガツチの頭頂部に炸裂し、そのまま奴の頭を地面に叩きつけた。と同時に溜め込んだ雷エネルギーを全放出。耳をつんざく轟音が響き渡る。

 立ち上がる黒煙が晴れてくるとそこには、嵐を纏う力を失ったのであろうアマツマガツチが地面に倒れ伏していた。しかし驚いたことまだ生きているようで、血を流す頭をゆっくりとこちらに向けてブレスを放とうとしてきている。

 

「これで、終わりです」

 

 それより速く、ティナの一閃がアマツマガツチを切り裂いた。これがとどめとなり、アマツマガツチの目から徐々に生気が失われていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……これで、終わったのか……?」

 

 力を失っていくアマツマガツチを満身創痍ながら見つめていると、不意に頭に言葉が浮かんだ。「ありがとう」と聞こえたそれは、アマツマガツチのものだったのかもしれない。

 そうだ、こいつも元を辿れば被害者なのだ。命のリミッターを外されて暴れていた挙句、このまま放っていたら森林の生物を全て根絶やしにしていてもおかしくはなかった。最後に感じた感謝は、自分を鎖から解き放ってくれてありがとう、という意味だったと信じたい。

 

 完全にアマツマガツチから生気が消えたことを確認した後、俺は炎雷状態を解いた。その途端今までアドレナリン等によって無視していた痛みや疲れがドッと津波のように押し寄せてきて、思わずその場に倒れ伏してしまう。どうやら古龍化を解いたティナも同じなようで、翼や尻尾が消えると同時にその場に倒れ込んでしまった。

 

「どうやらこれ以上動けそうにありません……」

「やっぱそっちもか……体に力が入らねぇ」

 

 早く澪音達のところに戻らなきゃならないってのに……な……

 そうして俺の意識は闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 




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