魔法少女リリカルなのは 〜the cross of moon light〜【凍結】 作:たけのこの里派
今回はアークライトの昔話……って程じゃないけど、昔話orお茶会です。
月村忍との会談の翌日。アークライトはシャーレイと共に約束通り翠屋を訪れていた。
「お邪魔します」
「おっ邪魔しまーす」
「いらっしゃい緋月君っ! あっ、えっと……」
「私は義姉のシャーレイ。君がなのはだね? 話は緋月から聞いてるよ。よろしくなのは!」
「よろしくお願いします! シャーレイさん!!」
流石と言うべきか、かつてアリマゴ島で衛宮切嗣とあれほど仲が良くなった事なだけはあり、シャーレイのコミュ力は凄まじい。
義理の姉という設定は、勿論アークライトと容姿が違いすぎるからである。
しかしそんな設定にギョっとしたのが、既に奥にいる次女のすずかを除く月村一家と、高町恭也だ。
アークライトはそれをガン無視し、店の店主だろう恭也を少し大人にした感じの男性に向かった。
高町家大黒柱の、高町士郎である。
「今回お招きいただき有り難うございます」
「いやいや。此方も娘の友達が遊びに来てくれるのは嬉しい限りだよ」
「いえいえ。あ、これつまらない物ですが」
「これはこれは! ご丁寧にどうも」
見た目小学生と成人男性。その二人のやり取りは、保護者会で出会った父兄そのものだったり。何をしているかオマエ等。
「ちょっと! 遅いじゃない!!」
「まぁまぁアリサちゃん。落ち着いて」
奥でアリサが催促してくるのに、二人は苦笑し、
「ハハッ。済まないね緋月君、少々長話が過ぎてしまった」
「構いませんよ。この翠屋は海鳴市随一の良店と聞きます。出来れば長い付き合いが出来れば、と。
「そうだね。
知ってる者からすれば含みが有りすぎる言葉を交わした後、アークライトは小学生組の席に。シャーレイは恭也や忍達年長組の席へ。
「ったくもう、アンタが遅いから待ちくたびれたじゃない」
「悪い悪い。しかしバニングスが待ちくたびれる程旨いのか? 此処のシュークリームは」
「あったり前よ! なのはのお母さんが作るシュークリームは絶品なのよ!!」
「マジか」
アークライトは真実シュークリームを楽しみに来たのだ、それがこれ程好評なのは食事前の楽しみが彩るというもの。
アークライトは意外とラーメン屋の行列等での味覚向上効果を楽しんだりするタイプなのだ。
「それじゃあ、緋月君とシャーレイさん歓迎パーティー、始めます!!」
「何ソレ聞いてない」
「まぁ良いじゃん。楽しそうなんだからさ」
◆◆◆
「――――なんだ此れは」
「どうしたの緋月君?」
驚天動地。俺の目の前にあるシュークリームの味は、まさにソレだった。
――――旨い、旨い旨い旨い旨い。ものっそい旨いのだよ高尾。誰だ高尾。
桜やシャーレイの料理は勿論旨いが、こういう菓子作り系統ではこれはレベルが違う。二人が菓子を作らないのが原因だろうが。
「旨過ぎる……」
「あら、それは良かったわ」
声に引き寄せられ、厨房から出てくる女性に視線が行く。
栗色の長髪にエプロンを着たその女性は、なのはを成長させ、女性的、母性的にした美女だった。
直感が、アリストテレスとしての直感が、千年間死徒と真祖を狩り続け、魔術・聖堂両
俺の全能力よ。変な事に反応するな。
しかし若い。なのはと恭也、そしてタイミングが無かったため、おそらく自己紹介する為に虎視眈々と此方を見ている三つ編みの高校生くらいの少女も恭也の妹辺りなのだろう。
つまり彼女が話に聞く『桃子さん』ということか。つまり三児の母と言うことか。
つまりアレか? この世界の人間は、個人レベルで『二五〇法』を完成しているとでも言うのか? ウチの担任は論外で範疇外で規格外のソレだが。
「初めまして、袴灯緋月です。噂の高町桃子さんとは、貴方ですか? しかし随分とお若い」
「あらお上手ね、ありがとう。初めまして緋月君。私がなのは達の母親の桃子よ」
「意外ね。皆桃子さんの若さにはもっとビックリするんだけど」
「フッ、ウチの担任を思い出せ。アレクラスを見てしまうと早々仰天はしない」
「あぁ……」
