な、なんなんだこいつは……
突然目の前に降って来た謎の龍に俺は驚愕を隠せなかった。全身に棘のようなものを生やしたそいつは、ギョロギョロと爬虫類のような眼で辺りを見渡している。
「グオオオオオォォォォォ!!」
そしてこちらを視界に入れた途端、咆哮を上げながら突進して来た。俺は既に超帯電状態になっていたし、警戒もしていたので不意をつかれるわけはない。だが思った以上に奴の動きが速い。何も考えていないようなまっすぐな突進だったが、あまりの速さに避けることができなかった。回避を断念した俺はこちらもタックルで迎え撃つことにする。生憎、パワーには自信があるんでな!
ドシン! と重たいもの同士がぶつかる低い音が響き渡った。俺と龍が真っ正面からぶつかったのだ。力比べは拮抗していたが、驚くべきことに奴の方が少し力が強いようで段々と押されていく。このままでは押し負けてしまうと感じた俺は、わざと力を抜いて龍の体制を崩すことにした。狙い通り前屈みに倒れようとしている龍の顔面に、渾身の力でアッパーを入れる。
無防備な状態で食らって防御もできなかったのだろう。龍は吹き飛ばされて地面を転がっていく。顎の辺りから煙が出ているのは、俺の前脚に纏っていた銀雷が奴の鱗を焼いたからだ。
「シロウ! ここに居たのですね!」
声がした方を振り返ると、ティナとカナトがこちらに向かって走って来ているのが見える。恐らく事前に言っていた通り他のハンターがこちらに来ないように取り計らってくれたのだろう。有難いのだが、今はそれどころではない。
「ティナ、カナト。どうやら俺以外にも乱入者がいるみたいだぞ!」
「あのモンスターは……」
ティナとカナトの視界にも黒い龍が入ったのだろう。だが彼女達の反応から察するに、どうやらみたことがないモンスターのようだ。新大陸でしか確認されてないか、もしくは新種か?
「そいつは滅尽龍ネルギガンテ。調査団が長年追いかけて来た龍よ」
気がつけばエスメダとエリンも合流していた。そしてエスメダはこいつのことを知っているようだ。
「ネルギガンテ、と言ったか。どんなモンスターなんだ?」
「とても攻撃的な性格ね。ブレスのようなものは吐かないけど、ネルギガンテの恐ろしいところはその膂力よ。力だけで他の古龍を倒しているところも目撃されているわ。そして調査団はネルギガンテと古龍渡りに密接な関係があると考えているけど……この話は今している場合じゃないわね」
確かにエスメダの言う通りだ。俺に吹き飛ばされたネルギガンテは既に起き上がっており、今すぐにでもこちらに飛びかかって来そうな雰囲気をしている。
「グオオオオオォォォォォ!!!」
そして咆哮と共に再び突進して来た。それをみたハンター達の行動は迅速そのもので、すぐさまその場から飛び退いて各々の武器を手に臨戦体制を整える。俺は逆にその場に留まり、ネルギガンテの攻撃を受け止めることにした。
ネルギガンテは突進では通じなかったからか、今度はその大きな手を叩き着付けるように振り翳した。だが大ぶりな攻撃は隙を晒すことにもなる。俺は素早く回転して刃尾を振り回し、二本足で立っているネルギガンテの足を払った。狙い通り地面に倒れたネルギガンテに対して、再びアッパーの要領で奴の体をかち上げる。本当はこちらも叩きつけるような攻撃をしたかったが、今の俺は1人で戦っているわけではない。ティナ達が追撃しようとしている気配を感じたので、攻撃しやすいようにアシストしたのだ。
「ありがとうございます、シロウ!」
俺の意図を汲み取ったティナが浮き上がったネルギガンテの横腹を太刀で切り裂く。鋭い一撃はネルギガンテの守りを突破したようで、うめき声のようなものを漏らして翼を大きく広げた。どうやら飛んで体勢を立て直そうと思ったらしい。
「逃がさないわよ!!」
そんなネルギガンテの背後からエスメダが現れ、大剣でその背中を思いっきり切り付けた。いや、あれはもう斬撃ではないな。叩きつけたと言うのが正しい表現だろう。
ともあれネルギガンテは飛翔に失敗し、再び地面に叩きつけられることになる。そんなネルギガンテの落下地点には、属性解放突きの構えをしているカナトの姿が。さらなる追撃をするためスラッシュアックスを突き立てようとするが、流石のネルギガンテもやられっぱなしでは無かった。素早く前脚を払ってカナトを吹き飛ばそうとする。だがハンターはまだあと1人いる。
最後に残ったエリンが正確な一矢でネルギガンテの足の付け根を狙撃。突然の痛みでネルギガンテは行動を止めてしまう。そしてその隙にカナトのスラアクが突き刺さり、氷属性のエネルギーが解放されて爆発を起こした。
「ナイスアシスト、エリン!」
「援護は任せなさい!」
いや、すごい連携力だな? 彼らは一言も何をすると口に出していなかった。だと言うのにこれだけスムーズに攻撃がつながったのは、各々が高い技量を持っていると言うのもあるが、何より信頼しているからだろう。エスメダはこの頃パーティに加わったと言う話だったが、もうここまでの連携が出来る様になっているとは。
「油断しちゃダメよ!」
そう思っているとエスメダが鋭い声を上げた。確かに仕留めてはないだろうが、かなりの攻撃を加えた。油断しているとは言わないが、そこまで警戒する必要があるのか?
