南米のとある国にあるスラム街。
その地下に設けられた研究室らしき部屋の床では、黒い長髪を後ろで纏めた東洋人らしき白衣の女性が横たわっているのであった。
コンピュータまみれのその部屋は薄暗く、まるでホラー映画のセットのようだ。
「なにやってるんですか博士ー。早く会議行きますよー。」
訂正である、今明るくなった。
間延びした声を響かせ、電灯を点けながら部屋に入ってきたのは、中性的な顔立ちをした少年だ。
癖のついたブランドの髪と透き通るように青い双眸は、まるで人形のように整っている顔立ちにマッチしている。
博士、と呼ばれた女性は床から起き上がろうとせずに呻き声をあげるのみだ。
「博士ー?そういうのいいんで早く起きてくださいよ。今回はちゃんと行かないとまずいですって。」
その少年が何度も呼ぶと、その女性はようやく気怠そうに立ち上がる。
「…今回のはそんなに大事な奴でもないしー、今はあの子に逃げられて傷心中なの、察してよー…」
苛立った声でそう呟きながら目にかかった髪を搔き上げる。
やつれた顔が露わになり、目の下のクマの深さからそのストレスの深さをも読み取れる。
彼女は古宮 雪。
裏の世界では名の知れた生物兵器の開発者だ。
彼女の作り出した劇薬は数知れず、結果を得るためには犠牲も問わないマッドサイエンティストと言われている。
彼女を知る人物に一人残らず聞いてみるとよくわかるだろう。
「彼女、古宮博士は狂っていると思いますか?」
恐らく、一人を除いて全員がこう答えるだろう。
「狂っているとも。」
と。
そして、心の内では彼女の才能を認め、そして危険視している。
利用するだけしたら直ぐにでも殺そう。
しかし、彼女を利用しきることは誰にも出来ないようで。
未だに命を狙われることなど無いようだ。
まあ、唯一博士が大好きな助手のガードが文字通り死ぬ程硬いから、というのもあるのだが。
博士自身の防御力は皆無であり、睡眠薬入りのアイスティーを飲まされて助手にベッドまで連れ込まれた事もあるらしい。
その後の事はご想像にお任せするが。
さて、そんな博士だが。
最近はどうも元々ないやる気がより薄くなっているようで。
この通り、助手に引き摺られないと真っ暗な研究室から出ようともしないのだ。
原因はどうやら、女児の形をした兵器を納品したところ依頼者が変態糞ペドフェリアだったため、監禁して色々と楽しんでいたところを逃げられた、という出来事のようだ。
実はこの脱走した兵器を博士が娘のように可愛がっており、
「博士が好きだから僕も好き」
という理論により助手も大変その兵器を可愛がっていたのだ。
だというのに、どこの馬の骨とも知らん奴に拾われたというのだからもう堪らない。
裏の人間を雇い、その拾った人間を殺して兵器を攫ってこいという指令を下したのだった。
なんでかそいつらもヘマをし、かと言っても。
「……すみません、僕が指名手配されちゃったばかりに…」
この助手が大量虐殺で指名手配されているから、そう手軽に出歩けないのだ。
「…あー、クソ…お前なんで、なーんで過激派集団のリーダーとかやってんだよ…」
「…すみません、博士の兵器をどうしても買いたかったものでして。」
助手の来歴もとても変わっている。
彼に自己紹介を頼むと酷いことになると、彼を知っている者の中ではもっぱらの噂だ。
「初めまして。博士をよろしく。」
で、ある。
名前どころか、何を言いたいのかもよくわからないだろう。
それくらい、博士の事が大好きなのだ。
彼はドイツの名家に生まれ、順風満帆な人生を送って来た。
しかし、気がつけば何故か南米で過激派宗教団体の開祖をしていたのだ。
テロ行為は当たり前の、ヤベー団体
その開祖は当然というか、指名手配犯だ。
テロ行為には生物兵器が多く用いられており、その殆どが博士の作ったものだ。
何処かで博士を知った、もとい、知ってしまった彼は何でか博士に心酔し、 その兵器を買って、使ってみたいという気持ちが芽生えた。
大量に兵器を購入し、博士に近づくと半ば脅迫のような形で助手にしてもらったのである。
因みに脅迫の内容は
「手足を切り離してでも貴女と一緒に居る」
で、流石に博士も引いてしまったわけだ。
実際に雇ってみるとその有能さでかなり楽ができたので、そのままでいる、というわけだ。
「……まあ、いい。仕方ないから、私のプライベートジェットで無理矢理行くとするか。」
そんな事情もあってか、正規のルートは使えない。
なれば、裏のルートを使えば良いだけだ。
使わない金なら大量にある。
後はそれを軽く使うだけだ。
「え、良いんですか?あれって確か無理矢理生体パーツ付けてダメになった奴じゃ…?」
博士が設計するものには一々生体パーツが付いてくる。
一時期機械で作られるものを生物に置き換えるという事にハマっていた時期、『生きている銃』なるものを開発してガンコレクターに売ったりもしていた。
「いいんだよ、飛ぶには飛ばし。…ただ、ちょっと体液とか気になるかも。」
博士が作った飛行機、なんと汗をかくのだ。
食事は必要としないが、排熱の為に汗を出したり体温が高くなったりと、少々乗り心地は悪くなりそうだ。
「博士が作った汗でしたら舐めたいくらいですよ。早く行きましょう。」
とっても活き活きとしているようで、博士も嬉しいだろう。
流石はワザと部屋を暑くして博士がかいた汗を舐めとっていただけはある。
「じゃあ、行くとするか。位置情報だけはわかってるし。」
博士と助手は、今日も征く。
「ところで会議はどうするんですか?」
「いいんだよ、そんなことは。」