花咲探偵 氷川姉妹   作:フレット

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少女=A/アイドルは噓つき

「…しゅわしゅわ!どり☆どり~みん!イェイ!

 

…以上です!ありがとうございました!」

 

テレビ花咲、第4スタジオ。ここでは今、若者を中心に大人気の生放送番組である「スター☆発掘チャレンジ」の初戦Aグループの収録をしている。

 

「スター☆発掘チャレンジ」とは、アイドル事務所の若手や路上アーティスト、さらには一般公募で集まった人など色んな人が集まり、審査員であるプロの歌手、湊友希那の前で歌うというオーディション企画である。

 

集められたメンバー全員は、何日もかけてトーナメント形式で争っていく。そして初戦と準決勝を勝ち抜き、決勝戦で審査員から選ばれた者は優勝となる。そしてその副賞として、少量ではあるがCDを発売することが出来る。

 

つまり、スターになるための登竜門、と考えられる番組である。

 

 

今歌い終わったのは、最後の挑戦者。アイドル研究生である丸山彩だ。

17歳の彼女だが、アイドル研究生のキャリヤは長く、このオーディションの出場回数も多い。だが、彼女には致命的な欠点がある。

 

「う、うぅぅ~…。またとちっちゃった…。」

 

そう、異常なまでに彼女は緊張しいのだ。そのため歌の途中で音程がずれてしまったり、歌詞が飛んだりしてしまうのはしばしば、いや、かなりの回数ある。さらにトークは緊張して相手の話が入ってこずに噛み合わなくなる。

 

そして今日もとちってしまったその雰囲気に、観客も察したようだ。

 

 

丸山彩は、受からない。

 

 

アイドル研究生として長い彼女だが、彼女は誰よりもアイドルから程遠い。

 

…のはずだったのだが。

 

「…完璧よ。」

「…えっ?」

 

丸山彩を称賛する、「完璧」という言葉。予想外のその言葉に、彩どころか、観客すらも戸惑いを隠せない。

だがそんなことお構いなしにと、友希那は言葉を続ける。

 

「丸山さん。今の歌、完璧だったわ。間違いなく今回の出場者イチの出来よ。自分に自信を持ちなさい。」

「(そんなの…おかしい。だって私は…)」

「リズム、音程、抑揚。何をとっても完璧だった。最高の歌をありがとう。丸山さん。」

「(違う…。私は緊張して走り気味だった部分があったし、音も途中外した。それに歌詞だって間違えちゃった部分があった…。完璧なんかじゃ、全然ないのに…!)」

「…これで今日の分の講評は終了よ。また次の参加者に期待してるわ。」

「は、はい!湊さんありがとうございました!それでは皆さん、また次回もお楽しみにしていてくださいね!さようなら~!」

 

司会者の挨拶により、番組は軽快に終わらされた。そそくさと帰る出演者達の中、彩はその場に立ったまま動けなかった。

 

「(私はいったい…どうすればいいの?)」

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、今井探偵事務所。

ここでもまた、深刻な問題が発生していた。

 

「さて…今井さん。」

「う、うん…。」

「今私たちには、ある一つの危機迫ってきています。あなたはそれが何かわかりますか?」

「何だろ…弦巻家の脅威、とか?」

「それもあります。」

「それも…?弦巻じゃないの?ごめん、何にもわかんない…。」

「お金がないです。」

「…へっ?」

「まったくといっていいほど、お金がありません。」

 

予想だにしなかったその言葉に、リサは素っ頓狂な声を上げる。

 

「いや…そんだけ?」

「それだけですって!?」

「うわぁっ!!どうしたの!?」

 

紗夜は勢い良く立ち上がり、リサの前に身を乗り出す。

 

「お金がないのよ!?またあの時みたいに地獄の生活をしなきゃいけなくなるって考えると、もう嫌気がさしてくるわよ…。」

「あの時…?なんかあったの?」

「依頼0で収入0円が何か月も続いたわ。」

「う、うわ…」

 

あまりのも衝撃の紗夜の過去に、リサは固まってしまう。

 

