恋は秘密から始まり   作:イチゴ侍

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第7話 暗躍

 

 - 第7話 暗躍 -

 

 

 

 

「それじゃあ、母さん行ってくるよ」

 

 今日から新しい週がスタートした。

 一週間というのは早いもので、ついこの間一週間が終わったと思えばすぐに月曜がやってきた。

 

 朝はいつものように夏海に起こされやんわりと注意したが、辞める気はこれっぽっちもないらしい。ここまで来ると、辞めさせるだけ無駄なんじゃないかと思い始める始末だ。

 

 飲んできた一杯のココアの味を噛み締めながら、学校までの通学路を歩いていく。ちらほらと同じ制服の生徒達が歩いていて、皆それぞれ友達と話していたり一人ノートを片手に歩く奴など様々……。

 

 

「おーっす! 元気しとるかー?」

「おう、おはようアキ」

 

 アキとは、登校中によく会う。というより、知らないうちに会う約束をしていたのではないか、というくらいには会う確率が高い。

 会わない時は、大抵アキが寝坊した時だ。

 

 そして会った途端に、俺の顔をジロジロと見るアキ。

 

「ほっほーう……」

「な、なんだ?」

 

 何か分かったと言わんばかりに頷く。

 

 

「土日で何かいい事でもあったな?」

「なんで?」

「表情がなんかすっきりしてる」

「そ、そうか……?」

 

 今朝方に洗面所の鏡で自分の顔を見たが、仏頂面の男しか映らなかったぞ。ましてや、すっきりした爽やかな顔なんて程遠い。

 

 

「土日何してたんだ?」

「うーん、土曜は朝早くに散歩に出かけたかな」

「珍しいな」

「なんか、早く起きちまってさ。ああ、そうそう……その散歩の途中でいい店見つけたんだ」

「おっ、いいねいいね。そういうの待ってたぜ」

 

 俺は羽沢珈琲店の事、そこで知り合ったつぐみちゃんについて話した。

 

 

「……そんな店があったのか」

「アキも知らなかったとは驚いた」

「俺もあんまそっちは行かないからな。多分行ったとしても、そういう感じの店はどうも入りづらい」

「そうか? いい雰囲気の店だったけど」

「俺が入りづらいんだよ。こんな見た目してっからさ、合わないというかなんというか……」

 

 変なところを気にするんだな。

 別に店の雰囲気に合わなきゃ入っちゃ駄目なんてルールはないし、きっとあの店なら誰でも歓迎してくれると思う。

 でも、それがアキのポリシーだというなら他人の俺がとやかく言う資格はない。

 

 

「それよりもだ! 詳しく聞かせてもらおうか」

「何をだ?」

「そのお手伝いしてた子だよ! つぐみちゃんだっけ、可愛かったのか?」

 

 こいつ、明らかにさっきから聞きたそうだったもんな。

 

 

「まぁ、うん。可愛かったかな」

「かぁー、いいなーおい! 性格的にはどんな感じなんだ?」

「真面目で頑張り屋……かな」

「なるほどなるほど」

「あと、普通だ」

「なぁーるほ……はっ? 普通?」

 

 そういうリアクションになるよな。きっと俺でもそういう反応になるだろう。

 

 

「良くも悪くも普通なんだって」

「それは容姿がって意味か?」

「いや、容姿も可愛い分類に入る」

「えっ……性格が普通ってどういうこと? 確かに真面目で頑張り屋ってのはよくあるけども」

 

 うーん、と唸るアキを横目にどう説明するべきか悩む。

 

 

「変な属性が付いてないと言いますか」

「ほう」

「例えば、そのツンデレとかヤンデレとか」

「なるほど……正統派ヒロインってやつか」

「多分それ」

「……会ってみたいな」

「店は入れないんだろ?」

「いや、会うためなら入る」

 

 さっきまでの、かっこいいのか悪いのか分からないポリシーはどこに行ったのだ。

 少しでも、ちゃんとしてるんだなと思った俺の気持ちを返せ。

 

 

「そんじゃあ、今日終わったら一緒にいこーぜ!」

「一人で行ってらっしゃいな」

「えぇー!? そこは「よし行くか!」ってなるでしょうよ」

「はぁ……わかったよ。ついて行ってやるから」

「助かる……! いやー、お前がいないと話が出来なさそうで……」

「……そういうことか」

 

 つまり、一人じゃ不安だから一緒に来てくれってことだ。こういう時の勢いだけは弱いんだよな。

 まぁ、常連になるって言っちゃったし、元から行くつもりではあったからついでくらいの感覚でいいか。

 

 

「じゃ改めて、放課後一緒に行こうー!」

「……おー」

「ひっく!? テンション下がりすぎだろ! そんなに嫌か! 保護者同伴がそんなに嫌なのか!」

「誰が保護者だよ……誰が」

 

 たわいもない話で盛り上がれるのがこんなにも楽しいなんて、中学生にもなって知るのは遅いのだろうか。

 

 こんな時間がずっと続いてくれればいいのに……。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 ────おいまじかよ……。

 

 

 ────誰の証言だ……?

