夕日は落ち、月は昇る。
静かな森に響き渡るは、誰の歌。
「~♪」
森に響く誰かの歌。
「旅人達は、どこヘ行く~♪」
陽気に歌う、森の住人。
「何を求めて、どこヘ行く~♪」
似合わない歌。
「それは誰にも分からない、分からないまま進むのさ~♪」
彼は何を思い歌うのか。
「それでも、気を付けて旅人よ。目指す場所に立ち塞がるは」
「誰かが夢見たいつかの幻影」
「ん・・・・・・」
マリィの意識が覚醒する。彼女はソファに仰向けで寝ていて、手には医学書。
「寝落ち・・・・・・」
どうやら勉強中に寝てしまったらしい、と思い至って嘆息する。
「・・・・・・でも」
このまま寝た方が良いかもしれない、と部屋の掛け時計を確認しながら彼女は思った。なんせ今日は、ある用事があるのだから。
(輝く薬草)
あらゆる病気を治せる夢の薬草。虹色に輝くという光の薬草。
そんな代物がこの国に存在するという噂。
当然、彼女はそんな噂を信じてはいなかった。だが、親交の深い少女から興味深い話を聞いた。
「それで、その小人さんがね」
少女が言うには、ピクニックの途中で出会った小人が薬草の存在を仄めかしていたとか。その話がある青年の耳に入ったのが事の始まり。
「輝く薬草・・・・・・本当にあるのか!?」
青年の名は、ロバーツ。少女の兄で、マリィとは幼馴染の関係。
「あるかどうかは分からないわよ。実際に目にしたわけでもない。まあ、小人についてはそういったものが海の向こうにいるってあの人が言っていたし……でも、どんな病気も治せる草なんて」
「何でだ?不思議な力を扱えるようになる食べ物だって、海にはあるっていうぞ。だったらそういう草とかだって」
「……それで、結局行くのか?」
ある日、ロバーツ、マリィ、ローの三人は村の南の砂浜で話し合っていた。静かな波の音が、その場に響いている。
「行くさ‼」
「……止めましょう、ロバーツ。なんだか怖いの」
少しだけ怯えを含んだ声で、マリィはロバーツを止めようとする。
「嫌だ。……確かに、夢のようなことだ。実際、夢でも見てたんじゃないかっていう村人もいる。でも、だからこそロマンなんだ」
強い意志をもって言葉を口にするロバーツに、少し気圧されるマリィ。
「ロマンって……貴方はいつもそれ。似合わないわよ、ロバーツには」
「……‼それだけって訳でもない。君だって、見つかったら嬉しいはずだ。だって、君は誰より――」
「そうね。私たちを差別する人達に反感を持ってるわ。けど」
用事とは、薬草探しに付き合う事。
付き合う理由は、ただ、どこか危なっかしい彼が心配なだけで、薬草を信じてるわけじゃない。夢のような薬草を信じている訳じゃない、とマリィの中で繰り返される言い訳じみた言葉。
「そう、信じてない・・・・・・」
言葉と共に、再びマリィはソファに身を沈める。
少しでも体を休ませて、今日の用事に備えよう。そう考えて、目蓋を閉じた。
視界は黒く染まり、意識は白く染まっていく。
気持ちの良い快晴。照りつける太陽の光は、旅人達を元気づけるだろう。
「良い天気だな。これは幸先が良い!」
「そうね」
今日は旅日和。旅人達は、夢を追い求めて広大な森を行く。
「こんな日は、美味しくパンを食えそうだ。イチゴジャム、ブルーベリー、そして特製の・・・・・・」
「本当に甘い物が好きよね。荷物増やして、大丈夫?」
「小人の為でもあるからね!・・・・・・しかし、重いのは確かだな。ローさん、後どのぐらいで着くんだ?」
ロバーツは、先頭を歩くローに問いかける。彼の背中には、ぱんぱんに物が詰まったリュックが。
「まだ、半分も歩いてねェぞ」
振り返らずに放った言葉に、ロバーツは若干顔をしかめる。
「そうなのか、先は長いな」
「なに?ロバーツ。もう疲れたの?だらしない」
「いや、そういうわけでは・・・・・・少し、あるかな」
少し弱音を吐くロバーツに、マリィは呆れた。
「貴方は、本当に体力がないわね。子供の時からそう。よくロマンを求めて外出するくせに」
「ハハハ・・・・・・面目ない」
幼馴染二人の会話、どことなく楽しそうなそれを聞きながらローは、ある事を思う。
(さて、どうなるか)
今回の旅はある程度、警戒すべき事だ。
勇気があるのは結構だが、それだけでは駄目だと。
「だいだい貴方は」
「あー、はいはい」
「何?その適当な返事は。だいたい貴方は昔から」
「それを言うなら君だって」
いざとなればこの二人を守らなければいけなくなる。あくまで、いざとなればだが、現実は何が起きても不思議じゃない。
たとえ逸れてもアレがあるとはいえ、用心しなくては。
ただでさえこの国は、気になることが多い。あの病気のことや、この前の不可思議な現象の数々・・・・・・。
(そうだ)
不思議じゃない。平穏な日常なんて簡単に壊れてしまう。ふざけるなと言いたくなるほどにあっさりと、不幸は大切な人達を奪っていく。
「聞いているの?ロバーツ」
「聞いてるってば」
そんな事は、あの時に嫌というほど思い知った。
ロー達は途中で休憩を挿みながらも、道案内の立て看板を辿って、なんとか目的地にたどり着いた。
「ここが、夢の始まり!小人は?小人はどこに?」
きょろきょろ、と落ち着きなく辺りを見回すロバーツ。その様子を見てマリィは溜息をこぼした。
「子供かしら。まったく・・・・・・」
その意見にはローも同意するが、仲間達のおかげで慣れてはいる。
「ローさん!小人はここで会えると!?」
「そのようなことは言ってたな」