「引かないで頂戴。あの時があるから、今があるのよ。」

「いや今もそんなだけどね…ってかさ、最近たくさんドーパント倒してるよね?それなのにお金がないの?」

「最近戦ったのはアームズ、クレイドール、ウェザーですよね。でもアームズとクレイドールは巴さんの招集、ウェザーは依頼でもなんでもなく、ただの遭遇です。依頼じゃない以上、報酬はありません。」

「アームズに関しては、巴からお金もらってもいいんじゃないの?命助けたんだしさ…。」

「師匠の言葉です。『探偵は友人からの依頼は受けない。そいつの友人として依頼を受けろ。友人に報酬金を払わせるなんて、探偵として失格だ。』と。」

「そんなプライド捨ててよっ!生活出来なくなったら話になんないじゃんっ!」

「それでも私は師匠の下の探偵なのよ!」

 

紗夜の気迫に圧倒され、リサは半ば諦めたかのように椅子に座る。

 

「あーもう…。それで?これからどうすんのさ。ネコでも探す?」

「はぁ。どうしようかしら…。」

 

悩んでいる2人の所に、事務所の隠し部屋から日菜が出てくる。

 

「やっほー!」

「ヒナ!どうしたの?」

「ねえねえリサちー、おねーちゃん!今面白いのを見つけたんだ!2人はさ、『バイト』って言葉知ってる!?」

「「…は?」」

 

とぼける2人をよそに、日菜は語り始める。

 

「バイト。正式名称は『アルバイト』。ドイツ語で『仕事』や『業績』を意味する『Arbeit』が語源になっていて、最初は『業績』の意味でよく使われていたんだけど、途中で家庭教師など『内職』の意味で使われることが増えて、今の意味になっていったらしいよ。ちなみにバイトは…」

「もういいわよ日菜。急にどうしたの。」

「いや?るんってきた項目があったから、適当にカチャカチャーってしてたらおねーちゃんたちにも教えたくなったんだ!」

「あ~、さてはヒナ。バイトしてみたいとか思ってるな~?」

「やってみる…いいねそれ!面白そう!リサちー、一緒にしようよ!」

「えっ、アタシも!?うーん、確かにやってみたいけどなー…。でもさ、それじゃ事務所は…」

「いいわよ今井さん。別に行っても。留守番は私がします。」

「紗夜まで!?いいの?ヒナをそんな簡単に外に出すのはダメなんじゃ…。」

「こういう時の日菜は、何を言っても聞きません。今を拗らせる方が面倒なので、連れていってあげてください。そしてもし日菜や今井さんの身に何かあったら、すぐさま私に電話してください。」

「おっけー!それならアタシ達で、バリバリ稼いでくるよ!」

「ええ。ありがとう。」

「でもバイト先どうしよう?この辺に短期のバイトってあったっけ?」

「わからないわ…。やったことないもの。」

 

バイトをすると決めた2人だが、新たな問題が出てきた。それが『バイト先』である。

 

あまり長引くと本業に響く。その前にヒナが飽きるかもしれない。

じゃあ日給制の単純なものは?と思ったが、肉体労働はアタシ達女子にはキツイものがある。

 

条件が難しく悩んでいる紗夜とリサに、日菜が救いの声を上げる。

 

「大丈夫だよ!もう既におすすめのバイトは検索済み!なんか一週間後にテレビ花咲で臨時清掃スタッフのバイトを募集してるんだってさ!」

「清掃スタッフかぁ、いいねぇ。ヒナの正体がバレる心配も薄いし、業務内容も単純だからなぁ。初めてにはうってつけだよね。それに臨時で一日なら、事務所を長くあけることもないし。」

「そうね。それにテレビ花咲には、アイスエイジ・ドーパントの事件で知り合った私の知り合いもいる。緊急時の対応もしやすいし、条件にすべて当てはまるわね。」

「じゃあ一週間後はそこでバイトだね!うーん!楽しみ!」

 

 

 

 

 

 

一方、弦巻家では。

 

「そういえば花音先輩、この前一筋縄ではいかないドーパントを作ったって言ってましたよね?」

「ああ、あれのことだね。あれはね、確実に勝てないドーパントだよ。」

「へぇ、力が強いとかですか?」

「ううん、違うよ。むしろ火力だけ見たら最弱。」

「え?それなのに勝てない?どういうことです?」

 