アリサやすずか、なのはといったクラスメイトのみならず、あの教師を見たことがある者は例外無く遠い目をしていたのは、言うまでもない。
アークライトはその後、暫く小学生組と一緒にいたが、しかしながら会話がガールズトークに突入した辺りから着いていけず、士郎と一緒に『詳しい話』をしに厨房の奥に入っていった。
一方年長組にいるシャーレイは、
「それで? 貴女は一体何なの?」
「イッエーイ。いきなり詰問だッぜーい」
忍達に睨まれていた。恭也の妹の美由希はそんな兄達に苦笑いを作っているが。
それもそうだろう。前日アークライトが自分の危険性を誇張してでも解って貰おうとし、身を持って納得したのに次の日に姉が出てきたら詰問もしたくなる。
しかしアークライトは士郎と共に厨房の奥に行ってしまい聞けずじまい。ならシャーレイ自身に聞くしかないのだ。
「じゃ、改めまして自己紹介としましょうか。
私の名前はシャーレイ。ただのシャーレイだよ」
「ただの……? 外人なのは肌で解るけど、ファミリーネームは袴灯じゃ……」
「あ、アークのソレ偽名だから」
「……………」
シャーレイのカミングアウトに忍の睨みが呆れた物に変わるが、シャーレイは何処を吹く風といった様だ。
「アークって言うのは……」
「そ、アークライト・ブリュンスタッド。それが袴灯緋月の本名だよ」
「じゃあ私も自己紹介するね。私は高町美由希、恭ちゃんの妹でなのはの姉。宜しくね、シャーレイさん!」
「宜しくっ! でもさんは要らないよ。私も美由希って呼ぶから」
「美由希ッ!?」
恭也が声を上げるが、美由希は引き退がらず、
「私は恭ちゃんの話でしかシャーレイ達を知らないけど、シャーレイは私達に別に敵対してる訳じゃないんだよ? なのにいつまでも私達がピリピリしてても意味ないと思う。それに緋月君――――アークライト君には恭ちゃんやさくらさん、ノエルさんの三人がかりでも手も足も出ないんでしょう? だったら尚更じゃないかな?」
「む……」
「おぉ。美由希カッコイイ」
「エヘヘ」
「……本音は?」
「友達になりたかったからです!!」
忍がポカーンとし、恭也が頭を抱え、シャーレイがクエッションマークを頭にあげた。
「……友達になるのは嬉しいし構わないけど、何で?」
「だって……その、私友達少ないもん……」
「あぁ……」
そう言えばと、恭也が納得する。
美由希はその整った容姿と性格から、本来友人など容易に作れる筈だが天性のドジさ加減が災いし、学校ではあまり友達を作れずじまいでいる。
唯一とも言える友人と出会えたのは、美由希自身と同等のドジっ娘であることが切っ掛けなのだが。
「那美ちゃん――――――親友は居るけど、友達はあんまり居ないんだ……だから同世代のシャーレイが友達になってくれるならって」
「判るッ! アークの友達は千年単位で歳離れてるし。そもそも友達なんて感覚で話せそうもないしッ。魔術師共は私が封印指定だから襲ってくるしッッ!!!」
「?」
最早愚痴になっている。
ちなみにシャーレイは既に四十歳を越えており、美由希と同世代では残念ながら無い。
その後二人は、珈琲や紅茶を酒やビールの様に飲みながら日頃の不満や鬱憤を吐き散らしていた。その姿を見て、恭也と忍はシャーレイに対する警戒心を徐々に解いていった。
勿論理由は呆れて。
◆◆◆
厨房の奥の、アークライトと士郎が入った部屋は、現在異界と化していた。
別に士郎の親バカ加減が天元突破のバーストリンクしたり、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲が乱立していたと言った比喩ではなく、神秘に於ける『異界』をアークライトが『
アークライトの自宅もコレと同じことがされており、一般的な住宅が魔術師といえど容易く侵入できない、害意が有ればそもそも辿り着けない不可侵の要塞と化していた。
ちなみに、今は亡き妻のジャンル・ダルクが眠る墓は、最早異界を超えた亜空間となっており、アークライトならば何時でも何処でも足を運べるが、アークライトの許可無く絶対に入れない仕様になっている。
