恋は秘密から始まり   作:イチゴ侍

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最終話 恋は秘密から始まり…そして

 

 - 最終話 恋は秘密から始まり…そして -

 

 

 

 

 

 二羽の小鳥が木に止まる。何を話しているのかは分からない。

 

 その木には、小さな赤い実が実るようで、もしかしたらそれをどちらが多く取れるか競うのかもしれない。

 

 いや、もしかしたら仲良く分け合おうとしているのかもしれない。

 

 はたまた、たわいのない世間話でもしているのだろうか。

 

 外の世界はとても楽しそうだ。きっと俺もこの境界線さえ無ければそちらに行けるのだろう。

 

 

 変哲もないガラス窓。柔らかくも固くもない真っ白いベッド。シミのない天井。頭の上にはごちゃごちゃと色んなボタンの数々。

 

 ────俺は入院している。

 

 

 あのあと救急車に運ばれた俺は、治療を施してもらった。命に別条はないにせよ、傷が残ってしまうのは少々嫌だった。

 しかし、応急手当のおかげで出血量も少なからず抑えられて退院もすぐにできるそうだ。

 

 そして友輝、並びに他の奴らは警察に連行された後、正式に停学、友輝は退学を突きつけられたらしい。

 

 アキに聞いた話によると、その情報は瞬く間に学校中に広まり、あれほど友輝を慕っていた女子達はコロッとした態度で友輝への愚痴をこぼしまくっていたとか。

 女ってのはどいつも怖い生き物だと揃って口にしたのはつい笑ってしまった。

 

 

 ここに入院してから一週間。もう十分に治っているとは思うが、いつまた傷が開くか分からないから安静にする必要があるため、現在も入院しているわけだ。

 

 

「おーっす! 暇そうにしてそうだから来たぞ〜」

「もう少し静かに入って来いっての。ここ病院だからな。アキ」

 

 アキはよくお見舞いに来てくれている。いや、もしかしたら毎日来ているかもしれない。

 

 

「分かってるって。ほら、今日の分のノートだ」

「あぁ、ありがとう。馬鹿でも流石にノートを写すくらいはしてるんだな」

「おう一言余計だっての! 俺だってここ最近は頑張ってるんだからな」

「やっと高校受験が視野に入ってきたか」

「もう中学二年も後半か……」

「いろいろあったな」

 

 と言ってもほとんどが一人の男に振り回された思い出ばかりだけどな。

 

 黙々とノートを写していると、足りないものがあった。

 

 

「なぁ、今日って数学なかったか?」

「あったぞー」

「ならなぜ数学のノートがないんだよ」

「えっ、ああ……」

「お前まさか……自分が数学できないからって書かなかったな?」

「ソ、ソンナコトナイヨ?」

 

 裏返る声は白状したと捉えていいだろう。

 しかし困った。これでは写せない。頼む相手を間違っただろうか……いや、まずアキ以外に頼める人がいなかったわ。

 

 

「あぁ、そう言えばそれはある人に頼んでたんだったー」

「なにニヤニヤしてんだよ。気持ち悪い」

「俺に感謝してほしいくらいだねぇ〜お前も、あっちもさ」

「誰に頼んだんだよ……まさかあの友輝LOVE集団に投げたのか────!?」

「『元』な? それ戻ってきた時に言ったらかなり怒られっから気をつけろよ」

 

 なんでも自分達にとっての黒歴史だとかなんとか。人の黒歴史ほど面白いものはない訳だが、めんどくさいことになるのは嫌なので関わらないことにしよう。

 でも一つ言いたいことは「見る目がなかったな」だ。

 

 

「んー、もうそろそろ来そうだし俺は退散するとしようかな」

「だから誰なんだよ」

「来てからのお楽しみだろ! ……もしかしたら違う意味でお楽しみかな? むっふっふ」

「動けさえすればすぐにでも殴ってやりたい……」

 

 そんな俺の気持ちは叶うことなく、アキは俺が写し終わったノートを回収して、すぐさま帰っていった。

 

 俺は心底モヤモヤしっぱなしだ。

 

 

「変なやつ来たらどうすっかな……」

 

「……誰が変なやつですか」

 

 あまりにも入院が長かったせいか、ついに幻聴が聞こえるほどになっていた。

 こんなところであの人の声が聞こえるなんて……

 

 

「紗夜……?」

「元気そうね」

「おう、もうすぐにでも退院できるんだけどな」

「ダメよ。ちゃんと治してからじゃないと委員長として許しませんから」

「厳しいっすね……」

「……あなたが心配だから言ってるんです」

 

 これを本心で言うからこの人はずるい。

 

 

「紗夜にそう言われちゃったらきちんとしなきゃな」

「私はあなたのお母さんじゃないんですから……」

「……」

「な、なんですかその目は! すぐに忘れてくださいっ!」

「どうしよっかなー?」

「友希さーん!!」

「しーっ、ここ病室」

「あっ」

 

