妖刀との出会い~三人の最悪の世代   作:幸福野郎

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陽気な道化師

「紅茶で良い?」

「なんでもいいぜ!」

 ここは、診療所の一室。魚人と別れた後に雨が降り出したので、近くにあった診療所で雨宿りすることにしたロー達は、ソファに座ってくつろいでいた。

 ソファの前のテーブルの上で、紅茶が湯気を出している。

「いつ、やむかなー」

 窓から、雨で埋め尽くされた風景を眺めるアン。部屋には、雨の音が響き渡る。

「この雨の勢いだと、しばらくはかかりそうね」

 雨の音に耳を澄ませ、マリィは言った。

「まっ、仕方ねェ。気長に待とうや」

「こんなこともあろうかと・・・・・・トランプ持ってきたんだ!やろうぜ!」

 わいわいと騒ぎはじめるシャチ達。

「いいね!やろう!」

 その輪の中に、さらりとまざっているロバーツ。彼も雨宿りのために、診療所を訪れていた。

「あっれ、トランプどこにしまったかなー?」

「早くしろよー」

「何のゲームやるよ?」

 騒ぐ彼等。まざろうとするアン。紅茶を淹れるマリィ。紅茶を飲みながら、今朝の事について考えるロー。

「マリィさん、なんかいつもより穏やかだね」

「そう?・・・・・・貴女と、どこかの臆病者に影響されたのかしら。ちょっとだけ、信じてみようと思ったの」

 それぞれの時間は、過ぎていく。

 

 

 

「はー、負けた負けた」

 一通り遊んだ後、ペンギンは言った。外から響く雨の音は、大分おさまっている。

「いや、まいったな。ポーカーには自信があったんだが」

「キャプテンのポーカーフェイスは、異常だろ・・・・・・」

 仲間が強く誘うため、ローは一回だけゲームに参加していた。

「・・・・・・」

 そのローはゲームが終わると、また無言で紅茶を飲み始める。顔は少しだけ険しい。

「さっ、次は」

「ていうか、雨やんでねェか?」

 部屋の窓に目を向けて、シャチは言う。外を埋め尽くす雨は失せ、窓から日の光が射しこんでいる。

「マジかよ。結構、早いな」

「それじゃ、そろそろお開きかな。充分、遊んだし」

 言うと、ペンギンはソファから立ち上がった。

「・・・・・・残念だけど、確かに充分遊んだしな」

 仕方ないか、と肩を落とすロバーツ。その様子を見て、マリィは静かに微笑む。

「なにがおかしいんだ?」

「いえ、ただ随分と仲良くなったと思って」

 マリィは、帰る支度をするハートの海賊団に顔を向ける。

「・・・・・・村の外の人間と、ここまで仲良くなれるなんてね。貴方だけじゃなくて、村の皆も」

「そうだな。まあ、注意喚起する時に彼らの活躍も伝えたし・・・・・・」

 それでも、ロバーツは奇跡のようだと語った。

 

◆◆◆

 

 いつかと同じように、日は落ちていき、赤く染まる。

「今日は楽しかったーッ!!」

 いつかと同じように、彼等は分かれ道に辿り着き、立ち止まる。

「本当だぜー!! 久々の息抜き!!」

「やっぱ、人生楽しまなきゃな!!」

「アイアイ!! おれ達は海賊だっ!!」

 響く声も変わらず、楽しさしかないかのようにその場に響いていく。道の周りに寂しげに生えている木が、それに影響されてか木の葉を揺らした。

「お前ら、あんまり気を抜きすぎるなよ?」

 あまり影響されていない風のローが、四人の背後からそう言った。

「わかってるよ!! それはそれ、これはこれ」

「キャプテンの方こそ、ちゃんと息抜きできたのか?」

 振り返ったシャチとペンギンが、ローに問う。なにやら考え込んでいたキャプテンの姿を見て、心配しているのだろう。

 二人に触発されて、アン達もローに目を向けた。

「おれは……」

 ローは、今日一日の出来事を振り返る。

 朝の違和感は、置いておいて。

 

