雨降る夜。 兵器は少女になった。   作:山並

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博士の追憶。

こうして、部屋の隅で震えていると、昔のことを思い出す。

首輪を付けられ、人形を抱き抱えているのも、状況が一緒だ。

 

うつらうつらと微睡みながら、過去の記憶を掘り起こす。

 

 

 

 

父は、本が好きだった。

主に学術書を大量に集め、町の図書館よりも多い数を所有していた。

 

父母共に教師の家庭に生まれた私は、幼い頃から厳しい教育を受けて育った。

学ぶ事は嫌いではないし、本も好きだったから、そこそこに知識を蓄えていった。

 

小学校を出る頃には、家にある本を全て理解し、読む本が無くなってしまった。

ついでに友人も無くなったが、丁度その頃、私の家では犬を飼いだした。

 

犬種はよく覚えていないが、ひたすら大きく、薄茶色の毛。

赤い首輪を着けていたのは覚えている。

 

飼っている犬しか友達のとこの居ない、周囲から浮いた人間がどうなるかというと、当然の如くイジメを受ける。

 

靴を燃やされたり、トイレに連れ込まれて水を掛けられたり、犬をボロボロにされたり。

そんなことをされている内に、私は、なぜ学校に行っているのかが、分からなくなっていた。

 

私は学校に行かなくなっていた。

 

イジメがその一因なのは間違いないが、結局私と話が合う様な奴がおらず、なんなら馬鹿しかいなかったから。

行く理由が無くなったというのが1番大きい理由だ。

お父さんは部屋に引きこもる私を何度も呼びつけ、何度も何度も学校に行け、と。

 

私が部屋に引きこもり始めたのが中学1年生の後半。

そこから半年経った位に、お父さんとお母さんが言い争うことが増えた。

 

聞き耳を立てると、どうやら私の教育方針で言い争っているようだ。

 

お父さんは私をどうにかして学校に行かせてたいようだったが、お母さんは私に任せる、と。

 

お父さんは怒鳴る様な声で、お母さんは小さく落ち着いた声で言い合っていた。

 

お母さんが夜な夜な泣いていたその声を、私は忘れることが出来ない。

顔はとっくの昔に記憶から消えたが、あの声だけは、決して忘れることが出来ない。

 

 

ある日、目が覚めると、お母さんが居なくなっていた。

 

日曜日。

お父さんもお母さんも、いつもだったら居るはずの居間には、周りのものに当たる父が居るだけだった。

 

寝ぼけていた私が、お母さんは?と、聞くと、何かを怒鳴りながら、頬を殴りつけてきた。

 

手加減の1つもせずに放たれたそれは、軽い私の体を吹き飛ばし、壁へと叩きつける。

とても弱い私の体の中で、何かが折れる音がして、同時に激痛が走る。

 

きっと骨が折れたんだろうな、と、痛みの中どこか他人事のように考えていると、お父さんは私に近づいて来て、何度も何度も、壁に寄りかかっている私のお腹を蹴り抜く。

 

内臓が傷ついたのかどうか、口の中が血の味になりながらも、涙が流れる事は無かった。

 

お父さんに蹴られるよりも、殴られるよりも、あの優しいお母さんが居なくなってしまった事の方が、よほど辛かったのだから。

 

お父さんは気が済んで、息を切らしながらも自分の部屋に入っていく。

 

もはや立ち上がる程の体力も残っていなかったけれど、どうにか床を這いながら、私は私の部屋に戻る。

 

痛みを堪え、愛用しているふかふかのクッションのロッキングチェアにもたれ掛かり、読み掛けの本を読み始める。

 

どんなに悲しいことがあっても、本を読んで、他のことを考える。

骨に沁みるような寒さと物理的な痛みで本を取り落とし、身体が動かし辛いな、と。思いながら、気絶するように眠った。

 

 

暫くして目が覚め、お腹が空いたので、キッチンにふらついた足取りで向かい、食品棚を漁っていると、またもお父さんが現れる。

 

「…今の今まで部屋に篭ってた癖に、あいつが居なくなったらこうも気安く出てくるんだな。…お前も俺から逃げようとしてるんだろ!?」

 

