家の中は一本の中廊下を中心に構成されていて、居間の位置はロー達の寝室の隣、部屋を出て右に歩けばすぐの所だ。
廊下の途中には大きな掛け時計があったが、現在は壊れて動かないらしい、とペンギンはローに説明した。
「ここか」
居間のドアの前に立つロー。丸いドアノブを握りながら彼は、ウルージという男について考える。
あの老人を退け、自分達を助けた男。どんな性格か、こちらに協力してくれるのか、目的は何か、何故、自分達を助けたのか。
思索を進めながら、ドアノブを回し、ドアを開ける。
「・・・・・・」
ドアの向こうには何の変哲もない居間が広がっていた。右側に標準的な大きさのキッチン、左側に大きなテーブルと、六つの椅子がある、普通の光景だ。
「おや、皆さん、お早うございます。・・・・・・ロー殿、体調はどうですかな。朝食におにぎりを握ったので、良ければどうぞ」
エプロンを着用した大男の存在がなければ。
(この男が、ウルージ・・・・・・!)
ウルージは片手でおにぎりが山積みにされた大皿を持ちながら、柔和な笑みをロー達に向けている。
「おはよう!ウルージさんも体は大丈夫か?」
「食うぜ!戦い続きで腹が減ってんだ!」
「アイアイ!ありがとう、ウルージさん!」
ハートの海賊団の面々は、子供の様にはしゃぎながら食事の席に着く。その光景を微笑ましげに眺めながら、ウルージも食卓ヘと向かう。
ローは数秒立ち止まった後、同様に食事の席へと足を進めた。
「いただきます!」
余程お腹が空いてたのだろう、テーブルの上に乗せられた大皿のおにぎりにがっつくベポ達。
「こらこら、気持ちは分かるが、よく噛んで食べなされよ」
そんな彼等を笑顔でたしなめるウルージは、がっつかずに巨大なおにぎりを手に取る。
「・・・・・・ん?どうなされたロー殿。やはり体調が優れませんかな」
「・・・・・・いや、大丈夫だ。・・・・・・あんたに助けられたみたいだな。感謝する、ありがとう」
自分の身を案じるウルージに対してローは、感謝の気持ちをあらわす。まだ、完全に信用したわけではないが、彼が海賊団を救ったのは事実だ。
「別に、礼なんて要りませんぞ。力を貸してほしくて助けただけですからな」
「・・・・・・詳しい話を聞かせてくれるか?」
場の雰囲気が真剣なものになる。ウルージの目的、この国の王について、ヴィトと名乗った存在、聞きたいことには困らない。ベポ達もむしゃむしゃとおにぎりを食べながら、聞き耳を立てる。
「そうですな・・・・・・。まず、何から話しましょうか」
ウルージは目を閉じ、数秒思案する。
「では、事の始まり、私がこの島に何故来たのかから。・・・・・・とはいえ、理由なんてないのだが。ただ、私は偶然、島にたどり着いただけ」
「偶然・・・・・・?」
「そう、偶然だ。私の目的は」
「――鉛筆削り」
(気のせいだろう)
一瞬聞こえた言葉は幻聴として流したロー。
語るウルージの顔は珍しく悲しげで、神妙な雰囲気を纏っていた。
「・・・・・・それで、島に着いた後は?」
理由について訝しむローではあったが、話を先に進めることにした。
「着いたあとは、あの町に行き、ロー殿達と同様に襲われました。ですが、何とか逃げることができました。・・・・・・町の外までは追ってきませんでしたからな」
「・・・・・・?」
「・・・・・・あの王はこう言っていた」
「この町の外までは、君達を追うことはない。・・・・・・いつでも挑んできて良いぞ、誰かと協力しても良い。もし、儂を倒すことができたら【箱】を開けよう」
「この国から出たいのなら、出ればいい」
「出れるものなら」
「ウルージさんにも襲ってきたのか。何がやりたいんだ、あの爺」
「本当だぜ!」
「出れるものなら、か。やはりな」
納得がいった、という風に頷くロー。それを見たシャチは首をかしげた。
「何がやはりなんだ?キャプテン」
「・・・・・・羽屋達が、何故、襲われても島に残っているのか疑問に感じていた。それほど、この島でやりたいことがあるのか、それとも・・・・・・出たくても出られないのか」
ローは自分が感じていた疑問を言葉にする。その言葉はウルージに答えを促すものだった。
「お察しの通り、この島から出ようと思っても出れませんでした。見えない壁に阻まれて」
「見えない壁か」
恐らく、王の能力によるものだろう、とローは考える。これまでの情報を合わせて考えると、その可能性は高かった。
「王の能力か、厄介な。あんたがおれ達を助けたのはそれが理由か」
「そうなりますな。王の打倒・・・・・・できれば、違う方法での脱出を手伝ってもらいたい」
そう言うウルージは真剣な眼差しでロー達を見ている。そうして少しの間、沈黙が続いたが、ペンギンとシャチによってそれは破られる。
「・・・・・・手伝おうぜ、キャプテン!」
「そうだぜ!ウルージさんが味方にいれば、心強い!」
「・・・・・・」
ニ人はウルージに協力する気が満々のようだ。ベポは何も言わないが、ニ人の言葉にうんうん、といった感じで頷いている。
肝心のローは、無言のまま右手に持ったおにぎりを齧り、味わいながら、ウルージの誘いに決断を下した。
「・・・・・・ぶふぉっ!!?」
「!?」
「キャプテン!?」
突如、吹き出すロー。ウルージとベポ達は困惑するが、ベポ達だけは何が起きたかをすぐに理解した。
「あー、もしかして・・・・・・」
「おにぎりの中身・・・・・・」
(梅干しだと・・・・・・!)
