いつも三人娘のお世話お疲れ様です!
魔王討伐頑張ってください!
-ARATANAMITIBIKI-
二ヶ月前には、ダクネスの誕生日パーティーと婚約騒動があった。
あの日カズマから結婚届を貰った時は、胸が踊ったが直ぐに自分達の物では無いと分かり落胆した。
ヘタレなカズマに期待した私が馬鹿だった。
因みにダクネスはと言うと翌日、朝一番にやって来た。 そして、カズマを取り押さえ、袋叩きにしていた。
ダクネスから聞いた話によると結婚届はお父さんが預かり、一先ず婚約と言う形で止まったらしい。
バルターのダクネスへの想いは本物で、両家共に乗り気だった為、ダクネスもきっぱり断り切れなかったと言う。
とは言え、あたかも自分との結婚の書類かのように署名させたクズマに対する怒りは収まらなかった。
一ヶ月間お互いに何も話さない程に。
そんな中、私がこれ幸いにとデートを繰り返していると、ダクネスはある日接触を試み、そこからまたいつも通りの何の進展もない日々が始まってしまった。
魔王討伐から数ヶ月も経ったと言うのに、あの夜の約束は未だ果たせていない。
原因は様々、アクアが何かをしでかす。 ダクネスの妨害、カズマがヘタレる、私がヘタレる。
そんな事が続いて、今日まで来てしまった。
最近、アクアの行動も少し怪しくなってきている。
何というか気持ちには気付いていないけど、カズマを好きなんだろうなと言った感じだ。
あとゆんゆんはその気はないだろうが、一緒にクエストを受ける回数が増えているから、気を付けなければならない。
何故なら、カズマがゆんゆんにだけは、優しいからだ。
理由を聴いても、そんなの当たり前だろと言われるだけで、全く意味が分からない。
私の気持ちなんか知らず、ただ待遇改善を求めているだけだと思っているのだろう。
他にも勇者カズマに擦り寄ろうとする他所の者冒険者がよく来ているが、それは何とか牽制している。
って今は恋敵の話をしている場合ではなかった。
カズマの誕生日プレゼントを何にするか決めないと。
と思い立つと同時に、先程別れたばかりのカズマを見つけた。
カズマは何かを警戒する様にキョロキョロ周りを確認して、とある店に入っていった。
もしかすると義賊の活動の会議をしているかも知れないと思い、後を付けて入店したのだが……
「『スリープ』ッ!」
入るなり何者かによって眠らされた。
目が覚めるとこめっこに餌付けしていたお姉さん達が居た。
「あの、此処は何処ですか?と言うかあなた達は何者で今の私の立ち位置ってどんな感じなんですか?」
拘束はされてないとは言え、一度眠らされて居るのは不安材料だ。
「暴れたり私達と常連いえ、カズマさんに危害を加えないと約束して頂けるなら、包み隠さずお話します」
「・・・分かりました」
何となくだけど、お姉さん達を見る限りこの店がどう言う店なのか分かってきた。
此処は、
アレだ。
風俗だ。
だからお客であるカズマにバレた事を知られないようにしているのだろう。
「まず、私達が何者かについてですが、実はサキュバスなんです」
「そうですか。カズマがいつもお世話になって?あの、今サキュバスって言いませんでしたか?」
「はい」
はい?
如何してサキュバスがこんな街中に、お店を構えてるんだろう。
いや、それを言ったらウィズの店も一緒か。
でも、こんな店に通ってるなんて、カズマに危害を加えないって言った事を後悔し始めている。
「自分で言うのもなんですけど、驚かれないのですね」
「リッチーと悪魔の経営する魔道具店を知ってますから」
「バニル様を御存知なのですか!」
バニル様?
それに何だろう急にお姉さん達の目の色が変わった。
カズマの話をしているアイリスの目に近い。
「ええ、私がバニルの残機を減らした訳ですし、その後もウィズの店でよく会ってますよ」
「バニル様の残機を減らした!?めぐみんさんどうかこの店をお見逃し下さい!!」
流石地獄の公爵。
バニルを倒したってだけで、ここまで畏怖されるとは。
でもまだ名乗りもあげてないのに、如何して私の名前を知っているのだろう。
「カズマさんの夢をめぐみんさんのモノだけにしますのでどうか」
?
夢?
