妖刀との出会い~三人の最悪の世代   作:幸福野郎

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オレンジ

 オレンジ。

 その場を占める色は、それだった。

「収穫だー!!」

「ばか!まだ,早ェ!!」

 太陽の光が普段より、輝きを増している。

「へー、美味そうだな」

「おれ達にも、分けてくれるんだって?」

 そこは村のみかん畑。

 ハートの海賊団の四人は、ある事情でその場所を訪れていた。

「ちゃんと収穫を手伝ったら、です。ただではあげませんよ」

 少しきつめに言うのは、様子を見に来た、村の医者のマリィ。

「いや、食糧分けてくれるだけで嬉しいよ!」

「当然だわな!」

 一味は白シャツ姿で、手に片手鎌を持ってしゃがみこんでいた。

 四人は、みかん畑の雑草刈りの最中のようだ。

「……きちんとお願いしますね。くれぐれも、どこかのロバーツのように妙な真似をしないように」

「信用ないな!まだ、あの時のこと根に持ってるのかい!」

 四人と同じように、草刈りを行うロバーツ。汗をかきながら、せっせと草を刈っていく。

「あの時?」

「あー、昔なー」 

 

「みかん、ゲットッ!! やったぜッ!!」

「よくなーいッ!! ぶん殴るッ!!」

 

「なんて事が。ははは」

「笑い事じゃないわよ。まったく……!」

 

 ――ほら、マリィが好きなみかんだぞ!村のみんな、手伝ってくれたんだ!

 ――元気だせ!

 

 彼女が思い出したのは、昔のこと。

「私の大切な……支えなんだから」

 最後の言葉は、呟きのような小ささだった。

「悪いやつだなー。ロバーツ。海賊みてェだ」

「そりゃあ、仕方ねェな。盗みはよくない」

「アイアイ。自業自得だ」

 話を聞いたハートの面々は、ロバーツを批判する。

「……」

 彼等から少し離れたローは無言、そもそも話を聞いていないかもしれない。

 彼はただ黙々と、草刈りを行っている。

「ふぅ……」

 草を刈っていく、露出した腕には、奇抜なタトゥーがあり。

 目立つそれに、関心を示す者がいた。 

 

「……おおお!やっぱその模様、イカスべー!!」

 

「……なんだ、いきなり」

 近くで作業をする男の、突然の感嘆の声。

 ローは不満気に、男を見た。

「すまねェべ!!ローさん!!おら、そういうの初めてみるもんだから!!」

 目を輝かせながらローのタトゥーを見る、逆立った赤髪の男。

「失礼したべ!! 客人に対して無礼な態度を取ってしまうとは!! この、ロメオ!!不覚だべ!!」

 彼は地面に両手を着け、頭を下げて、ローに謝罪する。

「村長さんに合わせる顔がないべー!!恩を仇で返してしまうとは……!!いつか必ず、返すと誓ったのに!!」

 非常に騒がしいこの男は、村人の一人。

 村長に多大な恩があるようで、この有様。

「いや、別に怒ってはいねェが」

「本当だべか!?それなら良いんだが……」

 ロメオは顔を上げ、安堵の表情。

 大げさなと思いながら、止めていた手を動かすロー。

「……いやーしかし、格好いい……タトゥーだべ。それに、体も随分鍛えてるみたいだし……きっと、凄い旅をしてきたんだな……ロバーツの奴も、そう言ってたし。憧れちまうべ!!」

「……そうか」 

「今度、色々と話を聞かせて欲しいべ!!」

「機会があったらな」

 尊敬のまなざしを向けるロメオと、気にしたそぶりもなく作業を続けるロー。

「うおお!! ラストスパートッ!!」

「美味しいみかんの為に!!」

 少し離れた場所では、もっと騒がしい者達。

 

 村人との共同作業の時間は、喧噪と共に過ぎていった。

 それは、ある日常の一幕。

 

◆◆◆

 

「……ここか。話に聞いた教会は」

 

 少し赤味がかった空の下、ローは少し古風の教会前へとやってきた。

 彼の目的は情報集め。

 この島から脱出するための手がかりを、あらゆる手段を使って求めている。

 

「――おやおやぁ? これは珍しいお客様ですね」

 

「!」

 

 教会前にて掃き掃除をしている女性に、声をかけられた。

 彼女は修道服を着ている。美しい黒の前髪が、整った容姿とマッチしていた。シャチとペンギンがいたら反応しそうな、豊満な胸とスタイルの良さも持っている。男性ならば会話するのに緊張しそうな麗人だが、ローはいつもと変わらぬ様子で彼女を見た。

 そのシスターらしき女性は、両手をもみ合わせながら機敏な動きで接近する。

 

「ささ、なんの御用でございましょうか? トラファルガー・ローさん」

 

「……」 

 

 名乗らずとも自分の名前を把握している。若干、警戒心が強く感じられることも合わせて、このシスターは中々の曲者であると彼は判断した。

 だからといって、そこまで対応が変わるわけではないのだが。

 