私が黙って下を向いていると、お父さんは私を蹴り飛ばした。

 

不機嫌な様子で、その後は何も言わずに部屋にまた戻って行った。

 

犬が座り込んでいた私の顔を、慰めるようにベロベロと舐めてくる。

ふかふかの毛に顔を埋め、静かに、涙を流した。

 

 

怪我が治る前に、また怪我をさせられる日々の中。

学校に行っていた時と同じように、私の味方は犬しか居なかった。

 

ある日。

 

私の部屋のドアノブに、何かが掛かっていた。

 

それは赤い首輪で、何かぬちゃっとしたものがついていた。

 

 

とても嫌な予感がした私は、何か音の聞こえる庭の方の窓のカーテンを開ける。

 

赤黒い液体の付着したTシャツを着たお父さんが、庭の地面ひシャベルで穴を掘っている。

 

お父さんの足元には、掘り起こした土と、グロテスクな、肉塊の様な物の入ったビニール袋。

 

部屋の掃除を終えた時のような清々しい笑みを浮かべ、掘った穴にビニール袋を埋め、呆然と眺めてた私の方へと歩いてくる。

 

お父さんが窓を開けた時の異臭。

私は何が何やら分からないまま、涙を流しながら嘔吐していた。

 

私が胃の中身を胃液まで全て出す勢いで吐いている間に、お父さんは玄関から家に戻る。

異臭を放ったまま、私が大切そうに握っていていた首輪を私の首に着けた。

 

お父さんが私を、お父さんの部屋まで引きずっている間、聞いたことの無い様な声で私は呪詛を叫んでいた。

 

すっかり声も枯れ果て、語彙も果てた頃。

漸く冷静になり、置かれた状況を見渡す事が出来るようになった。

 

取り敢えず、私の犬はどうしてか殺されたようだ。

その上で、私は首輪を着けられ、その首輪はお父さんのベッドに繋がれている。

 

気でも触れたのだろうか、と考えたのだが、そういえばお母さんが居なくなってからずっと、お父さんは気違いじみていた。

 

こうして悪態をついてもどうにもならず、暫くの間、カーテンを締め切った暗闇の中で過ごしていた。

 

お父さんはあれから帰ってきていない。

 

 

ガチャガチャと、繋がれた鎖を鳴らしながら、どうやってこのイカれた状況を抜け出そうかと、繋がれたベッドの上で座り込みながら考える。

 

何度も何度も何度も、あのビニール袋の中身を頭の中で反芻しながら、胃から上がってくる物をぐっと抑え。

 

いつお父さんが戻って来るかと思うと、嫌な汗と震えが止まらない。

 

落ち着かないので、掛けられている首輪を弄んでいると、金具に指が当たる。

 

物凄く馬鹿な事を忘れていた。

そういえば犬用の首輪なのだから、普通にちょっと弄れば外れる。

 

 

と、震え続ける身体を抱きしめながら、何とか首輪を外し、力の入らない脚を引き摺りながら家から出る。

 

 

こんな簡単な事で抜け出せたのか、と、陽の光を見て大声で(といっても掠れて殆ど声が出ていなかったが)笑う。

 

この時の私がどれだけ酷い見た目をしていたのか分からないけれど、通りがかった通行人が悲鳴を上げて心配して来る程だったようだ。

 

そうして、何やかんや、あって兵器を設計し始めていたのだ。

うん、途中から気付いていたが、私は過去の夢を見ていたようだ。

 

その、何やかんや、の部分は私がまた微睡んでいる時にでも。

 

 

 

 

 

人肌の温かさで目を覚ます。

私のベッドに葵ちゃんが入り込んでいたようだ。

 

この子に比べたら、きっと私は幸せな方なのだろう。

 

親代わり、とまでは言えないけれど、甘やかせるだけ甘やかしてやろう。

 

とりあえず、今のところは首輪の事は忘れてこの子と一緒に二度寝と洒落込むとしようか。

 

 




書いてる途中で飽きたので、いつも通り駄文短文です。
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