雨降る夜。 兵器は少女になった。   作:山並

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戦慄

古宮博士と葵ちゃんが同じベッドでぐっすり眠っていたでごさる。

 

うーむ、2人目の娘が非常に可愛い。

え?お前の娘じゃねぇだろって?

 

はい、ごめんなさい。

調子乗りました。葵ちゃんの親が居ないことを良いことに、親代わりとか言ってすみません。

 

 

夕飯に2人を呼びに行ったら、安眠していたのでどうしようか、と思案している。

変態メイド野郎は既に部屋に入り込み、シャッター音のしないカメラでひたすらこの風景を撮りまくっている。

 

「ははは、なに、助手さんに高値で売りつけようかなぁって。ほら、古宮さんの寝顔は助手さんのガードが固くて中々レアですので、この機会に見といた方がいいですしね?」

 

などとほざいているが、まあ、気持ちは分からないでもない。

 

この心労コンビがこうやってゆっくりと休めていると、こちらとしてもホッとする。

 

2人とも、特に助手君に困らされてるなぁ、と心から思う。

 

博士は単純に無茶振りとか、重すぎる愛情とか?

普段のあれを愛情表現と認めたくはあまりないのだが。

 

葵ちゃんの方は、助手君を何だか毛嫌いしているようなのだ。

まだしっかり葵ちゃんの来歴を聞いていないので、詳しいことは分からないのだが、見た感じでは怯えるというか、とにかく近寄ろうとはしていないのは確かだ。

 

助手君は、俺が今まで見てきた人間の中で1番変わっている人間だと思う。

 

今までストーカーとか変質者はは何人か見てきているのだが、彼はその誰とも違う。

 

凶悪犯罪者である事には間違いないのだが、時折博士の前で見せる安心しきった穏やかな顔を見ると、博士に恋をしているだけの、ただの青年の様にも感じる。

 

博士も困ってはいるが、やはり彼に恋をしているのだろうか。

 

考えてみれば、あんな厄介な奴を傍に置いておくのは正気の沙汰ではない。

 

俺は恋をした事がないので、そういった事には疎い。

が、そういうことなのだろうな、と独り納得する。

 

 

話変わって、目下の問題だが。

 

古宮博士の常識人パワーを失った事によって、我が娘のコントロールが取りづらい。

 

分かりやすく説明すると、ウチの娘が言うことを聞いてくれない。

 

変態メイド野郎は基本的に甘やかすだけだし、葵ちゃんは振り回されるだけだし。

うちの子は元気なので、俺1人では抑える事は出来ない。

 

今朝なんて、助手君を尋ねてきた肉付きの良い青年を見て、目を血走らせながら涎を垂らしていた。

 

今にも飛び掛かりそうな様子だったが、俺は訪問者の対応をしていたので、冷や汗をかく事しか出来なかった。

 

何とか訪問者には早く帰って貰えたけれど、安心は出来ないな。

 

俺は娘についてあまりにも知らなさすぎる。

博士が復活したら、対処法とか教えてもらうか。

 

その後、メイドにステーキを焼いてもらって落ち着いたようだったが、もし肉の貯蓄が無かった場合や外での対処のことも考えなくては。

 

 

さて、2人の寝ているベッドに入り込もうとしていた不届き者を引きずりながら、ダイニングルームへと向かう。

 

2人が起きてくるまでに、夕食の準備をしておこうと、そういう事だ。

 

この屋敷のダイニングルームは、他の部屋と同じように無駄にデカい。

食卓の長机もデカいので、俺たちを含めてあと10数人は入りそうだ。

 

趣味の良い絵画に、シャンデリアを模した電気照明。

 

とにかく、まさに豪邸という感じの内装だ。

 

そこに家庭的な和食を並べるのは、何となく違和感を感じるのだが、メイドが和食を練習中だそうで、最近はずっとこんな感じだ。

 

俺は純粋な日本人ではないが和食は口に合うし、葵ちゃんや古宮博士もどうやら和食は嫌いじゃないらしい。

ウチの娘は味の濃い料理の方が好きなようなので、1人だけ別で1品追加で食べているのだが、文句は言っていない。

 

焼いた秋刀魚の乗った皿を無駄に広い食卓に並べていると、メイドが異様な物を運んできた。

 

ホカホカと湯気の立ち上る、大きな、それも美味そうなパイ。

に、何故かぶっ刺さっている魚。

ほのかに香る伝統的な英国の匂い。

 

星を見上げる不味い料理。

スターゲイジーパイである。

 

ツッコミを入れる間も無く、食卓のど真ん中にドンと置く。

御丁寧に切り分ける為のナイフと皿も付けて。

 

 

とりあえず見なかったことにして、箸とコップを用意した。

 

 

さて、一通りの用意を終えたところで、うちの娘が降りてきた。

 

先程まで自分の部屋で机に向かって何かを書いていたが、匂いに誘われて、呼ぶまでもなく降りてきたようだ。

 

で、例のパイを見て涎を垂らしている。

 

マジか。それが美味しそうに見えるのか。

 

 

いつも通りうちの娘が他のみんなよりも早く食べ始めた頃、誰かがこの屋敷の門の鍵を開ける音が聞こえてくる。

 

ここはそこそこ田舎の閑静な住宅街にあるので、少しの音でも響いてよく聞こえてくる。

 

はて、予定を繰り上げて助手君が帰ってきたのだろうか。

彼が帰ってくるには早いような、とが思いながら、取り敢えず出迎える為に下に向かう。

 

 

「こんばんは、ただいま帰りました。博士どうしてます?」

 

