魔法少女リリカルなのは 〜the cross of moon light〜【凍結】   作:たけのこの里派

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クリスマス投稿。
今回までがプロローグです。今回はR指定描写が含まれますのでご注意を。


五話

アリサ・バニングス。彼女は平凡とは言えない少女だ。

 

 大企業の一人娘。早熟。容姿端麗、成績優秀。幼いながらもカリスマ性も持ち合わせ、入学当初はハーフであることでクラスに馴染めなかったが、今ではクラスの纏め役として手腕を振るっている。

 

 まさに絵に描いた様な『天才』である。

 

 そんな彼女には悩みがあった。

 

 

 

 

 「――――魔法少女とはなんやろうな」

 

 

 いや違くて。

 

 

 「子供、少女の空想と幻想。一部の偉大なる変態(同士)の産物だと思うぜい」

 「そう。つまりロリのロリによるロリを輝かせるロリの為の究極の一や」

 「お前ロリロリうるせえよ。そんな俺達は世間一般で言うショタだろうが」

 「つまりそれは神やん、綺麗な御姉様方にハアハアしながら苛めて頂けるんやな!?」

 「お前は身長160センチ越えてるから無理だにゃー青ピー」

 

 

 彼女の悩み。それはこのあまりにも個性溢れるクラスに、最近転入してきた転校生が馴染めていない、という物だった。

 

 

 「そもそも、最近一番有名な魔法少女ものって、マスコットキャラが全ての元凶で、奇跡も魔法もあるけどそれ以上に絶望と鬱展開がふんだんに設定されてたんだけど。

 俺あのアニメ観てから全ての魔法少女ものアニメとマスコットキャラを、疑惑の眼で見ちまうようになったぞ」

 「ほむほむががんばってたぜい」

 「僕は全キャラ好きやけどねッ!!!」

 

 

 サングラスで髪を金髪に染め上げている、義理の妹をこよなく愛すシスコン少年。土帝元治。

 

 青髪にピアスの、小学生にも係わらず身長168センチ。『ロリが好きなんとちゃう、ロリも好きなんやで――――ッ!!』と豪語した、似非関西人。衆知の真性で生粋の変態(バカ)。青髪ピアス。

 

 一見普通に見える黒髪のウニヘッド、しかし常人を遥かに越えた不幸の数々に襲われ、しかしそれが対価と言わんばかりにあらゆる年齢層からモテまくり、唯今銀髪シスターと絶賛同居中の小学生。神上刀馬。

 

 

 今彼女がチラッと視界に入れた男子三名がコレだ。この有り様に身長135センチの“ベテラン”教師、月読小萌が頂点に様々なキャラの濃い、悪く言えば超々自己中(ウルトラマイペース)な集団が、このクラスの現状だ。そんなクラスを纏め上げているアリサは間違いなく優秀だ。強いて言うならカリスマCぐらいは有るだろう。

 

 しかし、件の転校生――――彼がこの個性に押し潰されている、という訳では断じて無い。

 

 そんな濃い個性を持つクラスメイトが霞むぐらいに、彼は個性的だった。

 

 休み時間中に彼は教室に居ない。何時も学校の屋上に陣取っている。すぐに会える。

 

 アリサが屋上に向かうと、彼は何時もの様に小学生が飲めないようなブラックコーヒーを飲んでいた。

 

 

 「何だ、遅かったじゃないか。待ちくたびれたぞバニングス」

 

 

 まるで月の様な色の、艶やかな金髪。宝石(ルビー)の様な美しい緋色の瞳。顔の造形の黄金比と言ってもいい程整った、しかし不自然さを感じない美貌。やること全てが様になっている(転入当日を除いて)、小学生らしさを欠片も見せない小学生。

 

 桍灯緋月。

 

 まるでアリサを待ってたかのような飄々とした姿で、屋上に居座っていた。その姿にアリサが見惚れてしまったのは仕方ないだろう。

 

 

 「べっ、別にアンタを探してた訳じゃ無いわよ」

 「そうかそうか、それは悪かったな。で? バニングスは一体何の用だ? 屋上の風を浴びるのは良いが、もうすぐチャイムがなってしまうぞ?」

 「む……」

 