「あの、夢ってなんですか?ここって風俗店じゃないんですか?」
「違いますよ。ここは男性に夢を提供するお店です」
「やっぱり風俗なんですね」
何処からどう聞いても風俗だと思う。
それに、こんな事よりカズマと話し合いたい。
「違いますって。就寝後に夢を見させる魔法を使って、お客様の望む夢を提供しているのであって疚しい事はしてません。あっ、これはカズマさんが今日注文された夢の内容です」
言われて渡された物はカズマの字で書かれたアンケート用紙のような物だった。
サキュバス達はこの紙に最後の希望を掛けたかのように私を見ていた。
兎に角、内容を見てみよう。
名前 :サトウカズマ
相手の名前:めぐみん
相手の設定:本人
好感度 :いつもの
状況 :アクシズ教徒の居ないアルカンレティアで結婚旅行。
……
「カズマは何処にいるんですか!今からギュッとしに行くので、場所を教えてください!」
結婚した後の事を考えてくれているなんて凄く嬉しい。
「おおお、落ち着いてください!カズマさんはもう帰られたので居ないです」
「そうですか」
ここまでカズマに会いたいと思った事はない程に会いたいのに。
会いたい時に、会えないというのが辛いモノだと分かった。
「そう言えば夢を私のだけにすると言っていましたが、他の誰かの時もあるんですよね?それも見せてください」
嬉しさのあまり忘れていたけど、ちょっと冷静になると気になって来た。
「すみません。仕事が終わると同時に全て廃棄しているのでお見せする事は出来ませんが、担当の者を呼んでくるので少々お待ちください」
そう言って一人が出て行った。
そして数分後、何処かで見た事のある私と同じくらいの体型のサキュバスの子が居た。
「あっ!アナタは最近ゆんゆんとよく居る子じゃないですか!」
どうしよう。
我が自称ライバルにまともな友人が出来たと思っていたらサキュバスだったなんて。
「はい。ゆんゆんさんとは仲良くさせて貰っています」
この子がゆんゆんと仲良くなってから、ゆんゆんが家に来る回数が減ったのだ。
だからどうという事はないし、面倒事が減って清々している。
「サキュバスの中にもそっちのけのある人がいるんですね」
「ち、違いますよ!ゆんゆんさんとはダストさんの愚痴を話せるので、仲がいいだけです」
成程、ゆんゆんの意中の人について語れる相手と言うなら納得だ。
そう言えばこの噂は本当なのだろうか?
もし本当なら族長の為にも目を覚まさせないといけない。
でも、カズマに頭撫でられた位で顔真っ赤にして、あたふたしてるゆんゆんがそんな事ない。
と思いたい自分がいる。
「えっと、その。御屋敷ではお騒がせしてすみませんでした」
確かに屋敷にサキュバスが来て、ちょっとした事件になった日もあった。
偽名だろうけど、ロリーサとか言った子は申し訳なさそうにしていた。
「いえ、大丈夫ですよ。その前に幽霊騒ぎで怖い思いをしてましたし」
私が気にしていない事を伝えるとロリーサは頭を下げて、再び謝っていた。
・・・と言う事はもしかして!
「確認ですが、あの時カズマにチャームとか使ってないですよね」
「えっと、そうですね。お恥ずかしながら、カズマさんの元に辿り着く前に結界に捕まってしまったので」
予想通り、カズマのあの行動は自発的なモノで、ダクネスとの混浴は夢だと思い込んでいたのだろう。
屋敷に帰ってから問いただそう。
「分かりました。では本題に入るのですが、カズマは最近私以外の誰の夢を見ましたか?」
「他の方ですか?ここ数ヶ月はめぐみんさんの夢だけですよ」
「ほほほ本当ですか!」
つまりカズマが真剣に私の事を考えてくれてるって事で。
「ええ、ただ最近はデート前の確認やデート後のおさらい、プロポーズの練習、結婚式の模擬体験と言った感じで精気を吸えない日が多いですね」
「あのやっぱり今から追いかけてでもカズマにハグしに行ってもいいですか?今日の分はキャンセルで私がカズマの相手してきます!」
カズマの書いていた新婚旅行プランに近いやつならば、アルカンレティアじゃなくても出来る。
知り合いの居ない街に適当にテレポートして、過ごせば完璧!
