銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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第55話.『粉砕』と天狼竜

「成る程、その陸珊瑚の台地ってところを調査していたらさっきの地震による落盤に巻き込まれたのか」

「はい。貴方は人間の痕跡を辿ってここに?」

「まあな。どうやら一段上だったみたいだが」

 

 上からティナ達が落ちてきた時には驚いたが、運良く彼女達と合流できたのは助かった。新大陸に着いたは良いものの、何をすれば良いのかさっぱりだったからな。ここで彼女から情報をもらって俺たちも終龍の探索にあたるとしよう。

 

「良い機会だし人間側で得た情報を教えてくれないか?」

「良いですよ。といっても──」

「ちょっと待ったぁ!!」

 

 ティナから話を聞こうとしたところ、いきなり横から割り込んできた奴がいた。見た感じはティナと同じぐらいの年齢の少女か。しかし俺は彼女のうちに宿る強さというものを薄らとだが感じ取っている。こいつ相当強いな。

 

「ああ、すいません。彼女はエスメダ・クラスタリア。私の古くからの親友で、今回からパーティに加わったハンターです」

「エスメダ・クラスタリアよ! ティナから話は聞いているわ。あなたが天狼竜っていう特殊個体のジンオウガね?」

「あ、ああそうだが」

 

 結構グイグイくるなこの子……ティナの親友ってことは彼女がモンスターと話せるってことは知ってそうだな。現に明らかに俺に話しかけてきているし。勢いが良すぎて咄嗟に答えてしまったが。

 というかエスメダってどこかで聞いたことあると思ったら、新大陸に来る前ティナから聞いてたんだった。まあ詳しい人となりは知らないが。

 

「俺になにか用か?」

「ティナと一緒にアマツマガツチを倒したと聞いたわ! あなた、結構強いんでしょ!?」

「え? うんまあ、強いかどうかは分からんが、自分の力に自信はあるが」

「良いわね良いわね! よし、私と手合わせしなさい!!」

「ちょ、エスメダちゃん!?」

 

 は、手合わせ? いきなり何を言い出すんだこの子は? 

 その後ティナが教えてくれたのだが、エスメダは強い相手を見ると戦いたくてしょうがなくなるらしい。いわゆるバトルジャンキーってやつ? んでそれは相手がモンスターでも構わないらしく、よくこんな感じで飛び出して行っては戦いの相手を求めているそうだ。

 

「エスメダちゃん、この頃歯応えのある相手と戦ってないみたいで……このままだと何をしでかすか分かりませんし、相手をしてあげてくれませんか?」

「しかしなぁ」

「彼女はこう見えてもギルドのナンバー2です。それに暴れられると色々……」

 

 暴走列車ですか? 危険すぎるだろそれ。だがギルドのナンバー2か。ぶっちゃけどれぐらい強いのか興味はある。死闘ではなく手合わせなら命の危険も殆どないだろうし、乗ってみるか。

 

「分かった。手合わせなら付き合うぞ」

「ほんと!? 恩にきるわ!」

「士狼もどうせ戦いたがってる。お互い様」

「ちょ、澪音さん!?」

「あはは、ありがとうございます」

 

 そんな感じでエスメダと戦うことになってしまった。傍には澪音やティナ、カナトにエリンが控えて俺たちの戦いを見守っている。そしてエスメダが徐に大剣を引き抜いたことで勝負開始となった。

 

「おらぁぁぁぁぁ!!!」

「っ! 速い!」

 

 いきなりエスメダが突っ込んできたのだが、その速度が思った以上に速かった。自分の身の丈以上の大剣を持っているというのに、その重さを全く感じさせない軽やかな動き。成る程こいつは強敵だ! 

