銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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今回はティナの一人称視点です。


第52話.調査隊

「ふぁーあ」

 

 アステラにあるハンターごとに割り振られた部屋のベッドの上で、私は欠伸をしながら起き上がりました。アステラでは何とハンターが寝泊まりするための大きな施設があり、アステラに滞在している間は無料でここを借りられるというのです。ちなみにハンターランクによって部屋の大きさが変わるというのは、現大陸の方と同じでした。ですがあちらは多少なりともお金を取られるので、無料で寝泊まりできるというのはとても大きいことです。

 私は高ランクハンターということもあり、この施設で1番大きな部屋が割り当てられました。いつも言っているのですが、こんな大きな部屋を私1人で使ってしまうのはもったいないと思うのです。なので今回は……

 

「エスメダちゃん、朝ですよー!」

「うわぁ! 飛び乗ってこないでよティナ!」

 

 エスメダちゃんも一緒です。彼女とはハンター育成学校の頃からの友達であり、戦友であり、親友です。昔はよく2人でクエストに出かけては、こんな風に一緒のテントで寝ていたものです。懐かしいですねぇ。

 

「エスメダちゃん、早く起きないとこちょこちょしちゃいますよ?」

「分かった、分かったから! 私がそれに弱いこと知ってるくせに……」

「知ってるからやってるのですよ?」

「よりたち悪いわよ!」

 

 ふふふ、こうしてエスメダちゃんと何気ない話をするのも久しぶりなので、ついつい。まあ早く起きないといけないのは事実なんですけど。多分カナトさん達ももう起きてるでしょうし、待たせるわけにはいきません。

 

「起きたのなら、パパッと用意して下に行きますよ」

「ふぁーい」

 

 眠そうなエスメダちゃんを連れて私たちは下に降りて行くことにしました。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 この宿泊施設の一階は現大陸にあったハンターギルドのような作りがしてあり、ここでハンター達はクエストを受けたり、情報を集めたり、お酒を飲んだりとまあそんな感じです。なので一階はいつも騒がしくてガヤガヤしてます。私はそんなギルドの雰囲気が好きだったので寧ろいいんですけど。

 

「あ、ティナさんおはよう」

「おはようございます、カナトさんにエリンさん」

 

 案の定カナトさんとエリンさんは先に着いていたようです。この2年でさらに逞しくなったお2人は、もう歴戦のハンターと言ってもいいような風格を醸し出しています。私が鍛えたんですから当然ですけど! 

 

「あれエスメダさんは?」

「エスメダちゃんならここに……」

「スヤスヤ……」

「寝てるわね」

 

 エスメダちゃんが朝に弱いのは相変わらずのようです。こうなったら、

 

「起きないとこうするって言いましたよね? くすぐりの刑です!」

「ひゃ!? あはははははは! ちょ、ちょっとやめてって……ははは!」

「だめでーす。寝坊助さんには罰が必要ですからね」

「そ、そんなー!」

 

 ひとしきりくすぐったらエスメダちゃんはピクピクして動かなくなってしまったので、今日はこのくらいにしておいてあげましょう。

 さて、今日はそんなことよりこれからについて話し合わなければなりません。いくらハンターランクが高い私たちとはいえ、新大陸では右も左も分からないようなひよっこ。ならばしっかりと情報を集めて、キールさんに託された任務を遂行できるようにならなければいけません。

 

「ティナさんってエスメダさんに対して容赦ないよね」

「そうね。あれも一種の愛情表現なの、かしら?」

「うーん。最強のハンターはこんなところでも規格外か……」

 

 お2人が何か言っているようですが、そろそろ話し合いを始めましょうか。せっかく早起きしたのですから時間は有効に使わないと。

 

「では皆さん。今後について話し合いを始めるとしましょう」

「そうだね。でも僕らは新大陸についてほとんど知らない。船の中でエスメダさんに少し聞いたとはいえ、やっぱり聞いただけじゃ分からない点も多いと思う」

「そうね。実際に自分の目で見てみると新しい発見をするのも多いし、やっぱり最初は探索に行ってみるのがいいんじゃないかしら?」

 

 探索ですか。確かに一度新大陸を自分の足で歩いてみるのがいいかもしれません。タイミングよく今日は古代樹の森に大型モンスターは出現してないようですし、そこに行ってみましょうか。

 

「では今日は古代樹の森に行ってみるということで。異論はありますか?」

 