 

 

 ────どうせデマじゃないのか?

 

 

 ────でもこの写真は……。

 

 

 学校には、一つ大きな掲示板がある。それは俺が剥がしまくってた職員室の掲示板よりも一回り大きいもので、部活の紹介だったり新聞部が掲載するニュースだったりが貼られている。

 職員室が学習関係だとするなら、こっちは生徒達が自由に扱えるスペースだと言える。

 

 

「なんだなんだ? この人集りは……」

「珍しいな」

 

 そこに今日は、やけに人が集まっている。いつもなら素通りしてる奴らも妙に食いついていた。

 

 

「ちょっと気になるな」

「あ、おい!」

「少し見るだけだって!」

「……しゃーねぇな」

 

 止める間もなくアキが人の波に入ってしまったので、俺も後を追うようにあるかどうかの隙間を通って最善まで向かう。

 流石に人が多すぎるので、肩がぶつかったり足踏まれたりで嫌になってくる。

 

 

「くっそ……誰だ俺の靴一個蹴ったやつ」

「お、おい……」

「今はそれより俺の上靴をだな」

「友希……これ」

「だから! 俺のうわぐ……つ……」

 

 

 ────自分の目を疑った。

 

 

 これが夢で、まだ本当の俺は自室のベッドで寝ている。それだったらどんなに良かったことか……。

 どんなに目を瞑ろうと擦ろうとそれは変わらない現実。

 

 

 呼吸が荒くなる。周りの奴らの声が徐々に遠くなっていき、無となる。

 

 

「これ、委員長……だよな」

「…………」

「画質が荒いけど、この髪の色は校内で委員長しか……」

「…………」

 

 ……そこには俺しか知らないはずの光景が映ったプリントアウトされた写真と、「学級委員長!! 放課後の教室でwww」などとふざけたタイトルの文章が書かれた紙が数枚貼られていた。

 

 

 冷静さなんて欠片も無かった。だから……

 

 ────これを本人が見たら。

 

 なんて考えが浮かんでこなかった。

 

 

「おい! 氷川さんが来たぞ!」

 

 何もかも、あと一歩遅かったんだ。たった数秒のことを、今から俺は後悔し続けることになる。

 

 

「みなさん、どうしたんですか?」

 

 何も知らない委員長は、困惑する。

 それを見る奴らの顔が明らかに普通のそれとは違うから。

 

 女子は、複雑な表情でなんと声をかけるべきか悩み。

 男子は、明らかに下心を剥き出しの気味の悪い笑みを浮かべている。

 

 俺はただ、唇を噛む。血が滲んでこようが止まることは無い。腕も足も縛られたかのように動かないのだから。

 

 

「一体何が……」

 

 見るな。

 

 

 見ないでくれ。

 

 

 お願いだ。

 

 

 俺の体……なんで動いてくれないんだよッ!!!

 

 

 委員長が見る前に全部剥がしさえすれば……それでいいのに……。

 

 

 ────そして委員長は、見てしまった。

 

 

「な、なん…………で」

 

 目を見開き肩にかけていたスクールバッグが地面に落ちる。

 

 

「まさかあの氷川さんがなぁ……」

「可哀想に……」

「ちょっと興奮するな……」

「わかるわ。あのいつもクールな氷川さんが……」

 

 バラバラと小さく聞こえるその声に、委員長は耳を塞ぐ。目を閉じ、俯き、膝を折る。

 

 

「……いや…………い…………や……ちが、ちがっ…………」

 

 誰だ。

 

 

 誰だよ。

 

 

 こんなにしたのは誰だ。

 

 

 俺か?

 

 

 違う?

 

 

 俺は守ってた。漏らすようなことはしてない。

 

 

 なら何故、こうなった?

 

 

「……っ…………ぅっ」

 

 酸素を取り込もうとしたのか、喉が詰まりもう正常に息ができなくなり始めていた。

 乾いた呼吸が嫌に耳に残る。

 

 

「……おい、なんだよこれ!!」

 

 怒号と共に、ビリッ……ビリッと一枚、また一枚と貼られた紙が破られていく。

 

 友輝だ。

 

 

 全てを剥がし終えると友輝は、集まっている俺らを前に破り捨て、丸めた紙を掲げた。

 

 

「誰がこんなことをした!?」

 

 だが誰も名乗らない。

 

 

「君か!!」

「ち、ちげぇよ」

「なら君か!!」

「わ、私じゃないわよ!」

 

 明らかにここにいないことは、承知のはずだ。犯人がわざわざ紛れて見てるわけがない。こういう犯行をするやつは、その場を楽しむんじゃなくてそのあとを楽しむ傾向にあるはず。