ローが食べたおにぎりの具は梅干しだった。そう、彼は梅干しが嫌い。体が受けつけなくて、吹き出してしまうほどに。
「どうなされた、ロー殿」
ウルージはローの身を案じ、声をかける。
「・・・・・・おれは梅干しが嫌いなんだ。体が受けつけないほどに。・・・・・・次があったら、気をつけてくれると助かる」
苦々しく言うローの表情は、なんとも微妙なものだ。事前に確認しておけば良かったと、彼は少し後悔している
「梅干しもうまいのになー」
「これは、申し訳ない。気をつけます」
「・・・・・・話を戻すが」
何事もなかったように気持ちを切り替えるロー。今度こそ、自分の考えを口にする。
「この島からの脱出は手伝うが、おれ達は別の目的がある。完全な手助けは期待しないでくれ」
この島に来た目的。ウルージのような成り行きではなく、ローには明確に理由がある。なので、ただ島を脱出すれば良いという訳ではない。
ウルージは言葉に秘められた決意を感じとり、それを了承した。
「分かりましたぞ。手伝ってくれるだけでありがたい」
嬉しそうな笑顔を向けるウルージ。ベポ達もローの返答を聞いて、安堵の表情を見せる。
「よろしくな!ウルージさん!」
「ええ、こちらこそ」
「さて、他にも聞きたいことがある。ヴィトという男のこととか、この場所のこととかな」
「ああ、それならまず、この場所、町の西にある村のことについて話しますかな」
話は変わり、ロー達の現在地、町の西に位置する村の話になる。話し始めるウルージの表情は何故か少し苦々しい。
「この村は、とても穏やかな雰囲気の村でしてな・・・・・・。ですが、ある問題を抱えていまして」
「問題?」
「ええ、その問題というのが・・・・・・ん?」
ウルージの言葉が途切れる。途切れた原因は、家の呼び鈴が鳴ったこと。どうやら誰かが訪ねてきたようだ。少し首を傾げるウルージ。
「失礼、出てきます」
頭を下げ、ウルージは立ち上がる。そして、ロー達が入ってきたドアの隣にある巨大なドアを開け、退室した。訪ねてきた人物の応対の為に玄関に向かったのだろう。居間から重々しい足音が遠ざかっていく。少しして、残されたロー達は雑談を始めた。
「いやー、おにぎり旨かった。ごちそうさん」
「本当だぜ!しかし、客人、誰かね?」
「キャプテン!ウルージさん、良い人そうだっただろ?」
「・・・・・・今のところはな」
各々、纏まりのない会話を繰り広げるハートの海賊団。
「・・・・・・キャプテンがウルージさんの申し出を受けてくれて良かったよ。内心、ひやひやしてたぜ」
「あ、おれも!おれも!」
「・・・・・・あの王を退けた力は必要だからな」
無愛想にローは言う。
「それにしてもお前ら、村の問題について何か聞かされてるんじゃないか?」
「ああ、あれは・・・・・・?」
ペンギンの言葉が途切れる。今度の原因は呼び鈴ではなく、廊下から響く騒がしい足音。足音は居間のドアの前で止まり、ドアが開け放たれる。
「?」
ハートの海賊団の全員がドアの方を見る。ドアの向こうから姿を現したのは、変わった風貌の少女だった。
「・・・・・・?」
袖なしの、黒い上着を着た少女。その少女の体のいくつかの部分は変色していた。
(体の、変色)
ローは、それを不思議そうに見ている。
少女は息切れを起こしながらも、満面の笑顔で声を張り上げた。
「ようこそ!私たちの村ヘ!!」
プロローグ終了。次回更新未定。
原作の雰囲気が感じられるか
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かなり
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普通
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微妙