 アリサの唯一の欠点。それは素直に成れない事。

 まぁその辺りは『くぎゅぅ』が全ての原因と言えば終いなのだが。

 

 「ねぇアンタ。何で何時も屋上に居てコーヒー飲んでるのよ」

 「街を見てたんだよ。ふむ……そうだな……」

 

 彼は屋上から見える景色をチラ見し、

 

 

 「バニングス。お前は此処から何が見える?」

 「そりゃ、街……海鳴市?」

 「その通り。この街は平和で平穏だ。少なくとも今は。……しかし数時間後はそうじゃない可能性もある。人間なんだからな」

 「……普通じゃない?」

 「そう。普通だ。だがバニングスは大企業の社長(父親)の仕事を継ぎたいんだろう? ならそういう争い事も知っておいた方が良い。人間何事も経験だ」

 「同い年のクラスメイトに言われても説得力無いわよ」

 「そうか? ハハハ……いや、それもそうか。だがバニングスは立場上危険が生じる可能性がある。例えば誘拐とかな。身代金目的とか有りがちだろ?」

 「むぅ……」

 「バニングスにはそういうフィクション染みた事件がリアルに起こるかも知れない。だったら対処法ぐらい考えて置いた方が得策じゃないか? 例えば――――――と言った具合だ」

 「…………」

 

 

 彼はクラスに馴染めているか。他のクラスメイトに聞けば殆んど是と答えるであろう。

 しかしアリサ、そして月村すずかは首を縦には降らなかった。

 

 緋月のソレは、一歩引いた様な。言ってしまえば溶け込んでいるが、染み込んでは居ないと言った感じ。

 

 

 「――――そうそう。なのはが体育で芸術的着地法を魅せてくれたんだが…………アレは素か?」

 「素よ。そしてアレは勢い良くコケただけ。

 なのはって、少なくとも私達と友達になってからは運動音痴は変わらずよ」

 「……上の兄と姉、父親がアレなのにか?」

 「うーん、確かすずかに聞いたことが有るんだけど、恭也さんは異母兄妹で、美由希さんは従姉妹で、桃子さんと士郎さんが結婚してなのはが生まれたって」

 「……なるほど。道理で彼女だけが多い訳だ」

 「……何が多いのよ」

 「さて、何が多いのかな? 少なくとも――――」

 

 アリサの特技。それは勘。または直感と呼ばれる類いのモノだ。そのアリサの直感が、彼が心底自分達と同じ高さに居るとは思えなかった。

 

 保護者。まるで先生の様に、自分達を見守っている様な――――

 

 

 「――――アリサちゃぁあん!! こ、国語の漢文が判らないよ〜!」

 「……話をすればなんとやらだな。……しかしこの学校では小学生が漢文なんざ勉強してたな……」

 

 

 アリサにはそれが、酷く気に入らなかった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 「いらっしゃい、アークくん。シャーレイさん」

 「はッッやてぇ! あっそびに来ったよぉっ!」

 「よぉ、邪魔しにに来たぞ。ハヤテ」

 「ちょ、カタカタ呼びは止めてえな。ウチはあんな廃スペック借金執事とちゃうで。アークくん」

 「じゃあ……」

 「探さんといて!」

 

 

 

 シャーレイが勢い良く押したインターホンで出迎えたのは、茶色のショートヘアーで車椅子に乗った少女。

 

 八神はやて。件のマトリックス結界の家で在宅中の張本人だ。

 

 「今日もこんなに仰山食材持ってきてくれて。おおきにな二人共」

 「近所の(よしみ)と思っておけばイイ。元々中坊にもなってない子供だってのに、下半身不全なんてデメリットも背負った上、一人暮らしとかあり得ないから普通。人生ルナティックにも程があるわ。保護者は何処にいやがる」

 「イギリスやで」

 「アーク、殴りに行ってくる?」

 「おう、オラオララッシュを完全再現だ」

 「スタンド無しで?」

 「……『矢』か『遺体』が欲しい所だな」

 「……二人共、通やね……!」

 

 

