銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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今回の話で雷狼の里編は終了です。



第45話.終わらぬ戦い

「士狼! 起きて、士狼!」

 

 俺を呼ぶ声が聞こえる……そうだ、早く起きなければ……

 

「ん、うう……」

「よかった。ようやく起きた」

 

 ぼんやりする焦点が定まってくるとそこには、心配そうな顔で俺のことを覗き込んでいる澪音の顔があった。

 

「澪音、無事だったんだな。良かった……」

「それはこっちのセリフ。士狼全然起きないから心配した」

 

 そう言って不安そうな顔をする澪音。心配かけちまったのはこっちもか。ごめんな。

 そう思いつつ前脚で頭を撫でてやると、嬉しそうに顔をくしゃくしゃにさせる澪音。前世でもこうされるの好きだったんだよな。

 

「あなたも起きましたか、シロウ」

「ああ、ティナも元気そうで何よりだよ。そうだ、カナト達は無事か?」

「僕たちの心配をしているなら問題ないよ」

 

 そう言いながらティナの後ろから出てきたカナトとエリンだったが、その見た目はどう見ても問題ないようには見えなかった。防具はボロボロ、体は傷だらけで見るに耐えない。カナトに至っては頭から血が出てるし。

 

「いやいや、問題なくはないだろうよ」

「これくらいいつもの特訓に比べたらなんてことありませんよ。ねぇ、お二人とも?」

「ま、まあね」

「あはは……」

 

 一体どんな特訓してんだよ!? でも、いつもこんなボロボロになるまで特訓してたとすると彼らの成長ぶりもよくわかるってもんか。

 

「それで、あのモンスターの大群はどうなったんだ?」

「まだ麓に結構な数いる。シロウ達がアマツマガツチを倒したから何とか撒いてここまで上がってきた」

「アマツマガツチを倒したって、どうやってわかったんだ?」

「これ」

 

 澪音が示した方を向くと、嵐が消えて雲の合間から日差しが差し込む光景が俺の目に飛び込んできた。霊峰の頂から見えるそれはまさに絶景といったもので、俺はしばらくの間言葉を忘れてしまう。

 

「突然嵐が止んだから、シロウ達がやってくれたと思った」

「そうか……俺たち本当に倒したんだな。あのアマツマガツチを」

「ええ、そうです」

 

 徐々に霊峰にも届きつつある日の光を感じながら、俺は言いようのない達成感に包まれていた。だってあのアマツマガツチだぞ? 自然の猛威がそのまま生き物になったかのような存在。生物と定義できるかどうかも怪しい超特級の存在だ。そんな存在に俺たちは勝った……

 

「さて、感慨に耽るのもここまでにして、今後のことを考えよう」

「私達はこのままユクモ村に帰ろうかと思います。今回の件を上に報告しなければいけませんし」

「俺たちはとりあえず仲間と合流しないとだな。他の奴らがどうなったか心配だ」

 

 アマツマガツチを倒したのは喜ばしいことだが、まだ元凶を倒したわけではない。終龍と呼ばれる存在を倒さなければ、この災害は止まらないのだから。

 

「もしギルドの方で何かわかったら、俺たちにも知らせてくれないか?」

「それはいいですけど、どうやって貴方と会えと? この広い大森林から探すのは流石に骨が折れます」

「うーむ。確かに……」

 

 どうするべきか悩んでいると、澪音がこう言った。

 

「角笛はどう?」

「角笛?」

「そう。私は特別耳がいいから、大森林の中心部に私たちがいたとしても、森林の外から聞こえる笛の音を察知できる」

 

 おお、まさか澪音にそんな隠された特技があったとは。お兄ちゃん感心。

 

「ならばそれで。普通の角笛だとモンスターが寄ってくるので、回復の笛を吹くことにしましょう。音色は分かりますか?」

「大丈夫」

「よし、では私達は行きます」

 

 ここまで共闘した友として、ティナ達と別れるのは名残惜しいが……仕方あるまい。

 

「じゃあ、また何かあれば」

「ええ、貴方と共に戦うのは存外楽しかったですよ」

「またな、天狼竜」

「さようなら」

 

 そう言い残してティナ達は去っていった。突然始まった俺たちの共闘劇だったが、俺も楽しかったぞ、みんな。

 

「さて、俺たちは仲間を探さないとな」

「…………」

「ん? どうしたんだ澪音。早く行くぞー」

「あ、うん」

 

 ティナ達霊峰を降っていったあと、アマツマガツチの亡骸をぼーっと見ている澪音に声をかけて、俺たちはその反対側に向けて歩みを進めていった。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 それからしばらくのち、俺たちは焼け野原となった雷狼の里まで帰ってきていた。そこになら仲間がいるんじゃないかと思ってな。そして雷狼の里が見えてくるにつれて、懐かしい顔ぶれも見えてきた時には、俺はがらにもなく涙が流れそうになった。

 そして俺たちに気づいた仲間達は喜びの表情を浮かべて一斉に遠吠えを上げ始める。

 

「おぅシロウ。お前、遂にやったんだなぁ」

「レオン!」

 

 そんな仲間達の間からレオンが現れた。相変わらず元気なようで安心だ……

 