「ままま待ってください!カズマさんにはお代を貰っていますし、そういう訳にはいきません」
「・・・そうですか。カズマの興味が私以外に向いてないのが分かって安心したので、大人しく帰らせてもらいます。此処をどうするかは保留という事で」
カズマは外泊か。
下手すると帰る頃にはもう居ないかもしれない。
早く帰ってカズマを少しでも長く見よう。
もし、さっきまでの話が嘘ならここは爆裂の対象にしよう。
「あ、あの。お詫びと言ってはなんですが、今日カズマさんはこの宿に泊まっているので、その近くに宿を取って教えて貰えれば、めぐみんさんの望む夢をお見せしますよ。勿論、宿代はこちらで持ちますので」
何を言い出したのだろうか、このサキュバスは。
私がそんな甘言に騙されるとでも?
見くびられては困る。
そう、ここは堂々としていればいい。
何も悩む事などないのだ。
「望む夢とか言われてもですね。分からないので詳しくお願いします」
「―――と言った感じでお願いします」
「分かりました。では最後に注意事項なのですが、今日はお酒を飲まないようにしてください。飲酒後に深い眠りにつかれると夢を見させられないので」
成程、だからカズマは霜降り赤蟹を食べている時にお酒を飲まないようにしていたのか。
これであの時、カズマの様子が少しおかしかった謎が解けた。
「大丈夫です。私お酒飲まないので」
飲んでみたいとずっと思っているが、十五になった今も飲ませて貰えない。
誕生日以降、カズマから止められる事は少なくなったが、未だにダクネスにお酒に規制を掛けられているのだ。
最近はカズマがこっそり飲ませようとしてくれるとはいえ、ダクネスに悪いので断っている。
「では、最後に確認ですが、隣の部屋もしくは真上、真下の部屋を取ってくださいね。それが出来なかった場合は二個目のプランになります」
「問題ありません。もし埋まっていたとしても隣の部屋を手に入れてみせますよ!」
いざとなれば虎の子を使って買収すれば良い。
それでも無理なら……
「暴力沙汰はなしでお願いしますよ」
「わ、分かってますよ。今日はありがとうございました。ここの事は黙っておくので、その代わりにカズマが他の女の夢を見ようとした時は連絡お願いします。後、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそありがとうございます。宿のご連絡お待ちしております」
カズマの外泊が遊郭に行っている訳じゃないと言う安心材料も得られたし、何よりカズマの気持ちも知れたしで今日は別行動にして良かった。
「あれ?カズマと爆裂しに行ったんじゃなかったの?」
カズマのプレゼントを探そうとしていた矢先にアクアに遭遇した。
「はい、今日は街に用があったので、ドレインタッチで動けるようにして貰ったんです。アクアは買い物ですか?」
街まで爆音が響いていたから不思議に思ったのだろう。
「そうよ。でも珍しいわね。最近カズマにおんぶして貰う楽さを覚えためぐみんが自力で街を歩いてるなんて」
アクアが私の事をどう思って居るのか今のでよく分かった。
私が最近覚えたのはカズマにおんぶして貰える幸せだと言いたいけど黙っておこう。
訂正するのも面倒だから要件だけを言う事にしよう。
「私の目的はカズマの誕生日プレゼント探しです。ですので一人で行動しています」
「そう言えばそうだったわね。まあ、カズマの誕生日だし適当に選べばそれでいいわよ」
なんともアクアらしい助言だった。
初めから期待はしていなかったけど。
「そんな事ばかり言ってるからカズマに怒られるんですよ。今からウィズの店に行こうと思いますがアクアはどうしますか?」
「今から教会に行って神のお告げをしに行く所よ。カズマのプレゼントはそのうち適当に買っておくわ」
アクアはそう言って教会に駆けて行った。
カズマにあまり行くなと言われていたと思うけど、まあ、アクアの至福のひと時を奪うのも悪いので、黙っておこう。
アクアに言ったようにウィズの店に来ていた。
色々と見てみたけどこれという物も無くウィズと世間話をしていたのだが。
