HRの仕組みについて、少し独自設定を入れてあります。ご了承ください。
今回は前前話で登場したカナトと、彼らハンター達の話です。
1話で収め切ろうとしたところ、だいぶ長くなってしまった……
「おいっ! どうしたんだ、ボロボロじゃないか!」
「早く医務室へ!」
クエストから帰ってきたカナト達は、そのまま医務室に通されて一晩を明かすことになった。当然だろう、バスクは言うまでもないが、カナトもエリンも装備が壊れてしまっているほどの重症なのだから。
翌日、バスクは絶対安静ということで面会謝絶。心配に思ったカナトだが、会えないものは仕方ないと思い、エリンを探した。そしてエリンとはすぐに合流することができた。 しかしその表情は暗い。
「あ、カナト……」
「エリン、大丈夫かい?」
「えぇ、少しは落ち着いたわ……」
そういうが、エリンの表情が晴れることはない。カナトはなんだか気まずくなって、エリンと共にベンチに腰かけた。
「バスクのことなんだけど」
「っ……! な、何?」
この話題は今のエリンにとっては辛いものかもしれない。でも、今言っておかないと、ズルズルと引きずったままになってしまうかもしれない、とカナトは感じていたのだ。
「さっき医者から言われたよ。命に別状はないって。でも……」
「でも?」
エリンが心配そうな表情でカナトの顔を覗き込んでくる。それだけでもカナトの心は痛んだ。だが、覚悟を決めて言った。
「両足は、もう動かないだろうって……だから、ハンター活動はもうっ……!」
「そ、そんな……そんなことって!」
言葉を荒げながらエリンが立ち上がった。カナトは俯いていてその表情を見ることは出来ないが、見なくても彼女がどんな表情をしているのか分かっただろう。カナトも同じ気持ちなのだから。
「く、う、うぅぅ……」
血が滲むほど拳を握りしめる彼女に、カナトはかける言葉を見つけることが出来なかった。
……Now loading……
さらに数日後。今回の件についてギルドからカナト達に説明を求められてきた。これも当然だろう。ジンオウガの突然の乱入。さらに原種とは違う行動の数々。ギルドが注目しないわけがない。
あれからカナトはエリンとほとんど話していない。話しかけても、まだ心の整理がついていないと言われるだけ。
バスクは目を覚まさないし、カナト一人で行くしかない。
「はぁ、気が重い……」
重い足取りでカナトはギルドへと向かった。
ギルドの裏口から入って要件を伝えたが、そこで告げられたのはカナトを驚かせるものだった。なんと、今回の一件はギルドマスターが預かったらしい。しかもドンドルマ本部のギルドマスター。だから今からカナトが会うのはそのギルドマスターと言うわけだ。
「い、いきなり緊張してきた……」
本部のギルドマスターといえば、現役時代に数々の戦績を残した生きる偉人で、カナトのような下位ハンターからしたら、まさしく英雄そのもの。
「そんな人と会って話すだなんて……うぅ、せめてエリンが居てくれれば……」
「こちらがギルドマスターの部屋となっております。くれぐれも粗相のないようお願いしますね」
カナトが考え込んでいるうちに、ギルドマスターの待つ部屋の前まで到着していた。
受付嬢が軽く一例して去っていくのを見送った後、覚悟を決めてドアをノックするカナト。
コンコン
「し、失礼します! ハンターカナト、召集の命を受けてやってまいりました!」
「よし、入れ」
扉を開けると正面にその人はいた。まるで巌のようなオーラを感じるこの男こそ、世界中にあるギルドを束ねる本部ギルドマスター、キールだ。
しかし、次の瞬間にはさらなる衝撃がカナトを襲った。
「失礼しま……え? な、な、なんでこの人がここに……というか本物!?」
「失礼ですね。本物に決まっているでしょう」
「そんな……あり得ない!」
「私がギルドマスターのキールだ。そして、おっとすまない。驚かせてしまったようだな。こちらは」
「ティナ・ルフールです。初めまして、カナトさん」
ティナ・ルフール。彼女こそ最年少で「モンスターハンター」の称号を獲得し、後にも先にもいないであろう前代未聞の偉業、古龍の単独討伐を果たした、人類最強のハンターなのだ。
当然HRは999。噂ではティナだけに作られた特別なランクがあるらしいが、カナトからしたらどちらとしてもかすむほどの高さにいる人に間違いはない。
