既に通勤ラッシュも過ぎ去った朝。
昨日の雨が無かったかのように、空は澄み渡っていた。
まだまだ幼さの残る白いワンピースを着た少女は、公園のベンチに座って大量のメンチカツを頬張っていた。
大きな紙袋4つに沢山入った出来立てのメンチカツを満足げに食べ進めるその少女の空腹は留まるところを知らず、隣に座る白いTシャツの中年男性をドン引きさせる程だ。
もうすぐ昼になろうかとしている時間帯でこの絵面はシュールで、どことなく犯罪臭がするが、昨日のままの状態よりは遥かにマシになっただろう。
着るものがなかったため男のTシャツをブカブカのまま着て、家で一人で座り込んだ返り血塗れの少女に勝る犯罪臭など、そうは無いだろうが。
元某諜報機関のエージェントだった男はその面影もなく、少女の服と食事に掛けた金に財布が相当軽くなってしまった事にため息をつくだけだ。
結局のところ、少女の正体についてもよく分からず、あの黒服の男達がどこのどんな組織がと言うことすらも全く分からないのであった。
探ってみてもいいのだが、既に引退した身。
使えるパイプも、もし組織の場所が分かったところで、調達できる装備もたかが知れている。
そう言った状況から、相手側の動きがない限りはこちらから動くこともそうできず、護身用に隠し持っていた拳銃_____それも中国製の粗悪なコピ ー品____と、それ以外に頼れるのは己の身のみと、余りに頼りにならない、なんなら少女の方が強いのでは?
とか考えてしまうほどだ。
実際、昨日少女を拘束して落ち着かせることができたのは、幸運以外の何物でもなかったりする。
情けないような感じもするが、あの少女には腕力では叶わない。
不意打ちと、エージェント時代に習得した拘束術、そして少女が男に懐いていたという様々な事が重なり、なんとか均衡が取れていたのだ。
あの時、もう少しでも少女の掛けた力が強かったら情報を聞き出すことすら叶わなかっただろう。
そういった事情もあってか、単純に少女が幸せそうに物を食べていることからか、男は少しホッとしているのだった。
と、勢いよく食べ進めていた所為で喉に詰まらせてむせてしまったようで、自分の飲んでいたペットボトルの飲料水を全て飲まれる事になってしまった。
投げ捨てられそうになったペットボトルをキャッチしながら、男は一度ため息を吐く。
部屋から持ってきたのはこの一本だけで、雨上がりの照りつける態様によって喉が乾いてきた。
しかし、部屋に取りに戻るのは愚策だ。
また買わなくてはいけない。
田舎と都会の中間くらいのこの町では、自動販売機は数少なく。
少し探さなければならないのがこの気温だと苦痛だ。
それに、この大量のメンチカツ…いや、既に少数になっていたが。
荷物には変わらないため、それを持ったまま歩くのも格好が付かない。
少女を置いていくのは連れ去られる可能性があるので論外。
公園の水道水は腹を壊すかも知れないからなし。
エージェントだからこそ、体調の管理は気をつけなければ。
どうにも選択肢がないため、少女が食べ終わるまでしばらく待つのだった。
しかし、少女は暑くは無いのだろうか。
炎天下の中、出来立てホヤホヤのメンチカツを頬張り、一切整えられず伸びきった髪も暑そうだ。
この少女も兵器ということだから、熱への耐性もあるのだろうか。
もしそうならば、毒物や低温にも強そうだ。
敵に回らなくて良かった。
と、つくづく思う。
部屋の中で一度見ただけだが、スピードも持久力も異常に見えた。
敵に回したら逃げきれなさそうだなぁ…とか、そう言った類のネガティブな思考に陥り、また深いため息を吐くのだった。
これからも短いのを適当に投稿させていただきます。