「これはこれは想い人の秘密と気持ちを知り、舞い上がっている娘ではないか。小僧への贈り物で悩んでいるのならこれがお勧めである」
バニルが戻って来た。
要らない事まで言った所為で、ウィズの目が輝いている。
「はあ、所でこれは何ですか?」
バニルが渡した物は平べったい、長方形の板だった。
「我輩も詳しくは知らんが小僧が使い方を知っていて、喜ぶのは間違いないと確証しよう」
「分かりました。そこまで言うなら買います。それでこれは幾らですか?」
カズマが喜ぶなら幾らでも出す。
「十億エリスです」
「・・・ウィズすみません。よく聞こえなかったのでもう一度お願いします」
十億エリスって聞こえた気がするけど、多分万と聞き間違えたのだろう。
「十億エリスです。十億」
「ちょっと待ってください!こんな板に十億エリスなんて誰が払うんですか!十億出したなんて言ったらアクアみたいに怒られますよ!」
魔王討伐の報酬で買えない事もないけど、こんな板切れに十億も払う馬鹿はアクアぐらいだと思う。
「ふむ、確かに狂犬女神なら即決であろうが、使い方を知っているが故の行動であるな。一つ助言するのであれば、数日後この場に婚約を押し付けられた娘が来るは…」
「分かりました!買います!是非とも買わせて頂きます!」
ダクネスに渡るくらいなら後からカズマに怒られる方がマシだ。
「では分割利子なしでどうか?」
「それでお願いします。お金はカズマに預けているので、怪しまれますからね。助かります」
まさか貯金制がここに来て裏目に出るとは。
「非常に壊れ易い物であるから気を付ける事だな」
「はい!」
こうしてカズマのプレゼントは決まった。
でもあの悪魔に言われた物をそのままと言うのも気が進まないから、誕生日までに何か考えておこう。
無事に隣の部屋を手に入れた私はロリーサに連絡し、現在待機中だ。
アクアやダクネスにはゆんゆんとお泊まり会だと言って来たので、少し罪悪感がある。
でも、ここまで来たのだから、カズマや他の男性冒険者が病み付きになる夢を見てみたい。
そして、夢の中でカズマと・・・
「今日のめぐみんはどんな感じの服だろうなっ!」
何故かカズマが部屋に入ってきた。
あ!鍵閉めるの忘れていたからだ!
私とした事がなんと言う失敗を。
ベッドの上に居たから取り敢えず、眠っているフリをして乗り切ろう。
「ななな何でめぐみんが此処に!?ま、まさかもう夢なのか?でも、今日はアルカンレティアのはずだし...あれ?」
カズマは凄く動揺しているようだ。
慌てているカズマの顔が見たいけど我慢、我慢。
「あっ、ここ隣の部屋か。でもめぐみんがここに居るって事はバレてるんじゃ。今日はキャンセルした方がいいな」
不味い。
折角の計画が水の泡になってしまう。
一か八かやってみるしかない。
バレたら、バレたで問題は無い。
ただ、その時はカズマに詰問するだけだ。
「かずま・・・どこに泊まっ……」
「・・・何だ偶々隣に泊まってただけか。焦った。明日はバレないように遅めに出よう」
ふー。
何とか乗り切れた。
さて、後は寝るだけだ。
どんな感じなのか楽しみで寝ようと思えば思う程、逆に目が冴えてしまってなかなか眠れない。
少しウロウロして、ベッドに入ったり、夢の事を考えたりして過ごしていた。
そんな事を繰り返している内に、気付けばアルカンレティアに居た。
「めぐみん、お待たせ。ちょっと準備に時間が掛かってな」
呼ばれた方を見るといつもの服装とは違うカズマが居た。
凄く私好みの服装だと思う。
「私も今来た所ですよ。あの、今日は何処に行くんですか?」
「まあ、色々な。そうだ、今日の服も似合って可愛いぞ。綺麗だ」
誰だろうこのイケメン。
こんなにストレートに褒めて貰えたのは、初めてで如何したらいいのか分からない。
「あ、ありがとうございます。か、カズマもその服似合ってかっこいいですよ」
「そうか?めぐみんにそう言って貰えて、選んだ甲斐が有るってもんだよ」
いや、本当に誰?
こんなプレイボーイな感じの人知らない。
「何だ?照れてんのか?照れてるめぐみんも可愛いな」
ああああああああ!!
もう何だろう!
