デジモンアドベンチャー re:birth   作:kz

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第2話「パートナー」

「ストップ! いったんストップ!!」

 

 息も絶え絶えになってドラコモンを制止する。

 無理だ。無理だこれ。正面から、背後から、2方向から、不意打ち、範囲攻撃、思いつく限りの方法を試したがまるで当たる気がしない。

 

「お、降参か?」

 

 マグナキッドモンはにやにやと茶化すように笑う。あれはバカにしている顔だ。殴り飛ばしてやりたくなるが、物理的にできないのでぎりぎりと歯噛みする。

 

「うるさい! ちょっと待ってろ!」

 

 やけくそ気味に怒鳴り、ドラコモンを引き連れてマグナキッドモンから距離をとる。

 どうすればいい。マグナキッドモンは強い。ドラコモンと京介では手も足も出ないくらいの実力差がある。少なくとも完全体以上の力はあるのだろう。事実、この一時間、マグナキッドモンは攻撃を避けるばかりか反撃を一切していない。それはつまり反撃をする必要がないくらい余裕があるということだ。

 

「京介?」

「ん? ああ、ごめんドラコモン。考え事をしていた」

 

 とにかくいったん仕切りなおそう。悔しいが今の俺たちじゃどうしようもない。

 ドラコモンを置いて、京介はマグナキッドモンのもとへ戻る。

 

「マグナキッドモン」

「なんだ?」

「時間がほしい」

「ちょっと待ってよ京介!」

 

 京介の言葉にドラコモンが食って掛かる。

 

「京介は諦めるの!?」

「諦めるんじゃない。一度退くだけだ。時間がいる」

「そんなのいらない! 京介と二人だったらできるよ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かがぷつんと切れた気がした。こいつは一体俺の何を知って、こんな根拠のないことを言うのだろうか。逃げるわけじゃない。ただ方法を考えるだけだ。それの何が不満なのか。

 頭に血が上った京介はドラコモンを無視して家に戻ろうとする。

 

「京介!! どこ行くの!! まだ戦いは終わってないよ!!」

「そうだぜ京介。俺は時間をやるなんて言ってない」

 

 立ち止まって、振り返る。

 

「そうだな。1日だけくれてやってもいいが、条件がある」

「……なんだよ」

「ドラコモンと話し合う事」

「……必要ない」

「必要あるかどうかは関係ない。俺が決めた条件だ。それができないなら今すぐ特訓続行だな。今度は俺の小銃が火を噴くかもだぜ?」

 

「パンパン」とマグナキッドモンは手で銃の形(と言っても指が三本しかないため銃のようには見えないのだが)にして冗談めかす。苛立ちを抑えるために握りしめた手は真っ白になっていた。

 

「……わかった。ドラコモン、来い」

「京介……」

「いいから来い!」

 

 京介の怒鳴り声にびくりとドラコモンは体をびくつかせて、恐る恐るついてくる。背中越しに聞こえる足音が、京介にはたまらなく耳障りだった。

 

 

 

 

「なかなか骨が折れそうね」

 

 家の中に入っていった京介とドラコモンの背中を見送り、ノワールが呆れたようにマグナキッドモンへ話しかける。

 

「そうか? 俺は結構好きだぜ。ああいうやつは。闘争心メラメラで見ていて心地がいい」

「あんたがそういうのならいいんだけど。見込みはありそうなの?」

「さてな」

 

 マグナキッドモンはどこか遠くを眺めるように、二人の去っていった方を見ていた。

 

「思い出してたの?」

「まあな」

「そう。面影が重なるのかしら? 私は似てないと思うけど」

「俺もそう思うよ」

 

 「ただな」とマグナキッドモンははにかみながら続ける。

 

「眩しいのさ。ああいう関係を見ているとな。胸の奥のなんかよくわからねぇ部分をきゅっと締め付けられているような、そんな気分になるんだよ」

 

 ノワールは横目にマグナキッドモンの双眸をみる。その瞳はきっとこの景色ではない、ずっと昔にあった忘れることのできない光景を見ているのだろう。

 

