ようやくテストも終わり、本日より投稿再開です。
※カナトの一人称を『俺』から『僕』に変更しました。
さてと、あちらは完全にこちらを警戒してるみたいだし、もう不意打ちは出来そうも無いな。かといって正面から攻めても、ランサーに守られたエリンの弓が怖い。
とはいえ、それは攻めあぐねてても同じか。ならば!
俺はハンター達に向かって猛烈にダッシュ。当然弓による攻撃が飛んでくるが、ここは仕方がない。モンスターの防御力を生かして何とか耐える。そのままある程度接近すると、カナトとエリンはランスをどっしりと構えるバスクの影に入った。
普通のモンスターだったら、思いっきり盾にぶつかって手痛いカウンターを食らうのだろう。なるほど、なかなかいい手だ。しかし、亀のように固まってるだけなら、いくらでもやりようはある。
ランスの盾にぶつかる瞬間に急ブレーキをかけ、上体を起こす。そしてその勢いを利用して彼らの目の前の地面を、全力で殴りつけた。その衝撃で、大量の砂煙が捲き上る。
「うおっ! なんだ!?」
「慌てないで! バスクはしっかりガードだ!」
いい判断だな。カナトはうまく仲間を指揮している。突然の事態にも動揺せず、冷静に仲間に指示を出す。いいリーダーだ。俺が普通のモンスターだったら、な。
砂煙の中でも、モンスターの目というのはよく働くのだ。おそらくあちらから俺の姿はほとんど見えてないのだろうが、俺からは奴らの姿がうっすらとだが見えている。
そしてランスといえど、ガードできるのは前面だけ。
サイドステップで奴らの側面に出た俺は、未だ盾の後ろに固まっている2人にタックルをかます。視界の悪い中、突然の横からの攻撃。流石に反応できなかったようで、カナトとエリンは吹き飛ばされていった。
「カナト、エリン! くそ、こいつ!」
バスクが素早くこちらを振り向いてランスを突き出してくるが、ジンオウガお得意の後方スピンで素早くかわし、そこから連続お手攻撃に派生させる。
ランスというのは、その防御力の代わりに機動力を犠牲にする武器だ。今さっき突きを繰り出したばかりのバスクでは、この攻撃は避けられない。
「ぐぁあああああ!」
2連撃のお手攻撃を食らったバスクも、先ほどの2人のように吹き飛ばされた。本当なら追撃に移りたいところだが、これだけの時間、おそらくさっきの2人は……
「バスク!」
「バスクから離れなさい!」
やっぱりな。すでに回復を終わらせていたか。直前にバックジャンプをしてなかったら、俺の体はハリセンボンになっていたぞ……
というか、あの回復をどうにかしない限り勝てないな。回数制限とかないのか……?
くそっ、考えても仕方ない。それよりバスクが回復し切る前に、少しでも2人を削っておこう。
カナトがスラアクを剣モードに変えて切りかかってくるが、スラアクは動きが遅い武器だ。恐らく、普段はエリンが弓で注意を引きつつ、バスクが盾となりながら攻撃しているのだろう。
盾役のバスクがいない今、カナトは攻撃しやすい的だった。
体をひねりつつジャンプをして、カナトの背後に回る。その際大きく尻尾を振り回すことで、カナトの背後で弓を引いていたエリンを牽制。
と思ったのだが、何とカナトは剣モードのスラアクを大きく振り上げ、そのまま自らの背後、つまり俺を攻撃してきた。
とっさに身をひねり、急所へのダメージは防いだが、前足の付け根にスラアクが突き刺さった。
ザクッ!!
ぐああ! まさかあんな方法で攻撃してくるとは…… だが残念。致命傷には及ばなかったな!
しかし、カナトの攻撃はこれだけではなかった。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」
刺さったスラアクから、激しい雷属性のオーラが火花となって迸り始める。その光は次第に膨張し、今にも弾け飛びそうなほど。
まさか属性解放!? ま、まず……っ。
ドガァァァァァァァァン!!
大きな爆発が起こり、俺は数歩後ずさる。右足がとてつもなく痛い。見ると、右足からモクモクと煙が立ち上っており、鱗は剥がれ落ち、肉が焼けているようだ。
ぐうぅぅぅぅ! 不味い、脚が思うように動かねぇ!
