- 第10話 仲間 -
「お、お前! なんでここに……」
今まさに大勢のヤンキー達に襲われる……そんな所にやってきたのは、俺の妹こと──夏海だった。
情けない所を見られて恥ずかしさ半分、不安半分ってところだが……。
「なんで……って、そんなの兄ちゃんを迎えに来たんだってば!」
「は、はぁ?」
「だ、だって……帰ってきたらお母さんから兄ちゃん倒れたって聞いてそれで迎えに学校まで行ったらもう帰ってるって言うし、家に戻っても帰ってきてないし……それで!」
「あ……そっか、そりゃあすまなかった」
まさか家に連絡が行ってるとは思っていなかったから、迎えなんて考えてもいなかったな。
いや、それにしても今の状況はまずいだろ……。
さっきから俺の胸ぐら掴んだまま喋らない男が非常に不気味だ。このまま殴っても反応ないんじゃないかってくらい固まってやがる。
「てか兄ちゃん何してるのさ」
「な、何してるんだろうな?」
「兄ちゃん、いじめられてる?」
「えーっと、どうだろう。見ず知らずの人達に襲われてるんだけどさ、いじめられてるって言うのかな?」
「バカ兄ちゃんっ!!」
ふぁっ。え、いきなり怒られた何故だ……解せぬ。バカ兄ちゃんなんて言われたの初めてなんだが、しかもこんな状況でだなんて夢にも思わなかったぞ。
「なんでやり返さないのさ!」
「いや、こいつら意外とつよ──」
「男だろ! やる時はやるんだよ! クズ! ノロマ! バカ兄貴!」
「──ッ!?」
こ、これは……夏海の大好きな芸能人が主演しているドラマ──Missエンジェルに出てくる主人公、恵子ちゃんのセリフだ。
作中第4話でもこれは、兄への激励の言葉として使われている。ただ言いたかっただけ……と言えばそれで終わりだが、地面に擦りつけられた俺の背中を押すには十分だった。
反撃に出ないでどうする! 妹の目の前では常にカッコイイ兄でいるんだろ! ならこんな七〜八人のヤンキーなんてすぐに片付けてや……。
「……か、可愛い」
──はっ?
「……や、やべぇ俺めっちゃタイプなんだが……」
「お、俺も……」
「あんな風にバカって言ってもらいてぇ!」
──これは、一体どういう状況だってばよ……。
だが、一つ分かったことがある。
こいつら……単純だ。
「そろそろ離してもらえるか?」
すると、ヤンキー達はコソコソと何かを話し始めた。
「……な、なぁもしかしてあの可愛い子ってさ」
「いや、おそらくそうだな」
「てことはさ、ここで俺らが取る行動って……」
「あ、あの〜?」
我慢ならず声をかけた。
「申し訳ありませんでした!! お兄様!!」
『申し訳ありませんでした!! お兄様!!』
胸ぐらを掴んでいた男が離してくれると、残りの奴らも後退し俺の前に横に並ぶ状態になった。
各々が頭を下げている。声を張り、町内に響き渡っているのではというほどの大声で謝ってこられたので、若干俺は引いていた。
「ええーっと、これはどういう風の吹き回しだ?」
「こんな可愛らしい妹様のお兄様だったとは知らず無礼を働いてしまったことを深くお詫び申し上げます!」
『します!!』
正直気持ち悪い。
「分かったからとりあえず顔を上げろ? そのヤクザの謝り方みたいなのはほんとやめてください」
「あ、ああありがとうございます!」
『ありがとうございます!!』
てかこいつら、妹様とか言ってなかっただろうか。……いや、まさかとは思うが、一応聞いてみよう。
「……なぁ、お前ら。もしかしてだが、うちの妹に惚れた……?」
「うっす! 是非ともお兄様の義弟にしてくだせい!!」
「あ、てめぇ! きたねぇぞ!」
「なに抜け駆けしてんだよ!」
「あぁ? やるかゴラァ!」
見事に予感は的中してた。
ここ最近自分の予感が当たりまくってて、占い師目指せるレベルな気がする。
しかし、一兄貴としてはちゃんとしてる奴にしか妹は渡せないのだから諦めてもらうしか……
「わりぃがお前らに妹は渡せ──」
あれ、待てよ?
これってつまり、今こいつらの主導権を握ってるのは……俺?
……あんまり気が乗らないけど手段は選んでられないよね。ねっ。
「妹は渡さん!!」
「そ、そんな!」
「だがしかし、条件をクリアできるのなら考えなくもない!」
「条件とは!!」
「誠実で将来性があり、なにより……人のために命を賭けられる奴! それが条件だ!」
この中にそんな奴がいるか!!