 よく話すようになってからか、紗夜のポンコツ具合がとてつもなく増した気がする。

 ちなみにだが、紗夜が俺のことを『友希くん』と呼んだのはあの一度きりで、それからはずっと『友希さん』になった。少し残念な気もするが、他の人に対しても『さん』を付けるようになっている。

 

 

「あの、今日はこれを渡そうと」

 

 カバンから出したのは一冊のノートだった。

 

 

「峯岸さんから数学のノートを友希さんに見せてほしいと頼まれたのですが……」

「あぁ、なるほど。……アキの奴そういうことか

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。ありがとう! 写させてもらっていいか?」

「もちろん」

 

 数学のノートを受け取り、写し始める。病室には復帰してから授業についていけるようにと勉強セットが揃っている。

 

 隣では紗夜が椅子に座り本を読んでいる。

 

 とても美しい。同年代の女子に言うには少し照れくさい表現だけど、彼女にピッタリの表現をこれ以外見つからないのだ。

 ただ本を読んでいるだけなのに、それだけで絵になる。

 

 

「……さん? ……友希さん?」

「へっ? な、なんだ……?」

「いえ、私の顔をじっと見ていたので何かついてるのかと……」

「すまん、見惚れてた」

「なっ────!?」

 

 するとバタンと読んでいた本を閉じ、俺からノートをかっさらうと立ち上がって病室を出ていこうとしていた。

 

 

「さ、紗夜? ど、どうしたって言うんだ」

「知りません!」

「え、えぇ……」

 

 何か怒らせることでもしただろうか……。女性というのはとことん分からない。

 

 

「とにかく、私はもう帰り……」

 

「監視。するんじゃないの?」

 

「それはもう終わったことで……」

「なら、紗夜の新しい秘密でも喋っちゃおうっかな〜」

「そ、そんな! ちゃんと周りは確認したし、友希さんで────あっ」

 

 …………ノーコメントで。

 

 

「……」

「あの」

「…………」

「聞かなかったことに……」

「………………」

「お願いします……」

「あのなー」

 

 

 

 ────言えるわけがないだろォ!

 

 

 窓ガラスから見える空には雲がまばらに浮かび、ほんのり赤く彩られていた。

 

 

 

 

 ────────────────────────────

 

 

 

 

 

 桜舞う校門の前に立ち尽くし、風を体全体で感じる。頬を撫でる春風が妙にくすぐったい。

 

 

「新学期ですね」

「もう何があっても驚かねぇぞ」

「ふふっ、そうですね」

 

 ピカピカの制服に身を包んだ新入生が横を通り過ぎる。新しい場所に心躍らせる彼を待つたくさんの思い出は、一体どんなものなのか興味が湧いてきた。

 

 

「よっ、お二人さん朝からアッツアツだねぇ〜」

「兄貴は今日も眩しいっすね!」

「兄ちゃん! あんまりそこに立ってると邪魔になるんだからね! 粗大ゴミはゴミステーションにポイだよっ」

「ああー!! 夏海ちゃんが俺の後輩になるなんて……!! なんでも聞いてくださいっす!」

 

 ったく、せっかく二人でいい感じにしてたのに急に騒がしくなっちゃっただろ。

 

 

「あっ、友希先輩! それに紗夜先輩も! お互い新学期ですねっ」

「羽沢さん、えと、あまり先輩と呼ばれるのは慣れていないので……呼び捨てで構いませんが……」

「で、では! 紗夜さん……でいいですか?」

「はい。それなら……あと、友希さんはそのだらしない顔を直してください」

 

 どこがだらしないと言うんだ! いや、まぁそのつぐみちゃんに先輩って呼ばれた時、顔がなんか変だなとか思ったけどさ。

 

 

「おい、お前ら! いつまでそこで騒ぐ気だ! 新入生が怯えて入ってこれないだろ!!」

「……それは先生の顔のせいでは」

「ほう……遠藤。お前いつからそんな口が聞けるようになったんだ?」

「困難は人を変えるっていいますし……なっ! 紗夜…………って、紗夜? 紗夜さーん?」

 

 気がついた時には、つぐみちゃんと別れてみんな校舎に入っていくところだった。

 あれ、これもしかして……

 

 

「さて、新学期になってもお前への罰は無くならないからな〜?」

「こ、今年もよろしくお願いします……えへっ」

 

 先生の剛腕を抜け出し、駆け出す。

 

 

「友希さん」

 

「ん?」

 

「私たちだけの秘密……ですからね────」

 

「お、おま────ッ!?」

 

「早く行かないと遅れますよ」

 

 

 静かに頬を撫でる。きっと今感じた柔らかい感触も、顔が熱いのも、きっと気のせい……だろう。

 

 

 fin.

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