ゾラ・マグダラオス誘導作戦は、ティナ達が着く前から始まっていた。先行部隊として派遣された彼らは、迎撃するための設備や安全を確保した拠点を作るのが任務となっている。
そうして先行部隊が完成させた拠点に、本体であるティナたちが合流していくのが作戦の第一段階だった。本隊の数は100人規模に及び、これまでの歴史の中で最大の作戦が始まろうとしている。
続々と竜車に乗ったハンターが拠点に到着していく中、ティナたちも長い道のりを終えて現地に到着していた。
「分かりますか? 3人とも。拠点の向こうから発せられる、この尋常ではない気配を……」
「うん、感じるよ」
「今まで多くのモンスターと戦ってきたけど、これほど大きくて威圧感のあるオーラは初めてね……」
ティナたちは拠点に近づくにつれて大きくなっていくゾラ・マグダラオスの気配に息を呑んだ。
本来この付近は年中穏やかな気候なのだとか。それが今はどうだろう、まるで火山の麓のように空気は熱せられており、周りにいるハンター達も汗を拭っている。この現象がたった1匹のモンスターによって引き起こされているという事実に、カナトはゴクリと息を飲み込んだ。
「さあ、ここまできたら後一息です。私たちも作戦に参加しますよ!」
ティナの掛け声に3人は無言で頷く。自然の化身との戦いを前に気を引き締め直したのだった。
……Now loading……
「これは……」
「なんて、大きさなの……」
ゾラ・マグダラオスの通り道になっている大渓谷を見下ろせる位置に到着したティナ達は、そのあまりの威容に言葉を失っていた。
歩く火山、確かにその通りだろう。山のようになっている背中からは絶えず溶岩が流れ出し、まるで活火山そのもの。冷え固まった溶岩で全身を覆った姿は堅牢で、並みの攻撃など寄せ付けないだろう。そして何よりその大きさ。老山龍などとは比べ物にならないその全長は、規格外としか言いようがない。
「ゴオオオオオオオオォォォォォォォ…………」
火山を背負いし龍。ゾラ・マグダラオスは、低く唸りを上げながら前身を進めているのだった。
「呆気に取られていても仕方ないわ! とりあえず私たちの持ち場に移動するわよ!」
目の前の光景に目を奪われていた3人はエスメダのその言葉で目を覚まし、指笛でメルノスを呼び寄せて先行部隊が構えた迎撃施設の方へと飛んでいく。
そこでは既に戦闘が始まっており、ハンター達の怒号が飛び交っていた。
「2番バリスタが弾切れだ! 予備弾薬持ってきてくれ!!」
「6番バリスタ破損! 修復は困難だそうです!」
「マグダラオスの背に乗る奴を射抜くんじゃねーぞ! 彼らが排熱器官を壊すまで辛抱だ!」
作戦の概要は既に本部の方で聞いてある。こんなところで悠長に話している暇などないのだ。彼女達の役割はゾラ・マグダラオスの背中に乗り移り、各部にある排熱器官を壊す、もしくは機能不全にすること。この作戦はゾラ・マグダラオスを誘導することであり、そのための策としてマグダラオスを逃げさせるというのが成功条件だった。上手くハンター達からマグダラオスが逃げるようにし、海まで誘導する。なのでゾラ・マグダラオスにとって、ハンター達のことが脅威だと知らしめる必要があった。
排熱器官はゾラ・マグダラオスにとって重要な器官のはずであり、この部位の破壊は無視できないダメージとなるだろう。しかしその為には背に乗って至近距離で攻撃しなければならない。危険度は最高クラスだ。なのでティナ達のような精鋭中の精鋭が選ばれている。
メルノスで飛んで直接ゾラ・マグダラオスの背中に飛び乗ったティナ達は、そのあまりの熱気に顔を歪める。
「暑い……まるで火口の中に入ったみたいだ」
「汗が止まらないわね……ティナさんは平気なの?」
「私は暑さに強いので平気です。みなさんは大丈夫ですか?」
確かに暑いは暑いが彼らも精鋭に選ばれたハンター。これぐらいは障害にならないとばかりに力強く頷いた。
「ではこれより行動を開始します。二手に分かれてゾラ・マグダラオスの背中を探索。排熱器官を見つけ次第攻撃を行なってください。排熱器官は1つとは限らないので、1つ目を見つけても引き続き探索を。では行きますよ!」
今回はティナとカナト、エスメダとエリンのチームに分かれることになっている。頷き合った彼らはお互い逆方向に走りながら探索を始めていく。ゾラ・マグダラオスの背中はかなりの広さがあり、ハンターが走り回っても窮屈ではないほどだ。それでいて本物の山のように急斜面になっている場所も多く、探索するには最悪な環境と言ってもいいだろう。
「カナタさん、前方に崖があります。飛び越えますよ」
「分かった!」