そして何故アークライトがそんな事をしているかというと、本来の姿で士郎と話す為である。
「改めて、アークライト・ブリュンスタッドだ。先程は偽名の自己紹介済まない」
今のアークライトは、身長が180センチ程に伸び、子供だった容姿が大人びたソレになっていた。
「いやはや……コレは驚いたな……」
幻想的で神秘的な、その見るもの全てを魅了するあまりに現実離れした姿は、士郎と言えど呆然となっている。しかしそれが女性にとっては別なのだが。
勿論アークライトの変わり様や、その容姿だけに呆然としているのではない。
士郎はアークライトの身から溢れる馬鹿馬鹿しくなる様な圧倒感を感じていた。
それは初めて象や、巨大な建造物。巨大な大自然を見た時に似た物だったが、アークライトのソレはあまりにスケールが違いすぎていた。
――――まるで星と対面している様な存在が――――
「最近は小学生になって色々消耗中でござる…………」
――――両手で顔を隠して震えていた。
士郎が心の中でコケたのは言うまでもない。
まぁ、アークライトの人柄が台無しにしていたのだ。
そんなアークライトに、士郎が小さく笑ってしまったのは仕方の無い事だろう。
「じゃあこちらも改めて、高町士郎だ。恭也からは私より随分年上と聞いているが、敬語の方が良いか?」
「構わないよ。俺も基本敬語使ってないから。子供は兎も角、三十路越えてる(忍から聞いた)奴には友人と話す感じにして貰ってるし。チクショウー、カリスマが欲スィー」
「ハハハっ。君はそんなものより飄々とした雰囲気が似合うよ。なんとなくね」
「まぁカリスマ溢れる俺なんざ、正直キモイだけだろうからな」
「……本当に、ね……」
士郎が普段通りにアークライトと会話する事が出来たのは、偏にアークライトが威圧感を抑えた故。
アークライトの魅力はその容姿や力では無く、その年月と元来の性格によるコミュニケーション能力、そして一般的な感性だ。
対人能力。他の死徒の様に人からかけ離れた精神を持たず、寧ろ人と寄り添うことが出来る力とも言える。でなければアークライトはアルトルージュは兎も角、シャーレイや桜を育てる事は出来ず、更には小学生をやることなど出来なかっただろう。
アークライトはかつての世界では、『月の王』などと呼ばれていたが(無論本人は悶絶していた)、本人からしては王様ではなく冒険者辺りが望みだったりする。
「しかし参った。恭也から話は聞いていたが……これでは最悪刺し違える事も出来なさそうだ。必要も無さそうだがね」
「そんな事を考えていたのか? まぁ忍にも言ったが、害意はサラサラないよ。こんな良い店潰したところで莫大なデメリットが生じるだけだからな。桃子さんのシュークリーム最高。俺は間違いなく常連になる」
「はははッ! それは有り難いな」
「そもそもそんな事をしたら、あの可愛らしい友人達に嫌われてしまうだろ?」
アークライトのその表情は、酷く優しいもので、まるで教師が生徒に、親が子に、兄が妹に送るような視線で。それは士郎を安心させるには十分なものだった。
「……良い子だろ? 俺と桃子の自慢の娘だ。やらんぞ?」
「ソレが素かよ。て言うか歳離れすぎて曾孫以上の域だって。九歳児相手にどうしろと? 俺をペドのド変態にしないでくれ。学校も保育士してる気分だぞ?」
その台詞を口にした時のアークライトがいやに汗ばんでいたのは、士郎の見間違いだっただろうか。
しかしコイツら、この会話の前に子育て談義とかしていたせいで、かなり仲良くなっていた。
「恭也と忍君が出来て、アイツも妹離れできると思ったのだが……」
「あぁ、俺もそれで昨日斬り付けられたよ。俺の方は最近シャーレイが俺を舐めきってる感が拭えなくて……此処等でビシッとしないとなァ……」
まぁそんなこんなで、士郎とアークライトのファーストコンタクトは極めて無事に成功したのだった。
「そうそう、何故桃子だけさん付けなんだ?」
「何となく、だな。どうも昔からあの手の人種はさん付けしてしまう。桃子さん、時々黒くなるだろ?」
「あぁ……なるほど……」
◆◆◆