「私が代わりに説明しよう。」

 

「…薫さん。いたんだね。」

「ふふっ、君たちの可憐な話し声が聞こえてきてね…居ても立っても居られなくなってきてしまったよ。」

「御託はいいから。言うなら早く言ってよ。」

「相変わらず口が荒いプリンセスだ…。だがシェイクスピアも言っている。『神は、我々を人間にするために、何らかの欠点を与える。』君の口が荒いのはつまり…そういうことさ。」

「うるさい。早く言って。」

「今回花音が_と言っても元々持ってたのは私だが_渡したメモリは、特殊能力を持つタイプのドーパントだね。今までの、特にアームズとは対照的なドーパントだ。単純な力はないが、特殊な力で相手を翻弄する。その中でも、今回のは極めて面倒なドーパントだ。毒針よりも厄介な針で、相手に幻視・幻聴といったあらゆる幻覚を味わわせる…いや、正確には違うかな。そのメモリとは____」

「―――!!すごい…そんな力が…!!」

 

 

 

 

 

 

一週間後、日菜とリサはテレビ花咲のロビーにいた。

 

「今日だけですが、ここで清掃アルバイトをさせていただきます、今井リサです!よろしくお願いします!」

「おなじく氷川日菜でーす!お願いしまーす!」

 

2人の元気な挨拶に返答するかのように、大きな拍手がその場に鳴り響く。

歓迎されて喜んでいる2人に、そこの代表らしき人が話しかける。

 

「今井さんと氷川さん、ですね。私はテレビ花咲の社長、花田藤栄です。本日はよろしくお願いしますね。」

「社長!?」

「へー、社長さん?」

 

まさかの社長の登場に、リサは目が飛び出そうな程に驚く。一方日菜は、社長を吟味するかのように全身を凝視する。

 

「社長直々に来てくださってありがとうございます!ほらヒナも!挨拶して!」

「ねぇ社長さん!るんってきてる~!?」

「ちょっとヒナ!すいません!失礼なことしちゃって!」

「ははは、構いませんよ。むしろ元気なようで嬉しい限りです。」

「そ、そうですか…。」

「大丈夫よ、リサちゃん。あっ、私は清掃スタッフのヨネって言うんだけどね。」

「ヨネさん?」

「ええ。それでね、社長さんはねぇ、若い女の子が大好きなのよ!だから大丈夫!」

「ちょ、ちょっとヨネさん!誤解ですよ!私は女の子をそんないやらしい目で見てません!私はただ、頑張ってる女の子を見て応援したくなったり元気な女の子を見て微笑ましくなったりするだけなんです!」

「いや後のやつなかなか微妙なラインですよ!」

 

社長のその危ない返答に、リサはすかさずツッコミをいれる。

 

「…!そっか!これがこの前検索したワード…!もしかして、社長さんは『ロリコン』ってやつなんだね!」

「ヒナァ!」

 

日菜の圧倒的な爆弾発言に、リサはツッコミの言葉を選ぶ暇もなかった。

 

「は、はっはっは…じゃあ皆さん後はよろしくお願いします…私は部屋で休んできます…」

「しゃっ、社長さーん!?」

 

社長は部屋にふらつきながら、部屋に戻っていった。

 

「じゃ、あたしたちもはじめましょうか。リサちゃんと日菜ちゃんは~~~、そうねぇ、五階にある第4スタジオあたりを掃除してもらっていいかしら?」

「わかりましたっ!じゃあヒナ、いこっ?」

「うん!頑張っちゃうよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

一方取り残された紗夜は、一人事務所でコーヒーをすすっていた。

 

「探偵とは、待つ仕事。いついかなる時も街を守るために、街の声に耳を傾け続ける………そう…いつまでも…」

 

『スタッグ!』

『バット!』

『スパイダー!』

 

「さぁみんな…遊びましょうか…。」

 

 

 

 

 

 

 

「あれヒナ、そこの端っこまだ白いよ?」

 

