銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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第53話.調査・陸珊瑚の台地

 陸珊瑚の台地とは陸にも海にも似た、豊かで不可思議な生態系が広がる高低差に富んだ台地のことだ。陸生の珊瑚が積み重なるようになってできた場所であり、まるで陸にいるのに海の中にいるかのようなそんな感覚に陥ってしまう。そんな陸珊瑚の台地をティナ達ハンター4人が歩いていた。

 

「ここは古代樹の森や大蟻塚の荒地とは、全く異なった場所ですね」

「そうね。確かに見たこともないような植物や鉱物が見てとれるわ」

 

 ティナ達はギルドの依頼で新たに発見された場所であるここ、陸珊瑚の台地の調査にやってきていた。数多くのハンターがいる中何故彼女達が選ばれたのかというと、新天地であるここはどれぐらいの危険度かも分からないので、現状の最高戦略を向かわせたというわけだ。

 だが陸珊瑚の台地は大蟻塚の荒地と比べて環境的に過酷というわけでもなく、寧ろ生物にとっては生きやすい環境と言えるだろう。照りつける日差しは荒地のように肌を焼くようなものではないし、至る所から流れ出る水は植物の発育を促して自然豊かな環境を作り出している。

 

「今のところ危険そうなものは見つかってないね」

「そうですね。景色も幻想的でなんだか心が安らぎます」

「確かに……ん? ねぇちょっとこれ見て!」

 

 エスメダが何かを見つけたのか岩肌にダッシュで走っていく。それを見たティナ達も不思議に思いつつもエスメダの後を追っていった。

 

「エスメダさん、何か見つけたの?」

「ええ! これを見てちょうだい」

 

 エスメダが指差しているのは陸珊瑚のゴツゴツとした岩肌ではなく、その岩に付着している生物の体毛のようなものだった。

 

「これは……毛ですか?」

「そうね。えーと、ちょっと待って……うん、これは体毛で間違いなさそうね。しかも今まで新大陸で見つかったどのモンスターにも該当しないわ!」

「ということは、新種ってことかしら?」

 

 見つけたものは体毛ということで間違いなさそうだ。白っぽいクリーム色の体毛が岩肌に付着している。これは大型モンスターが縄張りを示すために、岩に体を擦り付けていたということが考えられる。そうやってモンスター達は自分の匂いをつけて縄張りを主張しているのだ。

 

「よく見たらここら辺の岩場は何かで引っ掻かれたような痕もあるね。もしかしたらもうモンスターの縄張りに入っているのか……?」

 

 カナトがそう呟いた時だった。

 

「クアアアァァァァァァァ!!!」

 

 甲高い鳴き声が4人の頭上から響いてきた。

 

「モンスターです! 皆さん気をつけて!」

 

 ティナがそう言い終わる前には、全員が武器を抜いて戦闘態勢になっている。それを見たティナは改めて頼もしい仲間達だと思いながら、自らも太刀を抜いて頭上に現れたソレに目を向ける。

 そこにいたのは、白い体毛に覆われた飛竜種のようなモンスターだった。火竜などの飛竜種に比べれば小柄だが、体のつくりは殆ど同じ。腰から尻尾にかけた部位や腹などは甲殻が露出しており硬そうな印象を受ける。その尻尾は大きく発達しており、普段から何かに使っているのだろう。

 

 一眼見てそのような分析を終えたティナはカナト達に指示を出すべく口を開こうとしたが、それより先にモンスターが行動を起こした。大きく息を吸い込んだ直後、その首回りが大きく膨張して膨らんだのだ。どうやらこのモンスターは空気を吸い込んで気球のように浮かぶ性質があるらしい。

 そして空気を吸い込んだということはそれを吐き出すのも可能ということ。まるで弾丸のような空気の塊がティナ達に向けて発射された。

 

「縄張りに侵入されたと思って怒っているようです。戦闘は避けられそうにありませんね……みなさん! 仕方ないですがここで」

 

 ティナがいち早く状況を判断してみんなに呼びかけようと口を開くよりも前に、モンスターに向かって飛び出していく影が1人。

 

「おらぁぁぁぁ!!!」

「クアアアァァァァ!?」

 

 エスメダがモンスターに大剣を振り下ろしていた。

 

「ちょ、エスメダさん!?」

「ティナさん! エスメダさんが飛び出して行っちゃったわよ!?」

「あー、あれはいつものことなので……エスメダちゃんは結構戦闘狂なんですよねー」

「「えぇ……」」

 

 そう、エスメダ・クラスタリアは戦闘狂だ。彼女自身の戦闘能力はとても高く、伊達にギルドナンバー2の称号をもらってない。だが命令や作戦をほとんど聞こうとしないのが玉に傷で、エスメダはこと大規模作戦においてはティナに手綱を握らせるか遊撃隊ということにして好きにさせるかの2択しかない。