 この一人渋い汗を拭って戦慄してる車椅子少女。調べた結果、見事なまでの一般人だった。

 ただ、なのはの様に魔術回路が存在していない筈にも拘わらず、気道辺りにかなりの魔力を保有しているのが気掛かりだ。しかもその魔力は、常に搾取され続けている始末。

 分かりやすく言えば、昔桜が蟲に魔力を喰われていて、魔術が使えなかった状態と極めて近い状況だ。

 

 原因は既に解っている。はやての部屋の本棚にあった、如何にもな一冊の本。

 

 

 「うっわぁ……」

 

 

 ドン引き。

 それが俺の第一反応である。それは魔力をイメージとして視覚化する事が出来る故の反応だった。

 

 

 (マイナス)のベクトルの数百年レベルの概念武装半歩手前。というか、どうして概念武装になっていないのか不思議で堪らない程の負の概念が積み重なっている。

 一体どれだけやればここまでになるのか激しく気になったりもしたが、はやて曰くこの本はいつの間にか有ったらしく、装飾が綺麗だから飾っている様だ。

 

 実に怪しい。怪しいニヲイがプンプンするッ。はやての下半身不全も、間違いなくコレが原因だろう。

 しかしこの本ははやての出地不明の魔力を搾取し続けるだけで、それ以外は唯の本だ。

 一般人への呪いの本。しかしこれ等では、あのマトリックス状の結界は説明が出来ない。

 

 ならばあの結界は何だ? もし仮にこの本が狙いなら、結界を張るよりも奪った方が遥かに早い。

 考えられるのは、この本が概念武装化するのを待っている――――無いな。ならば放置する理由は無い。

 

 いや、離せられない? 何から? はやてから。

 故に…………監視している? あの結界は監視の為? しかし敷地内に居る俺はこの結界に見られている感覚はしない。監視ではない? それとも――――――

 

 

 「ア―――――――――クゥうう! ご飯出来たよ――――ッ!」

 「……飯食うか」

 

 

 今はまだ良い。変化が無い今なら。

 俺は数キロ離れてはやてを見ている猫を、虹色の瞳で見ながら踵を返した。

 

 

 

 

 

 ――――だから、くだらん真似をしてくれるなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 「アーク。はやてが翠屋のシュークリームまた食べたいそうだから買ってきてー」

 「よォし、士郎ントコまで叩き飛ばしてやるから、カタパルト用意しろテメェ」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 アークライトが最終的にパシられる事に決定した同時刻、八神宅から数十キロ離れた林の中。

 

 「ゼェッ! ゼェッ!」 

 

 其処には息絶え絶えの猫の姿があった。その猫は周りを確認し、人が居ないことが判ると光に包まれ、猫耳と尻尾が生えた女性に姿を変えた。

 

 

 何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは何だアレは――――――!!!?

 

 猫耳の女性――――リーゼロッテは、恐怖から逃れる様に自らの体を抱き締めた。

 

 何時ものように八神はやての監視をしていたリーゼロッテは、はやての最近引っ越してきた近所の友人が、自分の事を覚えないよう念には念を入れて八神宅から数キロ離れて魔法を使って監視をしていた。

 

 にも拘らず――――――

 

 

 「……眼が、合った……!?」

 

 

 否。虹色という、異質で異常な瞳で睨み付けられた。

 

 瞬間リーゼロッテは逃げ出した。まるで群れから離れ離れになった草食動物が、偶々遭遇した恐竜から逃げる様に。絶対強者から弱者が逃れる様に、恥も外聞も無く全力で逃げ出したのだ。

 

 人間とは思えなかった。

 使い魔であるリーゼロッテは、素体である猫の本能を保有している。

 その本能が恐怖に『逃げろ』と鳴き叫んでいた。

 その本能が、自分の主人とあの少年が同じ生き物だと思えなかった。

 仮にその本能が無くても、管理局で屈指の使い手で近接戦闘のエキスパートである彼女の経験という名の勘が、あの少年が自身の敬愛する主であるギル・グレアムと違う生き物と判断しただろう。

 

 もしアークライトが、視線に殺意や敵意を乗せていたら、おそらく『逃げろ』が『諦めろ』に変わっていただろうが。

 