紗夜が一人を満喫している中、日菜とリサは第4スタジオ前を掃除していた。

 

「えー、リサちー細かーい。ぶーぶー。」

「も~ヒナ。仕事だから、そんなこと言っちゃダメだよ?よし!それじゃこの辺は終わりかな?」

「そうだねー、後はスタジオの中をやって終わりだったっけ?」

「そ。じゃあ休憩して待ってよっか。」

 

第4スタジオは今撮影中のため、入ることが出来ない。日菜とリサは壁にもたれかかり、休憩に入り始めた。

 

「そう言えばリサちー、これ落ちてたよ。」

「ん?ってこれ名刺じゃん…やっば、片付け忘れてた…。ポケットでいっか。」 

 

それから30分程、おしゃべりしながら休憩していたその時、『収録中』のライトが消えた。そして中から、多くの出演者や観客が出てくる。

 

「うわっ、たくさんいるな~。これ何の収録だろ。」

「この本によれば、どうやら今日のこの時間は『スター☆発掘チャレンジ』という番組の収録なんだってさ。ちなみに今回は初戦のBグループの撮影だね。」

「えっ!スタチャレやってんの!?」

「……スタチャレ?」

「『スター☆発掘チャレンジ』の略称だよ!今若者の間で流行ってんだよね~!アタシも友希那さん出てるからずっと見てるんだ!まぁでも、この前の初戦Aグループは見れなかったんだけどさ。」

「そっか。そういえばあの時はおねーちゃんが倒れてて、それどころじゃなかったんだっけ。」

「ん?じゃあこのまま待ってたら友希那さんに会える!?どうしよ~!サインとかもらっちゃおうかな~!」

「リサちー今仕事だって…自分で言ってたよね?」

 

2人がこんな会話をしているこの途中にも、中から人はどんどん出てくる。

そして最後と思われる女性が、中から出てきた。

 

「おっ、もうこれで全員かな?」

「ほんとだ。じゃあいこっか。」

 

2人は清掃用具を持って、リサから順にスタジオの中に足を入れ始める。

その時、中から急に人が走って飛びだしてくる。リサとその人は衝突して、尻餅をついてしまう。

 

「うわっ…あっ!す、すいません!」

「こ、こっちこそごめんなさい!前よく見てなくて…!」

 

出てきた人の正体は、高校生のように見える少女だった。ピンクの髪を下ろし、ふわふわとしたニットが可愛さを引き立たせている。

 

「じゃ、じゃあ私はこの辺で…ってあれ?」

 

少女は行こうとしたが、足元に明らかに自分のではない紙切れが落ちていることに気づいた。

 

「あのこれ…あなたのですか?」

「あーっ!それアタシの名刺です!すいません!」

 

拾ったのはリサの名刺だった。すぐにリサに返そうとしたが、少女には気になることがあった。

彼女は『名刺』と言った。明らかに、彼女は高校生にしか見えない。それなのに名刺を持っている。

彼女はいったい何者だろうか。少女はそれが気になり、その名刺をチラリと見た。

 

「今井…探偵事務所…!?探偵さんっ!?」

 

リサが探偵事務所の者だと知った少女は、急にリサに勢い良く抱きつく。

 

「お願いします!私を…助けてください!」

 

少女__丸山彩__は、リサに懇願した。

 

 

 

 

 

 

 

日菜、リサ、そして彩は走って事務所まで行き、力強くドアを開けた。

 

「ただいま紗夜!後、依頼人だよ!」

「おかえりなさい…って唐突ね。わかったわ。今井さん、コーヒーを淹れてもらえないかしら。私は応対してますので。」

「おっけー!」

 

紗夜はリサにそう言い、ソファに彩と対面する形で座って話を始めた。

 

「さて。まずは名前と職業を教えてもらっていいでしょうか?」

「丸山彩、17歳の高校二年生です。アイドル研究生をしてます。」

「アイドル…研究生…?」

 

言葉の意味が分からずに固まる紗夜の元に、リサがコーヒーを淹れ終わってやってきた。

 

「アイドルとして売れるために下積みを積む人たちのことだよ。はいどうぞ丸山さん、コーヒーです。お砂糖置いときますね。」

「あっ、すいません!ありがとうございます!」

 

