恋は秘密から始まり   作:イチゴ侍

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第3話 逃げられない

 

 - 第3話 逃げられない -

 

 

 

「遠藤、昨日は助かったぞ」

「は、はぁ……」

 

 休み時間。

 二時間目終了と共に、教室を出て職員室に向かった。そこで体育教師に忘れたと伝えると、心底驚かれた。よほど忘れ物をしたのが意外だったようだ。

 そのついでに、担任から昨日の礼をされた。しかし、罰でやったというのに礼を言われる筋合いはないと思うのだが、素直に受け取ることにした。

 

 

「次も頼むぞ?」

「先生、それ「また居眠りしろよ」って言ってるようなもんですよ」

「ん? だってお前、他の奴らと違って居眠り以外はちゃんとしてるだろ」

「そりゃあ……まぁ」

「だから居眠りは許してやる」

「……あんたそれでも先生か」

 

 居眠りしてる張本人が言うのもなんだが、そこは許しちゃいけない気がする。学校は学ぶ所であって睡眠をしに来る場所じゃない。

 ……本当に俺が言える事じゃないんだけどな。

 

 

「まず、ならなんで俺に居眠りチェックなんての付けたんですか」

「お前だけ罰が無いなんて他が知ったら不公平だ〜って騒ぐだろ」

「まぁ……そうなるよな」

「ちゅうわけだ。今後も頼むぞ」

 

 半ば無理やり押し付けられた感が否めない。しかしそれもまた普段の居眠りによる罰だと思えば、それほど嫌には思わなかった。

 先生の話から察するに、俺は罰を受けてる生徒の中ではそれなりに優遇されているのだと分かった。それが分かった以上、変に突っかかるのは止めるべきだろう。

 

 今まで……と言ってもまだ二回だが俺に課せられた罰を思い出してみる。初めてやった時は、授業で使用するワークや資料集の運び。そう、居眠りチェック十回目の罰だ。

 その時は「この程度で許されるのか」と困惑し、昨日の二十回目ではただの掲示物剥がし。これまた、ただの手伝い程度の事だ。

 

 それと比べて、他の生徒はどうだろうか。俺が知る限り、校内の清掃やら反省文などなど……。

 天と地、とまでは言わないが差がありすぎる。これで異を唱えるのはお門違いだろう。

 

 

「それじゃ、俺はこれで」

「おう。授業には遅れるなよ〜?」

 

 話が終わり、職員室を出た。

 次の時間は、確か社会か……。世界史なら容易に暗記できるんだが、地理となると何故か暗記ができなくなる。そんな現象に名前を付けたいところだが、あいにくそういう発想はパッと思いつかない人間だ。

 

 ボキャブラリーが少ない、とは俺みたいな奴に使う言葉だろうな。

 その点、アキは意外と発想が豊かだったりする。バカと天才は紙一重とは言うが、もしかしたらアキが将来めちゃくちゃ凄い発明とか発見をして有名になったりするかもしれない。そう考えると、バカも一概に馬鹿にできないということだ。

 だが、本人に言えば必ず調子に乗るから口には絶対にしないがな。

 

 

「────あ、あの……好きです!」

 

 

 教室に戻るため、廊下を歩いてる時だった。それは、生徒の通りが少ない階段の踊り場から聞こえた。

 おそらく告白現場というやつだろう。中学生のうちから恋だ何だとよく張り切るものだ。

 中学から続く恋なんて二通りしかない。幼馴染か、親同士が仲良いか、それ以外はほとんど続かない。だからといって無駄な事、と切り捨てる事はしないさ。人は遅かれ早かれ恋をする。

 

 恋の仕方なんて人それぞれだ。年上とか年下だったり、もしかしたら次元が違うことだってある。画面の向こうで動くキャラクター達に恋することだってあるし、住む世界が違うアイドル達だったりもする。

 

 

 ……もっと身近な、対象にならないと思ってた同級生だったりな。

 

 

 だから俺は、恋にうつつを抜かす輩を軽蔑なんてしたりしない。なんであれ、必死に頑張ってるのだ。応援しないわけがないだろ。

 

 でも例外はある。

 

 

「────気持ちは嬉しいよ。でも、僕達はまだお互いを知らない。そんな中で告白は受け取れないよ」

 

 

 ……めちゃくちゃモテるイケメン(大沢友輝)に恋する奴らは応援できない。

 何が気に食わないか、モテるやつを妬んでる。そういうのも理由にあると思う。だが、一番気に食わないのは告白してる女だ。

 本気で告白をしてる感じがしない。どこか記念感覚で告白してるそういうイメージが脳にくっついて離れないのだ。

 

 そんなイメージが変わるかもと、俺は密かに覗く。

 

