雨降る夜。 兵器は少女になった。   作:山並

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雲が晴れて虹が出る。カッターをガムテープで包む。

古宮さんのベッドで寝ていた私が、白ちゃんに起こされてから小一時間。

 

何が何やら分からない内に少しかび臭い地下通路を抜けて、曇り空の元へと出た。

つま先が切り取られている私は、歩くのも難しくて、途中からメイドさんに背負って貰っていた。

恥ずかしいやら、申し訳ないやらで、ずっと俯いていると、いつの間にか寝ていたようで、大きなバンの後部座席で揺られているところで目が覚めた。

 

窓の外には何も植わっていない畑が広がり、少し寂しい気持ちになる。

 

「ねえ、ねえ、葵お姉ちゃん?起きた?」

 

私が目を覚ましたのに気がついたのか、隣に座っていた少女が、右腕の袖(中身はないけれど)を引っ張りながら私を呼ぶ。

 

この子は私がこんなにデカくて、欠損もしている私を怖がらずに接してくれる、心の癒しとも言える存在だ。

私が何度死のうとしても、必ず気付いて止めてくれる子でもある。

 

この子の父親は呼んでいないけれど、他の方々は白ちゃんって呼んでいるので、私もそう呼んでいる。

 

さて、そんな天使のような子が私を呼んでいる理由は、きっと寂しいからだろう。

 

車内を見渡すと、誰もこの子に構える雰囲気では無さそうだ。

 

そもそもあまりこの子を可愛がっていない助手さんは運転に集中していて、古宮さんとこの子のお父さんは前の座席で書類を広げて何やら難しそうな話をしているようだ。

メイドさんは車内にはいないようで、さっきまでは私が寝ていたので、この子は1人で黙って待っていた訳だ。

 

シートベルトをしているので、膝の上に乗せて上げる事も、ギュッと抱きしめてあげることも出来ないけれど、とりあえずのお話し相手位にはなれるだろう。

 

今まで寝ていた分の贖罪も込めて、昨日読んだ本の話をしてあげよう。

 

 

暫くすると、白ちゃんのお父さんと古宮さんの話し合いも終わったようで、白ちゃんに構い始めてくれた。

 

会話の途中、2人が何の話をしていたのか、白ちゃんが尋ねた。

 

どうやら、引越しの為の打ち合わせをしているらしく、こうやって移動しているのも新たな家に向かうためらしい。

 

なにやら前の家は警察に囲まれているらしく、もう使えないらしい。

古宮さんや助手さん、それとメイドさんが悪い人達だっていう情報は知っていた、というか聞いていたので、追われていること自体に大した驚きは無いのだけれど、こんなに素早く逃げられる事を見ると、慣れているんだなぁ、と、仲間はずれ感を少し感じてしまう。

 

メイドさんは1人、古宮さんの研究データを持ち出す為に家に戻ったらしく、それで車内にはいなかったようだ。

 

そういうわけで、運転している助手さんの助手席には誰も居ない訳だ。

古宮さんが白ちゃんのお父さんや私と話している間、憎そうに歯ぎしりをしていたのを聞き逃さない。

何となく、いい気味だと思ってしまった。

 

私は、助手さんが少し苦手なのだ。

なんだか怖いし。

 

 

そんなこんなで、2時間程後。

前の大豪邸に比べると可愛いものだが、相当に大きな家に辿り着いた。

 

周りには田んぼ位しかないような、ド田舎と言える様な場所にぶち立っている、暖かみのある木造建築、それも平屋建てだ。

 

馬鹿みたいに広い庭を通り、戦闘機ですら入りそうなくらいデカいガレージにバンが停められる。

 

何故和式な平屋にデカいガレージが…と思わなくも無かったが、他の誰も突っ込まなかったので、あまり気にしないようにした。

多分、これが普通なのだろう。

 

着いた途端に古宮さんと助手さんは、止める間もなく2人で勝手に何処かに行ってしまったので、白ちゃんのお父さんに家の中を案内してもらった。

 

白ちゃんのお父さんもここに来るのは初めてだそうだが、先程車の中で古宮さんに説明を受けていたらしく、部屋の場所や用途を完璧に把握していた。

 

既に荷物が運び込まれており、一人一人に部屋も振り分けられていたので、何も不自由は無さそうだ。

 

一通り家の中を回り終わると、白ちゃんのお父さんは夕ご飯を作りに台所に行ってしまったので、私は自分の部屋の整理をする事にした。

 

自分の物は前の家にも無かった筈なのに、どうしてか大量の、しかも私が着るには煌びやか過ぎたり、可愛い過ぎたりする衣服が部屋のクローゼットや押し入れにパンパンに詰まっており、辛うじて着ることの出来そうな物を選出する為に、少し時間が欲しそうだ。

 

因みに、私が前の家で着ていたのは、主にあのメイドさんの服(身長が殆ど同じ)で、多種多様な服を持っていてとても驚いた。

その殆どが私には似合わない物だったのだが、1度メイドさんに捕まると日が暮れるまで着せ替え人形にされてしまい、メイドさんの持っている服の殆どは恐らく着たと思う。

 

こんな私みたいなのを着せ替えさせて何が楽しいのだか、兎に角メイドさんは楽しそうにしていた。

 

結局、お借りしたのはシャツやスウェットなんかのラフなものばかりで、メイドさんは不満そうにしていた。

 

しかしながら、定期的にその着せ替え大会は開催され、時には私が眠っている最中に全身コーデさせられたり、自殺しようと真夜中にこっそり抜け出したりした時に鉢合わせ、そこで捕まって始まったりだとか、そういった事もあり、メイドさんはマイペースに私を玩具にしていた。

 

今着ているパジャマだって、元々は唯のTシャツだった筈が、水玉模様の可愛らしい奴に変わっている。

 

普段から夜間着はTシャツ1枚で、一緒に布団に入る白ちゃんや古宮さんがとても暖かいので、あまり厚着する必要もない…と、メイドさんや白ちゃんに可愛らしい奴を着せられる言い訳に出来ていたと思っていたのだが、あのメイドさんには一切通用しなかったようだ。

 

一通り服の整理も終わり、服も地味で私には似合う奴に着替えた所で、白ちゃんのお父さんが夕飯に呼んでくれた。

時計を見ると、既に針は9時前を指しており、少し遅めの夕飯となった。

 

お預けを喰らっていた分、白ちゃんの食欲は何時もより凄く、用意されていた数キログラムの料理を全て食べ尽くした勢いは、皿をも食べるのでは無いかと心配になる程だった。

 

食卓に古宮さんと助手さんが来ていなかったので、理由を白ちゃんのお父さんに尋ねると、上手いことはぐらかされた。

 

どうしても気になったので、古宮さんのお部屋を覗きに行くと、扉の向こうから、古宮さんの物と思われる凄い声が聞こえてきたので、覗くのは止めておいた。

なんとなく、怖かったから。

 

次の日の朝は、古宮さん達は起きてくるのが遅かった。


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