恋は秘密から始まり   作:イチゴ侍

11 / 16
第11話 見えぬ光

 - 第11話 見えぬ光 -

 

 

 

 男三人組でのお茶会という名の会議から、約一週間。

 あれからこれといって頻繁に集まることもなく、アキには前に言ったとおり会う回数を減らしほとんどを携帯のメッセージでおこなっている。

 

 そして武は、あまり俺と会っていると相手側からの情報が手に入らず、疑われる可能性も出てくるので今までどおりの関係でいる。

 そう武に言った時は相当落ち込まれたが、今度夏海と話す機会やるからと伝えるとそりゃあもう喜んでいたのなんのって……。

 

 悪いやつじゃないから案外、夏海と仲良くなったりしてな。

 

 

 ともあれ、あいつが何も行動を起こさず時が流れるわけがない。

 

 あいつが動くとするなら……きっともうすぐだ。

 

 決着つけようか。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

「ったく、何でこんなこと……」

 

 放課後。

 今日も今日とて居心地の悪い学校に来て、居心地の悪い視線をいくつも浴びたせいか肩も異常に重い。

 そして今、俺はただでさえ一緒にいてはまずい人と先生から運び屋を頼まれていた。

 

 

「仕方ないでしょ。先生からの指名なんだから」

「絶対おかしい……」

「ぶつくさ言わないで運びましょう」

「へーい。てか、このダンボール何入ってんだろ?」

「化学の実験道具と言ってましたね」

 

 少し揺らせばガチャガチャと鳴り出すので慎重に運んでいるが、ワレモノ注意の文字が俺をさらに慎重にさせていた。

 

 

「まぁ、化学準備室に運べって言われてるからそうだろうけども……こんな重要なもの普通、生徒に運ばせるかね?」

「遠藤君だけじゃ不安だから私がいるんです」

「……クラスのヤツらに反対されてただろ」

「聞いてたんですか……」

 

 帰りのHRが終了したその後、掃除中に委員長が先生から頼まれて何故か俺も指名された。

 もちろんその場には俺と委員長以外にも女子が数人掃除していて、そこで例の件で委員長が危ないと思っての行動か、何人かが俺の代わりに自分がやると名乗り出したが、男の力が欲しいと先生が言ったことによりその話は終わった。

 

 そりゃあもう女子達からの威圧の目は怖かった。先日の不良達に絡まれた時よりも怖かったさ。

 

 

「ま、もう慣れてきたからいいんだけどさ」

「……私の気持ちは無視ですか?」

「委員長は気にしなくていいの。別に俺がどう思われようといつものように委員長やってればいいんだから」

「私はそう割り切れるほど器用じゃないです……」

「知ってる」

 

 クラスをまとめるなんて大義をやれるわりには、自分のことになると不器用。それが委員長であり、人を惹きつける力を持ってるが故にみんなからの支持も厚い。

 

 俺が他の女子から敵意を向けられるのも納得だ。もし俺が女子達の立場で委員長が危ないヤツと二人にされるってなったら殴りかかってるだろうから。

 

 

「……私がもっと強ければいいのに」

「ん? どした」

 

 俯き立ち止まった委員長に近寄ってみる。

 何か呟いていたようだが、俺の耳には届かなかった。

 

 

「なんでもありません。先を急ぎましょう」

「お、おう」

 

 女性とはなんともまぁ難しい生き物なのだろうか。男は常にストレート一直線みたいな生き方ができるが、女はストレートの他に変化球などとその場その場で使う武器を変える。

 日頃から神経を研ぎ澄ませているだろうから、疲労も男の何倍もあるのだろう。

 

 おそらく今も委員長は何かと戦っていて、俺の想像もつかないようなことで悩み苦しんでいる。

 

 

「あんま無理すんなよ」

「……?」

「いや、なんでもない……」

「変な人ね」

「? そんな風に言われたの初めてだ。言うほど変か? 俺って」

 

 そういえばよく「年相応のことしなさい」とか親に言われたっけ。本人としてはかなり普通の子どもやってるつもりなんだけどな。

 これに関しては明らかに周りの影響があると踏んでるが……。

 

「ふふっ……変ですよ」

「……どこが」

「あ、決して馬鹿にしてるわけじゃないですよ!」

 

 もしかして怒ってると思われた?