 迫り来るエスメダの大剣をステップを踏んで回避する。大剣をまるで片手剣か何かのように振り回して追撃してくるエスメダだが、俺は冷静にその全てを回避していく。

 

「なかなかやるわね!」

「そっちもな!」

 

 何度目かの大剣の振り下ろしを前脚の爪で防ぎ、そのままエスメダを押し返した。エスメダは空中で綺麗に受け身を取って静かに地面に着地する。どうやら防御の方も高水準のようだ。

 だが距離を空けたのは愚策だったな。俺に隙を与えるということは、こういうことだ! 

 

 即座に超帯電状態に移行。銀色に光り輝く雷が体中から迸る。展開した白い甲殻が淡く光り、その裏にある蓄電殻から銀色の粒子が巻き上がりはじめる。そして刃尾の刃部分が攻撃的に展開して、トライデントのような三叉のものになった。これが今の俺の超帯電状態だ。

 

「いきなり超帯電状態になるとか、こんなの見たことないわ!」

「ずるいとは言わないよな?」

「当たり前よ! むしろ初めて見る光景にワクワクしているぐらい!!」

 

 そう言いながらキラキラした目を向けてくるエスメダ。本当にワクワクしているようだな……確かに戦闘狂だなこりゃ。

 

 改めて構え直したエスメダに対して、俺は銀色に輝く爪で斬撃を放つ。脆い鉄なら両断してしまうほどの威力を誇るものだが、エスメダは冷静に俺の攻撃を受け止めている。どうやら相当良い素材で作られた武器のようだ。

 爪が塞がれたなら次はこれだ。ジンオウガの定番であるお手攻撃。ただし銀雷を纏わせて放つそれは、そこらのジンオウガのものと同じと思ってもらっちゃ困る。威力はこちらの方が圧倒的に上だ。しかしこれもエスメダは大剣で防いでしまった。連続でお手攻撃を繰り出したのだが、そのどれもが正確無比な防御に阻まれて本人に届かない。しかもガードされた僅かな隙をついて反撃をしてくるのだから、攻撃を仕掛けた俺が傷を負うと言う始末。

 

 このままではジリ貧だと感じた俺はバックステップで一旦距離をとった。まさかエスメダの防御力がこれほどのものだとはな。バトルジャンキーのくせに防御力の方が高いとか反則だろ。しかしその程度で止められる俺ではない! 

 

 距離を詰めてきたエスメダに対して雷ブラスターを放つ。それを大剣の腹で弾いて躱すエスメダだが、一瞬の隙が作れれば十分。一気に距離を詰めて飛び上がりながら螺旋状にサマーソルトを放つ。三叉に分かれた超帯電状態時の刃尾によって擬似的に3連撃を生み出すそれは、エスメダの鉄壁のガードを崩すのに十分な威力だった。

 そしてガードが崩れた瞬間を見逃さずに、叩きつけるようにお手攻撃を繰り出す。重力を味方につけたそれは確実にエスメダのことを捉えた……はずだった。

 

「これも防ぐか……!」

「私の最強の防御術。甘く見ないで貰いたいわね!」

 

 そう、エスメダはこのコンボさえも耐え抜いていた。まさに動かざること山の如し。俺の中での高火力攻撃を連続で受けながらも、彼女は踏み込みのための一歩以外動いていない。まるで鉄の塊を相手にしている気分だ。

 

「隙だらけよ!」

 

 上空からの一撃をガードされて致命的な隙を晒している俺に、背中から振り抜かれた大剣が叩き込まれる。まるで巨大なハンマーで殴られたかのような衝撃が俺を襲い、思わずくぐもった声が口から漏れた。なんとか追撃だけは許さないようパックジャンプで距離を取るが、今の一撃はなかなかに効いた。一瞬ふらつきながらも脚に力を入れて踏みとどまる。

 

「お前、めちゃくちゃ強いな……」

「そう言うあなたも強いわ。それにまだまだ本気じゃないんでしょ? 遠慮はいらないわ。全開で来なさい!」

 

 全力じゃないことまで見抜かれてたか。流石はナンバー2。一筋縄ではいかない相手だ。ならばお言葉に甘えて全力の全開でいかせてもらう! 