玄関の扉を開けると、出発した時と変わらない黒いコートをき、相変わらずの微笑を浮かべた助手君がいつも通りの調子で博士の事について尋ねてくる。

 

いつもと違うのは、両手に手錠を掛けられている来ることだろう。

 

「ああ、うん。博士は部屋でぐっすり寝てるよ。それより、俺はその女性が誰かを聞きたいんだけども。」

 

そう、なぜか助手君の背後にはスーツを着た鋭い顔付きをした金髪の女性が。

 

身体付きがしっかりしているし、助手君が手錠を掛けられている事から、助手君を追っていた人物なのかと推測出来る。

 

彼は指名手配されてるし、追っている人物が居ても全然不思議では無いのだが、何故ここに連れてきたのかが分からない。

 

「ああ、実はですね、出先でちょっとした怪我をしてしまったので予定を繰り上げて帰って来たんですよ。で、空港を出たら突然この人が銃を突きつけてきたのですよ。酷くないですか?」

 

と、助手君。

 

「なにを馬鹿な事を。お前がしてきた事を忘れたか?捕まったのもお前が尻尾をようやく出したからだろう。牢にぶち込まれる前に家族に会いたいと、泣きついてこなかったらこんな所には来させていない。」

 

ふむ、女性に嘘をついている様子はなさそうだし、普通に助手君が捕まったみたいだ。

 

しかし、家族に会いたいという嘘を信じる辺りこの人も甘いな。

 

「安心しろ、この屋敷は既に包囲している。逃げ場はない。」

 

あ、そうですか。そりゃ安心。

 

まあ助手君の意図は大体伝わった。

 

「じゃあ、呼んで来ますんで。少々お待ちを。」

 

夕食を食べることが出来ないのは残念だが、仕方ないだろう。

 

メイドと俺ならば人1人取り押さえる位は簡単だろう。

助手君を救出し、全員で脱出だ。

 

この屋敷は正しくカラクリ屋敷。

逃げ道なんて幾らでもある。

 

そこら辺は引っ越してきた時に確認済みだ。

 

2人を待たせ、ダイニングへと向かう。

メイド野郎に事情を説明し、もう食べ始めていたうちの娘を食卓から引き剥がしつつ、また玄関へと戻る。

 

その道中、うちの娘は古宮博士の寝室へと向かわせる。

申し訳ないが、2人には起きてもらう。

 

「いやぁ、それにしても助手さんも不用心ですねー。ボディーガードとか付けてなかったのでしょうか。私が着いていくと言っても聞かなかったし、どうして殿方はこんなに我儘なのでしょうねぇ。」

 

お前も男だろ。

とか思いつつも、素直にその疑問には賛同する。

狙われている事が分かっているのに、どうしてまた…

 

で、玄関に辿り着くと、メイドを見るなり女性が顔を真っ青にする。

メイドの野郎がまた何かしでかしたのかと思って振り向くものの、特に何も特別なことはしていなかった。

 

女性の様子を見てメイドがニヤニヤしている位だ。

 

「なに、2人は知り合いなのか?」

 

と訊ねると、メイドがニヤついたまま頷く。

 

「ええ、一晩を共にした仲ですもの。ふふ、私、犯した女の子の顔と名前と職業と家族構成と住所と電話番号は絶対忘れませんからね。」

 

ねっとりした口調でそう言い、舐め回すような目線で女性の身体を見つめる。

 

女性はすっかり腰を抜かし、助手君の事なんか忘れてしまったようだ。

手錠を掛けられたまま助手君はこちらにスタスタと歩いて来る。

 

あの女性も大変だな。

これから先の長い人生、この変態メイド野郎の顔を脳裏な刻みつけながら生きなくてはいけないのだから。

 

「ふふふ、スーツなんか着て強ぶっちゃって。あの時はあんなにフリフリの、無防備な洋服着てたのに。まあ、それはそれで可愛いので良いんですけどね。…さてさて、また楽しませてくれるって事で良いですか?」

 

なんて抜かしながら、モゾモゾしてパンツを脱ごうとしていたので服を引っ張って引き摺り、そのまま屋敷の中の隠し通路へと続く部屋、古宮博士の部屋の中にフェードアウトさせて行く。

 

あの女性は暫く無力化されたはずだ。

トラウマスイッチを踏まれた彼女は非常に可哀想だが、自己防衛のために、時には犠牲が必要なのだ。

 

さて、未だ状況が掴めず寝惚けている古宮博士と葵ちゃんを引き連れ、ベッドの下にある紐を引っ張りロックを解除し、床を回転させると、もうそこは隠し通路だ。

 

この屋敷にある物の殆どは既製品なので、後でまた買い直せば良い。

うちの娘は自分の日記をしっかり抱えているし、魔改造化け物バイクは別の場所にあるガレージに入っているので、もうこの家に思い残すことは無い。

 

埃っぽく、薄暗い通路に電灯の灯りを点ける。

この通路は少し歩いたとかろにある畑の近くの枯れ井戸に繋がっている。

 

先導して歩きながらちらりと後ろを見てみると、助手君と博士が3日ぶりの再会の喜びを分かちあっていた。

 

博士が一方的に助手君を叱りつけていたようにも見えるが、まあ、因果応報というやつだろう。

 

 

「…なんで首輪なんかつけてくかな?私、首輪にはトラウマあるって言わなかったっけ。」

 

「ええ、知ってます。お父さんに着けられたんですよね。博士のことならなんでも知ってます。…ですが、博士。僕以外の男が博士のトラウマに残っているという事が問題なんですよ。そんなくだらない男へのトラウマは忘れて、僕だけのことを想って下さい。」

 

「お前なぁ…」

 

 

うん、今日も平和だ。

 




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