「アークライト君……そんなお爺ちゃんだったんだ……」
「とまぁ私達の実年齢を聞いて、結局同世代の友達は少ない美由希ちゃんだったのでした」
「何のナレーション!?」
士郎とアークライトが、保護者談義に興じている間、シャーレイは死徒と真祖の在り方をある程度掻い摘まんで忍達に教えていた。
つまりアークライトとシャーレイの年齢も。
そしてその吸血鬼然とした在り方に、自身も吸血鬼と自称している忍にかなりの衝撃を与えていた。
元々吸血種である真祖が人間の血を吸い、死体となった人間は吸血鬼――――死徒となる。そして死徒が人間を吸血すれば――――。鼠算が生まれる。そして大半の死徒達の、人間の餌にしか考えていない思想は同じく吸血鬼である夜の一族とはかけ離れていた。
「そう言えばさ、シャーレイも吸血鬼……死徒ってヤツなんだよね? 太陽光とか大丈夫なの? 今日普通に晴れてるよ?」
そう、死徒は太陽光を浴びると体組織の崩壊が急速する。死徒にとって太陽は極めて天敵なのだ。
「フッフッフ。美由希、私はただの死徒じゃあない。死徒であって魔術師なんだよ。太陽光なんて、数十年前に克服済みさッ!!」
「おおっ! シャーレイすごいッ」
「ムフフー♪」
しかしこのどや顔シャーレイ、ただ魔術師だから太陽光を克服できた訳ではない。千年クラスの死徒なら兎も角、未だ百年にも満たないシャーレイが自力で太陽光を克服するのは不可能に近かった。
しかしここで登場したのが、シャーレイの魔術師としての師、宝石翁キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。
千年クラスの死徒にして魔法使いであり、前月の王を気分でブッ殺したハチャメチャなウルトラジジイである。
『儂の弟子が太陽光すら克服出来ぬなど話にならん』
そう言って地獄のような指導でシャーレイに太陽光を克服させるための魔術を教えたのが彼である。
こうしてトラウマを量産させながらシャーレイは太陽光を克服する術を手に入れたのだ。
その後シャーレイと美由希のガールズトークは続いた。シャーレイがアークライトに育てられたこと。前の家ではアークライトの妹同然の姪と、シャーレイと同じく桜という娘同然の女性が居ることなど。視点を変えると惚気話に聞こえるものまでと様々だ。
「で、彼には聞いてなかったけど、貴女達はどうしてこの
最早投げ遣りになっている疑問を、忍がシャーレイに投げ付ける。かなり疲れが見てとれるのは気のせいではないだろう。
シャーレイの話で、昨夜のアークライトの力が非常に手加減したもの出会ったのが解ったのだから。
「うん。だって私――正確には私達が原因だもん」
「えっ?」
「私達がアークに夜這いを仕掛けたからだよ」
噴き出した。偶々珈琲を飲んでいた恭也と美由希も噴き出した。
忍と恭也はアークライト本人から本来は大人だと聞いているが、如何せん子供の姿しか知らないため想像で一番にあの姿が思い浮かんでしまう。
つまり小学生に対して三人の女性が襲ったという犯罪物の光景を想像をしたのだ。
「……………マジ?」
「うん、マジマジ。結局目的は果たせなかったんだけど」
「な、なぁんだ。失敗に終わっちゃった訳だ。吃驚させないでよ。いきなり夜這い仕掛けただなんて」
三人が安堵の息を吐く。
「夜這いは成功したよ?」
「どっちなの!?」
忍と美由希は顔を真っ赤にし、恭也はアークライトに向ける視線を、警戒から同情のソレに変えた。
「夜這いは手段。手段は目的の為に有るものだよ。私達はあの人の心の拠り所に成れなかった」
「? そんな事は無いと思うけど……」
それもそうだろう。端から見てもアークライトとシャーレイの関係はすこぶる好調だ。忍達は眷属の関係は知らないが、家族としては関係に何も不具合が生じている風には見えない。
「アーク。千年も生きてるのに、あんまりそういうの感じないでしょ?」
「まぁ、確かに見た目通りには見えないけど、精々二十歳ぐらいかな? 千歳以上の老人には見えないわ。正直不老不死ってのもまだ半信半疑よ」