歴代最強のハンターと英雄であるキール。伝説の二人を前にして、カナトはあまりの衝撃で気絶しそうになり、思わずその場でよろけた。
「おっと、大丈夫かな?」
「は、はい。少し驚いてしまって……しかし、なぜ彼女がここに? というか、なんでキールさんのような大物が出てきたのか……」
「落ち着きたまえ。順に説明していく」
混乱のあまりつい聞きたいことを口走ってしまったことをカナトは内心恥る。
(少し落ち着こう、深呼吸でもして。スーハースーハー)
「ゴホン、では初めに。何故私が出てきたかというと、話は1ヶ月程前に遡る」
キールの話はこうだ。
1ヶ月前、渓流にイビルジョーが現れた。生態系の破壊者と呼ばれるイビルジョーは、その名の通り渓流の生態系をこれでもかと破壊していったらしい。
それを見かねたギルドは、ティナを派遣。ギリギリまで追い詰めるも逃げられてしまった、と。
その後生態系の調査のため、渓流にギルド職員が派遣されたが、そこで奇妙なものを見つけた。
なんと通常ジンオウガが出現しないような場所に、ジンオウガの捕食痕があったと言う。
ギルドが不思議に思って調べてみたところ、どうやらそのジンオウガ、植物や虫、果てには鉱石なんかも食べていたらしい。
「成る程分かってきました。その不思議な行動をしていたジンオウガが、今回僕達が出会ったジンオウガだと思ったわけですね?」
「話が早くて助かる」
ここでカナトは疑問に思ったことを口にしてみた。
「確かに不思議なジンオウガです。ですが、キールさんが出てくるほどの大物でしょうか?」
「うむ、私もそれだけでは出てこないさ。しかし、君達がジンオウガと戦ったという現場の報告を聞いて、状況は変わった」
「というと?」
キールは一泊置いてからこう言った。
「強すぎるのだよ。調査の結果、捕食痕を残したジンオウガはまだ成体になっていないことが分かっている。しかし、報告から考えるに、君たちが相対したジンオウガのパワーは成熟した亜種以上にあるという結論に至った」
成熟した亜種。その言葉を聞いて、カナトは驚きのあまり目を見開いた。
長生きした亜種ともなれば、少なくとも上位の上位クエに出てくるような強さということ。とてもではないが、カナト達が太刀打ちできる存在ではない。
「まだ捕食痕のジンオウガと、君たちが会ったジンオウガが同一の個体であるという確証はない。だが、私はほとんど確信しているよ。この2つは繋がっているとね。だから聞かせてほしい。君達が見たものを。そのジンオウガから何を感じたかを」
「わ、分かりました」
カナトはこの間の出来事を包み隠さず、全てありのまま話した。奇抜な技を使うことや、咆哮をしてからの豹変。その全てを。
話し終えた後、キールは考え込んでいるのか、目を閉じて微動だにしない。ティナもその様子をジッと伺っている。
やがてゆっくりと目を開いてキールが話し始めた。
「ふむ、確かに特異な個体のようだ。今までの報告からは聞いたこともない行動もそうだが、何より咆哮してからの豹変……おそらく怒り状態だろう。しかしそこは問題じゃない。問題は緋色の雷を纏っていたというところだ」
そこまで言うと、キールはティナの方を向いた。
「ティナくん。緋色の雷を纏うジンオウガ、聞いたことはあるか?」
「いえ、ありません。蒼雷の原種、黒雷の亜種、金雷の金雷公、緑雷の不死種。ジンオウガには様々な種がいますが、緋雷のジンオウガなど聞いたこともありません」
「うむ、とすると……このジンオウガは新種の可能性がある、と言うことだ」
キールはひとつ頷くと、なにやら書類を書き始める。
「この度の特異なジンオウガの調査。君にお願いしたい。頼めるかな、ティナくん?」
「ええ、もちろんです!」
「ありがとうカナトくん。君のおかげで、新たなる扉が開けそうだ。感謝する」
キールがカナトに感謝の言葉を述べている。ハンター活動の中で、これほど栄誉なことはないだろう。当然カナトも、本当だったら飛び上がって喜んでいるところだ。
しかし、カナトの心の中は今それどころではなかった。
(これで、終わり……? 僕らを苦しめたジンオウガ。その全ての事後処理をティナさんに丸投げして、僕はこれでお役御免なのか?