心の底から爆裂しそうな感じに悶えたい。
駄目だ言葉に出来ない。
カズマがカッコよすぎる。
と言うかカズマがヘタレなかったらこんなに嬉しい事言ってくれるなんて、付き合ったら私はどうなってしまうのだろうか。
「めぐみん?そろそろ行こうぜ。回れる場所が少なくなっちまう」
私は何も答えずにただ、カズマの後に着いていくだけだった。
この後、カズマと色々な所を回り、 ハネムーンを満喫した。
思っていた以上にサキュバスの夢は凄かった。
何がとは敢えて言わないが、兎に角凄かった。
カズマがシュミレーションの為に通うのも頷ける。
これは癖になるやつだ。
カズマの誕生日のシュミレーションをこれでいくつか済ませよう。
カズマの誕生日前日。
ギルドで、カズマを待っているとクリスに会った。
「カズマの女のめぐみん久しぶり!元気だった?」
「久しぶりですね。この前はありがとうございました。クリスこそ大丈夫でしたか?」
あの活動のある日はカズマから話を聞いているから、最近活動が増えて、忙しい事は知っている。
カズマがブラックなんちゃらと言うくらいに。
「うん。私は大丈夫なんだけど・・・」
?
何だろう?
何も変な事は言ってないないのだが、クリスから引いた様な表情が見て取れる。
「めぐみんって、やっぱり凄いね」
「急にどうしたんですか?褒めても何も出ませんよ」
なんの脈絡もなく褒められては警戒して当然だ。
まさか、カズマと隣国へ盗賊活動に、二人で行くなんて言い出すのではないだろうか?
「いや別にそういう訳じゃなくて、ほら、カズマの女って言われてもそのまま受け入れてる所とかね?」
「はあ?カズマは私の男ですよ?その逆を言われて、如何して私が動じるんですか?」
クリスはやはり疲れているのだろう。
思考回路が働いていない。
「え?今のあたしがおかしいの?もしかして、二人ってもう付き合ってるの?」
「まだですよ。今は仲間以上恋人未満の関係です」
単純に私達の関係を知らなかっただけなら仕方ない。
クリスにしては、情報に疎いのが珍しい。
「そ、そうなんだ。前にも聴いたけど、めぐみんはカズマの事どれ位好きなのかな?」
クリスは少し顔を赤らめながら興奮気味に聴いてきた。
「どれ位好き、ですか。厳密に言うとカズマの事はもう好きではないですよ」
「・・・ちょっ!ちょっと待って!めぐみん何があったの!」
急に騒がしくなるクリス。
顔面蒼白と言った感じでキョロキョロ周りを見たりして、挙動不審だった。
「どうかしましたか?続きを言いますよ?」
クリスは返事をするでもなく、黙って話を聞き始めた。
私が直ぐには話さなかったので、気まずくなったのかコーヒーを飲み始める。
「今、私はカズマを愛しています」
「っ!コホッ、コホッ!」
私が言い切ると同時にクリスは口の中の物をぶちまけた。
「大丈夫ですか?無理しない方がいいですよ」
「だ、大丈夫。大丈夫なんだけど。やっぱりめぐみんは大物だよ」
今日のクリスは私を煽ててどうしようというのだろうか?
「あっ、カズマには言わないでくださいね。まだ好きとしか言っていないので、お願いしますよ」
もし、カズマに知られたら恥ずかしさで悶えると思う。
「い、言わないよ。と言うかこっちが恥ずかしくて言えないってば」
からかった後のカズマみたいに抗議をしてくるクリス。
何と言うか二人が急に仲良くなった理由が分かったかもしれない。
「・・・じゃあさ、もしカズマくんが付き合ってって言ったら何て答えるの?」
「そうですね。『結婚ならしてもいいですよ』と言いますね」
今更恋人になっても特にやる事は変わらないと思う。
デートはほぼ毎日していた時期もあったし、一緒に寝たりもしているのだから。
確かにキスとかはまだちゃんとしていないとはいえ、結婚すれば普通に出来る事な訳で、早いか遅いかの話で言えば、結婚した方が、色々やり易いと私は考えている。
「へ、へぇー。分かったよ。私はもう何も言わないから大丈夫だよ。でも私はダクネスを応援してるから、今日のは敵情視察って所だね」
クリスが敵に回るとは、少し厄介だ。
でも、私にだってゆんゆんがいるのだから焦る事はない。
・・・クリスが敵?