だが彼らはハンターだ。最悪の環境だろうと軽々と駆け抜けてこそ。ティナとカナトはひょいひょいとゴツゴツした岩肌ともいうべきその背中を駆け抜けていった。
そうして走っているうちについに見つけたのだ。明らかに熱を排出している動きを見せる、一際目立つ突起物に。
「これが排熱器官で間違いなさそうですね」
「だね、よし早速!」
カナトが背負っていたスラッシュアックスを抜いて排熱器官に斬りかかった。岩の塊のような見た目をしているが、案外その肉質は柔らかいようで確かな手応えをカナトは感じる。
「これならいける!」
「カナトさん! 危ない!」
再び斬りかかろうとしたカナトだったが、ティナの叫びを聞いて瞬時にその場を離脱する。彼にとってティナの警告は何より信頼できるものであり、自らの行動を中断するに足ると考えているのだ。
そしてティナの警告は正しかった。カナトが離脱してから少しおいて、ブシュー! と音を立てながら排熱器官から超高温の熱が放出されたのだ。あれに直撃していたら、いかにハンターが頑丈とはいえ大火傷では済まないだろうと思い、カナトの背筋が凍る。
「ありがとうティナさん。危ないところだった……」
「どうやら定期的にああやって熱を排出しているようですね。攻撃というわけではなさそうですし、気をつけながら破壊を試みましょう」
「了解!」
今度はティナも太刀を抜き、カナトと共に排熱器官へ攻撃を加えていく。
そして重要器官であるからか驚異的な耐久力を見せた排熱器官だったが、流石にこの2人の攻撃に晒され続ければ堪らないようで、少しの時間の後あきらかに熱の排出量が減った。
「ふう、こんなものでいいでしょう。では次の場所を探しましょうか」
「了解……おや?」
カナトが見上げた先、そこには1人のハンターがメルノスに乗ってこちらに近づいてきていた。カナトの記憶では確か伝来役だった彼が大きな声で叫ぶ。
「ゾラ・マグダラオスの後方付近に正体不明の銀色のモンスターが現れた! 注意されたし!!」
その報告を聞いて、ティナはようやく来たかと口角を僅かに上げるのだった。
……Now loading……
ゾラ・マグダラオスの通り道にやってきてみたら、もうすでにハンター達が交戦しているのが見えた。急拵えの足場にバリスタなどの各種対竜兵器を置き、翼竜に捕まったハンターが行ったり来たりしているのが見える。
「ま、ハンター達の邪魔にならないように控えめに暴れるか」
ちなみに澪音は留守番だ。流石にこれほどのハンターが集まっているのだ。ティナはああ言っていたがやっぱり不安はあるというもので。猛烈に反対した澪音を宥めていたら少し遅れてしまったな。
さて、ティナからは暴れてくれればいいと言われているのでその通りにするとしようか。雷電殻を起動させて超帯電状態に移行。銀色の雷を纏った爪でとりあえずマグダラオスの背中を切り裂いてみる。軽めの一撃だったってのもあるが、それでも俺の爪で浅い傷しか入らなかったのを見て思わず歯噛みしてしまう。
こりゃ思った以上に硬いな。多分弱点は排熱器官なんだろうけどそっちはハンター達が破壊してるだろうし……仕方ない。ちまちま削るとするか。
とりあえず色々な技を試してみることにした。尻尾での斬撃、噛みつき、お手攻撃、雷ブラスターなど一通りやってみたのだが、いかんせんこいつが巨大すぎて効いているのか分からん。というか溶岩の鎧が厚すぎて本体にダメージ入ってんのかこれ?
「なら、こいつはどうだ?」
四肢に力を入れて跳躍、雷の力を全て前足に凝縮して放つ俺の十八番、雷スタンプだ!
着弾と同時に爆発。圧縮された雷の力が、解き放たれた衝撃で雷撃を伴う爆発を発生させる。
「ゴオオオオオオオオォォォォォォォ!!!」
遠くの方でゾラ・マグダラオスが雄叫びをあげているのが微かに聞こえた。よし、これなら効いてるっぽいな。なら……!?
次の瞬間、俺はとてつもない殺気を感じ取った。不味いと思ってそこから飛び退くと、数瞬後に上から何かが猛スピードで接近してくる。その何かはそのままの勢いでゾラ・マグダラオスの背中に激突し、砂埃を撒き散らした。衝撃の大きさにゾラ・マグダラオスが身動ぎしているのが分かる。
そして砂埃を掻き分けて出て来たのは、これまた俺の知識にないモンスター。全身を棘のような突起物で覆われている黒い
そんな龍の目に俺は、捕食者特有の獰猛さを感じ取ったのだった。
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※2022/6/21 追記
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