リサはコーヒーを彩の前に置き、紗夜の隣に座る。

 

「なるほど、アイドル研究生…。それで、ご依頼の内容は?」

 

紗夜はメモを取りながら彩に尋ねる。

彩は深呼吸をして、意を固めたように話を始める。

 

「私…この前スタチャレを受けたんです。でも私…スタチャレの初戦ブロックを、受かってしまったんです!」

「…それはいいことなのではないのですか?」

「違うんです!あの判定は、おかしいんです!私は本来、落ちるべきなのに…!」

 

落ちるべき。

それは普通ならば、参加者なら誰も言わない言葉。言うはずのない言葉である。

 

「…どういう意味ですか?」

「私、ずーっと研究生をやってるのに、歌が全然うまくないんです。それどころか下手で…音も取れなくて…本番で失敗しちゃって…」

「それは審査員の感性なのではないでしょうか。あなたは自分が思ってるより上手い、ただそれだけでは?」

「そういうと思って、この前の初戦の映像が入ったCDを持ってきたんです!これを聞いてください!」

「は、はぁ…。わかりました…。」

 

彩の気迫にやられ、紗夜はテレビにCDを入れる。CDはテレビのプツプツという音の後に、ゆっくりと再生を始める。

 

『お気に入りのグラス~眺めながら~』

「…」

『しゅわ~しゅわ~氷のダイヤに揺られながらそっと~』

「…うわぁ…。」

『しゅわしゅわ!どり☆どり~みん!イェイ!』

「…い、以上です…。」

 

動画が終わり、彩は申し訳なさそうに停止ボタンを押す。リサは、んーっと体を伸ばし、口を開く。

 

「…えーっと、研究生、なんですよね?」

「は、はい…。」

「う、う~ん…」

 

リサはこの後の言葉を、言っていいものかと頭を抱える。

 

「下手だね!」

「ヒナァ!」

 

リサが苦悩する中、その言葉を日菜は一切迷わずに彩にズバっと言い切る。

 

「はぁ、あはは…わかってるんです。自分に才能がないって。」

「…失礼なのはわかってますが、確かにあなたは上手いとは言えません。あなたが受かったのも、正直謎です。」

「やっぱりそう…ですよね。」

「受かった理由、それはおそらくドーパントでしょう。何のドーパントが何の理由であなたをそうさせたのかわかりませんが、これは調査して、しっかりとドーパントを倒す必要があります。あなたの依頼、受けさせていただいてよろしいでしょうか?」

「はい!ありがとうございます!」

 

紗夜と彩はかたい握手を交わす。

だがその様子を、日菜は首をかしげながら見ていた。

 

「ねぇ、彩ちゃん、だっけ?」

「あ、はい!」

「ちょっと日菜、依頼人にタメ口なんて失礼よ!」

 

紗夜は注意するが、日菜は気にも留めず彩にゆっくり歩いて近づく。

 

「彩ちゃんはさ、どうしてこの事件を解決したいの?」

「…え」

「この番組は今まで不正な審査は一切ない。八百長もない。その厳正な審査が有名な番組だよ。そこで彩ちゃんだけが狙われた。それは本来怖いことのはず。でもその被害っていうのは、『彩ちゃんが勝つこと』。それってさ、彩ちゃんが損すること、なくない?」

「…!!」

 

彩は一歩後ずさりをする。その一歩分の距離を、日菜は勢いよく詰める。

 

「この事件は、もしかしたら裏を突いてくる恐れもあるよね。要は、彩ちゃんの自作自演によって事件が起きて,それを探偵にいうことで自分の正当化を図る。さしずめ彩ちゃんの考えていることなんて、そんなところでしょ?」

「違う!そんなこと…!」

「じゃあなに?彩ちゃんの本心はなんなの?」

「私は、私は…!」

 

彩は日菜に負けじと、日菜に勢い良く詰め寄る。

 

「私はちゃんとした評価を受けたい!誰かにひいきされるんじゃなくて、私自身の力で夢を掴みたいんです!私は今の今まで、多くの努力をしてきました!その努力がこんな形で報われたって、そんなの嬉しくない!」