 

 

「……」

「……?」

 

 友輝と一瞬目が合った。一瞬ではあるが、あいつの目はギラギラと光りまるで獲物を見つけたかのような……狩りの目だった。

 

 

「そうか……やはり君か。みんな、聞いてくれこれをやった犯人がわかった」

「……」

「なに!?」

 

 ザワザワとし始める中、友輝は口を開く。

 

 

「一度、紗夜から相談されたことがあったんだ。ある人物から脅迫されてるって」

 

 明らかに嘘だった。

 紗夜は一年の時以来ほとんど友輝と話してなんていないと言っていた。

 

 

「そして自分の思い通りにならなかったら秘密をばらす……と。そうだろ? 遠藤君」

 

 一斉に全員の目がこちらを向いた。それは軽蔑、怒り……それらを含んだ視線。

 

 

「君は最低の奴だ」

 

 丸めた紙を俺に向けて投げてきた。パラパラと足元に散らばり、俺を避けるように集まりも離れていった。

 伏せたまま動かない紗夜を抱きかかえて友輝は、その場を去った。

 

 

 ────あぁ、そうか。

 

 ────よくわかったよ。お前の魂胆が。

 

 

 

「友希……」

「ごめん。今日の約束、守れそうにないや」

 

 

 これは紗夜を(おとし)めるためじゃない。これを仕掛けてきたやつの狙いは、俺だったってことだ。

 

 

「アキ。しばらく俺と距離を置いた方がいい」

「……なんでだ」

「きっとこれから俺は、いい目では見られなくなる。そうなると俺と一緒になんていたらお前だって……」

「────かまわねぇよッ!!!」

 

 いつも温和なアキが初めて俺に対して怒りを向けた。

 

 

「お前がなんと言われようと、自分が他人からどう思われようと関係ねぇ。周りを信じるよりたった一人を信じる。それが親友ってもんだろ」

「……」

「友希が俺を親友と思ってくれる限り、俺は友希の親友であり続ける。それは決して揺るがねぇ」

 

 ただ頷くことしかできなかった。涙で濡れた顔なんて親友に見せられないのだから────。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどーすっかな」

 

 そして見事に俺たちは学校をサボってしまった。

 あのまま学校で一日を過ごすには、あまりにも気持ちが整っていなかったからだ。おそらく俺はクラスの奴らにも他クラスの奴らにも歓迎されない。きっといじめとか始まるんだろうな……。

 

 憂鬱になりながら、放課後に行こうと約束していた羽沢珈琲店に二人でおじゃましていた。

 

 

「あら、友希君じゃない! 今日も来てくれたの〜? 嬉しいわぁ〜」

「どうもです……」

「それと……あら、こっちの男の子も可愛いわね! お名前は?」

「あぁーええっと、峯岸明っす! 友希の親友です!!」

 

 親友ってところやけに強調されてたような……気のせいか?

 そしてどうやらアキを気に入ったのか、つぐみ母────めぐみさんは、アキの隣に座ってまで質問攻めにしていた。

 

 

「部活とかしてるの?」

「やってないっすね。でも運動するのは好きです!」

「なら、食欲旺盛だったりするわね。初めて来店してくれて、しかも友希君のお友達ならサービスしないわけにはいかないわねぇ♪」

「マジですか! ありがとうございます」

「いいのよ〜!」

 

 アキのやつ、もうめぐみさんについていけてるのか。やっぱコミュ力の化物は恐ろしいな。

 

 

「で、あの友輝の話は本当なのか……?」

「あいつが嘘つきそうなやつじゃないって気持ちがあるだろうけど、あれは嘘だ」

「マジかぁ……」

「紗夜が喋られないのをいい事にあることないこと話されたもんだよ」

「そんじゃ脅迫なんてしてないんだな?」

「当たり前だろ。逆に俺が脅されてるようなもんだぞ」

 

 監視するとか言われたしな。

 

 

「でも、なんで嘘なんてついたんだよ」

「あいつが全部仕組んでやがったってことだよ」

「は?」

「なんであんな写真があったかは知らないが、あの紙とあの状況を作ったのはあいつだ」

「それはお前いくらなんでも……」

「はぁーい、アキ君おまたせ〜♪」

「あ、アキ君!?」

 

 ……アキに説明するにはなかなか骨が折れそうだな。

 

 少しずつ記憶が繋がっていくのを感じながら、ココアを(すす)った。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 ふぅ……まずは第一段階だ。

 

 

「紗夜……君はどれだけ耐えられるかな?」

 

 保健室のベッドで横になる彼女の髪を撫でる。サラサラと指の間を滑り落ちていき、感触が手に残る。

 

 

「なぁ……遠藤君、もっと楽しませてくれよ……? 僕のおもちゃなんだから────簡単に壊れてくれるなよ」

 

 

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