「――――――――私は実際に見たこと無いんだけど、昔は全然別人みたいだったって、アルトルージュ――――アークの妹さんは言ってたよ」
シャーレイはそこで初めて表情を喜から哀しみに変えた。
「機械みたいに無表情で、感情はあるには有ったけど、まるで凍り付いたみたいにどんな事にも動じなくなったって」
「どんな事にも――?」
「今からずっとずっと、それこそ人権なんて物が無くて、何処もかしこも誰も彼も戦争で人の命が今より遥かに軽かった時代から、アークは生きてるんだよ?」
――――――千年。その月日は忍達では想像だに出来ない。
十世紀も時があるのならば、そもそも時代が違う。文化が違う。価値観が、違う。
「アークは、優しすぎた。アルトルージュさん曰く、理由は不明だけど、アークは精神があまりに現代の一般人に近過ぎていたせいで、そんな世の中に
「――――!」
「戦争によって男が女が子供が老人が、殺され犯され傷つけられ泣き喚き、無力にも無情にも無意味に無惨に、理不尽に不条理に不合理に潰され蹂躙され続ける。
平穏もあるにはあったけど、そんなものはそんな情け容赦の無い地獄みたいな悲劇だらけの時代に、アークは耐えられなかった。だから心を凍てつかせ、ただただ
人の争いは尽きない。それこそ今のような時代ではあり得ない国同士の全面戦争も容易に起こった。
主義の為、利益の為、保身の為、体制の打倒や体制の維持の為、利害の相違の為、権利の為、侵略の為、防衛の為、国の為、故郷の為、女の為、家族の為。
理由なんて二の次の戦争なんてものもあった。
確かにアークライトは生まれつき絶対的な力を持っている。しかし所詮、当時のアークライトは肉体的な力しか持たなかったのだ。
所詮一般人の精神しか持たなかったアークライトにとって、それは一体どれほどの地獄だろうか。
前世のエピソード記憶が喪われた最大の理由はその年月ではなく、やはり自分の心を殺した為であった。自分の心を偽り続けた為であった。
――――しかし今から600年前、アークライトは運命の出逢いをした。
「そんなアークを変えたのが、ジャンヌさん――アークの奥さんなの」
アークライトとジャンヌ・ダルク。二人が出会ったのは、アークライトのただの気まぐれだった。
世界――――抑止力が人に助力をしている。
契約ではなく、後押し。
そんな前代未聞の現象を物見山で、その人間を見に行ったのだ。
そしてその少女に――――アークライトは目を奪われた。
アークライト自身に問えば、恥ずかしながら一目惚れと述べるかも知れない。
故に名を知り、その少女の末路を知っていたが故に、アークライトは彼女を拐うように救った。
――――彼女を、貴様らのくだらない理由で穢してなるものか――――と、彼女がオレルアンの英雄となった後、コンピエーニュの戦いで救ったのだ。
いや、一目惚れした時から見守り続けて、死の危機に扮した時は悉く助けた。
数年後、彼女と結ばれたアークライトは、間違いなく幸せの絶頂だった。
「えぇっ!? 彼結婚してたの!!?」
「もうずっと昔に亡くなったけどね」
「あっ……」
――――不老不死。しかしその重さが其処で生じる。
彼女は、自分が死徒になることを望まなかった。そしてアークライトも。
ジャンヌ・ダルクはアークライトと結ばれた数十年後、人間として、人として、アークライトに看取られながら息を引き取った。
『――――永遠の命程くだらない物はない。それこそ仙人のような人種でなければ、自身を磨耗させ続けるだけ。永遠の命――――不老不死とは、時間という鋼で心を削り取る鑢だ』
限定的とは謂え、不老不死であるシャーレイはアークライトにそう教わった。
「なんでも、あの明るくて時たまふざけたあの性格の、ただの子供みたいな笑みが、ジャンヌさんが一番好きだったらしいよ」
だからその姿で在り続けた。アークライトが生まれた直後と同じ人格に。何より彼女を忘れない為に。
英霊の座でも、彼女が笑っていられるように。
シャーレイ達がどれだけ強行に出ようが、色仕掛けを仕掛けようが、言葉では何と言ってもシャーレイ達をそういう風に見ることはないだろう。