 「お父様……ッ」

 

 もしあの存在が立ち塞がると言うのなら、自分達の計画は間違いなく破綻する。

 

 「先ずはアリアやお父様に連絡して、対策を練らないと……」

 

 

 この計画は絶対に失敗出来ない。

 自分達の悲願の為にも。十年前と同じ悲劇を産み出さないためにも。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 「緋月くん?」

 「にゃ?」

 「うん。どう思う?」

 

 なのは、アリサにすずかは、アークライトより一足遅くに下校ついていた。理由ははやてに食材を持っていく為というものなのだが。

 まぁ人間処か人外離れした膂力を持っているアークライトが、彼女達より速く帰路につくのは仕方がない事なのだが。

 

 そもそも、すずかとアリサは迎えの車という金持ち特有のソレを使えるが、友人と歩きながら下校するという事を望んだ為に、出来るだけ車は使わない様にしているのだ。

 

 「どうって……不思議な人、かな?」

 「私は……お兄ちゃんかお父さんみたいな人だと思う。にゃはは、同い年には見えないかな?」

 

 クラスメイトに対する評価ではまず無いだろう。

 

 「……まぁそんな感じか。質問した私だけど、私達ってアイツの事あんまり知らないのよね」

 「この前のお茶会は、ちょっとしたらなのはのお父さんと奥行っちゃったしね」

 

 そう。小学校で緋月(アークライト)の事をなのは達以上に詳しく知ってる人間は居ない。しかしその“詳しく”も学校での事を除くとあまり無い。

 付き合いが悪いという訳ではないのだが、流石に小学生と話を合わせろと言うのは酷だろう。

 

 すすががアークライトの事を知らないのは、忍達にアークライトが口止めしたからだ。

 すずかは、血味泥の世界を知らない。寧ろ彼女は自分の『夜の一族としての特性』に向き合えておらず、その事が他人――――特に友人に知られることを酷く忌避している。

 そういう要因もあって、“彼女が知るのはまだ早い”という判断が忍達によって下された。

 

 幾ら彼女がアリサ同様非常に早熟であったとしても、まだ彼女は小学生で、年長にも至っていない幼い子供なのだから。

 

 

 「……また今度お茶会でもしようかな」

 「そうだね!」

 「アイツの家がどんなトコか気になるし。ってなのは、此処じゃない」

 「あっ、有り難う。またね! アリサちゃん、すずかちゃん!」

 

 なのはは嬉しそうに、楽しそうに別れ道を進み、家へと走っていった。

 

 「……私達が友達になった時も、あんな風だったね、なのはちゃん」

 「まったく、なのはってばはしゃぎ過ぎよ」

 「私はアリサちゃんもあんな風に見えたけど?」

 「……ふん!」

 

 そして二人も別れ、それぞれの家へと向かう――――――筈だった。

 

 

 ――――それは、夜の一族としての勘は、はたまた唯の偶然か。

 暫く歩いたすずかが、ふと何となく嫌な予感を感じ、歩いていた場所をそのまま戻ろうとした時――――、

 

 

 

 

 「――――ちょっ、何なのよアンタ達ッ!!!!!」

 

 

 アリサの叫びを聞いた。

 

 瞬間、すすがは無意識に瞳を赤色に染め、凡そ小学生が出せる速度を遥かに越えた脚力で走り、車に詰め込まれたアリサを目撃した。

 

 

 「アリサちゃんッ!!!」

 

 すすがは叫ぶが、だからと言って車が止まる訳ではない。

 

 幾らすすがが夜の一族で、一般の小学生と比べ物にならないほど身体能力が高い。しかし所詮子供。ほぼ成人の忍なら兎も角、すすがが猛スピードの車に走って追い付く事など不可能だ。

 

 

 しかし、この月村すすが。アリサと同等以上に優秀で、早熟である。

 

 そして彼女は、こんな事態で、自分の知る中で最も頼れる存在を知っている。

 

 「お姉ちゃんと恭也さんに……ッ!!」

 

 すすがは直ぐ様携帯を取り出した。親友を助ける為にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、誘拐されたアリサはかなり抵抗したが、やはり小学生に女子供。複数の大人相手にどうすることも出来ず、口をガムテープで塞がれる。

