銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

50 / 61
投稿再開しますー

【あらすじ】
多くのモンスターが狂乱し暴れ回る現象、通称黒き呪いの調査のため、またその元凶である終龍を討つ為に、ハンターであるティナから得た情報のもと旅立った主人公と澪音。一行は地脈の道という地下を巡るエネルギーの通り道を抜けて、ついに新大陸と呼ばれる地へ辿り着こうとしていた。



第50話.新大陸の洗礼

 地脈の道を歩くこと数日。ようやく俺たちは新大陸の地脈の入り口に到達しようとしていた。

 

「結構時間がかかったな。思ったより現大陸と新大陸の距離は離れているようだ」

「もう暗闇飽きた……面白くない」

 

 澪音はここ数日変わらぬ景色の道を歩いてきたので、すっかり飽きてしまったようだ。地脈の道は殆ど利用されることのない、いわば隠し通路。初日にラオシャンロンと出会ったのは実はかなりレアな場面だったのだ。

 それに地脈の道は酸素がほとんどと言っていいほどないので、通常の生物では通り抜けることができない。俺は古龍化した時に酸素がなくても活動できる体になったらしいから平気だし、澪音は自身の加護の性質上、呼吸しなくてもある程度は平気だからなんとかなった。なので普段この道を使うのは古龍だけなんじゃないかな。

 

 そうこうしているうちにうっすらと光が見えてきた。おそらく新大陸側の地脈の入り口が近づいてきているのだ。澪音の体も心配だし、さっさと通り抜けてしまうことにしよう。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「おお、ここが」

「新大陸……!」

 

 数日ぶりの日光を前に目を細めながら地脈の道から出てくると、目の前に広がっていたのは緑に覆われた森林地帯だった。見たことのないような木々が生えているこの場所は、ティナから聞いていた『古代樹の森』だろうか。

 

「ん? なんか……」

「士狼、どうかした?」

「いや、一瞬違和感を感じたけど、特に問題はない」

 

 多分久し振りに日の元に出たことで体が驚いているのだろう。古龍化したこの体が、この程度のことで驚いてくれるかどうかは疑問だけど。

 それにしてもだ、ここは随分と面白い植物が生えているな。『古代樹の森』っていうぐらいだから、古代から存在する木々なのだろうか? 

 まあいいや、とりあえず新大陸には無事に着けたわけだがここからどうしようか? ティナ曰く大きなエネルギーが観測れたって話だが、俺は別にエネルギーの感知なんてできないからなあ。やはりどこかでティナ達と落ち合いたいところだが……あちらが前みたいに角笛を吹いてくれたら楽なんだけど、まだ俺たちがこっちに着いてるとは知らないだろうし。

 

「士狼、士狼」

 

 そんなふうに考えていると澪音がちょいちょいと俺のことを突いてきた。

 

「ん、どうした?」

「お腹すいた」

「あー」

 

 そういやもう何日も食事というものをしてなかったな。確かに腹がすいた。さて、右も左も分からないような新大陸でどうやって獲物を探すか……と思ってたんだが、どうやらその心配は無用らしいな。

 

「何か近づいてきてる」

「だな。着いて早々襲われるとはついてない」

 

 そう、なんらかのモンスターがこちらに向かってきているのだ。新大陸のモンスターが果たして現大陸ものと同じなのかは分からないが、出来れば同じだといいんだが。予備知識の全くないモンスターと戦うのはやっぱり不安だし。

 しかしその願いも虚しく、俺たちの前に飛び出してきたモンスターはみたことも、ましてや前世の知識にも無いようなモンスターだった。出立ちやその体格からはあまり強靭といった言葉は連想できない、言うなれば俊敏そうな見た目。青みを帯びた灰色っぽい体毛に覆われた体を持ち、その四肢には体に見合わないような巨大で鋭利な爪が生えている。そして何より際立つのはその尻尾だろう。なんと胴体と同じかそれ以上の大きさがあるのだ。

 

「クアアアァァァァァァァ!!!」

 

 まるで大きなイタチのようなモンスターは、威嚇のための咆哮を上げる。体の大きさ的にそこまで大迫力があるわけでは無いが、そこに込められた圧からは強者の風格を感じ取れた。

 

「いきなり知らないモンスター……!」

「ああ。奴が何をしてくるか分からない以上澪音は一旦下がっといてくれ」

「でも」

「大丈夫だ。そんな簡単にやられはしないさ」

「……うん。頑張って」

 

 澪音は素早く下がって茂みの中に消えていった。こいつの知識が全く無い以上、打たれ弱い澪音に万が一があったら困るからな。

 さて、目の前のモンスターは威嚇をするだけして飛びかかってくる様子はない。何も考えずに突撃だけしてくる奴らと比べたら、厄介なことこの上ないな。慎重に相手の出方を伺えるだけの知性があるということなのだから。