 

彩は目に涙を浮かべながら、必死に声を出す。

 

「私は…立派なアイドルになりたい…!」

 

その言葉を聞いて、日菜は目を輝かせる。

 

「あははっ!なんで泣くの!?ほんと彩ちゃんって面白―い!」

「日菜…さん。」

「ちゃんでいいよっ!それじゃあ、これからよろしくね、彩ちゃん!」

 

日菜もまた、彩に手を差し出す。

 

「日菜ちゃん…日菜ちゃん!日菜ちゃん!」

 

彩は日菜の手を握り、そのまま日菜と抱き合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後、つまり準決勝の収録の日、紗夜とリサはテレビ花咲の第4スタジオ内に許可を得て入っていた。

 

「いつ何が起こるかわからないわ。今井さん、集中していて頂戴。」

「もちろん!はぁぁ…友希那さんステキだなぁ…」

「今井さん…」

 

紗夜が溜息をついたその時、突如スタジオが暗闇に包まれた。そしてその一点が明るく照らされ、司会者にスポットライトが当てられた。

 

「さぁ皆さんお待たせしましたっ!今日からは準決勝となります!ここから戦いはレベルアップしていくこととなりますね!それではさっそくいきましょう!一人目はこちら!初出場なのに高評価!期待の新人、戸山香澄さんです!」

「「…はぁ!?」」

 

司会者が急遽発したそのいかにも聞き覚えがある名前に、紗夜もリサも動揺を隠せなかった。

そんな中、ステージから本当にあのよく見る顔が出てきた。

 

「はーい!戸山香澄です!それじゃあ歌います!曲名は『前へススメ!』です!」

 

いつもの元気な声を合図にし、曲が流れ始める。香澄はギターをかき鳴らしながら歌い始める。

 

「どんなに今が辛くたって~何もうまくいかなくたって~積み重ねたもの忘れない~前へススメ!」

 

歌がサビに入ったころには、もう既に2人は香澄の虜になっていた。

敵かなんて、関係ない。今はイチ観客とイチアーティストの関係だ。

 

「待っている場所を~夢見ている~夢見ている~!

 

ふう…ありがとうございました!」

 

歌い終わった頃には、観客はみなスタンディングオベーションを取って拍手をしていた。紗夜はその拍手の音で、はっと正気に戻った。

 

「しまっ…!今井さん!私は戸山さんを追ってきます!今井さんは丸山さんの番になったら周りに何かおかしいことが起こってないか調査してください!」

 

そう言い残し、紗夜はスタジオの外へ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「待ちなさい!戸山さん!」

「急に追ってくるなんてひどいですよ紗夜先輩!私漏れそうだったのに~!」

「知らないわよそんな事情!」

 

あの後紗夜はスタジオ裏に向かおうと、一度スタジオから出た。そして暫く歩いていると、トイレに駆け込む香澄と偶然にも目が合った。その瞬間紗夜はジョーカーメモリを取り出し、そのせいで香澄は逃げ出した。そして逃げた香澄を追い、今に至る。

 

「あーもうっ!すぐさまトイレ行かせてください!変身!」

 

『ウェザー!』

 

香澄は走りながらウェザーメモリを挿して、ウェザー・ドーパントへと変身する。そして台風を身に纏い、空へと飛んで逃げた。

 

「あっ…!くっ、もう追えないわね…。しょうがない、ここは引き返そうかしら…」

 

諦めた紗夜は、後ろを向いて歩き始める。

すると前方に、明らかにドーパントと言える姿をしたものがのっしりと歩いている。

 

「まさかあれがっ…!」

 

紗夜はそれを全力で追い、そのドーパントの前方に立って道を防ぐ。

 

「だっ、誰だアンタ!急に目の前に現れて…!」

「あなたこそそんな姿で急に現れて、何してんのよ!変身よ、日菜!」

 

『ジョーカー!』

 

紗夜がメモリを鳴らすと、事務所で本を読んでいた日菜がその場に立ち上がってメモリを取りだす。

 

『サイクロン!』

 

「「変身!」」

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

紗夜をボディサイドとして、変身。氷川姉妹は仮面ライダーダブルへとなった。

 