「ネルギガンテの最大の特徴を言ってなかったわね。それは……」
「グオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!」
エスメダの言葉を遮るように、爆発の砂塵を突き破ってネルギガンテが姿を表した。そして驚くべきことに、その体には先ほどの攻撃を食らったとは思えないほど、傷が少ない。
「再生能力。ネルギガンテの最も恐ろしいところは、どんなに傷を負ってもすぐに治してしまう再生能力にあるわ!」
ちっ! 面倒な能力だ。先程の攻撃は俺からみてもネルギガンテに決定的な一打となったと思った。だがどうだ、こうしている間にも奴は傷を再生し続けている。ん? そういえば棘が黒くなっているような……?
そう考えているうちにもネルギガンテは止まってくれない。今度こそこちらを殺すという殺意に塗れた咆哮を上げた。その時に俺は確かにみたのだ。奴の目が紫色に怪しく輝いているのを。
「こいつ、瘴気に侵されているぞ!!」
「何ですって……呪いの瘴気は、古龍にも影響できると言うのですか!?」
思えばネルギガンテの行動は愚直なまでに単純だった。初めは自分の力を信じているが故の行動だと思っていたが、どうやら違ったようだ。瘴気によって思考能力が著しく低下していると言うのが理由だろう。
それを裏付けるかのように三度ネルギガンテが突進してくる。さっきまではその力の大きさに慄いていたが、瘴気にやられていると分かった今では何だか哀しく思えて来た。
ネルギガンテの突進をジャンプで躱し、空中で体を丸めて一回転する。回転の勢いを乗せた刃尾を振り回し、ネルギガンテの背中を深々と切り裂いた。相当ダメージが大きかったのかネルギガンテの動きが明らかに鈍った。チャンスだと思った俺は着地と同時に前脚の爪に雷を集め、そのままネルギガンテを殴るように弾き飛ばす。受け身を取ることもしないまま吹き飛ばされたネルギガンテの巨体は2度ほど地面でバウンドした。
「瘴気にやられたままでは苦しいだろ……これでトドメだ!」
最後の一撃を決めるべく俺がネルギガンテに接近したその瞬間、いきなりネルギガンテがガバッと起き上がった。そして全身を縮こまらせたかと思うと、翼を大きくはためかせると共に全身の棘を射出して来たのだ。
「なに!? ぐあっ!」
突然の行動で俺はガードが間に合わず、半分ほどは躱したものの残りが俺の体に食い込むように殺到した。幸い貫通するほどの威力は無かったので致命傷にはならなかったが、俺は動きを止めてしまった。その隙にはためかせた翼を力強く動かしてネルギガンテが去っていく。
「シロウ! 大丈夫ですか!?」
「ああ、何とかな。それよりネルギガンテは?」
「逃げていったわね。この距離じゃ流石に私の弓も届かないわ」
遠くへ飛び去っていくネルギガンテを眺めていると、今度はゾラ・マグダラオスが大きくみじろぎしたのか足場が激しく揺れる。
「おいおい、今度は何だ!?」
「多分撃龍槍が作動したんだと思う。作戦が最終段階へと移ったんじゃないかな?」
なるほど。そういえばゾラ・マグダラオスを弱らせるためにここに来たんだっけか。ネルギガンテのインパクトが強すぎて忘れてた。
とその時遠くの方から小さな翼竜が飛んできているのが見えた。足元にハンターがぶら下がっているのも見える。
「おい、なんかハンターがこっち来てるぞ」
「やばっ」
「伝来員かもしれません。シロウ、戦ってるふりをしてください!」
「え?」
「君が意思疎通のできるモンスターだってのは僕らしか知らないんだ! だから早く!」
「お、おう、分かった」
突然のことで戸惑ったがまあ確かにしゃべれるモンスターがいるなんて一般には公開されてないのは当然か。とりあえず銀雷を辺りに放出してれば派手だし戦闘中っぽいか?
「何だこのモンスターは……?」
「お疲れ様です! 何か緊急の知らせですか?」
ティナがさも俺の雷撃をバックステップで躱した風を装って新しく来たハンターに話しかけた。
「あ、はい! 作戦は成功。各ハンターは拠点まで撤退するようにとのことです」
「分かりました。ここは危険なので貴方は先に戻っててください」
「了解です。見たところ未知のモンスターのようです。十分に注意してください。ではご武運を!」
そう言ってハンターは再び翼竜につかまりながら遠ざかっていった。
「ふう。何とか誤魔化せましたかね」
「だな。作戦成功ってことは、ゾラ・マグダラオスは海に誘導できたのか?」
「成功ってことはそうなんじゃないかしら。とりあえず戻って確認してみましょ!」
俺はこのままこいつに乗って行く先を確認するか。ハンター達の拠点に行くわけにもいくまいし。本当に作戦が成功したのか確認しときたい。
「では私たちは行きます。今回は協力有り難うございました」
「いやいや、新大陸が吹き飛んだらこちらも困るからな。寧ろハンターが総出で作戦を立ててくれたし、助かったのはこちらだ」
「ティナ、早く戻るわよ! 不足の事態に備えて拠点で情報を共有しなきゃ!」
「あ、はい! ではシロウ、また会いましょう」
そう言ってティナ達もさっきのハンターのように翼竜を呼び、その脚につかまって飛び去っていった。今のハンターはみんなあんな移動方法をしているのか……画期的で面白そうだ。いくら俺が古龍に近づいたとはいえ、空は飛べないからなぁ。
そんなことを考えながら、ゾラ・マグダラオスが本当に海に行くのか確認するまで俺はこいつの背中でのんびりすることにした。