強い意志でそう宣言する。後ろの方で夏海が何やら言っているが無視してもいいだろう。
誰も手を挙げない中、たった一人動いた奴がいてすぐに怖気づいたのか手を下げてしまったが、俺はその姿を逃さなかった。
そしてその一人に感化された近くのやつが手を挙げ、一人また一人と手が空に伸びる。
「そんで夏海、通報はしなくていいぞ」
「ば、バレてた?」
「突然携帯いじり始めたらそう思うに決まってるだろ」
我が家の両親達はどうにも心配性なため、すぐに携帯を持たせようとする。普通なら危ないとかそういうので、高校生からとか大学入ってからとかまで買ってもらえないものだが、まぁ……要するにGPSに惹かれたのだ。
ということでもちろん夏海も持っている。そして明らかに番号を入力しかけているところだった。
「こいつら多分根は良い奴だ」
「ほんとかなー、兄ちゃん襲ってたじゃん」
「実際には襲われかけてたな。でも兄ちゃんがやられるわけないだろ」
嘘です。やられます。ボッコボッコです。
「さすが兄貴っす! まさか手加減してくれてたとは……」
「ま、まぁな。てか……お前どこかで見たことあるんだよな……」
「兄貴と一緒の中学っすよ! 一年でよく雑用やらされてるっす」
「あぁ! 思い出した思い出した俺と同じ居眠り常習犯の!」
「うっす!!」
確か何度か雑用させられてたのを見かけたことがあった。一年に活きのいい奴が入ってきたとうちの担任が不気味な笑みを浮かべてたのを思い出した。
その時は髪が黒色だったから、今の茶髪じゃ覚えがないのも当然か。
「髪を染めるのは校則で禁止になってはないが、若いうちから染めてたら将来ハゲるから気をつけろよ?」
「ああ兄貴! 心配してくれるなんて……ありがとうございます!」
兄貴と呼ばれるたびに背中の辺りがムズムズとする。人生で自分が呼ばれるなんて思ってもみなかったので、少し嬉し恥ずかしい気持ちだ。
「自分、この中学一年チームのリーダーの
騒がしい奴がこれで二人目か……。他のやつも合わせたら九人。子供ながらに考えた人生設計ではこうはならなかったぞ。
もっとこう……普通の人生だ。
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「で、襲いかかってきた奴を仲間にした勇者であったとさ。めでたしめでたし……」
「誰が勇者だ誰が」
次の日、昨日起こったことを報告するべくアキと共に羽沢珈琲店に来ていた。
「うおぉ! ここが兄貴の行きつけのお店っすか」
「そして、その時仲間にしてほしそうにこちらを見ていたモンスターが彼?」
「神野武っす!」
「おお、これまたキャラが濃いのが来たもんだ」
「お前も似たようなもんだろ……」
まるでアキが二人になった気分だ。でも悪いやつじゃないし、アキが会ってみたいと言うので結果、三人での来店になった。
「お待たせしましたっ。ミルクココア三つです!」
「ありがと、つぐみちゃん」
「いえいえ。ごゆっくりしていってください先輩っ♪」
一礼してまた新たに接客しにいったつぐみちゃん。
ふと、同席してる二人を見ると妬みと尊敬の眼差しを向けられていた。解せぬ。
「くっ……友希モテるもんな……」
「兄貴さすがっす!」
「どういう反応返せばいいんだよ」
「羨ま爆発四散してどうぞ」
「最近どうも俺への対応が変わってないか?」
「慣れてきた証拠だな!」
そう言えば俺もアキと軽口を叩くようになったような。慣れってのは恐ろしい。
「くぅー! 自分も兄貴とそんな仲になりたいっす!!」
「そうかそうか、その為にはまずオレと親友になることが条件だぜ! 親友!」
「うっす! 頑張ります!
えっ、今あきらかに親友って認めてたぞ。アキの中での親友のボーダーラインがどうにも理解できないでいる現状。
ミルクココアで喉を潤し、
「さて、そろそろ本題に入りたいんだが……」
「ああそうだったな」
「本題ってなんすか?」
「武に一つ聞きたいことがあるんだお前らのグループを指揮してるボスの事だ」
だいたいの予想はついてるが、確実な保証がないことには行動にも移せないし、どこを陣取ってアジトにしてるかも分からない。
聞き出すなら相手側から聞くのが一番手っ取り早いだろう。
「自分らのチームを兄貴の所に向かわせたのは、ボスで間違いないっす。あの人は自分らも合わせた三つのチームを指揮してるっす」
「何もんだよ……」
「下手すれば現代のクラスカーストのてっぺんよりすごいことしてるな」
一チームにどれだけの人数がいるかは定かではないが、武のチーム人数を見る限りは他も八〜十くらいと思っていいだろう。
「ボスも含めた全員が自分らと同じ中学生で、一年から三年までいるっす」
「武たちはその一番下ってことか?」
「そうっすね。一年は俺らだけっすから」
つまり同学年もいるということか。同じクラスの奴がいたとしたらいつも監視されてたことになるじゃないか。
武の例があるから無いとは言いきれないのがまた辛い。
「そいつら無償でそのボスとやらに力貸してんのか?」
「それは……」
「女、だろ?」
「は?」
「よく、知ってるっすね兄貴」
やっぱあの時に聞いたヤンキー共の会話は、この界隈の話だったか。
「前に一度な……」
「どういうことだよ。女って」
「ボスが取っかえ引っ変え女と付き合っては捨てて自分らに流してるんすよ」
「ほんとに中学生かよそのボス」
「……くだらねぇ」
静かにふつふつと煮えたぎる胸の内。付き合っては捨てるというまるで、女子を道具としか見てないその腐った根性に腹が立つ。
「でもほとんど遊んでるような女子ばっかなんすけどね」
「今どきの女子中学生ハンパねぇな。尻軽ばっかかよ」
「遊んでるのはどっちも一緒か」
「でも突然、女子と付き合わなくなったんすよ」
「なんでまた」
「ある女を狙ってる……って言ってたっす。それもうちの中学の女子を」
なるほど、確信にたどり着いたよ。
「うちの中学だ? うちで可愛い子って言ったら……二年のピンク髪の子とか、黒髪で大人しそうな子とかいるけど……」
「アキって意外と知ってるんだな女子」
「まぁな。あとは……委員長だな」
「あっ! その委員長ってのよく聞いたっす!」
武のその発言で、これまでの色々な事が路線のように繋がっていった。
「武、ありがとう」
「えっ? え、えと……兄貴の役にたったなら良かったっす!」
「何か分かったのか? 友希」
「ああ、とっておきの──イケメン狩りを思いついた」