それは、それだけは……ダメだ!)
「ティナさん!!」
「はい?」
声を張り上げてティナを引き留めるカナト。
「僕も、いえ僕たちもその調査に同行させてはくれないでしょうか!」
そしてそう懇願した。
「カナトくん。これは非常に難儀な事案なんだ。君達を連れて行くにはあまりに危険過ぎる」
「そうですよ。おそらく件のジンオウガは少なく見積もっても上位。場合によってはG級個体です。G級になるにはHR20は必要。カナトさんは今HR5の直前ですよね? 危険かと……」
キールとティナがカナトを諭すが、カナトの決意は微塵も揺るがない。
「それでもです!! 自分の実力不足は重々承知しています。ですが、仲間を再起不能にされたのに、後のことは他人に全部任せて自分は安全圏にいるなんて……僕のハンターとしてのプライドが許さないんです!」
その言葉で、キールの眉がピクリと動き、ティナがハッとしたような表情を浮かべた。
「荷物持ちでも囮でもなんでもやります! だから、だから! 僕達もティナさんに同行させてください!」
訪れる沈黙。その沈黙を破ったのはキールだった。
「くはは……はっはっはっはっは! 仲間がやられて、黙って見てるなんてハンターらしくない、か。全くその通りだな! いやいや、長く現場から離れていたせいで、ハンターの矜持というものを忘れていたよ」
「ハンターとは自由なものである、ですね。私としたことが、心配してたつもりがカナトくんを縛っていたのですか……」
「そ、それじゃあ……?」
恐る恐る聞いてみるカナトに、ティナは優しく微笑んで手を差し出した。
「はい、同行を許可します。ですが、囮になんて使いませんよ? 貴方達にはこれから出発まで、みっちりと鍛えてもらいます。いいですよね? キールさん」
「あ、ああ。構わんとも。済まなかったなカナトくん。この調査は他に類を見ないほど危険なものとなるかも知れない。いついかなる時も気を抜かず調査に励むこと。いいな?」
「は、はい! ありがとうございます!」
そう言ってカナトは、ティナの手をしっかりと掴んで握手を交わした。
キールが小声で呟いた、「ティナ君の特訓か……出発までにカナト君達が潰れなければ良いのだが……」という呟きは、残念ながらカナトの耳には入らなかったようだ。
……Now loading……
ギルドマスター達と別れた後、カナトはエリンの部屋を訪れていた。今日会ったことを話すためだ。
全てを話した後、カナトはエリンにこう聞いた。
「エリン。僕と一緒に来てくれないか? 一緒にティナさんと共に行こう。そしていつの日か、あのジンオウガの正体を暴き、バスクの仇を取ろう」
エリンはしばらく俯いていたが、数秒後に顔を上げた。その目には闘士の炎が滾っている。
「ええ、ええ、そうね。このままここで引きこもっていても、バスクに合わせる顔がない。だったらあの雷狼竜に1発ぶち込んで、目にもの見せてくれようじゃない!」
そして拳を握りしめて立ち上がり、そう宣言した。
「エリン!」
「行くわよカナト。バスクの分まで、私たちがやってやりましょう!」
「勿論だよ!」
こうして決意を新たにカナトとエリン、そしてティナは謎のジンオウガの調査に赴く。
この世界ではHR6で上位、20でG級となります。