勢いで書いたのでもしかしたら修正するかも。
それではお楽しみください。
何とか襲い来るスオミをいなしながら軍装を預けて自室へ向かう。正直今のあいつに制服を任せるのは多少怖かったが、まあいいだろう。正直あのまま制服を着続けるのも衛生的にどうかと思っていたところであるし、かと言って自分で洗濯する余裕も現状持ち合わせていない。それを肩代わりしてくれるというのなら、申し訳ないがありがたくお願いして今日は寝てしまおう……明日(厳密には既に今日になってしまったが)もまた早いし、最近の鉄血の状況如何では強襲で眠れなくなってしまう可能性も高いし。
そう思いながら自室の扉の前まで辿り着く。曲がりなりにもPMC幹部の末席をしめているので、部屋の鍵も相応に立派な、入社するまで見たこともなかったバイオメトリクスをパスして部屋へ入る。あとは寝るだけだし、部屋の電気をつけるのも億劫なので、そのまま歯を磨いた。そうしてそそくさとベッドへ向かう。今日も長い一日だった……明日も山のような業務を乗り切らなければ……おやすみなs
「こんばんは。指揮官……♡」
私は失神した。
◇
数分後。
ベッドの上ですぐに意識を取り戻した私は、一瞬先ほど見た信じがたい光景は幻だと安心しかけたが、隣にぴったりと寄り添う銀髪の少女を目にして(かつその身体を触覚及び嗅覚で感じ取って)考えを改めた。そもそも自分でベッドに入った記憶もなかったし。どうやら、そのままベッドの前で意識を失った私を、床に崩れ落ちる前に素早くこの少女が受け止めてベッドに寝かせてくれたらしい(と、若干誇らしげに胸を張った彼女から説明を受けた)。
「突然意識を喪失したのでびっくりしましたよ、指揮官。もしかしてお身体の調子が優れませんか?でしたら、私が全身全霊を以て指揮官のことをぎゅっと温めて差し上げますよ♪」
そう言いながら寄り添う身体を更に猫の如く擦り付けてくるのは、9A-91というロシアのARとエッチングした戦術人形である。普段は後ろで一つに纏めている銀髪は、その拘束を解かれいつもとは違う雰囲気を醸し、その過激な恰好――普段ですら下着がモロに露出しているのに、就寝のためか上もネグリジェのみなり非常に危険である――も相俟って余計に普段と印象が違って見える。凝視するとイケないものが見えてしまいそうである。
そういえば、銀髪といい碧眼といい、彼女の容姿は何処となくスオミに似ているかもしれないな、などと半ば現実逃避気味に思考を巡らせていると、顔をむんずと両手で掴まれ、彼女の方へ向けさせられる。爛々と、しかし粘ついた視線をまっすぐ此方へ向けた彼女は、ただ一言
「駄目です指揮官。私から――目を離さないで下さい」
と囁いた。
そう。彼女、9A-91という人形は、指揮官たる私と一緒にいる時に私が彼女以外に意識を向けることを極端に嫌うのだ。どうやって知覚しているのかは未だに分かっていないが、私が彼女から意識を外したり、彼女以外のことを考えたりすると必ずこうやって自分に意識を向けさせようとしてくる。
「わ、悪かったよ。ごめんな、9A-91」
「うぅっ、よかったです……本当はずっと指揮官には私から目を離して欲しくないし、私の視線からも外れないで欲しいんですけど……だから、せめて私と一緒にいる時くらいは、私を、私のことだけ考えていて欲しいんです。外は、どこも危険ですから……」
「分かった。分かったから落ち着いてくれ……ち、力が強いって」
「あっ!ご、ごめんなさい指揮官!そんなつもりはなかったんですっ……」
そう言って漸く私の頬から手を放す9A-91。なんとか落ち着いてくれたようだ。
◇
「……それで。どうして私の部屋のベッドに潜り込んでいたのかについて訊こうじゃないか。曲がりなりにも私はG&K幹部の端くれ、この部屋だっておいそれと他の者を中に入れられるような生半可なセキュリティではないと思っていたんだが」
落ち着きを取り戻し、再び私の左半身にひしとしがみつき始めた9A-91に、当然の疑問を呈す。説明した通り、我が私室は高度なセキュリティに守られている筈であり、この部屋に私の許可なく入ることの出来る人物は僅かである。この基地内では、精々特別権限を付与された副官くらいであろう。彼女が許可なく9A-91を私の部屋に入れるとは考え難いし(この辺で9A-91がまた不満げに頬を膨らませ始めたので思考を打ち切った。正直可愛い)。
「あぁ……それなら簡単ですよ。お仕事を終えた指揮官の後ろをついて行って、指揮官が部屋に入ったタイミングで一緒に入室しただけです。特に工夫したことはありません。その後指揮官は電気も付けずに洗面所へ向かったので、私に気付くことが無かったのでは?」
は?
