あのあとゾラ・マグダラオスは本当に海へと向かって歩みを進めていった。その直後に海の方から眩いばかりの光が溢れるのも確認している。恐らくゾラ・マグダラオスが生命活動を停止したのだろう。溢れ出たエネルギーは海中を通って世界中に拡散していき、新大陸が更地になる危機は回避できたのだ。
全てを見届けた俺は離れた場所で待機していた澪音と合流した。
「おっす澪音。1人にして悪かったな」
「ううん。それより士狼、ゾラ・マグダラオスが通った道から、新大陸の奥に行けるみたい」
マジか! それはとても朗報だ。新大陸の北側は高い岩壁に隔たれており、普通に行くのは無理だったのだ。まあ俺だけならちょちょいのちょいだが、澪音はそうもいかない。こいつはジンオウガの割に力が弱く、殆ど超帯電状態になったことがないから雷による肉体の強化も微々たるものだ。そんな澪音にほぼ垂直の岩肌を登れというのは酷だろう。
なのでゾラ・マグダラオスのおかげで新大陸の奥地への道が拓けたというのは、俺からしたら朗報だったというわけだ。
「1人の間暇だったから、色々探索してた」
「ナイスだ澪音。ティナ達が言うには大きなエネルギーの反応は新大陸の奥地かららしい。終龍の痕跡を見つけるためにも、早速いってみよう」
「ん、分かった」
俺は澪音の案内でゾラ・マグダラオスが来た方向とは逆側に歩みを進めていった。
……Now loading……
「おお、こりゃすげぇな」
澪音に案内されてたどり着いたのは、岩壁にポッカリと開いた大きな穴だった。確かにゾラ・マグダラオスの巨体が通れるほどの穴だし、奴がくり抜いたと見て間違いないな。
それにしてもゾラ・マグダラオスは随分と下の方を通っていたんだな。感覚的には地脈の道のようになっている場所だ。地中の中にトンネルが通っていると考えてもらえれば分かりやすいだろうか。
「じゃあ先に進んでみよう。警戒は怠るなよ」
「分かってる」
その穴は随分と長く続いているようだ。かなり目の良い俺の視力を持ってしても、穴の向こうは未だに暗闇に包まれている。
「なんだか地脈の道を通った時のことを思い出すな」
「確かに、でもずっと地下なのはもう嫌」
「ははは、確かになぁ」
代わり映えのない風景が何日も続くのは流石に俺だって勘弁してほしい。退屈は龍をも殺す、だ。まああっちの大陸に帰るためにもう一回必ず通ることになるんだけれども。
そうして地脈の道でやっていたように適当な話をしていた時だった。視界の奥で僅かに光がさしたのを感じる。出口が見えて来たのだ。
「お、出口だ。よかったな澪音、今回は早めに抜けられそうだぞ」
「ん」
心なしか澪音の表情が嬉しそうに見える。そんなに洞窟は嫌いか? 俺は前世の経験上暗闇も慣れたもんだ。今は竜の視力で見えづらいとは感じないが、前世の頃はどんな暗闇でも即座に目を慣らすことが重要だったしな。
おっと思考がそれた。そろそろ出口に近づく。いきなり何かが襲いかかってくるなんてことはないだろうが、警戒をするに越したことはない。
「おお……これはまた、絶景だな」
「すごい……綺麗」
暗い洞窟を抜けた先には、なんとも幻想的な風景が広がっていた。大小様々な水晶が所狭しと乱立しており、大きいものは俺なんかよりもざっと大きいものもある。中央付近には周りの水晶とは比べ物にならないほどの超巨大な水晶が聳え立っており、存在感が凄まじい。
「この水晶、古龍の力に似ている……?」
ふと全方位から古龍のエネルギーを感じたので集中してみれば、この水晶一つ一つに、恐ろしく濃密な生体エネルギーが秘められていることが分かった。おそらくこの水晶に見えるものは実際には鉱物ではなく、生体エネルギーが結晶化して地面から突き出て来たものではないだろうか。
だとするととんでもないな。一面を覆い尽くすこの水晶が、モンスターにとっては全て垂涎のご馳走ってわけだ。ただ水晶が秘めるエネルギーはあまりに濃密であり、一般モンスターが食らえばどうなるか分かったもんじゃない。下手をすると中毒症状を起こして死んでしまうんじゃないか?
