- 第14話 仲間がいるから -
「くっ……」
「おいおい、遠藤君なんて顔してるんだよ。まるで
大沢友輝という男は、どうやっても俺より一枚うわてだったらしい。想定していなかった……わけではないが、そうであると断言したくはなかった。
しかし、現実は非情だ。
「グルだった……ってことか」
「……悪いっすね。これも命令なんで」
「ははっ、いやぁーさっきの遠藤君の顔を見れただけでこの作戦は成功だよ! いつもいつも平常心な君が動揺する様が見たかったんだぁ〜」
「友輝……お前ずいぶんと友希が好きらしいな。そっち系だとは思わなかったぜ」
「明君さ、自分の状況を改めて自覚した方がいいよ? あ、ちなみに君を囲んでる先輩方はみんなサッカー部で蹴りには自信があるらしいんだ」
サッカー部だという男どもはアキと徐々に距離を縮めていく。俺の位置からでは、男達の壁によって姿が見えなくなった。完全に遮断された状況だ。
あれでもアキは、ヤワな鍛え方はしていないため大丈夫だと信じたいが……数はざっと六、七人。それも全員サッカー部となると、当たりどころによっては危ない。
いくら友輝だろうと殺しはできないはずだ。あいつだって馬鹿じゃない。寸止めか、酷くて瀕死ギリギリで止めるはず。
「そうそうその顔だよ。やっと僕の思い通りになってきたね……」
「どういう意味だよ」
「君はいつだって僕の思い通りには
帰り道で襲われた時の事だろう。しかし予想外だ。俺の中であれもあいつのシナリオだと踏んでいたのだが、結果は完全に違う道にずれていた。
「……君が失敗するから────ッ!!」
友輝の突くような蹴りは、武のみぞに入り地面にうずくまる。
「武! くっ……友輝」
「仕事を失敗した使えない部下に説教するのは当然だろ?」
「お前が武にやってるのは説教じゃねぇよ。ただの暴力、八つ当たりだろ」
「少し黙ってくれよ……なっ!」
転がっていた鉄パイプを手に取り、横腹に一撃入れてきた。痛いなんて弱音は吐かなくとも、体がもう限界だと悲鳴あげていた。
やられっぱなしは癪だ。
手足が動かなくともと、精一杯の抵抗として友輝を睨みつける。
「おお、怖い怖い。そんな殺意のこもった目を向けないでくれよ。君を縛っておいて正解だったな。もし、縛られてなかったら激怒して突っかかって来ただろ?」
「……当たり前だろ。この
「ふっ、できたらな」
挑発は無視しろ。やられたら倍にして返すと心に刻め。どんな逆境でも道は必ずある。
────チャンスを伺え。
「武。君に最後の機会をあげるよ。失敗を取り返すまたとないチャンス……ってやつだ」
「何を…すれば……いいんすか」
「彼を────刺せ」
「……っ!!」
「そう驚くことないよ。ああ、刺すための道具が無いからかい? それならほら」
軽々とポケットから取り出したのはカッターナイフだった。それも学校の名前がシールで貼られた物で、文化祭などで貸出されたりする。
投げられたナイフは軌道を描きながら、武の足元へとたどり着いた。カッターナイフと言えど、それを殺害の道具にしようとしてるせいか、恐怖を抑えきれず一歩後ずさる。
「それで遠藤君を刺すんだ。もちろん君がね。なに、一応君には彼らの中に混ざってスパイを頼んだ。そこで情でも移って裏切られたら困るからね。誠意を見せてくれ、僕への服従を誓うんだ」
「へぇ、武をスパイに……ねぇ。で? 何か成果でもあったか?」
「……君がよく知ってるだろう。まさか僕と相対するっていうのに
「……」
「ったく、僕も舐められたもんだよ。せっかくのスパイが台無しだ。……おい、いつまで待たせる気? 早くしてよ」
「うう……っ!」
震える指先をカッターナイフへと向かわせる。何度も何度もむせかえりながらやがてナイフを手に取ると、その刃を剥き出しにした。
「わ、悪かったっすね……で、でも……あ、ああんたが悪いんすよ。騙されるんだ……から」
「俺は楽しかったぞ。騙されてるとは思わなかったけど、仲間に入れてくれと言われた時は心底嬉しかったさ」
「何を……」
「あん時の武の目がキラキラしてたから」
「…………」
「こいつは悪いやつじゃない。もう一人馬鹿正直な良い奴が増えたと思ってな。ちなみにあと一人は、そこでどうなってるか分からないアキの事だけど」
「今さら何を言っても無駄っす……」
「もちろん承知の上。だからよ────」
「────刃を出したからには、命賭けろよ?」
「……ッ!!」
「それは脅しの道具じゃないって言ってんだよ────なーんちゃって。言ってみたかっただけだ。さっ、殺るならやれよ」
緊迫した中で漂う緊張の空気。ここからは無音の支配下。何かを発せば首元に添えられる死神の鎌。気を抜けば一瞬で空気に呑まれてしまう。
一瞬たりとも目を逸らさず、ただ1点……武の目を、その震える手首を捉える。
その刃の先が真っ直ぐ向かってくる時、それは俺の死を意味する。だが────
「殺るための勇気があるなら……な」
目の前で崩れ、地に伏した武。それが示すものは生だ。生と死で揺れていた天秤は、長くも短い時の中で生に傾いた。
「何してるんだよ? 立てよ」
「ずびまぜん!!! 自分にはできまぜぇん!!! 俺にとって友希さんは!! 兄貴だから!! 大切な友達だから!!!」
「こいつ……!」
「おい」
「んだよ!」
「友輝……いや、お前……本当に委員長のこと、なんとも思ってないのかよ。本当に自分の欲求を満たすだけの道具としか思ってないのかよ」
「あぁ? 当たり前だろ。道具! 違うな……性処理とか言った方が合ってるかー?」
「はぁ……よくわかったよ。それが
────賽は投げられた。
さぁ、立ち上がれ。最高の仲間たち、全てを任せられたその責務は果たした。
一人の女のために命を賭けてくれ!