「見た目によらず義理堅いわよね、あんた。もう何年前の話よ」

「何年前だって関係ない。『選ばれし子供』は俺の恩人だ。恩は返さねぇとだろ?」

 

 「あと見た目によらずは余計だっつーの」とノワールの頭を小突く。ノワールはそれを鬱陶しそうに振り払った。

 

「ああ、そういえば伝え忘れてたけど、最果ての町で“感染者”が出たわ」

 

「感染者」という言葉に、マグナキッドモンの表情は一転して苦々しいものへと変わる。

 

「こんなところにまで出たのか」

「そこまで不思議なことじゃないわよ。ここは世界から爪弾きにされたものが集まる場所だもの。これまでは私とブランで感染者が入らないようにしていたけど、それにだって限界はある。遅かれ早かれこうなることは分かってた」

「感染したやつはどうしたんだ?」

「私が殺した。ブランにそういうことはさせられないし」

「……そうか」

「なに? 私が気に病むとでも思ってんの?」

「そんな繊細なタマじゃねえだろ」

「失礼」

 

 ノワールがマグナキッドモンの脇腹を小突く。マグナキッドモンはへへっと笑ってそれを受け入れた。

 

「京介がこの世界に呼ばれたのって、そういうことよね?」

「だろうな」

「……やっぱり、このシステム嫌いだわ。私たちの問題を他所の関係ない人間に押し付けてるみたいで」

 

 

 ノワールを見下ろす。マグナキッドモンの腰ほどしかない彼女は、憮然とした表情で腕を組んでいる。彼女の怒りはいつだって優しいのだ。マグナキッドモンはそれを知っているし、だからこの場所に帰ってくる。彼女がその優しさに潰されないように。本人には絶対に言わないが。彼女は天邪鬼だから、そんな気持ちはきっと聞きたくないはずだ。

 

「だから、俺たちみたいなのがいるんだろ?」

「ふん」

 

 彼女は鼻を鳴らして、家の方へ足取り荒く歩いていく。

 

「食事の準備をしてくるわ」

 

 玄関へ入っていくノワールの背中を見送って、マグナキッドモンは笑う。

 

「やっぱり、お前は優しい奴だよ」

 

 

 

 

「京介! 部屋に入れてよ! ねぇ!」

 

 ドア越しに響くドラコモンの声を無視する。

 腹の奥から吐き気に似た気持ちの悪い感情がぐつぐつとこみあげてくる。

わかっている。これはただの八つ当たりだ。ドラコモンに落ち度はなかった。悪いのは感情に振り回されている自分自身だ。だというのに、ドラコモンの声を聞けば聞くほどに湧き出てくる苛立ちに振り回されて、冷静になることができない。

 

 

「ねぇ京介! 京介ってば! 京介!」

 

 ドラコモンがどんどんとドアを叩く。ドアにもたれているため背中にダイレクトに伝わる衝撃が鬱陶しい。

 

 どんどん!!

 どんどん!!

 どんどん!!

 どんどんどんどんどんどんどんどんどんどん――……、

 

「……ああ、もう!!」

 

 ついに我慢できなくなって立ち上がり、ドアを思いっきり開けた。

 

「おわぁ!!」

 

 ドラコモンは急にドアが開いたことでバランスを崩し、そのまま前のめりに転ぶ。

 

「えへへ、京介。やっと開けてくれた」

 

 ドラコモンが倒れたまま京介を見上げて、笑いかける。

 そうだ。これだ。この笑顔だ。この裏切られることないなんて万に一つも考えていないこの笑顔が、たまらなく癇に障るのだ。

 人は裏切る。どんなに仲が良くても、信頼してても、約束を交わしても、必ずいつか裏切る。そして、裏切ったことを裏切った側は正当化する。自分を守るために。傷つかないために。「仕方なかった」なんて言い訳をして。だから俺はずっと一人で生きてきたんだ。裏切られるのは怖いから。痛いから。

 だというのに、こいつは、この純粋さの塊のような生き物は、そんな京介の考えなんてまるっきり無視して土足で心の中に踏み込んで来ようとする。

 

「……おまえ、もう一回出てけよ」

「なんで!?」

 

 ドラコモンは目をウルウルさせながら京介にすり寄ってくる。一瞬毒気を抜かれそうになるが、顔を逸らすことで何とか踏みとどまった。

 

「ねぇ京介」

「……なんだよ」

「さっきはごめんね」

「……は?」

 

 思わず逸らした顔を元に戻した。なんでドラコモンが謝るんだ? 何に対して?