 

「そう……ですか」

「ごめんね」

「いえ。まぁ、断られるなぁ〜とは薄々思ってたし。あ、だからといって友輝君が気に病むことはないんだよ!?」

 

 あぁ……またか。

 

 

「ただ……“記念”になればいいかな〜なんて」

「……」

「一つ聞いてもいいですか?」

「ん? なに?」

「友輝君は、好きな人とかいるの……?」

 

 そう問われ、友輝は一旦考えている。なぜ考える必要があるのか、いや……ここで友輝がいると答えれば、告白は減る可能性もあれば、もしや自分かもと勘違いした女子が沸く可能性もある。

 それで迷ってるんだと、俺は思っていた。

 

 そして友輝が口を開き、こう答えた。

 

 

「うーん、今は(・・)いないかな?」

「今は……ってことは、まだ私にもチャンスがあるってことですか?」

「それはこれから君を知ってからかな。そうだ、これも何かの縁だし、僕の友達になってくれないか?」

「……はいっ!! ぜひ!」

 

 ────俺は静かにその場を去った。

 酷い茶番を見せられた気分だ。既に台本が出来上がっていて、それをただ読んだだけ……そんな感じが今の告白にはあった。

 

 そしてなにより、友輝だ。

 あの時、なぜ“今は”なんて言葉を使ったのだろう。あそこで恋愛は全く興味が無いとでも言えば、告白をする奴も消えていったはず。

 なのに余計に希望を持たせる言葉を選んだ。そんな事を言えば、さっきまで玉砕覚悟だった兵士の士気が上がる事なんて分かりきってるはずなのだ。

 

 友輝という男は底が知れない。今まで気にすることもなかったし、告白されてる所を見たところで「あぁ、またか」くらいの感想しか出なかった。

 なのに今日、同じ告白の現場を見た俺の感想は「気持ちが悪い」だった。

 

 俺はその日、大沢友輝という男の気味の悪さその一部を知ることとなった。

 

 恋と友輝。

 それを強く結びつけたのは確実にあの放課後の教室だ。

 あの記憶からは逃げられない。そう言われてるようだった。

 

 

「影響受けすぎかよ……」

 

 息を吐くように口から漏れた言葉は、授業開始一分前のチャイムによってかき消された。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 体育の授業が始まった。

 我が校の体育館は、それなりの広さがある。そこで男子、女子は体育館を二分割にし、同じ空間で授業を行う。

 球技などを行う際には、間に巨大なネットを挟むことでボールが遠くに行かないようにしている。

 

 

「よーし、まずは準備体操だ! 元気よく行けよー!」

 

 体育教師が声を張り上げて、某熱血の人みたいに熱くなり始めていた。

 しかし、それとは裏腹に生徒達のテンションはダダ下がり。おそらく、昼飯を食ったあとの体育だからだろう。そしてこの後六時間目に待っているのは、寝たら廊下立ち、その場で説教という俺の天敵である英語の授業だ。

 

 それら二つが合わさっているため、先生のテンションにはついていけてない。

 だが、そんな男子の中でも生き生きとする輩がいた。

 

 

「おい、女子達がストレッチ始めてるぞ……!」

「うおお……!! オアシスだ」

「これがこの時間唯一の癒しだな」

「眼福、眼福……」

 

 以上、変態数名である。

 女子と同じ空間では必ず起こることだ。特にバレーの時間になると、男子はこぞって直視する。確かに俺だって気になったりするさ、なんせ思春期男子だからな。

 しかしそこは、紳士の心を持たなければ一生を女性とは縁もゆかりも無く終えてしまいかねない。

 今のうちからの努力が実を結ぶのだが……変態男子共の頭には、女子達の事しかないらしい。

 

 

「おっし、二人組みになってストレッチ始めろー!」

 

 そして互いの足を抑え、腹筋、背筋、各自腕立て伏せを決められた回数行い始めた。

 

 もちろん、そんな様子を少し離れたところから見るだけの俺。別にやりたいとかそういうわけじゃないが、みんながやってる中で自分だけがやっていない。そんな状況は少し不思議で居心地が悪い。

 

 そんな俺は、視線を様々な場所に当てていた。そこで水色の揺れるポニーテールが目に止まる。委員長だ。

 普段おろしてる髪が運動するということもあり、ゴムで縛っている。正直、初めて見たのだがとても似合っていた。

 

 バレーボールを何度かバウンドさせ、その感触を確かめる委員長。何ともない普通の動きだというのに、委員長のスタイルも合わさって一種の芸術となっていた。そして俺はさしずめ、美術館に来た客。

 

