色んなキャラが出てくる分ハンターサイドはどうしても長くなってしまいますね。
ティナ達を乗せた船は数日の時間をかけて新大陸にあるアステラの港に到着していた。
「う、うげぇ。酔った……」
「ちょっとカナト、大丈夫?」
最初こそは目新しいものの数々でテンションが上がっていたカナトだが、慣れてくると船の揺れに耐えきれなくなり終始真っ青な顔をしていた。エリンの肩を借りながら船から降りてくるカナトは今にも吐きそうな顔をしている。
「全く船酔い程度でだらしないわねー」
「まあ少しコツを覚えれば船の揺れ程度の揺さぶり、自分でどうにか出来ますからね」
「いやそんなことできるのティナさん達だけだから……私はカナトを休ませてくるから、先に2人で行ってて」
そのまま遠ざかっていくカナトとエリンを見送ってから、ティナは改めてアステラという街を眺めてみた。そこかしこでハンターが歩いており、まるで集会場にいるかのような感覚。店で売られているものは一般人が使うような日用品ではなく、ハンターが狩りで使うような道具ばかり。まさにハンターの街というべき光景だ。
「本当にハンターの方が沢山いますねぇ」
「当然でしょ。ここにいるのはハンターか、その関係者だけなんだから。さ、荷物をまとめたらいくわよ」
「行くって何処にですか?」
「ここの総司令のところ」
……Now loading……
エスメダに連れられてやってきたのは港からほど近い一角。大きなテーブルの上には新大陸の地図が広げられており、そのテーブルの周りには沢山の椅子が並んでいる。さしずめ会議室といったところか。
「総司令〜。帰ったわよ!」
「おお、君か」
そのテーブルの真前に立っている人物こそ、総指令その人。数十年前に新大陸に派遣された初めての調査隊の一員であり、調査隊員達から全幅の信頼を置かれている存在だ。
「君がティナか。話はキールから聞いているよ。今回は新大陸の調査にやってきてくれたこと、心から感謝する」
「ご丁寧にどうもです。ティナ・ルフール、本日付で調査隊員に加わります。こちらこそよろしくお願いしますね」
ティナと総司令が握手を交わすのを見届けたエスメダは、近くにあった椅子に腰掛けながら言う。
「それで総司令。何か進展はあった?」
「残念ながらまだ何も。君が観測したエネルギーは新大陸のかなり奥地からのものだったが、そこに到達するための道も手段も我々は持っていない。急ぎ調査を進ませてはいるが、今のままでは八方塞がりだろう」
新大陸はその土地柄なのか生息するモンスターのレベルも現大陸と比べてかなり高い。なのでただ調査すると言ってもかなりの危険を伴う行動なのだ。
「君たちには追って任務を依頼することになるだろう。それまではこのアステラを歩いてみるといい。エスメダ、案内は任せるぞ」
「了解〜! さ、ティナ行きましょう!」
「え、あ、ちょっと待ってください! あ、では失礼します。エスメダちゃん早いですってば〜!」
エスメダの後を追うティナを眺めながら、総司令はフッと笑った。彼女達ならば、この新大陸に新しい風を運んでくれるかもしれない、と。
……Now loading……
「うわぁ〜、すごいですねぇ!」
エスメダにお願いして、ティナは早速アステラの自慢だと言う工房に案内してもらったいた。その工房は現大陸でもほとんどお目にかかれないほど大きく、最新鋭の武具を作るのに適した環境だと言えよう。そしてそこで腕を振るうのは現大陸でも腕すぐりの職人達。彼らのおかげで新大陸のハンター達はレベルの高いモンスターと渡り合うことができているのだ。
「このフロアは全部工房なんですね……あ、あそこにあるのって説明された『クラッチクロー』ってやつですか!?」
「あ、ちょっとティナってば! もう、武具のこととなると目の色変えるところは、変わってないのねぇ。私は向こうで休んでるから、気が済んだらこっちに来るのよ!」
エスメダの声に「はーい」と生返事で返したティナは、工房のあちこちをくまなく観察していく。
「この太刀は随分といい品質ですね。刃の鍛え方もすごく高レベルです。こっちの弓もなかなか……エリンさんがみたら喜びそうです。お、この防具の作り方は凝ってますね! こんなに重厚な鎧なのに、駆動系に一切の支障をきたしてないとは。新大陸の職人さんはハイレベルとは聞いてましたが、これほどとは……!」
そんな感じで色々と物色していると、いきなり後ろから声をかけられた。
「おいぃ! そこのチビ助!」