 

「僕ね、どうしても勝ちたかったんだ。でも、京介はもう戦いたくなかったんだよね」

 

 思考がフリーズする。戦いたくなかった? 俺が?

 

「……ちょっと待ってくれ。なんでそうなるんだ?」

「だって、戦いたくなかったから時間が欲しいって言ったんでしょ?」

「ちがう。俺は作戦を立てる時間が欲しかったから、マグナキッドモンと交渉しただけだ。戦いたくないわけじゃない」

「え? そうなの?」

 

 ドラコモンの表情に困惑が浮かぶ。

 

「だって、マグナキッドモンが条件をのまないと特訓を続けるって言ったら、京介わかったって言ったじゃん。あれって戦いたくなかったからわかったって言ったんでしょ?」

 

 ドラコモンの問いかけに、京介はそういえば一度もドラコモンに戦いを中断した理由を伝えていなかったことに気づく。

 

「……ああ、えっと」

 

 しょんぼりと肩を落とすドラコモンを見下ろしながら、京介は所在無さげに頭を掻いた。

 謝る、ほうがいいのだろうか。人とのコミュニケーションを避け続けてきたために、こういう時の対処法がわからない。……いや、それは言い訳だ。ただ心の踏ん切りがつかないだけだ。時間が経てば経つほど、ドラコモンの体が小さくなっていくような錯覚を覚えて、居心地の悪い気分になる。

 

 

「ドラコモン」

「? 何、京介?」

「その、あー、えっと……」

 

 言え。さっさと言え。畜生、喉が詰まって声が出ない。なんでドラコモンはあんなにさらっと謝れたんだ。謝るの難しすぎるだろ!

 そのとき、すっとドラコモンが京介の手を握った。

 

「大丈夫? 京介」

「――っ」

 

 ……何故だろう。さっきからおかしいことばかりだ。なんで今、俺は泣きそうになってしまったのだろう。ただ手を握られただけなのに、どうしてこんなにも感情が揺さぶられるのだろう。

 

「……なんで、お前はそんなに俺のことを信じられるんだ?」

 

 絞り出すように、京介が問いかける。不思議だった。ドラコモンの信頼が一体どこからくるのか、何をもって俺なんかをパートナーとして認めているのか。

何て答える? 京介の不安を他所に、ドラコモンはまるで当たり前のことを聞かれたかのように不思議な顔をして、

 

「? だって、京介は僕のパートナーだからね」

「……答えになってねぇよ。バカ」

「……京介、泣いてるの?」

「泣いてねぇ」

「京介?」

「バカ」

「なんで!?」

 

 ドラコモンの突っ込みは無視して、京介は静かに涙を落とした。その様子をドラコモンは京介が泣き終わるまで手を握りながら心配そうに見つめ続けていた。

 

「……ドラコモン」

「何? 京介」

「ごめんな」

「うん。僕もごめんね」

 

 そんなやり取りが、どうにもむずがゆくて、ドラコモンと京介はどちらともなくへへへと笑いあった。

 

 

 

 

 気恥ずかしさで死にそうだった。手を握られただけで泣くとか、普段一体どれだけ温もりに飢えているのだろう。もう一生引きこもって誰にも会いたくない。

 

「もう手は握らないの?」

「やかましい! 次言ったらぶっ飛ばすぞ!」

「えへへ、京介照れてる!」

 

 こいつ、調子乗ってやがる……!