 

 「やっと大人しくなりやがったか」

 「コイツの親に電話の準備しとけよ。身代金はガッポリ貰うんだからよ」

 

 誘拐犯の言葉で、誘拐犯に対する嫌悪と、父親に迷惑が掛かるのにアリサは苦虫を潰した様に表情を歪めた。

 しかしこんな状況だからこそ、アリサはこんな状況に陥る事が判っていたかのような、自分のクラスメイトの言葉を思い出す。

 

 

 

 『――――誘拐されるテンプレは、車なんかで引ったくる様に捕まる事だな。ぶっちゃけ捕まらなければイイというのが最善だが、もし捕まってしまえば先ずは冷静になって状況を把握しろ』

 

 (……大型車で、実行犯は六人。四人は私を捕まえるのに動いて、内一人は私の腕を抑えている。それに運転しているのと、リーダー的な奴は助手席で何処かに連絡する準備中……)

 

 『次は相手が油断している間に只管確実に逃げる方法や隙を捜し出せ。もし外が見れるなら自分が何処に向かって居るのか確認もしろ。だが決して犯人を逆上させたりするなよ?』

 

 そしてその隙は案外直ぐに訪れた。

 

 「うおっ!?」

 

 警官に目を付けられるのよりも、目的地に速く着くために猛スピードで信号無視を続けていた車の先に、交差点を歩いている人影が現れたからだ。

 

 (急ブレーキを掛けたら車内が必ず揺れる。その時に車の外に出たら一気に逃げ出せば……携帯で助けを呼ぶ事も……!!)

 

 アリサは非常に優秀だ。誘拐されていても、友人の言葉を忘れず努力している。

 

 

 しかし、

 

 

 

 

 

 

 「構うな」

 (―――――――え――?)

 

 

 

 

 彼女は如何せん、一般人で普通の感性の子供だ。どれだけ優秀でも、どれだけ早熟でも―――――

 

 

 

 

 

 「マジで行かしやがるよアイツ……二十七祖一桁台をパシリに使いやがったよあの娘……ん?」

 「轢いちまえ」

 

 

 

 その友人が轢き飛ばされて冷静で居られるなんて事は、出来やしなかったのだから。

 

 「――――――ッ!!!?」

 

 ――――グシャッッ!! と、およそ本来生き物が出す様なモノではない音が車内に響いき、少年の体が宙を舞った。

 

 

 「―――――ッ!!! ――――――――ッッ!!!!!!」

 「オイ抑えろ!」

 「ちょっとスクラップなモン見せちまったかね。まぁあのガキは不運だったって事で諦めてくれや」

 

 周りの景色など、その瞳に貯まる涙で見ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 ――――しかし不運と言ってしまえば、彼等はどうしようもなく不運なのだろう。

 

 アリサを乗せた車が走り去った路上に転がっている少年が、何事もなかった様に起き上がった。

 

 

 「………今、アクセル踏んだよな? ブレーキじゃなくてアクセル。しかもバニングスが口ガムテされた上に、押さえ付けられてた様にも見えたよな? つまりアレだよな?」

 

 撥ねた人間が人間ならば(・・・・・)、彼等はまだ幸せだった。

 

 およそ本来生き物が出す様なモノではない音が車内に響いた? 少年の強度に耐えきれなかった車がひしゃげた音なのだから、当然だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――死体決定だ糞野郎」

 

 

 

 その日、彼等の命日は決まった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 手足を縛られ、口を塞がれたアリサが囚われた場所は、連れ去られた場所からかなり離れた廃ビルだった。

 

 男達は何処かに連絡をしていた。男達の狙いが身代金目当てなら、恐らくアリサの父親だろう。

 

 その間アリサは出来うる限りの方法で脱出を試みたが、いくら同年代と比べ精神的に成熟していようと、所詮は小学生。

 手足にキツく縛られた縄を解く事は叶わなかった。

 

 そして男達は電話終えて――――、

 

 

 「良かったな嬢ちゃん。お前の父親は何の迷いもなくお前を助ける為にコッチの要求を呑んでくれたぜ」

 「ッ!」

 