「あの、一つ確認なんですが、神器を使ってアクアにも解けない呪いをカズマに掛けていたりしないですよね?」
「え?勿論そんな事してないよ。ねえ、呪いってどういう事?それにアクアさんに解けない呪いなんてないと思うんだけどなあ」
嘘を言ってる感じもなく、他の人と同じく呪いは掛かっていないだろうと言った感じだ。
ただ、他の人よりも断定的な印象を受けたのは気の所為だろうか?
「まず、幾らダクネスを応援しているからと言って二人の邪魔をしたりする訳ないよ」
「そうですか?私達がいい感じになると何かが起こって困っているのですが、運が悪いだけなのでしょうか?」
これには本当に迷惑している。
折角カズマがやる時はやるモードになってあと少しだって時に限って邪魔が入るのだ。
「そうだと思うな。それにそんな嫌がらせの出来る神器なんて聞いた事ないからね」
クリスがこう言うなら、やはり私達の恋愛運がないと考えるしかないのだろう。
「そうですか。そう言えばクリスは明日空いていますか?明日のサプライズゲストとして来て貰えると助かるのですが」
今の状況からはきつそうだけど、クリスが来ればカズマも喜ぶだろうし、クリスも息抜きになっていいと思う。
「ごめん。その日は用事でお祝い出来なくて、初めに言えば良かったんだけど、今日はそれを伝えようと思ってギルドに来たんだよ。勿論、助手くんへのプレゼントは用意してるから代わりに渡して貰えないかな?」
「そういう事なら仕方ないですね。任せてください」
こうして、クリスからカズマへのプレゼントを貰った私は当初の目的など忘れて帰宅した。
誕生日当日。
カズマはいつも通り、朝食の時間になっても起きてこなかった為、準備は簡単に済んだ。
朝食を作り終えたことで仕事の無くなった私が起こす役に遣わされたのだが、一向に起きない。
「カズマ起きてください!朝ですよ!」
「母さん、もうちょっと寝させてくれ、・・・」
寝惚けているカズマに見惚れそうになるのを耐えるのに必死だった。
「カズマ!私はお母さんじゃないですよ!ほら早くしてください!」
布団を翻して起こそうと思ったけど、カズマの誕生日に喧嘩はしたくないと思ってやめた。
こうなったら色仕掛けでいこう。
「カズマ起きてください。今起きたらおはようのキスしてあげますよ」
私が言い終わると同時にカズマは布団から出た。
そして、私の顔を見て、顔を赤らめたかと思うとまた布団に入って言った。
「めぐみん、今のは違うからな。偶々目が覚めただけで、キスにつられて起きたとかじゃないからな!」
バレバレだけど、ヘタレてこんな言い訳するのもカズマらしいと言えばらしいのかもしれない。
「そういう事にしてあげますから早く起きてください。みんな待ってますよ」
「分かった。着替えるから先に行っててくれ」
従うように部屋から出て、移動はせずに部屋の前で待つ事にした。
カズマはこう言う時に二度寝したりするから、鵜呑みにしてはいけない。
数分後着替え終わったカズマが出てきた。
「今日の朝食って誰が作ったんだ?」
「私ですよ。カズマが好きなの作りましたから、楽しみにしてくださいね」
今日の為にわざわざクリスに頼んで、ニホン料理の上手い人を紹介して貰ったのだ。
いつもカズマが教えてくれるのとは違うけど、ニホン人なら嫌いな人は居ないと言われた料理を習った。
試作段階の味見で、アクアの評価も良かったし、自身はある。
「俺の好きな料理って何だ?まあ、めぐみんの作る料理なら何でも好きだけどな」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
不意打ちでこんなに嬉しい事を言われると反応に困る。
にやけ顔になってないか心配だ。
「何が出るか楽しみだな」
自覚してないのが、唯一の救いかもしれない。
確信犯だったら、追及されているだろう。
いや、カズマにそんな芸当は出来ないか。
「なあ、今何か失礼な事考えてなかったか?」
「そんな事ないですよ。さて、着きましたよ。どんな料理か確かめてください」
都合よくリビングに到着したので、話を逸らせた。
「期待値高くなってるけど、大丈夫だよな?」
「大丈夫ですから開けてください」
カズマがそう言って扉を開けると、クラッカーの破裂が響くのではなく、乱闘が繰り広げられていた。
「ダクネスそっちに行ったわ!早く捕まえて!」
「し、しかし今離すとまた面倒な事に・・・くっ、カズマはまだなのか」
二人が翻弄されているのは...
