雨降る夜。 兵器は少女になった。   作:山並

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女子会

とある昼下がり。

 

太陽は爛々と輝き、暖かい春風が分厚いコートを脱がさせ、眠っていた花や生き物達を目覚めさせる。

 

そんな街中、ショーウィンドウに飾られたドレスを眺めていた少女も思わず目を奪われる程、美しく、恐ろしく目立つ女性が何食わぬ顔で歩いていた。

 

短く切りそろえられ、絹のように美しい茶髪や、妖しく光る茶色の双眸。透明感溢れる、作り物のような肌、そして整った骨格が織り成す美貌による注目も勿論あるのだが、着ている服も相当に珍しい物だ。

 

コスプレにしては着慣れすぎているし、普段着にしてはあまりにも目立つ。

 

黒いエプロンとスカートに白いフリル。

そう、彼女が着ているのは、所謂メイド服というやつだ。

 

見た感じでは、しっかりとした繊維を使っているようで、作業着としての機能もしっかりあるようだ。

飾りも少ないし、もしかしたら本物の、誰かに仕えているメイドさんなのかもしれない。

 

私が彼女を追い始めたのは数日前。

 

売れないファッション雑誌の編集者をしている私が出社する途中、通りがかった彼女と目が合い、スカウトしようと心に決めた。

 

しかし、あまりの美しさに尻込みし、一切声を掛けることが出来ずタイミングを逃し、そのままストーカー紛いの事をしてしまっている次第だ。

 

流石に自宅や職場を特定し、着いて行ったりはしていないのだが、彼女のお買い物コースは知っているので、何となく活動範囲も絞り込めている。

 

毎日大量の食材を買い込んでいたり、一切言葉を発している所を見ることが出来なかったりと謎が多く、それもまたミステリアスで良い。

 

 

と、彼女がおもむろにテラス席のあるオシャレな雰囲気のカフェへと入っていく。

 

私も入ろうかと思っていたものの、彼女がテラス席に座ったので、そのまま少し遠くから眺めている事にした。

 

彼女が座ったその席は数人分椅子の用意されており、他の誰かと待ち合わせしていることが分かる。

 

彼女が誰か他人と話す機会があるとするのならば、知人友人との会話だろう。

 

 

 

影が薄すぎて今の今まで気がついていなかったのだが、既に席に着いている女性が居た。

 

いや、正確に言うと車椅子に座っているのだが、そんなことはどうでもいい。

 

重要なのはその車椅子の女性が、彼女に微笑まれた事だ。

そして、その車椅子の女性は彼女に挨拶を返した。

 

詰まるところ、彼女とその車椅子の女性は親しいのだろう。

 

明らかに釣り合っていないように見える。

 

その車椅子の女性は根暗な雰囲気漂い、顔も中の上。

特段良い訳でも、悪い訳でもない特徴のない顔で、服装も女子高生が頑張ってオシャレをしたかのような、そんな初々しく、どうしようもなく普通な黒いパーカー。

 

肌は色白で、その肌を隠すように長袖、しかも前髪を伸ばし、顔に影を作っている。

 

その無造作に伸びた前髪と同じように、他の部分も雑に、整えもせずに黒髪が伸ばされ、腰まで届こうとしている。

 

異様な程身長も高く、美しさよりも不気味さや迫力が勝っている。

その上、膝から下がないのだから、何となくバランスが悪く感じてしまう。

 

別に足が無いからと言って差別をするつもりは無いのだが、モデルには確実に向いてはいない。

 

彼女と、車椅子の女性が友人とは、まるで考えられない。

 

纏っている雰囲気では正反対、月とすっぽん、一般学生と映画スター、哀れなホームレスと豊かなセレブだ。

 

が、事実目の前では車椅子の女性が楽しそうに彼女へと話しかけている。

 

何を話しているのかどうかは流石に聞き取れないが、何にせよ、認めたくは無いものの、彼女の友人なのだろう。

 