「え、じゃあ君は私に気付かれることなく後を尾けて、そのまま部屋に入った後布団に入っただけってことか!?いや、流石に気付きそうなものだが」
「私、夜戦は得意なんですよ♪」
「いや、君は夜戦火力特化ってだけで隠密回避はそんなに高くないだろう!」
「愛の力ですね、きゃっ♡」
ええええ……。
閑話休題。
「まあ、そういうことなら仕方ない。私の不注意のようなものだからね……ただ、どうして今日に限ってこんな風に私の寝室にまで侵入して来たんだ?今回と同様の手口なら今までだって簡単に出来そうなのに、今まで実行していなかっただろう?」
「………………、そうですね」
えっ、その不自然な間は何ですか。
「いえっ、別に、別に今までも部屋に侵入していたりしたわけではなくて!夜戦の得意に乗じてお部屋に入り込み夜間の指揮官の護衛を受け持ったり無防備な指揮官の寝顔を堪能したりして指揮官を出来得る限りいつでも視界に入れておこうなどと考えたりは断じてしていないです!」
「嘘下手くそか」
◇
……閑話休題。
「……もうそれも取り敢えず置いておこう。もう二度と無断で入らないように……兎も角。こうして今までと違って布団の中で待ち構えていたのは、何か理由があってのことだろう?何か嫌なことでもあったのか?」
幾度も話が傍に逸れたが、結局のところこの疑問を解消する必要があるのは確かだった。例えこれまでも私室に侵入していたとしても、業務後にこれまで積極的に私に干渉してくることはなかったのだ。それが今日になって急に布団で待ち構え敢えて私にその存在を悟らせるというのは、何か彼女に思うところがあったのではないか。
「え、えへへ……流石は、指揮官ですね。私の不安を、的確に探り当ててくれる……やっぱりあなたが私の指揮官で良かった」
「──今日の出撃で、私失敗して、スクラップ寸前で帰投してしまったじゃないですか。その時、指揮官が還ってきた私を必死に介抱してくれたのがとても、本当に嬉しくて……胸のところが暖かくなったように感じたんです。えへ、人形にココロなるものは無いはずなんですけどね、なんとなくです。それで、それがとっても嬉しかったんですけど、同時に怖くなってしまったんです」
「例えこの私が戦場で朽ち果てたとしても、バックアップを取っているので素体さえあれば変わらず指揮官をお護りすることが出来ます。私の存在意義は指揮官をなんとしてもお護りして、勝利へ導くことですから。それが至上の目標であり、その為なら例えこの「私」という擬似人格なんて簡単に投げ出せると思っていたんです」
「……なのに、今日帰投して、指揮官が本気で私を心配して、治療を施してくれたことで……私は、「私」という擬似人格が失われてしまうことがとても、とても恐ろしいことのように感じてしまうようになってしまって……!!」
「指揮官に必要とされているのは私という人形の蓄積されたデータであると分かっているんです。でも、もし戦場で斃れ、バックアップで復帰した私はもう「私」じゃない!!そう考えたら、もう居ても立っても居られなくなって……!!」
「……気付いたら指揮官のベッドで指揮官を待っていました。今までよりも指揮官のお側に居たいと思うようになってしまったんですかね。……ごめんなさい。なんだか、エラーが頻発していて。上手く言語化出来てないかもしれないです」