「おねーちゃん、これが彩ちゃんに何かした人なのかな?」

「さぁ。とにかく倒しに行くわよ!」

「ま、そーするしかないよね!」

 

ダブルは駆け出し、そのドーパントに軽く飛び蹴りをくらわす。ドーパントは思いっ切り後ろによろけ、尻餅をついてしまう。

 

「痛って~!なんつー強さだ…!」

「おねーちゃん。なんかこのドーパント、大したことなくない?」

「ええ。これなら一発でいけそうね。」

 

ダブルはジョーカーメモリを抜き、マキシマムスロットに挿そうとする。

すると、ドーパントがここで口に手を添えて、奇妙なことを喋りだす。

 

「『お前なんかのキックなんぞ、聞くものか!』おりゃっ!」

 

ドーパントは言い切った瞬間謎の針を飛ばし、ダブルに当てる。

 

「あら、全然大したことないわね。その針。」

「所詮あたしたちの前には無力だよ!」

 

『ジョーカー!マキシマムドライブ!』

 

「「ジョーカーエクストリーム!」」

 

ダブルのキックは命中し、爆発を起こした。

 

「はやく彩ちゃんのとこいかなきゃならないのにっ…!『私のメモリが…バラバラに…!』」

 

敵の遺言と共に、飛んでくる針。

それに当たっても痛みはなく、あっけなくドーパントはやられた。

ダブルはその爆発現場にゆっくり歩き、しっかりと壊れたメモリの残骸を拾った。

 

 

 

 

 

 

 

「君の掛け声で~飛び立つから~

 

…ありがとうございました!」

 

一方、彩は準決勝に用意しておいた曲『はなまる◎アンダンテ』を既に披露し終えていた。後は審査を待つのみである。

 

「…素晴らしかったわ。決勝も期待してる。胸を張りなさい。今のあなたなら、確実にトップよ。」

「そんな…私…」

 

今回の採点もまた、彩は圧勝であった。

 

「ほんとに、彩さんが勝ってしまうようになってる…」

 

そこに紗夜も戻ってくる。

 

「今井さん!結果は……!聞くまでもなさそうね、この歓声なら。」

「うん。言わずもがな、彩の圧勝だったよ。」

「おかしいよねー」

「うわっ、ヒナっ!?」

 

するとそこに、いつのまにか来ていた日菜が会話に参加してきた。

 

「あなたどうしてここに…」

「あぁ、ちょっと気になったんだよね。相手の本当の狙いは?ってことが」

「本当の…?どういうこと?狙いは彩さんでしょ?」

「…実は私も、その点は少し気になっていたわ。」

 

首をかしげるリサ。一方、日菜のそのセリフに、紗夜は同意する。

 

「相手の狙いは丸山さん以外の参加者たちを落とすことか、それとも丸山さんを受からせることか。それがどちらかわからなかったわ。でも今日ここに来て確信した。狙われてるのは丸山さんよ。」

「どうしてそんなこと言えるの?」

「戸山さんが出てくる時、『初出場なのに高評価!』と言っていたわ。参加者全員を落とすつもりなら、高評価なんてさせないはず。」

「それにさっきのドーパント、彩ちゃんのとこにいかないとーって言ってたしね。犯人の狙いは彩ちゃんだけ。それはかたいね。」

 

日菜たちがそう結論づけたその時、司会者がステージ上に突然現れる。

 

「それでは今から観客のみなさんに歌っていただきましょう!私がランダムで当てた歌好きには、ここで歌って審査してもらいます!だ〜れ〜に〜し〜よ〜う〜か〜な〜…」

「何よそれ…。日菜、今井さん。私たちの仕事は終えた。さっさと戻るわよ。」

「おおおっと!そこにいるライトグリーンのきらめくショートの女の子!そう!そこのその赤いタオルを振り回してる女の子!君に歌ってもらいましょう!」

「ライト…グリーン…?まさか…」

 

ライトグリーンの髪の女の子で、こちらを指差す司会者。それに該当するのは、私を除いて彼女しかいない。

 