「アークはジャンヌさんに救われたって、アルトルージュさんは言ってたよ。――――――――でも、彼女はもうアークの傍にはいない」
アークライトは六百年前から一歩も前に進んでいない。アークライトはジャンヌの『理不尽に苛まれている人の救済』という遺言が無ければ、ジャンヌと出逢わなければ、アークライトはシャーレイや桜達を救うことは無かっただろう。
――――シャーレイや桜を助けたのは、ジャンヌがそう望むだろうから――――
「そう、思い込んでる。私達を助けたのは、紛れもないアークの意志だったのに。そんなアークの意志が、全部ジャンヌさんに盗られ続けてる」
それがアルトルージュは許せなかった。シャーレイと桜は耐えられなかった。
「酷い言い方をしちゃうとね、アークは彼女に囚われ続けてる。自分から囚われてる。このままじゃ私は、私達は、彼女と同じ場所には立てない。アークは前に進めない。だから夜這いなんて強行を取ったんだ」
しかし結果は失敗。アークライトはその罪悪感から、異世界にまで姿を消した。アルトルージュ達に対しての罪悪感と、ジャンヌに対しての罪悪感で。
「羨ましいなぁ、ジャンヌさんは。自分が死んで六百年も経ってるのに、アークの心の中心にいる」
「……そうね。私も恭也の心の中心に居たいわ――――」
◆◆◆
こうして、高町家主催の歓迎パーティーは終了した。
「今日は楽しかった。有り難うなのは、恭也、美由希、士郎、桃子さん」
「ありがとねーっ!」
「あぁ」
「また学校でねーっ!」
「結局私アーク……緋月君に自己紹介出来なかった……」
「私達は殆んど出番少なかったわよ」
「まぁまぁ」
パーティー終了後、お土産と
「
「一応素性洗ったけど、魔術関連は間違いなく皆無だよ。一応、別にキナ臭い感じがするけど」
家に入った二人には、パーティーの時の空気を消しており、シャーレイの表情は魔術師のそれに。アークライトは絶対強者のソレに変わっていた。
「二桁にもなっていない障害持ち子供が一人暮らし。保護者は海外に………」
「しかし明らかに魔力を使った結界を展開されている。しかも家主は関連無し……か。キナ臭さがプンプンしやがるな」
シャーレイが昨夜月村邸に行けなかった理由は、確かに魔術工房の製作、及び隠蔽だ。しかしソレだけではなく、寧ろこの『調べもの』が原因だった。
「ホント、向かいのお宅に
「アークが家を異界化出来なかったらオチオチ寝れなかったよ。
…………で、行くの?」
「行かない理由は無いしな。そろそろ引っ越しの挨拶も行かないとダメだろ? 断じてつまらなく無い物も用意出来たし」
「そこはつまらない物でしょ……」
その目的地までは一分と掛からない。住宅街の向かいだ。掛かる訳がない。
その家は、ハッキリ言って普通だ。バリアフリーが施されているが、アークライトが警戒する程の物である筈がない。
ピンポーンと、ありきたりな音をインターフォンが鳴らし、本来の用途をこなす。
『――――はい、どちらさんですか?』
「あぁ、近所に引っ越してきた袴灯というモンです。ご挨拶に参りました」
『あぁ! 態々すいません。ちょっと待っててください、今出ます!』
アークライトが警戒したのは、その家を囲うように張られている
アークライトは結界などの魔術を視覚化させ、イメージによって形にすることが出来る。しかしアークライトは千年生きているが、こんなマトリックスの様な数字の結界は観たことがない。
そもそも魔術かすら疑わしい。完全なる未知だった。
開かれた扉から出てきたのは、車椅子に乗った、十才にも満たない少女だった。
「始めまして、袴灯緋月です。これから暫く宜しくお願いします、
今回は、アークライトが千年生きているが余りに『重さ』感じないさせない理由が出てきました。
普通一般人が千三千年前の時代に行ったら発狂モンですよね?
次回でプロローグは終わりになると思います。原作に突入ですけど、やっぱりアークライトは初っぱなから矢面に出す気はありません。そもそもそんな『主人公』っぽい役目は別キャラに任せます。
しかし執筆は牛歩になると思います。すいません。
つまらん駄文ですが、御読了有り難うございました。