 俺も様子見をしつつ即座に超帯電状態に移行し、相手の出方を待つ。いきなり放電を始めたのに驚いたのか、モンスターはピクッと反応しながらもその距離を詰めてきた。

 

 モンスターの右前足の爪での攻撃を躱し、お返しとばかりにこちらの黒爪での攻撃をお見舞いした。だが思ったよりもモンスターの装甲は硬く、薄皮1枚を切り裂くに終わる。というか装甲が硬いのは硬いのだが、それより奴の身のこなしの方が驚きだ。自分の攻撃が外れて反撃られそうだと悟るやいなや、体を捻ってその衝撃を緩和しようとしていたからだ。これは相当場慣れしているぞ……

 

 俺に一撃をもらったことでより警戒心を強めたそのモンスターは、バッと大きく両前脚を開いたかと思うとそのままジャンプして滑空し、巨大な木の幹にしがみついた。その時見えたんだが、奴の前脚には滑空を支えるための皮膜があった。俺は今までこいつのことをイタチのようだ思っていたが、どうやらそれは間違い。正しくはモモンガのようなモンスターだった。

 

「クアアアァァァァァァァ!!!」

 

 木の幹に鋭利な爪を食い込ませて器用に捕まっているそいつは、一際甲高い咆哮を上げた。次の瞬間、奴の全身からバチバチという音と共に電気が迸り始める。

 成る程、こいつが使う属性は雷属性か。おそらくその身軽さを生かして木々の間を滑空で移動しつつ、敵の隙をついて電撃を帯びた攻撃をしてくるスピードタイプなのだろう。しかし残念だったな。俺には元々雷属性の攻撃はほとんど効かない。それが古龍化したことによってほぼ完全に無効化出来るようになっている。相性が悪かったな。

 

 木から飛び降りつつ電撃を帯びた尻尾で広範囲を薙ぎ払うように攻撃してきたモンスターに対して、俺はその尻尾を噛み付いて捕らえる。やはりこいつはスピード特化のようで尻尾に噛みついた俺をなんとか振り解こうとしているが、俺の口はその程度の力ではびくともしない。そのまま勢いをつけながら放り投げ、大木の幹に叩きつけた。

 

「ッッッ!!!」

 

 声にならない悲鳴を上げながらヨロヨロと倒れるモンスター。流石にこの程度でやられるわけではないようだ。しかし先程のダメージでどこか痛めたのかほとんど動けない様子。勝負あったな。

 俺は刃尾でモンスターの首筋を一閃。鮮血が撒き散らされ、モンスターの目から光が消えていく。

 

「流石士狼。だいぶ余裕そうだった」

「見てたのか。まぁ確かに場慣れしてそうな奴だったが、そこまで脅威は感じなかった。でも現大陸にいたら結構な強さだと思うぞ」

 

 あの時ティナから聞いていたのだが、新大陸にいるモンスターは現大陸のものより強い場合が多いらしい。新大陸の過酷な環境で育ったモンスターは通常より強くなりやすいんだとか。俺が倒したこいつも現大陸だったら上位クラスだろうが、もしかしたらこっちでは下位相当なのかもしれない。

 

「士狼、早く食べよう」

「ん、そうだな」

 

 澪音はもう待ちきれないのか早く早くとせかしてくる。その仕草が可愛いものだが、俺も腹が減ったのは同じなのでさっさと処理するとしようか。

 

「でも昔みたいに一気にボン! と焼けなくなったのは不便だよな」

「確かに。士狼ほかの属性の扱い、下手になったから」

「下手とかいうなよへこむだろ……」

 

 そう、古龍化してからというもの、俺は雷属性以外の扱いが極端に悪くなってしまった。昔は大きなモンスターも強力な炎で一気に焼けていたのだが、今は小さな炎でチリチリと焼くしかない。そのほかのも同じような感じで、とても戦闘で使えるレベルではない。

 多分だが古龍化したことによって、俺の存在がルーツの加護を受けて色々吸収した結果不安定になっていたものから、【雷属性を操る古龍】というものに固定化されたからだと思う。だからか分からないが、ルーツからもらった能力吸収の加護もこの頃はほとんど働いていない。そのかわり古龍化以前より防御力も攻撃力もかなり上がったんだけど。

 

「確かに出来ることは減ったけど、そのかわり強くなれたんだからいいんだ」

「うん、士狼は最強。誰にも負けない」

「それは言い過ぎだだっての」

 

 勿論俺が最強なんて微塵も思ってない。俺より強い存在は知ってるし、何より俺は古龍として若輩者。龍脈の扱いだってまだまだお粗末なもんだ。前に邂逅したキリンとかだったら、もっと上手く龍脈の力を使えることだろう。そう考えるとあの時のキリンは全く本気じゃなかったんだろうなぁ。

 まあこれから上手くなっていけばいいさ。

 

 そんな感じで俺と澪音の新大陸生活初日は過ぎて行った。

 

 

 




オウガさんが戦っていたモンスターはなんだか分かりましたか?

正解は「トビカガチ」です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。