 

 

「不思議……と言った方があってるわね。同い年って感じがしないのよ」

「大人ってこと?」

「上手くは言えないけど……」

「ならいいよ。いつか言葉にできる日がきっと来るだろうからさ。今は……これを運ぶことに専念しよう」

「そうですね」

 

 焦っていたって生まれるのはどれも欠点だらけの品ばかり。手に職をつけようとする人たちに欠かせないのは、集中力とそして突拍子もない発想力だと聞いたことがある。

 

 もしかしたら委員長もどこかで職とはいかなくても、何か芸術的な物に触れるかもしれない。それは絵かもしれないし、音楽かもしれない。

 

 その時、俺はそう感じたんだ。

 

 

「しっかし、委員長も言葉に詰まることあるんだな」

「私だってありますよ。まだ“未熟”ですから」

「へー」

「……“どこ”を見て頷いてるんですか……あなたは」

 

 これは謎の力が働いたからだ! などと苦し紛れな言い訳から、まさにブラックホール! とかいうもはや理解不可能の言い訳まで思いついたが、口にしたら委員長の両手で抱えられたダンボールが降ってくる予感がしたのでここは素直に、

 

 

「ごめんなさい」

 

 決して未熟って言葉に反応して女性の胸を凝視したわけではない! いや本当に……多分……おそらく……。

 

 

「ほんとに……困った人です」

 

 委員長は呆れ笑いのような表情を浮かべていた。

 それがどういう意味を含んでいたのか、知る由もなかった。

 

 

 こんな時間がずっと続けば……そう思えるほど俺は溺れていた。この甘い沼に……

 

 

 

 

 偽りの時間に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、紗夜に……遠藤君じゃないか」

 

 

 友輝が来るまでは……。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 ──もしかして先生の手伝いかい?

 

 

 ──え、ええ。これから……

 

 

 あいつは、何故こっち()を見る。

 

 

 ──そうかそうか、僕が変わろっか?

 

 

 ──いいえ、これは私が頼まれたことだし私がやるわ。

 

 

 ──流石は委員長だね。紗夜。

 

 

 何故、ところどころでこっちを見る。こっちの態度を伺う……。

 

 少し離れたところからでも嫌というほどわかる。委員長が照れくさそうに微笑む姿が、嘲笑う表情を仮面に隠して笑顔を浮かべるあいつが。

 

 

 ──友輝君は……

 

 

 そうやって決定的な差を見せつけたいってことか?

 

 お前はこの上を目指せるのか、できるのか……って。

 

 二人が話す内容なんて俺には聞こえない。ただ、ただひっそりと身を隠す。息を殺す。──獲物を捉えた肉食獣のように。

 

 

「……それで、なんで君が紗夜と一緒にいるわけさ」

 

 なんだ、気づいてなかったのか。

 

 

「え、遠藤君はその……手伝ってくれてたのよ」

「そうなんだ。あれだけのことを紗夜にしておいて……おめおめと」

「誤解よ! あれは遠藤君がやったんじゃないわ」

「紗夜は黙ってて」

 

 委員長との討論の末に、近づいてくる友輝。方や害虫駆除。方や狩猟。虫けらくらいにしか思っていないであろう相手は、俺の前に立つ。

 

 

「すまん、急がないといけないんだ」

「おい」

「これ案外重くてさ、早いところ用事済ませちゃいたんだわ。だからさ避けてくれ」

「……ッ!」

 

 強引に襟を捕まれ引っ張られてしまった。男と顔を近づけ合う趣味は俺には無いんだがな……。

 