 

「ああなったエスメダちゃんと連携するのは私じゃないと無理なんですよね……この頃は結構抑えられるようになったと聞きましたが、長らく戦闘してなかったから色々溜まってたんでしょうか?」

「あーと、加勢しなくてもいいの?」

「あの大剣の嵐の中に飛び込めるのなら加勢に行ってもいいんじゃないですか?」

 

 そう言ってティナが指差した方には、本当に嵐の如き連撃を叩き込むエスメダの姿があった。

 

「い、いや遠慮しとくよ」

「まああれぐらいのモンスターならエスメダちゃん1人でもなんとかなるでしょうし、不測の事態に備えるぐらいの心持ちで待機しときましょう」

「確かにエスメダさんなら大丈夫だと思うけど……」

 

 そんな感じで後ろの3人が喋っている間にも、エスメダの連撃は止まらない。自分の背丈と同じぐらいかそれ以上の大剣を振り回しているというのに、全くその重さを感じさせない動きは圧巻の一言だろう。

 しかしいつまでもやられっぱなしのモンスターではない。より一層口に空気を溜めて上へと浮上し、エスメダの大剣の範囲外に逃れようとする。

 

「逃がすわけないでしょ!!」

 

 しかしその程度でエスメダは止まらない。大きく踏み込んでジャンプし、一気にモンスターを飛び越えてしまった。巨大な大剣を振るうには何も腕力だけが強いだけではいけない。それを支える脚力も必要なのだ。そのどちらも高水準で兼ね備えるエスメダにとって、たとえ火竜の飛翔だろうと追いついて叩き落とせると自負している。

 

「落ちなさい!」

 

 思いっきり振りかぶった一撃。重力を味方につけたそれはモンスターの頭頂部に突き刺さり、そのまま勢いを殺さず地面に叩きつける。あまりの勢いに地面が軽く砕けるほどの衝撃が巻き起こった。『粉砕』の名に相応しい破壊力と言えよう。

 だがそれでもモンスターは力尽きていなかった。上空から降ってくるエスメダに対して残った僅かな力で空気の塊を射出したのだ。限界までその大きさを絞られた空気弾は先ほどの一撃を遥かに凌駕する威力が込められている。当たればさしものエスメダでも無傷とはいかないだろう。

 しかし、エスメダが得意なのは何も攻勢だけではない。大剣という長物を扱うにはどうしても行動が大振りになりがちだ。いくらそれを縦横無尽に振るえたとしても、その点は変わらない。なのでエスメダは攻撃以上に防御に重点を置いた立ち回りを得意としている。ここら辺がただの戦闘狂とエスメダを分ける点と言えるだろう。

 

 向かってくる空気弾を大剣の腹で弾いて晒す。モンスターの最後の足掻きでさえ軽々と躱したエスメダは、トドメを刺さずに地面に軽やかに着地した。今回自分たちがきたのはあくまで調査のため。無闇にモンスターを殺すのはいけない事だと理解しているからだ。

 

「お疲れ様です。エスメダちゃん」

「えぇ。ま、これぐらいならドンと任しておきなさい!」

「任せるも何も、勝手に突っ込んで行ったのはそっちでしょうに……」

「そうだっけ?」

 

 呆れるティナの前でエスメダはそうとぼけて見せた。

 

「それにしても流石はエスメダさんだ。新発見のモンスターとはいえ、ああも完封してしまうなんてね」

「そうね。なんていうか、思い切り? が凄かったわ。人は迷わないとああも強くなれるのね」

「エリン、それはなんか違うと思う」

「え?」

 

 そうして戦闘を終えたエスメダを労ったあと、ティナ達は未だ倒れ伏しているモンスターを観察して詳細にノートに書き込み始めた。なにせ新発見のモンスターなのだ。こうして記録を取って研究者達に渡し、その生態を解明していくのもハンターの仕事の一つだ。

 

「さて、こんな物でいいでしょう」

 

 一通り記録を取ってこれからのことを考えようとした時だった。突然地面が大きく揺れ始めた。

 

「こ、これは!?」

「地震ですか!」

「でも、こんな大きな地震なんて今まで新大陸では一度も……!」

 

 陸珊瑚は陸生の珊瑚の積み重ねでできた台地。なので大きな揺れには弱く、実際ここには遥か下まで続く穴が空いている場所もある。だからこれほどの大きな揺れが起きたということは……

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ティナ達が立っている足場が揺れの大きさに耐えられずに崩落していく。そしてそこにいた4人も重力に従って下へと落ちて行ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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