そう言って、泣きそうな表情で微笑みを浮かべる9A-91。私は、そんな彼女の髪を優しく撫でて言葉を掛けた。
「9A-91。私は君がそのように考えられるようになったことをとても嬉しく思うよ」
「指揮官……?」
「これまでの君は、それこそ私に絶対の勝利を齎す為にそれはもう十二分の働きをしてくれていたね。それはとても喜ばしいことではあったが、同時に心苦しくもあった。戦果に固執する余り、君は大小様々な傷を負っていたのを私は知っていたからね。いつか本当に致命傷を受けてしまうのではないかと気が気ではなかったよ。今日だって、あんな大怪我までして……。それが、今話を聞いてみれば君は「私」を失うことが怖いと言ってくれた。私はそれがもう嬉しくて仕方がない!」
「嬉しい……?ですか?」
「ああ、そうだ。嬉しいよ、9A-91。自分を犠牲にして相手に報いるというのは美談ではあるが、その相手方からすれば大切な人が身を削って自分に尽くすのは、嬉しい以上に悲しいことなんだ。例えば、君の為に私がこの身で凶弾を庇ったりしたらどう思う?」
「それは、何でそんな無茶なことをって、怒っちゃうかもしれません……あ」
「そう。今君が感じたことを私もずっと思っていたってこと。確かに君は私達人間と違って記憶領域のバックアップを取っておけば半永久的に稼働することができるという意味で不死であるかもしれない。でも、そうだとしてもやはり、今存在している「君」とバックアップされた『9A-91』はどうしたって別物だろう?そこに気付いてくれたのが嬉しかったのさ」
「指揮官……!じゃあっ、私は今のままでも良いんですか!?「死」を恐れる人形でも、本当に……!?」
「ああ、良いんだよ9A-91。「君」は「君」なんだから」
「ううっ……指揮官……しきかぁぁぁん……!!」
目からポロポロと涙を流して9A-91は私の胸へ飛び込んでくる。私は、そんな彼女の頭を落ち着くまでずっと撫でていた。
◇
「えへへ……指揮官、ありがとうございます。落ち着くまでずっと抱き締めていてくれて。お陰でもっと好きになっちゃいました」
「はは……まあ何かあったらいつでも私に言ってくれれば良いからさ。困ったら自分だけで抱え込まないで、吐き出すことも大事だ。指揮官はそのためにもいるようなものだしな」
これで9A-91は大丈夫だろう。彼女の私を見る目が普段より一層蕩けて、若干身の危険も感じるが。流石に今日は色々ありすぎてもう眠い。落ち着いた9A-91を追い出すのも気が引けるし、今日はこのまま寝てしまおう
「じゃあ、そろそろ寝ようか。また明日も頑張ろうな」
「はい……おやすみ、なさい……しき、かぁん……♡」
「ああ、お休み……」
随分長いこと話し込んでしまった。いい加減寝ないと本当に明日の業務に響くし、さっさと、ねよう……
なにか、わすれているきがするけど……またあしたかんがえればいいか……
翌朝。
「しきか~ん!起きてください!今日も一緒に、元気いっぱいお仕事しましょう!!制服、きれいにして持ってきましたよっ!一生懸命洗ったのでピッカピカです!!どうしたんですか?まだ眠いんですか?で、でしたら!わ、私がお着換え、ててて手伝って差し上げますけどっ……」
「zzz……」
「………………。ヤバい」
痺れを切らしたスオミが、副官権限で部屋に突入してくるまで、後30秒。