「教会の隣にある書庫を利用したい。あんたが管理者と聞いた」

 

「ええハイそうですよ。書庫のご利用ですかー、どうぞどうぞご自由に!」

 

 陽気なテンションでローに対応するシスター。

 人懐っこい笑顔を浮かべる彼女は、警戒するのも馬鹿らしくなるほどにフレンドリーだ。

 ローは、さっきまでの疑心を考えすぎと切り替えた。

 

「ではでは! 一回の入場料で5万ベリーです! ローンは組めませんからね!」

 

「はっ?」

 

「はっ?じゃないですよ。まさか無料で利用可能だとでも? 甘すぎます! ボランティアじゃやってけないんですよ! 今どき!」

 

「あ、ああ。そうか」

 

 やはり警戒すべきと、さっきの考えを即座に切り捨てたロー。

 シスターの顔が腹黒く見えてしまう。

 

「こちらが利用契約書になります。どうぞどうぞー!」 

 

「……」

 

 一枚の紙とペンをシスターから渡される。

 そこに書かれている内容に目を通すと、めちゃくちゃ小さく「利用時間に応じて料金が加算されていきます」と書かれていた。

 渋い顔になるロー。

 

「はいサインありがとうございまーす! ゆっくりしていってくださいね♡」

 

 なんにしても書庫を利用することに変わりはない。

 彼はささっとサインを済ませ、老朽化している建物へと足を進めた。

 

 

 

「……埃っぽい部屋だ」

 

 少し薄暗く感じる書庫内。

 ローは入り口に一番近いテーブルに着き、そこに置いてあった赤い装丁の本を手に取った。

 そして、ちょっとだけページをめくる。

 

「違うな。これじゃないか」

 

 お目当ての本かと思ったが違うようだ。彼が手に取ったのは、この国で昔から親しまれている童話の絵本。ある勇敢な王と聡明な道化師の話。

 それを元の場所に置き、本棚の方へと足を進めようとした。

 

「――お目当ての本はありましたかー? ローさん」

 

「!」

 

「フフフ、そんなに警戒なさらずとも。ただ、本をお探しするのを手伝いたいんですよ!」

 

 いきなり背後から顔を出してきたシスターに、若干動揺するロー。

 彼は背を取られたことに内心歯噛みし、気を抜き過ぎていたことを反省する。

 

「きちんと料金を払った方にはサービス山盛り! それが私のポリスィーなんです! ポリスィー!」

 

「お、おう。そうなのか」

 

 陽気に笑う彼女の笑顔には無邪気さしかなく、毒気を抜かれてしまう。

 せっかくなので、ローはその力を借りることにした。

 探している本を伝え、シスターは迅速な動きで本棚へと向かう。

 

「これでもない、あれでもない……お。あったー! ありましたよ!」

 

 数分程度で複数の本は見つかった。

 ローは彼女に礼を言い、本を開いて内容に目を通す。

 

「どうでしょうかー? 中身の方は?」

 

「ああ。求めていたものだ、助かったよ」

 

「この島における病気・薬に関する書物……。医者としてのお勉強ですか! 勤勉ですね!」

 

 探していた本は、現在滞在しているこの島の医療に関係するものだ。そこにあの未知の病を治療するヒントがあるやもと、そう彼は考えていた。

 黙々とそれを読み進めるロー。

 シスターはその様子を見ながら、なにやら思案している。

 

「……なんだ?」

 

「ああ、いえいえすいません! 気が散りますよね! ただ、なんだかマリィさんを思い出してしまって!」

 

 ローが勉強する姿が、村医者のマリィと重なるという。

 彼女が言うには、どうやらマリィもよくこの書庫を訪れているのだとか。

 時には寝泊りしてまで、熱心に村人を襲った未知の病の勉強をしていると語る。

 

「あの娘、いつも何かに急かされるように頑張っていまして……。なんだか危なっかしいんですよね。なので私もついつい甘くなってしまいます」

 

「ほう?」

 

「初回に高めの入場料をもらった後は、一切ベリーの請求を行っていません! えっへん!」

 

「金はとるのかよッ」

 

 思わずずっこけそうになる守銭奴シスターの言動。本気で言っているのか、ローは判断に困っているようだ。

 それからもマリィの話は続き、彼女について詳しく知ることができた。

 

「彼女に限らず……この村のひとたちは、とてもたくましく生きています。みんな心の中では、いつかくるであろう希望を望んでいる、のかもしれません」

 

「……?」

 

 シスターの言い回しに少し違和感を感じるロー。

 彼女は言うだけいうと、そそくさと書庫内から出ていった。もしかしたら気を遣ったのかもしれない。

 静かになった書庫でローはしばし佇む。

 

「……」

 

 少し物思いにふけった後、彼は再び手元の書物に目を落とす。

 さっきよりも、なぜかやる気に満ちているようだ。

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