 魚人の男との出会い。

 

 診療所での雨宿り。

 

 村の教会の掃除。

 

 教会の図書室の整理。

 

 他にも色々。取るに足りないようなことだったが。

 

「――問題ねェよ。ちゃんとできた」

 そう言って、彼は少し笑みを見せた。

「……」

 その笑みを、見ていたアンは。

「そうだよね。良かった――」

 とても嬉しそうな笑みを返し、同時に持っていたリュックを地面におろした。

「ちょっと待っててね」

「?」

「えーとっ」

 アンはリュックの中を漁り、数十秒後に動きを止めた。

「あったっ!!これ!!」

 そしてリュックの中から、何かを勢いよく取りだした。中の物がそのせいで地面に落ちたが、アンは気にしない。

 取り出された物は、小さな白い袋で。

「何か入ってるな、それなんだ?」

「村長達、村のみんなからのプレゼントだよ!わたしも含めて!ひとつしかないけど、そういうものだからゴメンね」

 白い袋を両手で持ったアンは、そのままローの近くに歩み寄り。

 

「はい!!代表して、ローさんが受け取ってね!!」

 袋を行儀良く、彼に差し出した。

 

「ただいまー!って、誰もいねェか」

 一通り村を冒険したハートの海賊団は、拠点に帰ってきた。外は既に、闇に覆われている。

「いやー、楽しかったな!」

「ああ!」

「アイアイ!」

 玄関で、冒険の感想を言い合うベポ達。

「魚人のおっさんの家なんだよな」

「どうりでな。ウルージさんが住めるわけだ」

 会話をはずませながら、玄関の先の一本の長廊下を歩く。

「ヴィトの奴、しつこすぎるぜ!」

「ジェルマ好きすぎだろ! アイツ!」

「アイアイ。村長達のプレゼント、楽しみだな。早速、開けようぜ」

 わいわいと騒ぐ彼等は、今日という日の思い出を語り合い、居間に向かっていた。

 ただ一人をのぞいて。

「……? どうした、キャプテン?」

「……」

 立ち止まるローの視線の先には、黒い帽子を被った男。

「よう。時間はあるか?」

 協力相手の男、カポネだ。

「ちょうど三人揃ってるようなんでな……少し話をッ!?」

「!?」

 

 その変化は突然起きた。

 出現する物体。

「なんだ? この球」

「うおー!?」

 床に転がった白い球から煙が出て、ロー達を包む。

 空間は歪み、何もかもが変わっていく。

 

「こりゃあ!?」

「道化師の能力か!!」

 驚くロー達。

 変貌する建物内。

「ご名答!! ゲハ!!」

 廊下は丸く広がり、天井は二倍の高さに。

「相手をしましょう!! 億を超える賞金首を何人も葬ってきた、最強の道化師が!!」

 変貌した空間の中心には、いくつもの大きな球体が積み重なっている。

 その周囲にも、様々な色を持った球体が多く転がっていて。

「上か!」

 その山の天辺に、陽気な道化師は立っていた。

「では自己紹介をッ!?」

 道化師の姿を見つけたローは、即座に走り出す。おかしなマネをされる前につぶす腹だろう。

「せっかちなー!? まだショーは始まったばかり!!」

 球体のいくつかが動き、ローの前に立ちふさがる。

「ちっ!」

 彼の前進は阻まれた。

 

「そしてコレ!! ゲハ!」

 

「うおおおおおお!?」

「でかい!?」

 カポネたちを襲う大きな球体。

「わあああ!!」

「うおわ!?」

 ロー以外の四人は、大きな黒い球体に追いかけられてしまう。

「うわわー!?」

 さらにその球体が転がった球体を吸収し、大きさと速さを増していく。

 

「おいおい! 冗談じゃねェぞ!?」

 

「くそー! このまま逃げ続けたら体力切れでおわりだ!」

 

「よし! 全員であの玉を止めるぞ! 力を合わせればいける!」

 