 龍脈の力を解放して真帯電状態ヘ移行。迸る雷の量が爆発的に増加し、暗い谷の底を明るく染め上げる。脚が全てエネルギー状の雷に覆われて、激しい火花を散らす。そして頭部にある甲殻が展開して2本の角と合わせて王冠のような形を作った。これが俺の正真正銘、全力全開だ。

 

「すごい、すごいわ! こんなに目の前の相手から圧を感じたのはティナ以外初めてよ! こんなに凄いものを見せてもらったんだから、私も答えないといけないわね!!」

 

 そういうとエスメダは持っていた大剣を地面に突き刺して目を閉じた。

 

「超越秘技……!」

 

 次の瞬間エスメダの体から半透明のオーラが立ち上り始めた。武器からも同様のオーラが発生しており、エスメダが発しているオーラと混ざり合い、練り上げられて闘気と化していく。

 その姿は人類という種族を、まさに超越したような錯覚を与えるほど凄まじい。激しい闘気に当てられて空間が歪んだように見えるのも気のせいではないだろう。

 

「こ、これは……」

「超越秘技。はるか昔から私の家に伝わる秘奥よ。短期間だけどハンターの力を爆発的に飛躍させる技。今のあなたにはこれを使うべきだと判断したわ!」

 

 成る程確かに凄まじい。ぶっちゃけ真帯電状態になってしまえば、エスメダに勝ち目はないと踏んでいた。しかしこんな奥の手を隠していたとはな。今のエスメダはあの時見たティナの本気に勝るとも劣らない迫力がある。油断していたらやられてしまうのはこちらだ。

 

「いくぞ!」

「来なさい!」

 

 そう言って振り下ろした俺の爪がエスメダの大剣とぶつかり合う、まさにその時。

 

「そこまでです!!」

 

 ギィン! という音を立てながら爪と大剣は同時に弾かれてしまった。ティナが放った一太刀が俺たちの攻撃を無効化したのだ。

 

「ちょっとティナ! 今いいところだったのに!」

「これ以上やったらこの谷底が持ちません。全く2人とも全力を出しすぎです。少しは周りを見てください」

 

 そう言われて周りを見渡してみると、俺たちの戦闘の影響で色々なものがぐちゃぐちゃになった光景が飛び込んできた。

 

「確かに少しやりすぎたな……」

「私、こんなところで生き埋めになるのはごめんですからね」

「まあ、しょうがないわね」

 

 エスメダはそう言いながら渋々大剣を背中に背負い直した。気づけば彼女から発せられていた闘気は何事もなかったかのように消えている。それを見た俺も真帯電状態を解除した。

 

「それにしてもあなたすっごく強いわね! びっくりしちゃったわ!」

「いやいや、そっちこそ思っていたより何倍も強かったぞ。つい本気を出してしまった」

「エスメダちゃんまた実力を上げましたね。シロウも2年前よりかなり強くなっていて驚きました」

「そう言うティナもめちゃくちゃ強くなってるわよね?」

「確かに。正直未だに追いつける気がしないな」

 

 その後戦いあったエスメダとすっかり意気投合した俺たちは、澪音やカナト達も交えて情報の交換をした。とは言ってもこちらから出せる情報はないに等しいので、ほとんど話を聞いている感じだったが。

 

「今わかっているのはこんな感じですね」

「成る程な。まだそっちも詳しいことは分かってないのか」

「はい、調査は出来るだけ急ピッチで進めてるのですが……」

 

 そんな感じであまり進展のない状況に、眉間に皺を寄せている時だった。先ほどの揺れとは比べものにならないほどの揺れが再び俺たちを襲った。

 

「グオオオオオォォォォォ…………」

 

 そして同時にはっきり聞こえたのだ。彼方から響くとてつもなく大きなモンスターによる、咆哮が。

 

 

 

 

 

 

 




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