「計算通り!司会者の司科一郎のチョイスは、帰ろうとしている女の子にサプライズですることが多い!そしてその近くで赤い装飾品を身につけている人が一番当たりやすい…!まずはおねーちゃんに気を引かせ、そしてこちらに狙いを定めさせる。完璧な計算だねっ!」

「日菜あなた…!ここで歌う気なの!?っていうか私が帰るってわかってたの!?」

「もっちろん!さぁ行くよおねーちゃん!私たちはそう!2人で1つの仮面シンガーだ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

日菜と紗夜は司会者の指示に従い、ステージ裏に来ていた。

 

 

「まったく日菜…どうしてあなたは急に…」

「まぁまぁいいじゃんおねーちゃん!あたし、おねーちゃんといっしょに歌うの夢だったんだ!」

「はぁ…わかったわよ。でも急に2人でなんて…」

「大丈夫!おねーちゃんの十八番はとっくの昔に閲覧済みだよ!おねーちゃんはいつも通りに歌って!」

「まぁ…それならいけそうね。」

「あの…紗夜さん…」

 

紗夜は決意を決めたが、彩は不安そうにこちらを見つめる。

 

「任せてください。私も乗りかかった船ですが、乗りこなして見せます。それにもう、ドーパントは倒しましたから。」

 

紗夜は彩にそう宣言し、ステージへと足を早める。

 

「さぁそれではチャレンジャーに歌っていただきましょう!曲はなんと我が審査員の代表曲!『Determination Symphony』!」

「えっ、この曲って湊さんのだったの!?」

「おねーちゃんそんなのどうでもいいよ!さぁ始まるよ!」

「え、ええっ!ふぅ…

 

潤んだ予感は〜bye now 滴る痛みの中〜雨色に染まって〜」

「大きく開いたDistance いつのまにか〜落ちていくわ〜冷たさに〜」

 

歌い始める、目元マスクをつけた紗夜と日菜。

その美しい歌声に、観客はみな見とれていた。

 

「紗夜先輩たち…すごい!」

 

香澄も今は、普通に感動している。

 

「思うまま bring it on down 決意の調べ〜「hang it there〜」勇気の祈りを〜音色に乗せて〜「get over〜」」

 

サビに入り、観客のボルテージはMAXになる。紗夜も気を良くし、歌により気合が増す。

 

「「ワタシヨ ツキススメ〜!」」

 

紗夜と日菜が歌いきった後、観客からは大歓声が起こっていた。審査員の友希那ですら、静かに拍手を繰り返している。

 

「さぁそれでは判定していただきましょう!湊さん、判定をお願いします!」

「ええ。そうね…紗夜達はとても上手だったわ。でも丸山さんには敵わない。悪いけど紗夜、あなたは決勝戦にはいけないわ。」

 

観客の大歓声とは裏腹に、紗夜と日菜に迫るのは現実であった。

 

「いや、もとより行く気もなかったんですが…」

 

紗夜は結果なんて気にせず、ステージ裏へそそくさと立ち去る。

そこにはこれほどかと言うほどに縮こまった彩が、何度も頭を下げていた。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい皆さん!私のせいで…!」

「うーん、あたし達の方が絶対うまかったのになぁ…」

「つまり、今回のドーパントは審査員を操って不正を働き、丸山さんを受からせようとするドーパント、ってことかしら?」

「うん。まっ、そんなとこだろうね。」

 

しかし日菜は、ある重要なことに気づく。

 

「…ん?…なーんか忘れてるような……あっ、あーーー!!」

「ど、どうしたの日菜!」

「大変だよおねーちゃん!あたし達は今乱入して歌った。そしてあたし達は負けた。つまり、まだ彩ちゃんにはドーパントの効果が効いているんだよ!さっき倒したはずなのに!」

「…!ま、まさか…!」

「そうだよ!ドーパントは…まだ倒されていない!」

「う、うそ…。私は、どうすれば…。」

「…それに湊さんは私のことをわかっていた…!操られているのならば、私の乱入にあんな対応できないはず…!つまり今回のドーパントは、人を操るドーパントじゃない…!」

「ってことはこの事件は、まだ1%も進んでないんだ…!」

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