 いろいろと言ってやりたくなったが、ひとまず頭を切り替えることにする。今は昼過ぎ、日が沈むまで恐らく3時間くらいか。いざとなれば日が沈んでからも練習はできるが、知らない場所で夜中に外にいるのはあまり得策ではないだろう。とにかく動ける場所に行こうと考え、ドラコモンと京介は家の裏手に出て作戦を練ることにした。

 

「まずはドラコモンに何が出来るか、それを教えてほしい」

 

 できることとできないことがわからなければ作戦も考えようがない。さっきの戦いでドラコモンが出した技はある程度は記憶している。

 最も印象に残っている攻撃は火炎弾。口から直径30センチほどの火の玉を吐き出す技だ。当たったところが爆発しているのを見る限り、ただの火の塊というわけでもないらしい。おそらくドラコモンの最も強い攻撃だろう。

 次にテイルスイング。直接攻撃だとこれがメインになる。一撃の威力は当たってないので図りようがないが、ドラコモン自身の話だと砂漠に立っている電柱くらいならへし折れるらしい。何それ怖い。

 あとは噛みつき、体当たりくらいだろうか。いずれも前者二つに比べれば決定打にはなりにくいが、今回に限って言えば当てれば勝ちだ。生かす方法もあるかもしれない。

 ドラコモンの足の速さは京介とほとんど変わらないか、少し早いくらいだった。パワーはドラコモンの圧勝。

 

「正面突破はどう考えても不可能だ。可能性があるとしたら不意を突くこと。ただ、どうやって隙を作る?」

「隙……、弱点を突く、とか?」

「弱点って言ってもなぁ……」

 

 おおよそ見ている限り、弱点らしいところなんて見つからなかった。或いは、それすら見つけられないほどに実力差があると考えた方が自然だろう。

 

「ドラコモンは何か気づいたことは」

「すっごく強かった!」

「……ああそう」

 

 やめよう。ドラコモンと話すとバカになりそうだ。

 

「そういえば、ドラコモンには何か弱点とかあるのか? 例えば、ここを攻撃されると嫌だって思う場所とか」

「僕? そうだなぁ。弱点じゃないけど、僕はここを触られるのは嫌かな」

 

 そういってドラコモンは小さい腕で後ろの方を指す。

 

「背中か?」

「うん。羽の間のところ。そこ触られると目の前が真っ白になって――」

「あ、この鱗だけなんか向きが逆だな」

 

 ドラコモンの話を最後まで聞かないまま、何の気なしに京介は一枚だけ逆向きについている鱗に触れた。

 

「あっ! ――」

 

 直後だった。ドラコモンの目が真っ白になったかと思うと、頭の角が真っ赤に光りだす。やばいと京介が本能的に身を離した瞬間、ドラコモンの口から轟っ!! という爆音とともに超高温の熱線が放たれ、砂漠を一直線に切り裂いた。

 

「……はっ!」

 

 ドラコモンが意識を取り戻す。熱線が走った場所は砂が熱と爆風で消し飛び、深い溝になってしまっていた。直線上にあった電信柱や標識は焼き切られ、切断面は赤熱している。目の前の光景が熱線の温度が尋常でないことをこれでもかと物語っていた。

 

「すげぇ……」

 

 京介は尻もちをついて放心することしかできない。

 

「京介、背中の鱗触ったでしょ?」

「へ、お、おう」

「ここ触られると意識が飛んで、気が付くと目の前が大変なことになってるんだ。だから触らないでって言おうとしたのに……」

「そ、そうか。すまん」

 

 そういえば、竜には逆鱗と呼ばれる鱗があると聞いたことがあるが、これがドラコモンにとっての逆鱗なのだろうか。伝承だと確か顎の下だったはずだが。

 だが、これは大きな収穫だ。発動するまでにややラグはあるが、うまく使えばマグナキッドモンを動揺させ、隙を産み出すことが可能かもしれない。

 

「ドラコモン」

「嫌だ」

「まだ何も言ってないんだけど」

「戦ってるときに触るつもりでしょ? あれ自分でどうなってるか分からなくなるから嫌」

「そこをどうにか!」

「いーやーだー!!」

 

押し問答の末、一発だけならと許可を貰うことに成功する。ドラコモンには申し訳ないが、これで勝つための算段がたった。京介は考えた作戦内容をドラコモンに伝えた。

 

「ーーって感じで行く。やれそうか?」

 

ドラコモンが頷く。

 

「よし。二人であの余裕面をぶち壊すぞ!」

「うん!」

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