 

 キッ! と、憎悪と怒りに染まった瞳を、アリサは誘拐犯に向けた。

 友人を、これから仲良く成れるであろう友人を何の躊躇も無く、寧ろ態と跳ねたのだ。

 

 人間が、しかも子供が猛スピードの車に轢かれた結果など、想像するのは難しくはない。

 

 「後は金を持ってトンズラすりゃあ、お前は助かる話になってんだけど……お前をそのまま解放すんのは勿体ねぇはなぁ……ククッ!」

 

 

 男達の言葉と下卑た目で、アリサは青ざめる。

 聡明が故に男達の考えが理解できた、出来てしまったからだ。

 

 

 「む――――ッッ!!!! む――――――ッ!!!!」

 「オイオイ、ロリコンかよお前」

 「ハッ! たまにはガキのモンも試したくてよ。普通の女とどう違うのか」

 

 男達の中の一人の手が伸び、アリサは絶望を感じる。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

 男達に対しての恐怖と憎悪、これから自分に行われるであろう地獄に対する悲しみ。そして今までの思い出の未練が溢れ出した。

 

 

 父の事。

 母の事。

 メイドの事。執事の鮫島の事。

 すずかとなのはの事。

 

 

 「諦めなガキ」

 

 

 最後に――――、

 

 

 

 酷く大人びた、何時も飄々としつつも自分を気遣ってくれた、あの少年の事を――――。

 

 

 

 「――――――ッ!!!」

 

 ブチンッ!! と、アリサの口に貼り付けられていたガムテープが噛み千切られる音が木霊した。

 

 「!」

 「…………ハッ、諦めろ? 諦めろですって? 実にアンタ達らしい言い草ね」

 「……は? 何言っててんだお前」

 「犯罪に走って、子供を嬲る事しか出来ない、アンタ達みたいなクソッタレのクズの事を言ってんのよッ!!!」

 

 アリサは一番近くにいた犯人の一人の手を噛み付き、食い縛った。

 

 

 「がぁあああああ!! 痛ってえ! このッ」

 「きゃっ!」

 

 アリサが男に壁へ叩き付けられるが、その眼光は衰えない。寧ろ激しさを増すばかり。

 これが、アークライトが評価した、小さな少女の真価だった。

 

 

 「私は諦めない!! 希望を捨てない! この命が有る限り、絶対に諦めてやるもんですかッ!!!」

 

 

 しかし、所詮アリサは年端も無い少女。運動神経が優れていても、それは小学生の範疇から越えることはない。

 そして遂にアリサは抑えられ、男の手がアリサの胸元を掴んだ。

 少女は蹂躙されるだろう。男達の汚ならしく悍ましい欲望に穢されるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――――最高だ」

 

 

 

 その男の手が、腕の関節まで18の肉塊に分割されなければ。

 

 

 「…………あ? な、何だ、腕が――――俺の腕がァああああああああああああああああああああ!!!!!?」

 

 『―――――ッッ!!?』

 

 崩れ落ちる男を見て、仲間に驚愕と動揺が走る。

 

 一体何が起こった。

 

 

 この有り様は何だ。何故仲間の腕はこうなった。一体どうして、誰の手によって――――――!?

 

 誘拐犯の男の絶叫と、腕から出血の噴射音が響く中、パチパチと拍手をしながらその部屋に入ってくる者がいた。

 

 

 「あ……」

 

 

 アリサの声が漏れる。

 物語にするならば、こんな悲劇に似つかわしくないふざけた程に美しい青年が。

 またはここでヒーローがやって来て、誘拐犯をやっつける様な物語には似つかわしくない、月色の髪をした莫大な威圧感と存在感を撒き散らした異質が、

 

 「いやぁ良い、実に。見処のある奴だとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。ここで見捨てるのは惜しい、実に」

 

 

 まるで宝石の原石を見付けたような輝く笑みをしてやって来た。

 

 

 「……なッ、何だお前。今何しやがった!!」

 「いやはや、まさか午前に言った冗談半分で言った冗談が本当にリアルで起こるとはな。しかし、コレじゃあ俺がフラグを建てたみたいになるなコレは」

 