目を向けると、見上げるほどの大男がそこには立っていた。結構身長が伸びたカナトよりも遥かに大きいだろう。195cmはある。その高い体に余すことなく筋肉という鎧を身につけた典型的なハンター体型の男は、ティナに向かってずしずしと歩いてくる。
「チビ助、というのは私のことですか?」
「そうだあ! 俺はてめえみたいなガキのくせに調査隊に選ばれて調子に乗ってる奴が大っ嫌いなんだよ!」
ここは腐っても新大陸。選ばれたハンターしか来れない場所なので、当然この男もハンターの中では強い部類に入る。しかしやはりハンターの世界は実力主義の世界。例えば自分は低ランククエストで足踏みしているというのに、自分より若いハンターが高ランククエストをクリアしてチヤホヤされるのは面白くないものだ。
彼だって普段はこんなことはしない。だが先日クエストで失敗して、昼間からやけ酒をしていたのがタイミングが悪かった。そうでもなければ、いくら少女とはいえ初対面の人にこんな態度は取らない。
「調子に乗っている……? 私はここにきたばかりなのでよく分からないのですが」
「どうせお前も、割りのいいクエストばっか受けてランクを上げた口なんだろ? 実力もねぇくせに、新大陸に来るんじゃねぇ!」
「ふむ……つまり私に実力を示せと言っているのですか?」
ただの酔っ払いの戯言だが、真面目なティナは自分はこんななりだから疑われているのかもしれない、と考えてしまう。そしてならば疑いを晴らしておかなければ、とも。
「なら模擬戦でもして見せればいいですか?」
「模擬戦ん〜?」
「はい、あそこにいる人と一戦交えますので、それを見てから改めて考えていただければと」
そう言ってティナが指さしたのは、頬杖をつきながら眠そうな欠伸をしているエスメダだった。この騒ぎを聞きつけて集まっていた野次馬の視線が一斉にエスメダに集まる。
「え? な、何よ?」
「エスメダちゃん。どうやら私は本当に新大陸にいるに相応しい人物なのか疑われているようです。なので一戦お相手をお願いしてもいいですか?」
「はぁ!? いやよティナと戦うなんて! 絶対無事じゃ済まないじゃない!」
「そうですか……エスメダちゃんはこの人数の前で勝負から逃げる臆病者なんですね?」
「な!?」
ティナは普段心優しいが、親友であるエスメダには色々容赦がない。まあそれほどエスメダのことを信用しているというわけだが。
「じょ、じょーとうじゃない! いいわよ、やってやるわよ!! あたしに負けても後悔するんじゃないわよ!」
そしてエスメダ、煽り耐性が低い。あのような煽りでもエスメダには有効なのだ。
こうしてひょんなことからティナvsエスメダという、ハンターギルドの最上位同士の戦いが始まることになった。
……Now loading……
「これ、どういう状況?」
「聞いた話によると────ということらしいわよ」
「えぇ……誰だよティナさんに余計なこと言った人は。ここら一帯を更地にしたいのか?」
酔いから復活したカナトはエリンを連れてアステラのトレーニングフィールドに来ていた。そしてティナとエスメダが模擬戦をするという話を聞いて内心恐怖していた。
ティナの強さは自分たちが一番知っている。そのティナと肩を並べるのがエスメダというのだ。要するにティナが2人で今から暴れる……想像するだけでカナトの背筋は凍った。
「エスメダの姉御に喧嘩を売るとは、馬鹿な新人だな」
「まったくだ。現大陸にいたからエスメダのことを知らないんだろ」
ティナが英雄と呼ばれ始めたのは約3年半前から。なので新大陸に長くいたものはティナのことをほとんど知らず、エスメダが相手じゃ勝負にならないと嘲っている。
「おい、ティナって言えばあの!?」
「あの英雄が新大陸に来てたのか……」
逆に最近新大陸に来たもの達はティナのこともよく知っているので、今から始まる戦いにカナトと同じく恐れている。
「思えばこうしてエスメダちゃんと戦うのは久しぶりですね」
「そうね」
「エスメダちゃんってば、なかなか練習相手になってくれませんでしたから……」
「あんたとやったらあたしが持たないからでしょ……バトルは好きだけど、こういうのは好きじゃない……」
ハンター同士で武器を向け合うのはご法度なので、ティナとエスメダが持っているのは太刀と大剣を模した木刀だ。
ちなみにこのようなハンター同士で戦うことは珍しくない。普通に訓練でも行われるし、ハンターは血の気の多い生き物。ちょっとしたいざこざを解決するためにこうして立ち会うことも多々ある。
「やるからには全力ですよ。私はここにいる皆さんに実力を示さなければいけませんから」