「ああっ!ゼル帝ダメよ。それはカズマさんの分だから!もし、それを食べたらあなたがお肉にされちゃう!」
「いつもは大人しいと言うのに今日はどうしたのだちょむすけ。しかしこうやって猫に引っ掻かれて傷付くのもまた良いな」
私の作った料理を狙っているペット達だった。
「なあ、もう一回寝てきてもいいか?」
「二人が可哀想なので、早く二匹を止めましょう」
さっきまでと変わり、だるさ全開のカズマだった。
私とカズマの二人で二匹を別室に移し、仕切り直してカズマが再び部屋に入った。
「「「カズマ、お誕生日おめでとう!!」」」
「お、おう。ありがとう」
さっき入った時にサプライズがもうバレていたので、カズマの反応は何とも言えないものになっていた。
「その、さっきは見苦しい所を見せてすまなかった」
「気にするなって、あればっかりはどうしようもない事だしな。それに俺が一人で起きてたら成功してただろう?」
まさかサプライズがこんな形で失敗するとは思っても見なかった。
「それで、これがめぐみんの言う俺の好きなやつか。そりゃあちょむすけは特に欲しがるだろうな。ザ和食って感じで焼き魚がついてるし、って!これ納豆か!」
今まで下がっていたカズマのテンションが急に上がって、私の肩を掴んで確認してきた。
「はい、納豆です。ニホン出身の人に嫌いな奴は居ない食べ物だからと教わって作ったんです!」
「そうか。わざわざありがとう。でも、納豆って好き嫌い別れる気がするんだが?まあ俺は納豆好きだから嬉しいけど」
聴いてた話と違って、焦った。
カズマが嫌いな物じゃなくて助かった。
あの板を除いて今回のプレゼントは朝昼晩の日本食にしようと思っていたから危なかった。
「食べてもいいか?」
「はい、私からの誕生日プレゼントの一つですから」
あの板も合わせて、昼食のすき焼き、夕食のカレーと言う料理が今回の私からのプレゼントだ。
「一つって事はまだあるのか?」
誕生日の夕食時のこめっこみたいにカズマは目を輝かせていた。
「それはお楽しみという事で、これはクリスからの物です。今日は来れないと言っていたので、代わりにどうぞ」
「そうか。クリスにはまた礼を言っとかなきゃだな」
カズマが貰ったものの確認をして、何故か少し顔が引きつって居たように見えた。
「・・・所でめぐみんは何くれるんだ?日本料理だけでも嬉しいけど、まだあるみたいに言ってたし」
出来れば最後が良かったけど、逆に好都合かもしれない。
最後にこれを出してカズマにさっきみたいな表情をされたら困る。
「それはですね。この板です」
うっ、やっぱりこんな少しひんやりした折りたたみの板を渡すのは恥ずかしい。
「板ってなんだよぉおお!?めぐみんこれ本物なのか!?これ貰ってもいいんだよな!」
板を見た瞬間カズマの目の色が変わった。
そして、めったにしない抱擁をみんなの前でされた。
あの悪魔には感謝しかない。
「い、いいですよ。本物かとか聴かれてもよく分かりませんが魔力で何かするものですよね?」
「これ、魔力で動くのか!ちょっと待ってろよ!」
そう言うとカズマは板を直角に開けて謎の文字板を押して、板に魔力を送っていた。
アクアもカズマと同様にテンションが上がっていて、ダクネスは私と同じく訳が分からず見守っていた。
「よし、開いた!後はこれをこうして、出来たぞ!」
「カズマ、やったわね!これで屋敷でもパソコンゲームが出来るわ!」
パソコンゲームとやらはよく分からないが、多分あの板がパソコンでパソコンを使ったゲームの事だろう。
パソコンとか言う板は先程まで黒い板だったのに、光を放っていた。
カズマは色々と確認が済んだのか、立ち上がって言った。
「ありがとう。めぐみん、これいくらしたんだ?高くなかったか?」
「貰った物の値段なんて気にしないでください。でも、喜んで貰えて良かったです」
この時、私はこの板切れにカズマを奪われるとは思っても見なかったが、それはまた別の話。
「カズマ、めぐみんの物には劣るだろうが、私からはこれだ。いつもありがとう」
「こちらこそありがとう。貰った物に優劣なんて付けれねえよ」