用がある時はこの場所で、と小人は言っていた。その為に、ローは同行したのだ。勿論、それだけではないが。
「出てきてくれ!小人さん!美味しい食べ物、持ってきたんだ!一緒に食べよう!」
小人と会うために、色々と試し始めるロバーツ。その目は、少年のように輝いている。
「相変わらずね・・・・・・」
マリィは幼馴染の様子を、呆れと親愛が混ざった眼差しで見る。ロバーツはマリィに見守られながら、ひたすらに趣味に没頭する。
そうして数分の時が経った。
「?」
その時、変化は起きた。
「歌・・・・・・?」
ロー達の耳に入ってきたのは、陽気な歌声。
「・・・・・・どうするの?ロバーツ」
「行こう!ロマンの予感がする」
ロバーツは歌の発生源ヘと歩き出す。それに続いて、ローとマリィも歩き出した。
「~♪」
歌声に誘われるように、森を進む旅人達。
「旅人――~♪」
歌声は徐々に鮮明になっていく。
「何を求めて――行く~♪」
どこまでも明るい歌を頼りに、歩き続ける。
「それは誰にも分からない、分からないまま――~♪」
そして、歌の発生源にロー達はたどり着く。
「ここは・・・・・・」
そこには、大勢の小人がいた。小人の家と思われる建造物があった。
ロー達が目指した小人の国、ここは正しくその場所だった。
「なんだ・・・・・・」
しかし、ロバーツの顔に喜びはなく、ローとマリィも同様だ。
彼等は、目の前の光景に唖然としている。
「なんだよ、これッ!?」
「ボク達の国を守るんれす!!」
「侵略者を倒せー!!」
ロー達の目に映るのは、大きな木の化け物が小人たちの家らしき物体を壊そうとする光景。応戦する小人達の姿は傷だらけだ。
「くそ!なんだか分からないが!」
「……」
走り出すローとロバーツ。
加勢する方は決まっている。
「そ、そこまでだ!変な着ぐるみを着た人!」
小人達を庇うように進み出る二人。
それでも木の動きは止まらない。
「ひい!?」
「おれがやる」
突き進む木の根っこが複数伸び、鋼鉄の槍となって彼等に襲い掛かる。
「あぶないれす!そいつは伝説の怪物れすよ!?」
ローは刀を抜き、襲い掛かる木の化け物に一閃。
あっさりと化け物は切り裂かれた。
彼の切断はダイヤでも切り裂く。
「さ、さすがっ」
どたばたが収まり、数分後。
ロー達は小人達に囲まれていた。
「国同士のけんかの原因は病気れすよ!」
「風邪はこわいれす!不治の病!こっちくるなれす!」
「……」
ローは風邪について確かな情報を伝える。
「えー!そうなんれすか!?」
「勇者がいうことなら本当れす!」
「仲直りするれすよ!」
「ありがとうれす!」
「感謝れす!」
感謝の言葉を次々に口にする小人達に、三人は戸惑った様子だ。
「て、照れるなぁ」
「私、何もしてないのに」
「おれは海賊だ」
そんなことなど気にせずに、小人達は感謝を告げる。
「ありがとうれす!もうだめかと!!」
「希望を信じてよかったれす!」
小人の言葉に、マリィが少し反応した。
「もうしわけないれすが、歓迎は後日に……」
「こんなことあったんだから、仕方ないだろう」
結局、辿り着いた国で何をするでもなく、ロー達はその場を去った。
太陽は沈み、森は暗闇に包まれた。月の光は、旅人達を祝福する。
「素直に喜べないよな・・・・・・コレは」
ロバーツは左手に持った物体を眺める。物体はしおれていて、生気というものが感じられない。
小人達に貰ったものだ。
「これが薬草の正体。夢は、夢か」
夜の森を歩くロバーツの声には、明らかな落胆の気持ちが込められている。
「命があるだけ感謝よ」
並んで歩くマリィは、かなり疲れた様子だ。
「・・・・・・そうだな」
その様子を見て、ロバーツは申し訳なさそうに顔をふせる。
「流石の貴方もこりたようね」
「・・・・・・まあね。不思議なことが起こりすぎた」
隣のマリィと、前を歩くローに謝罪するロバーツ。
「何回目かしら。私は、勝手に付いてきただから良いわ」
「・・・・・・結局、ローさんに助けられたし」
「フフ、でも小人達の笑顔は悪くなかったわ」
マリィはきっぱりと言い放つ。
「・・・・・・?」
妙に力が入ったその言葉に、ロバーツは不思議がる。
「・・・・・・ねえ、ロバーツ。昔から貴方は冒険が好きだったわよね」
「?、そうだけど」
「でも、貴女は私と同じ臆病な人間・・・・・・見ていた私は、そう思っていた」
昔語りを始めるマリィ。ロバーツは、多少怪訝に思いながらも付き合う。二人の前を歩くローは、何の反応も見せず歩く。
「果敢に冒険する貴方を見て、本当に危険に出会った時に逃げる姿を想像できてしまったの」
「なんだい、そりゃ。酷いな」
ふてくされるロバーツ。マリィはごめんなさいと謝り、かつての希望を思い浮かべながら微笑んだ。
「でも、想像とは違うものね」
それは優しい声だった。
ロバーツの行動。それがマリィの心になにかしらの思いを抱かせた。
いや、マリィだけではない。
「……」
玩具箱は壊れ、小人達は去る。
また別の場所でも、戦いは起きていた。
原作の雰囲気が感じられるか
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かなり
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普通
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微妙