 男達の問いを完全に無視し、アリサのみ見、語りかける。その内容は、アリサの目を見開かせるのに十分だった。

 

 「アンタ……」

 「しかしさっきの啖呵、中々痺れたぜ?」

 「なっ」

 

 先程の姿を見られたから、それともその現実場馴れした美貌に見惚れたか。恐らく前者だろうが、アリサの顔が羞恥に紅く染まった。

 

 「無視してんじゃねぇッ!!」

 

 無視を続ける青年に対し遂に誘拐犯の一人がキレ、手に持っていたナイフで青年に斬り掛かろうとし、

 

 

 瞬間、誘拐犯の一人が細切れになった。

 

 

 「……う、わぁああああぁあああああああああああああッッッ!!?」

 「と、止まれよクソッ! 来んなッ!!」

 

 

 男達は、震える手で銃口を男に向ける。しかし男は足を止める事は無い。

 

 「く、来んじゃねぇえええええええ!!!」

 

 

 そしてズドン! と、しかしそんな銃声は上がらなかった。

 

 「気安く人に銃口向けるなよ、ウンコクズ」

 

 理由は単純。引き金が引かれる前に銃を持っていた男の腕が、二の腕辺りで斬り落とされたからだ。

 

 「俺は純粋な理由での殺人を肯定している。まぁ十数世紀前では殺人に理由など必要無かったんだが」

 

 男が、ただ手をポケットに入れながら睨み付けただけで。

 

 「ただ性犯罪だけは無理でなァ。ジャンヌが下手すればそんな結末に陥っていたと思うだけで血管がブチキレそうになる」

 「ぐ……ぁあアアアアアアアアアアア!!!?」

 「うわぁああああ!!」

 「やりやがった!!」

 

 

 悲鳴と絶叫が響き、男達は出口に走った。しかし賽は既に投げられている。

 

 「馬鹿野郎!! 逃げんなテメェ等! こっちにゃガキがいんだ、そいつを人質に――――――」

 「そうだ。化物(ヒト)を轢き逃げした上に、化物(ヒト)友達(ダチ)拉致って犯そうとして、逃げられると思ってンのかカス共?」

 

 男の言う通り、男達には逃げ場は無かった。

 

 

 「で、出口が無ェ……!!? ガキも居ねェ!!! どうなってんだ!!?」

 

 

 逃げ道である出口は既に存在せず、アリサも何処にも見当たらない。

 もし運が良ければ、遺跡の迷宮トラップ宜しくの如く、コンクリートがひとりでに動いたのが見れたのかも知れない。

 だが兎も角、つまり結果だけ言うと、

 

 

 「俺を故意で撥ねた時点で、死刑確定なんだよテメェ等」

 

 男達には、何処にも逃げ場は無くなっていた。

 

 「ば……化け……」

 「小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?」

 

 男達に訪れるのは絶望。そして化物が告げるのは、やり過ぎの正義を掲げる風紀委員長の一言。

 

 

 

 「――――――では、殺戮してやるから迅速に死亡しろッ!!」

 

 

 この廃ビルに、豚の様な悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 その後、すずかの証言で警察から先行していた士郎と恭也、美由希は、縛られたアリサが居る、血で出来た入口からアリサまで一直線に伸びる道の有る異様な部屋を見付け、救出した。

 

 助け出されたアリサの言葉は、

 

 

 「気持ち悪い、吐きそう」

 

 

 だったそうだ。

 

 誘拐犯達は肉片一つ発見出来ず、しかし部屋に残された夥しい量の血液が誘拐犯達の物と、容易く予想出来た。

 事実アリサの証言で、その血は全て誘拐犯の物とあり、それを実行した者の顔をアリサはショックで覚えていないと警察に供述していた。

 

 ただ、士郎達に対してのみ、“月の様だった”と溢していた。

 

 

 

 その後、アリサは一日空けた翌日に学校に登校した。

 誘拐事件はニュースでも取り上げられており、教室ではかなり騒ぎになったが、しかしそこは纏め役であるアリサの腕の見せどころ。

 