カナトはこれをチャンスだと見たのだろう。煙をあげるスラアクを斧モードに切り替え、間髪入れずに殴りかかってきた。
エリンもここぞとばかりに弓を連射してくる。遠目ではバスクが回復してこちらに向かってきてるのが見えた。
『コロセ』
くそっこのままでは……!
四足歩行をする生物にとって、前足を封じられるというのは死にも等しい。どう行動するにしても前足は必ず使う部分であり、それを封じられたら動けなくなるのだ。
現に俺はカナト達の攻撃を捌ききれずにいた。
『コロセ』
一旦距離を取ろうと歯を食いしばってバックジャンプを試みるが、やはり距離が足らずすぐ追いつかれてしまう。
ぐっ、やばい。出血しすぎて目が霞んできやがった……俺は、こんなところで死ぬのか?
『コロセ』
こんな、理不尽に……俺が人間達に何をした? 人間には危害を加えてこなかった。それなのに問答無用で狩ろうとするとか……
『コロセ』
ああ、敵がいる……俺の敵が……敵はどうする? 敵は……
コロス!!!
その瞬間、俺の中から理性というものが吹き飛んだ。
「グゥオォォォォォォォォォォォォォ!!!」
咆哮が轟く──
……Now loading……
ん……あれ、俺どうしたんだっけ?
そう思って霞む頭をふるって起き上がろうとしたところ、全身に激痛が走った。
あまりの痛みに体を見てみると、所々鱗は剥がれ落ち、肉がえぐれて血が流れていて、前足の爪も折れているという酷い有様が目に入る。
うおっ! どうしてこんなにボロボロなんだ?
ううん、なんだか頭がぼんやりするな……確かハンター達と戦っていて……ってそうだよ! そのハンターはどうなった!?
顔を上げてみると、そこには信じられない光景が広がっていた。
なぎ倒された多くの木々。大量の土砂が巻き起こったのか、そこら中に砂山が積み重なっている。そして、俺を中心に広がる大きなクレーター。まるで災害でもあったかのような惨状だ。
離れたところにはランスの盾だろうか? 元の原型が分からないほど、ひしゃげた金属の塊が落ちている。
なん、だよこれ……これを俺がやったのか?
しかし、思い出せない。ハンター達と接敵してから数分後ぐらいだろうか。そこからの記憶がバッサリと抜け落ちているようなのだ。
思い出そうとすると、激しい頭痛に見舞われるのみ。
痛つつ……なんだかよく分からんが、とりあえずハンターは撃退出来たってことか。
それより今日はもう休もう。なんだか体中筋肉痛のような痛みもするし、何よりクソ怠い……
……Now loading……
なんなんだ……一体なんなんだあのジンオウガは!?
僕たちはたしかに優勢だった。あのジンオウガの奇抜な技の数々に翻弄されはしたけど、たしかに優勢に持ち込んだはず!
だけど、あのジンオウガが凄まじい咆哮をした後、全てが一変してしまったんだ……
今思い出しても恐ろしい。
真紅に染まった凶暴な目でこちらを睨んでくるのだ。纏う雷は蒼雷から、オレンジがかった緋雷に変わっていて、どう見ても原種のそれではなかった。
それだけじゃない、スピード、パワー、硬さ、どれを取っても明らかにパワーアップしていたんだ。
それまで目で追えていた動きも次第に見えなくなり、運良く攻撃がヒットしても、圧倒的なまでの硬度を持つ鱗と甲殻に全て弾かれてしまう。
あんなもの、どうすればいいっていうんだ!
「うう……」
「バスク! くそう、バスク……」
バスクはジンオウガの攻撃から最後まで僕たちを守ってくれていた。それで隙をついてケムリ玉で脱出できたんだけど、その代償として両足を再起不能にされてしまったんだ。
いくら回復薬等が凄まじい効力を持っていても、部位欠損やそれに準ずる怪我は治らない。それに回数制限もあるから、今日はこれ以上バスクに回復薬を飲ませるわけにはいかない。
恐らくバスクは、もう、ハンターは……っ!
エリンもあまりの出来事に放心しているのか、話しかけても反応がない。この辛い現実を認めたくないのかもしれない。
これから、一体どうすればいいんだ……
僕は竜車に揺られながら、明日からの不安を隠しきれずにいた。