「とりあえずものは試しに、と」
パクリと水晶を食べてみる。飲み込んだ途端に生命エネルギーが流れ込んでくるのを感じ、その思った以上の濃密さに思わず顔を顰めてしまった。
「士狼、大丈夫?」
「ああ、少し驚いただけだ。しかしすごいなこれ、一塊程度でこのエネルギー量か」
間違いなく、これは多くのモンスターにとって毒だ。ただしこれを吸収し切れるモンスターにとっては、喉から手が出るほど欲しいものだろう。例えば古龍とかな。
分かって来たぞ。古龍渡りの正体はこれだな? この地は多くの古龍が死に場所として選んできたのだろう。この間の屍の谷がこれを証明している。その結果古龍の生体エネルギーが蓄積されていき、結晶化するほどに積み重なっているのだ。そしてそれを求めてまた古龍がやってくる……古龍渡りの正体は死に場所を求める古龍の大移動か、このエネルギーを狙ってやってくる古龍達のどちらかと見た。
だがそれだと疑問が残るんだよな。なぜ古龍はこの地死に場所に選ぶのか、という点だ。別に死に場所など自分が生まれた地や長く住んだ地など他にもありそうなものを。多くの古龍が意思疎通をしているわけでもなく、この地にやってくる理由はなんだ?
「しかし惜しいな」
「何が?」
「俺に神様の加護が残ってないことがだ」
もし俺にまだ能力吸収の加護が残っていたら、この水晶を食べるだけでグングンと強くなることができただろう。まあそんな手段で手に入れた力がいずれ悪い反動として帰ってこない保証はないし、力だけを手に入れても努力や苦労がついて来なければ意味はないのでそんなことはしなかっただろうが。
にしても少しぐらいは……と思う節がないわけではない。それほどまでにこの水晶が秘める力は大きいのだ。
「ま、無い物ねだりをしてもしょうがない。とりあえず辺りを探索してみるか」
「ん、そういえば、あっちの方から何か聞こえる」
「ならそこにいってみよう」
俺たちは澪音が何かを聞き取ったという場所に行ってみることにした。
……Now loading……
澪音が案内してくれた場所は、溶岩が川のように流れている場所だった。どうやら流れるマグマの音が聞こえていたらしい。
「ここら辺は火山活動も活発なのか? にしては火山は見当たらなかったが……」
「あ、ヴォルガノスがいる」
うお、マジだ。遠くの溶岩の海でヴォルガノスが優雅に遊泳している。マグマの中を泳いでもびくともしない鱗があってこそだな。まあ下手に刺激して怒りを買ってもめんどくさいし、気づかれないうちに去るとするか。
溶岩地帯を後にした俺たちは巨大水晶の麓まで移動した。
「そういえば、ネルギガンテも瘴気にやられてたんだよ」
「古龍にも効果があるってこと?」
「そうだな。どうやら思ってた以上にこの瘴気は強いらしい」
古龍にも効く狂竜ウイルスなどゾッとしないな。影響範囲が大陸を覆い尽くせるほど広いだけでなく、瘴気自体の強さも桁違いときた。早くなんとかしないと、本当に取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
「ここにはこれだけの生体エネルギーがあるんだ。恐らく終龍もこれを求めてやって来るはず。とりあえず怪しそうなところはないか色々調べてみよう」
「ん、分かった」
なんとか終龍がこのエネルギーを手に入れる前に阻止できればいいんだが……
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