車椅子の女性に話しかけられながらも、彼女はただただ微笑んで頷き、それでも声は発しなかった。

 

途中、店員が注文を聞きに来たのだが、その時もただメニューを指さしただけだった。

 

あんなに親しそうな友人ですら、彼女に口を開かせる事が出来ないというのか。

 

そう思うと、どうしても彼女についてもっと知りたくなって仕方が無い。

 

私にここまでストーキング根性があったかと思うと、自分で自分を通報してやろうかと思ってしまうが、そんな事は、とりあえず彼女に接近する事ができてからだ。

 

しばらくすると、カフェの店員が彼女へとティーセットを持ってくる。

 

こんな街中だというのに、彼女の優雅さによって豪邸の中にある中庭のような様子になってしまった。

 

そう、彼女のどんな動作でも、ただ歩くだけでも優雅さが漂うのだ。

彼女は話さない、という一点を除けば善良でマナーのなった市民、いや、善良でマナーのなった貴族的なのだ。

 

ああ、ああ。

彼女の目の前にいるあの女が憎たらしい。

彼女の優雅な光景を汚している。

 

彼女がカップに注がれた紅茶を飲む目の前で、透明なコップに注がれた炭酸飲料をストローで飲んでいる。

それがどうしてか、堪らなく鬱陶しく感じる。

 

決して、恋では無い。

 

ただただ、彼女の周りの調和を乱している、あの女が憎いだけだ。

完璧主義ではない筈なのだが、どうも、我慢出来ない。

 

しかし、今激昂して飛びかかったとしたら、また、調和が乱れるだろう。

故に、ただ静観するしかない。

 

そんな訳で、歯ぎしりしながら10分程眺めていると、少し疲れと喉の乾きを感じたので1時離脱し、近くにあった自動販売機で缶コーヒーを1本買い、また定位置、ビルの陰へと戻り、双眼鏡を覗き込み彼女を監視し始める。

 

見ると、いつの間にかまた誰か、見たことも無い奴が席に座っている。

 

その黒髪の女性は猫背が目立ち、髪もろくに手入れされておらずボサボサになっている事や、白衣を着ている事から科学者、研究者に見える。

 

パっと見た時は少女に見える程(猫背の影響も幾分かあるだろうが)背が小さい。

しかし、堂々と煙草を咥えている事から唯の少女という予測は外れていると判明した。

 

テーブルには灰皿が用意されていなかったらしく、その女性は携帯灰皿を机上に置いて間に合わせているらしい。

だというのに、どうして灰を白衣の上に落として平気な顔をしているのだろうか。

 

見た目からも充分伝わってきていたが、その女性は余程ズボラならしい。

 

彼女の前で煙草を吸う事に対してそれなりに腹は立っているが、それ以上に、その白衣の女性もそれなりに美しい事に気がついた。

 

確かに背は小さいし、髪も整えられていない、恐らく化粧もせず、上下黒のスウェットの上から白衣を着るだけという、ファッションのフの字も無いような見た目をしている。

 

それだというのに、肌は綺麗だし顔も整っている。

まるで世界そのものから美しくあるように修正を受けているかの様だ。

 

しかし、総合的には彼女の方が上だ。

 

そこから暫く、特に変わりは無く、車椅子の女が笑顔で話してそれを彼女が微笑みながら聞き、偶に白衣の女性が不機嫌そうな顔で突っ込むという事を夕方頃まで続け、彼女が立ち上がるとそのままの流れで解散していった。

 

今こそチャンスだと思い、彼女へと急接近し、話しかける。

 

「すいません、モデルとか興味ありませんか?」

 

我ながら月並みな言葉だが、しどろもどろにならなかっただけマシである。

 

と、彼女は此方を見て、ニッコリと笑みを浮かべると、初めて口を開く。

 

「黙れ、ストーカー野郎。」

 

惚れてしまいそうになるほど、イケボだった。

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