カズマはダクネスを赤面させつつ、中身を取り出していた。
ダクネスのプレゼントはタオルだった。
「タオルか、汗ふきに最近使う機会が増えたし嬉しいよ。ありがとな」
やはり実用性が重視されるのは仕方ない事だろう。
「あっ、私からはこれね。天下のカズマさんなら喜ばないわけないわよね?」
「よし、アクアちょっとこっち来い。話がある。二人はここで待っててくれ」
アクアの渡した物を見て、急に顔色を変えたカズマはアクアを連れて出ていった。
あらかたアクアがカズマの気に触る物を渡したのだろう。
数分後二人が仲良く戻ってきた。
「流石アクア様、神芸でした」
「いやいや、それ程でもあるわよ。カズマさんこそ素晴らしい考えだわ」
何だろう。
二人が仲良くしていて、嫉妬が湧くと言うより単純に二人が気持ち悪いから間に入って元に戻したい。
「めぐみん、あの二人はどうしたのだ?」
「さ、さあ?何か嫌な予感がするのですが、ダクネスはどう思いますか?」
ダクネスに確認しようとした時、アクアに遮られた。
「プレゼント渡しも終わったし、パーっと飲むわよ!」
「じゃあ、この酒から行こうぜ。これ美味しやつだから」
「そうね。・・・ねえ、カズマさん。そのお酒は何処から持って来たのかしら?私の部屋に有った物に凄く似ているのだけど」
「その通り、お前の部屋のやつだ。酒買うなって言ってたのに部屋にあったから持ってきた。今日はみんなありがとうわっ!アクア何すんだよ!危ないだろ」
アクアは高級酒を取り戻そうとするも、いざとなれば割ろうとしているカズマに強引に近付く事も出来ず、攻めあぐねていた。
「私のお酒返して!それは信者の子がくれたやつなの!そうじゃないとさっきのフィギュアの話二人にもするわよ!」
「あ、アクア何言ってんだ。後から同じの買ってやるに決まってんだろ。何ならこの前欲しいって言ってたのも買ってやるぞ」
カズマが急に手のひら返しを始めた。
フィギュアってどんなものだったけ?
「流石カズマさんね。分かってるじゃない。サービスしてオプションを増やしてあげるわね」
オプション?
どこかで聞いた事があるような。
「アクア様マジ女神!」
「カズマもようやく分かってきたようね。カズマには特別にアクシズ教の幹部になれる権利を授けるわ」
アクアは煽てられて、得意になっていた。
「いや、それは要らない。それより、ちゃんとあれ作ってくれるんだよな?」
アクアはカズマに即断され、少し落ち込んで居たが、カズマ相手に泣き落としの意味がないのを理解しているのか、我慢して、話を続けた。
「勿論よ。色んなバージョンを作ってあげるから期待してもいいわよ」
「あの、ちょっといいですか?二人の言ってるのって前にアクアが作ってた人形じゃないですよね」
私の質問に黙り出す二人。
図星と言った所だろう。
「ち、違うわよ。私たちは別にミニめぐみんを作ろうなんて考えてないわよ!」
「はぁー、こいつの言う通り、前にアクアが作ってた改良型を作って貰う話だったんだよ」
「ちょっと!カズマ!バラしてどうするのよ!」
「お前がバラしたようなもんだろ!折角、いい娯楽ができたと思ったのによ」
「喧嘩は辞めてください!と言うか二人には話があるので、来てもらいますよ!」
二人はぶるぶる震えながら、私に着いてきた。
移動後、カズマは誕生日だった事もあり、あまり怒らなかったが、アクアには変な物を作らないようにキツく言っておいた。
この後は特に事件もなく、楽しい一日を過ごす事ができた。
一つ心残りなのはカズマにカレーとすき焼きを出す順番が逆だと言われた事だ。
皆さんお久しぶりです。
皆さんのおかげで何とめぐみんのターンのお気に入り者数が1000人達成しました!
皆さん本当にありがとうございます。そして、これからも本シリーズと共によろしくお願いしますm(*_ _)m
初の一万字越えでびっくりしました!
カズマさんの誕生日話は誰視点が良いかについて
-
カズマ視点(天界)
-
カズマ視点(討伐後)
-
ヒロインズの誰か視点(天界)
-
ヒロインズの誰か視点(討伐後)