 

 

 「――――私は聖徳太子じゃないから一度に聞かない! それにもうすぐHRが始まるから次の休み時間まで待ちなさい!! 質問は一人一つだけで、私が答えたくない質問は答えない!! わかった!?」

 

 

 それで騒ぎはピタッと収まるところ、このクラスは素晴らしいのだろう。

 

 クラスメイトの質問をあらかた答え終えた後、荷物を机に置いた途端、アリサは屋上に向かって走り出した。

 教室にあの少年は居なかった。ならば何時ものように、あの場所で珈琲を啜っているのではないかと、そう考えて。

 

 案の定、彼は屋上で珈琲を啜っていた。

 

 「よォバニングス。遅かったじゃねェか。待ちくたびれた――――」

 「ぜえいッ!!!」

 

 蹴った。

 アリサはなんの容赦なく蹴りを入れた。

 しかし少年には容易く避けられる処か、片手で止められたが。

 

 

 「はッはァッ! どうしたんだバニングス? いきなりバイオレンスとは、何か良いことでも有ったのか?」

 「あの後吐いたわ。どうしてくれるのよ」

 「音声だけ(・・・・)だからマシな筈だが?」

 「寧ろ想像が膨らんだわ」

 

 

 アリサは忌々しげに緋月を睨む。

 この少年をそのまま成長させると、あの男性になるのかと。

 

 「で? どうする? いや、どう思った?」

 「……何を」

 「俺が何の躊躇も無く人を殺した事について」

 「ッ」

 

 先日の光景を思い出したのか、アリサは苦々しげに顔を歪める。

 

 「……何であんな簡単に人を殺せるのよ」

 「それだけ人を殺しているからだ。今の時代、殺人は確かに少ない。だけどそれはこの国の話だ。この街の話だった。だがひと度外に出てみろ? 紛争地域なんざ幾らでもあり、そこで人は殺されている。」

 「…………」

 「言ったろ? そういう事も知ってた方が良いってよ。世の中が世の中、お前の周りの様に優しい事ばっかじゃ無いんだぜ」

 「……人が殺される事が?」

 「理不尽な理由で人を殺す事がだ。まぁ小学生に教えるこっちゃ無いこと極まりないんだがね、状況が状況だったからな。俺は友人があんな目にあって頭に来ないほど薄情では無い」

 「…………む」

 

 緋月の言葉で今更ながらアリサは思い出した。

 自分が助けて貰ったことを。

 しかしそれどころか自分はまるで責めるようにしている。

 

 助けて貰ったら何をすれば良いか。そんなことはアリサが知らない訳は無い。

 

 「……が……う」

 「は?」

 「ッ……助けてくれて有り難うッッ!!」

 

 それが素直であることに慣れないアリサが、顔を真っ赤にしながらなのは言うまでもない。

 それに爆笑した緋月が、アリサに再び蹴られたことも。

 

 既にアリサの中には緋月が何者なのかという疑問は無くなっていた。

 人を殺そうが秘密が有ろうが、彼が自分達に嘘をついていた訳ではなかったからだ。

 自分達と接していた彼は、紛れもなく本物だったのだから。

 

 そんな、本当に謎に包まれた少年を睨み付けていると、アリサはあることに気が付いた。

 

 

 「ねぇアンタ。なのはやすずかは名前で呼ぶのに、何で私はファミリーネームなのよ」

 「高町では士郎達と被る。月村では忍とな」

 「だったら私の事はアリサでいいわ」

 

 

 少し紅くなったアリサを見た緋月は、ニヤニヤした笑みを止めて、アリサが思わず見惚れる綺麗な笑みを作り、

 

 

 「だったら、俺はアークと呼べ。親しい仲にはそう呼ばせているからな」

 

 

 

 少しだけ、本当の意味でクラスに溶け込んだ。

 

 

 

 




主人公無双会でしたー。
やりたかった。反省はしてるけど、後悔はしていなイイィッ!
そんなこんなでプロローグが終了。次回からは漸く無印スタートです。
ただ設定を入れると思いますので、次の更新は話じゃありません。

修正、矛盾点がある場合修正します。

1月17日修正
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