「お前があの嵐の龍を倒してくれたおかげで、毒が流れるのも止まったみてぇだ。あれから嫌な感じもしなくなったしなぁ」

「よく俺がアマツマガツチを倒したってわかったな」

「ア、マツ? まぁいいか。そりゃお前ぇ、あんなに重苦しい空だったのに、一瞬でこんなに晴々としたものになったんだ。そう思うのも当然だろぉ?」

 

 レオンにアマツマガツチって言ってもそりゃ分からんわな。反省反省。

 

「それで、他の仲間達は全員見つけられたのか?」

「いや、全員ってわけにはいかなかったぁ。中にはランみてぇにおかしくなっちまった奴もいたし、未だに行方不明の奴もいるしなぁ。最初の火竜の襲撃でやられちまったぁやつもいる」

「そう、か……」

 

 分かっていたことだが、やはり現実を突きつけられると辛いものがある。

 

「んな落ち込むなぁ。お前はよくやった」

「ああ、ありがとうレオン」

 

 それから俺はあの時別れたあと、レオンがいかにして仲間達を探したのかという話を聞いた。時には他の群れのジンオウガと喧嘩になったり、狂った仲間を送り届けたり、いろいろなことがあったそうだ。

 俺は俺でアマツマガツチを倒した時のことを語った。とは言ってもティナと共闘したというのは伏せたが。流石に一般モンスターであるレオンに人間と共闘したなんて言ったら、なんて思われるかわからないからな。勿論いずれは言うつもりだが、色々なことがあった今言うべきではないだろう。

 

 そしてその夜は里を上げてのお祭り騒ぎとなった。どうやらこの一件で群れ同士の垣根がだいぶ無くなったらしく、今では殆どのジンオウガがこの雷狼の里に集まっている。瘴気にやられたやつも少なくないって話だ。今は群れ同士でいがみ合っている場合ではないとみんな理解しているのだろう。

 

「この平和な時間が続けばいいんだがなぁ……」

 

 馬鹿騒ぎをしているみんなを見ながら、そんな感情が溢れた。この平和な時間が今だけのものであり、明日からはまた忙しくて過酷な日々が始まるのはわかっている。今では人手不足のために助かった名持ち達が色々とレオンを手伝っているらしいしな。

 

「士狼」

「ん、澪音か」

 

 振り返るとそこにはいつものように澪音が立っていた。が、その顔は何故か深刻そうな表情を浮かべている。

 

「少し話がある。こっちにきて」

 

 そう言いながら群れの中心から離れていく澪音。まぁ少しぐらい空けても問題ないだろ。そう判断した俺は彼女の後をついていくことにした。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 群れから結構離れたところでようやく澪音は立ち止まってくれた。

 

「こんなところまで来て話ってなんだよ?」

「これ見て」

 

 そう言って澪音が懐から取り出したのは、黄金に輝く2つの角だった。そして俺はそれに見覚えがある。見覚えがあると言うか今日見た。

 

「お前、それまさかアマツマガツチの角か!?」

「そう、士狼の加護は能力吸収だって聞いてたから、一応持ってきといた」

 

 それはありがたいが……こんなに隠れて話すようなことでもないような? 

 

「前にキリンの角を食べた時、大変な目にあったって聞いた。だから完全な状態のアマツの角なんて食べたら、どうなるか分からない。だから出すか迷ってた」

 

 成る程そう言うことか……確かに前は欠けたキリンの角を食べただけでかなりの激痛に襲われたからな。同じ真なる古龍であるアマツマガツチの角を、それも完全な状態のものを食べたらどんな副作用が起きるか分からない。

 

「澪音、俺のことを心配してくれたのは感謝するぞ。角を持ってきてくれたこともな」

「じゃあ……やっぱり食べるの?」

「ああ。ルーツが言っていた終龍は、きっとアマツマガツチよりも強大な存在だ。そんな奴に対抗するには、真なる古龍の力が必要なんだ」

「でも、もし士狼に何かあったら、私は!」

 

 取り乱す澪音に対して、俺は真剣な眼差しを向ける。

 

「澪音、大丈夫だ」

「士狼……」

 

 澪音はまだ完全に納得はしていないようだが、理解はしてくれたようでアマツマガツチの角を地面に置いてくれた。

 俺はゆっくりとその前に立ち、その角を見つめる。黄金に輝いていて見た目は綺麗だが、今はその輝きが不吉なものに見えてならない。底の知れない未知のエネルギーが渦巻いているのを感じる。

 

「じゃあ、いくぞ」

 

 俺は覚悟を決めて、アマツマガツチの角を2本とも一気に平らげた。

 

「!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、ユクモ村の南に広がる大森林の一角から銀色の光が空に立ち上るのが目撃される。光は天を貫くように伸びていき、その光は暗い夜空をも照らすほどだったと。

 

 世界各地で起きている異変に不安を抱えていた人々の間では、さらなる凶兆だと怯えるものや、神が使わした救いの光だとして崇めるものなど多数に意見が分かれたと言うが、その真相を知るものは誰もいない。

 

 そうして後に『黒き呪い』と呼ばれる異変が起きてから、2年が経過した──

 

 

 

 

 




これで雷狼の里編は終了です。
次回からの新章をお楽しみに!

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