 お2人が首を横に振るのを見て、私は明日から立ち上がります。

 

「では探索クエストに出発です!」

「「了解!」」

 

 その後近くで軽く朝食を済ませた後、私たちは古代樹の森へと向かって出発しました。エスメダちゃん? 足腰が立たなくなったそうなので仕方なく私が担いで運んであげましたよ。それを見たカナトさん達の顔が若干引き攣っていたような気がしましたけど、まあ気のせいですよね。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「到着っと」

 

 新大陸の移動は現大陸のように竜車での移動ではありません。竜車が使われないわけではありませんが、もっと画期的な移動方があったのです。それはギルドが飼育しているメルノスという翼竜種の脚に、スリンガーのワイヤーを括り付けて運んでもらうというものです。

 初めは本当に正確に目的地に運んでくれるのか疑問でしたが、実際にやってみるとすごいもので本当に目的地に運んでくれます。空を飛んでいくわけですから移動は速いですし、高い場所から見る新大陸の景色はそれは絶景でした。

 

 それにしてもこのクラッチクローというものは便利ですね。石や閃光玉を射出することもできれば、頭上に刺さる場所があればターザンのように一気に空中移動することもできる。さらにモンスターとの距離を詰めたり、ぶっ飛ばしというものも出来ると聞きました。本当に便利で画期的な発明だと思います。

 

「皆さんも無事に着けたようですね。では早速探索を開始しようと思うのですが、エスメダちゃん案内頼めますか?」

「任せなさい! 古代樹の森にはもう何回も来ているから、地図は頭の中に叩き込んであるわ」

「それじゃあ行きましょう!」

 

 こうして古代樹の森ツアーが始まったのですが、新大陸の探索はまず根幹からして現大陸とは違うというものを知りました。現大陸では素材を採取しに来た時、なかなか見つからなくて途方に暮れることもあります。ですが新大陸では導虫というものがあるのです。

 これは簡単にいうとガイド役みたいなもので、例えば負傷して薬草が足りない思った時に導虫を使うと、薬草がある場所まで案内してくれるのです。どういう原理でそうなっているのかはエスメダちゃんが覚えているわけもないので分かりませんでしたが、とにかく凄いものです。

 

「これがあればあの時もっと楽だったのに……」

「やめなさいカナト。虚しくなるだけよ……」

 

 あー、お二人が言っているのはマンドラゴラ失踪事件のことですね。秘薬のストックが無くなってきたから、調合素材のマンドラゴラを取りに行くと言って出かけたお2人がそのまま2日間戻ってこなかったというものです。

 なんでも寝ずに探したのに全然見つからず、ようやく見つけたのは調合には使えないような小さなものだけという、悲しい事件でした……何より悲しいのはお2人が出かけた1日後にマンドラゴラが店に入荷されていたということ。完全にタイミングが悪かったのです。

 

 その後も特に特筆するような出来事は何もなく、私たちは古代樹の森の中央にはある一際大きい木の天辺付近まで来ていました。この木は巨大すぎて枝の一本一本が十分な足場となっているので、ここまで上に来れることが出来ました。

 

「古代樹の森はこんな感じね! ここは結構広いからまだいけてない場所もチラホラあるけど、主要な場所は殆ど案内できたと思うわ!」

「ありがとうございます、エスメダちゃん」

「いいのいいの。私としても、早くティナ達には新大陸に慣れてもらわないといけないからね。急ぐ任務なんだし!」

 

 確かにその通りです。あの異変の原因を断つためにも、私たちは急いでそのエネルギーの発生源へと辿り着かなければなりません。そういえばシロウ達は無事に新大陸へとつけたのでしょうか? 彼らなら問題ないと思いますが、やっぱり心配です……

 

「ティナさん、今日は日も傾いてきたしそろそろ帰らない? こっちで一泊してもいいけど、まだアステラでの情報収集も済んでないし」

「そうですね。キリもいいですし、今回はここら辺で帰還するとしますか」

 

 新天地での焦りは禁物です。急ぐ任務なのは間違いないですが、焦って周りが見えなくなってしまったら本末転倒ですから。

 ですが状況は私たちを待ってはくれませんでした。古代樹の森の調査から帰ってきてからほんの数日後、新大陸の奥地へ続く道が発見されたという一報が入りました。

 

 新たな調査地の名前は「陸珊瑚の台地」

 私たち4人はその調査に向かうよう総司令に任命されたのです。

 

 

 

 

 




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