「だからあれはそういう意味じゃ……あーもう! 分かったわ。ここまで来たら愚痴るのはなし。そっちがその気ならあたしも全力よ!」
そして戦いが始まる。最初に仕掛けたのはティナだ。持ち前の素早さを活かしてあっという間にエスメダに迫っていく。しかし鈍器を持っているとは言え、この程度のスピードについていけないければエスメダが第二位と呼ばれることはない。ティナのスピードに対してどっしりと構えることで、ティナが打ち込む隙を無くした。
そんな不動の構えを見せるエスメダに対して、ティナは怯むことなく斬りかかる。大袈裟に斬りかかったそれを大剣の腹で受け止めたエスメダは、その怪力でもってティナのことを空中に跳ね上げた。しかしそれを軽やかな身のこなしで流したティナは、今度は8文字に切りかかる。それを腹ではなく木刀の刃の部分で受け止めたエスメダ。そのまま2人は鍔迫り合いに持ち込んだ。
「流石エスメダちゃんです。今の8文字を切り抜けますか」
「太刀は小回りが効いていいわよね! あたしは食らいつくだけで精一杯よ!!」
鍔迫り合いでは腕力の勝るエスメダが押し勝ち、そのままティナの胴に大剣の一撃を入れた。だが精密な身体操作に秀るティナはバク転をすることでその衝撃を受け流しつつ後退し、すぐさま体勢を立て直す。そして飛びかかるようにエスメダに斬りかかった。
「甘いわね!!」
しかしそれはエスメダの予想の内。剣先が霞むほどのティナの剣戟をなんと目で見て躱し、体制が崩れたところに振りかぶった大剣の一撃をお見舞いした。
「ぐうっ!!」
ロクにガードも出来ずにそれを受けてしまったティナは、地面に叩きつけられる瞬間に受け身をとってなんとか追撃を躱した。
「ふぅ、流石にやりますね!」
「タダでやられるわけにはいかないからね!」
距離をとって再び太刀を構えるティナに対して、やはりエスメダは不動の構えを解かない。素早い相手には下手に動くより、しっかりと相手の動きを目で追う方が大切だと分かっているからだ。
そして仕掛けたのはまたもやティナ。不規則に左右に揺れる歩法を使って、エスメダを錯乱する作戦だ。エスメダは多少目線を左右させたものの、やはりその程度ではぶれない。ティナの剣を必ず見切ると集中している。
そんなエスメダに対してティナが選んだのは突きだった。低姿勢から斜め上に放たれたそれは、しかしてエスメダの大剣によって弾かれる。弾かれた隙を晒さないように、その勢いすらも利用して半回転からの横一文字を放つティナ。だがこれも弾かれる。エスメダの防御力は並大抵ではない。
そして無理に横一文字を放ったことで、ティナの体制が崩れたように見えた。エスメダはここが勝機とばかりに大剣を握りしめてティナに斬りかかる。
「貰ったわ!」
しかしそれを見てティナが浮かべた表情は、笑みだった。
「引っかかりましたね! 奥義二の太刀『水鏡』!!」
ティナの持つ3つの奥義。その一つである二の太刀は完璧なカウンター。自分の技の威力を利用された返しの一撃に、流石のエスメダも反応できなかった。首筋にピタリと木刀が添えられて勝負がつく。
一拍してゴオッ! とティナの奥義で発せられた風が周りの野次馬達の頬を撫でた。風が発生するほど早い剣技だったということだ。2人の攻防がハイレベルすぎて何が起きたか理解できてないものもいる。
「はぁ、はぁ、私の勝ちですね」
「降参よ……はぁ、はぁ、そもそも、あたしの技は対人間を想定してないもの……というか奥義使うのはずるいでしょ」
エスメダが降参したことによって呆気に取られていた場の空気がようやく戻り、歓声が上がった。エスメダはこの新大陸では並び立つものがいないほどの強者。そのエスメダを下したティナの実力を疑うものは、もういないだろう。
たくさんの歓声に照れながらもティナが答えたことによって、歓声はさらに大きくなっていった。
「あーよかった。最悪の場合僕ら全員吹き飛ばされててもおかしくなかったよ」
「確かにね……それにしてもあの2人はやっぱりすごいわ。ティナさんの最後の技なんか、私ほとんど見えなかったもの」
「僕もギリギリって感じかなぁ。彼女達の壁はまだまだ高そうだね」
「でも負けてられない、でしょ?」
「勿論。いつか追いついてみせるさ!」
そしてこの模擬戦によってカナトとエリンの決意がさらに固くなったりもしていた。こうしてティナ達のアステラ初日は、騒がしく終わっていくのだった。
ティナが絡まれるくだり、一回やってみたかったんですけど余計でしたかね?結構迷ったんですが入れてみました。
自分はああいうのは嫌いじゃないんですけど、嫌いだって言う人も一定数いるみたいなので……
感想お待ちしてます!