「何言ってんだお前……おい、お前ら! さっさとこいつを────」
「が────っ!?」
バタバタと倒れる巨体。崩れていく壁。その先に立つ男はたった一人。
「俺の見張りは全員くたばったか……隊長殿からの合図が遅いせいで何人か意識ねぇぞ! どうしてくれんだ友希!」
「俺が知るか!? てか強すぎね? お前何者……」
「え? いや、てっきり俺の力を知ってるから任せてくれたのかと」
「なわけないだろ。囮役にと思ってた」
「そかそか……はぁ!? おま、それが親友への言葉か! 覚えとけよ……」
「あとが怖い」
不気味な笑みを浮かべるアキがとてつもなく恐ろしい。どちらにせよ待っているのは死か……。
「しっかし話聞いてたけどずいぶんと救えねぇな友輝よ」
「な、な……こんな……嘘だ」
場に不似合いなやり取りをする俺たちだが、その反対に友輝は大きく動揺していた。
だが、それだけじゃ終わらない。
「────頼んだぞ! お前ら!!」
伏せていた武が突如叫ぶ。
『リーダー! 待ってました!!』
上から聞こえるその声と共に、俺の両手を吊るしていた鎖が落ちてくる。ついに自由を取り戻した両手首は、酷く痺れていた。
「自分たちが何したか分かってんのか……!!」
「お、俺たちはリーダーに従っただけですから!」
「そしてそのリーダーは、隊長……もとい兄貴に従ったっす。よし、おめぇら! 安全なうちに逃げとくっす」
「リーダー! ご武運を!」
「おうっす!」
早々に退散していく武の仲間たち。この中で一番動きやすいあいつらだからこその働きだ。
「敵にバレず、味方にわかりやすく指示をするのはなかなか難しいものだな」
「指示だと? そんなのは報告には…………タケル!!!!!!!!」
「兄貴がなんの作戦もなしに敵地に踏み込むわけないっすよ。そして兄貴、素晴らしい作戦開始の合図でしたっす!」
「なかなか難しかったぜ?
「……ッ!!」
ただ煽られた。あいつにはそういう認識だったであろうこのワード。それを合図だと知るはずもなく、警戒されずに始めることができた。
「よし、それじゃーネタばらしの倍返しターイム!」
「よっ!」
「まず、俺がここに来る前。お前確か、俺が委員長に見捨てられて来た……とか言ってたろ? なわけねぇだろが」
「は……?」
「逆に助けてくれたよ。お前が差し向けた小賢しい悪戯からさ」
委員長の身を呈した救い。あれが少なからずここに足を運ぶための力、支えとなっていた気がする。
一人そのまま保健室に置いてきてしまったが、怒ってるだろうか。
「そしてなぜ、お前がこいつらに裏切られたか」
「決まってる……こいつらがバカで有利不利も知らない脳な────」
「お前だよ能無しイケメン野郎」
「僕のどこに不完全な部分があると!」
「脅迫、力、権力……そんなので集った仲間なんて着いてきてくれるわけないだろ。気持ちだよ気持ち」
「兄貴! 鍵ありました!」
やってきたのは、最初に俺を鎖に繋げた三年の先輩だった。近くによってきた先輩は、無言のまま手首についた手錠の鍵を開けてくれた。
「ありがとう」
「いや、どうってことない。それよりすまんかったな後頭部」
「ああ、もうちょい手加減できないもんかねぇ?」
「それで意識失ってたなら俺は裏切ってたぜ?」
「うっわ、えげつないねー先輩」
後頭部への打撃から鎖付けから話への参加まで全て、先輩による演技だった。この部分の演技について、俺は一言も話していない。つまり、友輝の作戦で動いていたわけだ。
これが原因で、演技だなんて夢にも思わなかったのだろう。
「あんた……何してんだ!」
「俺はもうお前の側にはつかない」
「なんだと!」
この局面で次々と兵士を失っていく。それはこいつにとって最高に屈辱的かつ痛手だろう。
「なんでだ……どうしてどいつもこいつも……!」
「簡単だよ。どちらにつくのが利口か判断しただけだからな」
「どういう……」
「ここには今、先生が駆けつけている」
「……っ!」
共犯者となって先生に突き出されたくなければ協力しろ。それが先輩に俺が出した提案だ。もちろんそれをすぐに受けられるほど信頼がある訳でもないし、確実性もない。
ならどうやったかと?
拳で語り合ったさ。古来より長く続く、単純明快な決着のつけ方。
「今朝、お前が俺にちょっかいをかけなかったら先生も確信に至らなかっただろうさ。そしてここにも来なかった」
「……俺が手助けしたとでも!? ……けるな……ざけるな……僕が! お前みたいなやつに! 負けるわけがないんだァ!!!」
激怒する友輝は、武が捨てていたカッターナイフを拾いその刃先を俺に向けて一直線で突き進んできた。