 男子そっちのけで俺はただ、委員長を眺めていた。

 俺もあの変態男子共とたいして変わらないということだな。人のことを言えないとはこの事だ。

 

 

「先生! 俺パスなんかよりさっさと試合がしたいっす!」

「あぁん? ひよっこが生意気聞くじゃねぇか。まぁ、いいぞ」

「いいんすか!?」

「俺のスパイク二十本を全て受けきれたらな!」

「ふ、ふざけるなぁ!!」

 

 大の大人が何をしてるのだろう。しかも先生をよく見ると、めちゃくちゃ汗かいてた。

 まだ始まって十分と経ってないはずだが……流石、松岡的な修造さんだ。

 

 そして始まる大人の大人気ない本気の攻撃。男は三本、四本と上手く受けていたのだが、あえなく撃沈。

 

 

「ふっ、まだまだだな」

「……お、おい。大丈夫か!?」

「俺の腕……ちゃんと、あるか?」

「お前、腕……腕が……うわああああああ!!!」

 

 ……何やってんだあいつら。

 一瞬だが、世はまさに大海賊時代〜的なのを迎えかけたぞ。

 

 

「紗夜! ボール行ったよ!!」

「わかったわ」

「おお、さすが紗夜。運動神経いいねぇ〜!」

「い、いえ……」

 

 女子は安定してるな、どこかとは違って。フォームも綺麗だし、コンビネーションもバッチリ取れてる。そしてなにより眼福……おっと、これ以上は紳士失格に繋がるな。

 

 

「紗夜、もっかい行くよ!」

「ええ────っ!」

 

 

 ────その時、目が合った。

 

 

 そしてほんの一瞬とはいえ、ボールから目を逸らしてしまった紗夜。しかし、打ち上げられたボールはもう止まらない。

 呼びかける女子。そこで遅れて反応した委員長だが、もう既にボールは頭上すぐ近くだった。

 

 慌てて取ろうとした委員長は足を踏み間違え、後にいた女子にぶつかり倒れ込んだ。

 

 

「うっ……ご、ごめんなさい」

「ううん、平気だよ。……それより、紗夜さん……足を」

「少し捻っただけです」

「先生、紗夜さんが怪我をしました!」

「大丈夫? 氷川さん? 一応、保健室に行ってきてね。足、捻ったみたいだし」

「はい……」

 

 集まる女子達。どうやら委員長が怪我をしたみたいだな。足を抑えてる感じからして、捻ったが正しいだろう。

 一応、知り合いではあるため心配にもなる。俺が気にしていると、女子の方の体育教師が、こっちに視線を向けてきた。

 

 

「そこの男子くーん? 氷川さんが足を捻ったみたいなので、保健室まで付き添ってあげて!」

「え、俺がですか?」

「おお、遠藤。どうせやることもないし暇だろ。俺からも頼んだぞ」

「え、は……はぁ」

 

 いつの間に隣に来ていた先生に頼まれ、ほとんど強制だが仕方なく連れていくために委員長が座り込んでる所まで近づいた。

 

 

「一人で立てそうか?」

「だ、大丈夫よ。これくらい…………いたっ」

「……ったく、無茶するんじゃないよ。ほれ」

「え?」

「早く黙っておぶられなさいよ」

 

 ただ支えるだけでいいと思ったが、立てないとなるとおんぶして持っていくしかあるまい。

 

 しかし、いくら待っても躊躇っているのかどうかは知らないが、おぶられる気配がない。

 

 

「ああ、もうめんどくさいな! さっさと行くぞ」

「へっ、ちょ……ちょっと!」

「いつまでもおぶられない委員長が悪い」

 

 俺は、おぶることを諦めて委員長を抱きかかえた。それは、いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

 実際、できるか不安だったが委員長のあまりの軽さに驚き拍子抜けレベルだった。女子というのは、みんなこんなに軽いのだろうか。

 

 

「ま、まって……は、はずかしいわ」

「自業自得。保健室までこのまま連れていくからな」

 

 委員長を抱きかかえて足を進める。背中に女子達の悲鳴みたいな声を浴び、悪いことをしている気分だった。

 

 

「これも委員長が言ってた監視の一つだったりする?」

「……そんなわけ……ないじゃない……今は話しかけないでください……」

 

 両手で顔を隠す委員長。頬がほんのり赤くなっている気がするが、気のせいだろうか。それにしても……

 

 

 ……意外と可愛い反応するんだな。

 

 

 

「…………」

 

 一人、ただ一人、遠ざかる俺の背中をじっと見つめる視線を感じたが、その視線が誰のものかなど気づくことなど俺にはできなかった。

 

 

「おーい、友輝。パス練習始めようぜ!」

「……うん、今行くよ」

 

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