 カポネが提案するが、シャチたち三人は疑いのまなざしを向ける。

 一人だけ逃げる気だろうと、言外に彼らは言っていた。

 

「逃げねェよ! おれを信じろー!」

 

「信じられるかー!?」

 

 

 

「ゲハハハハ!!どこまで逃げられますかね!!」

 遠くに逃走するカポネたちから、視線をローに映す。

「くそっ!」

 ローは球体三つに苦戦している。

「ゲハ! どうやら切断する能力でも切れないようで!! 」

 道化師の言葉通り、彼でもそれを破壊するのは無理な様子。この空間の影響もあるのかもしれない。

「長い期間をかけて準備した遊び場!! そんな簡単に行かないですよ!!」

 勝ちを確信した道化師。

 

「!?」

 しかし、道化師は背後から迫る存在に気付く。

「隙だらけだぜ!!」

 カポネ一人が、球体の山を登って道化師に接近していた。

「なぜ!? なぜ!? 追っかけていた玉はどうしました!?」

 

「種明かしだ!! くらいな!!」

 言葉と共に、カポネの体から射出されたのは。

 

「うおおおお!!」

「アイアイ!!」

「もう限界だー!!」

 シャチたち三人が、大きなボールを引き連れていきなり出現した。

「わわわ!?」

 パニックになった道化師は、自分に向かってくる球を急いで消す。

「これで!」

 

「なっ!?」

 道化師の背後から接近する、ローの気配。

「しまった!!あっちが疎かに!!」

 このままでは挟み撃ちになってしまうので。

「逃走!!」

 空中にいくつものボールを出現させ、それを足場に上へ逃げる道化師。

「加えて一撃!!」

 球体の山を駆け上がっていくローに、道化師はナイフを投げつけた。

 ローは冷静に刀で弾く。

「効きませんか!? では一旦……」

 道化師は山から退避しようとして。

「ごは!?」

 その胴体に銃弾が撃ち込まれる。

 

「フン、油断したな道化野郎」

 遠く離れたカポネから放たれた銃弾が、道化師の動きを止める。

「し、しかし! まだ!!」

 

「――シャンブルズ」

 

「ななッ!?」

 道化師の上に位置しているボールが、ローに入れ替わる。

「ど、どういう!? 手品!?」

「さあな」

 間髪入れず、道化師の体が真っ二つに切り裂かれた。

 

 

 

「……負けました。許してくだされ!」

 首だけになった道化師は、山の上でローの右手に持ち上げられている。

「大人しく吐くか?」

「わー! 吐きます! 吐きます! ごめんなさいローさん!」

 

 刀を向けられ、慌てて情報を口にする道化師。

 

「あの病気は」

 

「ええ、作り物です。私の能力による幻影ですよ。それのついでに、周りの人々の感情もいじくっています」

 

明かされた、病気の真実。

 

「私の能力は! 人の心を惑わすものでして! げはははは!」

 

 ローに大した驚きはない。

 以前、小人たちの国に行った際。小人たちの反応が、あまりにロバーツの身体的な特徴に対して無関心すぎた。

 そこでローは疑念を抱き、特定の人物以外には見えていないのではという結論に至ったのだ。

 

「あの王が本当に何を望んでいるのか……私には、分かりません。しかし、貴方がたとの戦いを望んでいるのは確かなようだ。災難でしたね。どちらにしても、戦うはめにはなったでしょうが」

 

「……どういう意味だ?」

 

「王は、近くにこの村を襲うつもりです」

 

 村の襲撃を企んでいる。そんな情報を、友人と敵対する者にあっさりと話す道化師。

 

「私は彼の友人ですが、味方じゃない。偽りはないですよ。信じるかはご自由に」

「……」

 当然すんなり信じることはないが、それが真実ならばこの場から早く去らないといけない。

ローの顔に焦りの感情が浮かぶ。

「……焦らなくても、もうすぐ戻れますよ」

 少し名残惜しそうな表情で、道化師は言う。

「もう会うこともないでしょう。――それじゃ!」

 

 どこまでも明るく陽気に笑い、その場は崩れた。

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