 

「遠藤君……」

 

「……」

 

「君、紗夜のことが好きなんだろ?」

 

「…………」

 

「さっきの雰囲気からして分かったよ。でもさ、勝ち目ないのに恋しちゃうなんて……君も可哀想だねぇ」

 

 煽りのつもりだろうか、友輝は口を閉じる気は無い。

 

 

「今に見てるんだね。君が好きになった子がめちゃくちゃにされる様を!」

 

「……っ」

 

「僕は少々変わっていてね。純愛とか好きじゃないんだ。もっとこう血肉滾るようなバッドエンドな恋が大好きなんだ」

 

 耐えろ……。

 

 

「そうだなぁ……紗夜は強い子だから、徐々に堕としていくのもたまらないねぇ。でも紗夜はもう僕にぞっこんか!」

 

「……うるせぇ」

 

「惚れて惚れて惚れさせまくって依存させるまで行かせた後に捨てるのもまた一興かぁ〜? ま、結局のところ紗夜はとことん絶望させて捨てるんだけどね!」

 

 もう喋るな……

 

 

「そうだ、その後に遠藤君にあげるよ! いいねいいね、壊れた好きな人とどこまで行くのか気になるな〜! なぁ!! 遠藤君ー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 刹那────鈍い音が廊下に響く。

 まるで時が凍りついたような、そして小さな箱に閉じ込められたような圧迫感。

 

 俺に感じられたのはただ、留まることのない一時の怒りと人肌の感触だった。

 

 

「……っ」

「こ、こいつ……殴りやがった」

「────友輝君っ!!」

 

 殴られた勢いで腰を地面についた友輝、そこに駆け寄る委員長。俺はたった一瞬の感情だけで勝負を棒に振ったんだ。

 

 負けた。

 

 あんなくだらない挑発に……俺は乗ってしまった。こいつは腐ってる。救いようがないほどに頭がいかれてる。でも傍から見たら、俺も突然人を殴る頭のいかれた奴だ。

 だからこそ、これはあいつの策略だったんだ。

 

 

「おい! 何の音だ!」

「ご、ごめんなさい。ちょっとやんちゃしちゃっただけで……」

「そ、そうなのか……? って、おい! 頬が腫れてるじゃないか! やんちゃするのはいいが加減ってものをだな……まぁ今はいい。大沢を保健室に連れてってくれ氷川」

「は、はい……」

 

 担任が来てくれた。いや、呼んだんだ。

 廊下に響き渡るようにあいつは「殴りやがった」と叫ぶように口にしていた。それを偶然近くで聞きつけた先生が来てしまった。

 ついに俺は運にも見放されたか。

 

 

「……遠藤」

「せ、先生……」

「話は後で聞く。今はこれを運ぶぞ」

「……はい」

 

 俺、このダンボール片手で持てたんだな。

 

 

「俺が二つ持ちます」

「持てるか?」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 

 

 

「順調だ……」

 

 男は不敵に笑う。殴られた頬の痛みなど苦でもない。それほどまでに次に待つ出来事が楽しみで仕方なかった。

 

 

「……友輝君?」

「ん? どうしたの」

「何か言わなかった?」

「う、ううん! 何にも言ってないよ。それよりごめんね付き合わせちゃって」

「……大丈夫よ」

 

 

 とても長く感じた。最初は単純な使い捨て女共で楽しむだけの毎日を過ごしていたのに、いつしかそれでは飽き足らず長く味わうことを思いついた。

 

 その標的にされた“二人組”には申し訳ない……とも思わないがささやかな同情はさせてもらうよ。

 

 

 遠藤友希────そして氷川紗夜。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 翌日、いつものように学校に登校してきた俺を待っていたのは……

 

 

 

 

 

 黒板に書かれた俺への暴言。

 そして、汚された机と────バケツいっぱいの水を被り、びしょ濡れの委員長だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。