雨降る夜。 兵器は少女になった。   作:山並

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雨の降り始め。親と保護者の邂逅。

雨が、降っている。

 

梅雨の時期、雨自体は全く珍しくもないのだが先ほどまで晴れていたというのに、こうも土砂降りになってしまうと困ってしまう。

 

少女を連れて、情報を集めながら逃げ、数日が過ぎた。

黒服の男たちは常に追ってきていた。

襲撃してくることもあったのだが、なんとか全て撃退した。

 

今はずぶ濡れのまま、シャッターの閉まった店の軒下で雨宿りをしている。

 

少女はかなり知能が高く、言葉も直ぐに覚えた。

まだ片言だがしっかりと話すことが出来る。

子の成長を見守る親の気分というのが少しは分かってきた。

 

食欲は高まる一方で、食費について本気で悩んでいる。

毎日、一般的な成人男性の5倍は食べているような気がするのだが、一体どこに収まっているというのか。疑問である。

 

「…ん…?…あ、博士ー!居ましたよー!」

 

男の思考を遮るかのように、水も滴る良い男、というよりはただ雨でびしょ濡れの美男子が流暢な日本語で誰かに向けて叫んでいる。

その美男子、こちらの方を指差しているのだから驚きである。

 

まさか、あの黒服達の仲間か…?

 

とも思ったが、そののほほんとした雰囲気から、今までの奴らとは用事が違うな、と。

とりあえず様子を見ることにした。

 

その一瞬の思考が終わるとほぼ同時に、静かなシャッター街の佗しげな雰囲気をぶち壊すかのように白衣を着た女性が凄いスピードで、それに何か叫びながら走り寄ってくるではないか。

 

その叫びをよく聞くと

 

「ようやく見つけたー!」

 

とか、

 

「今すぐ攫ってあげるー!」

 

とか、そのテンションで言う言葉ではないような気がしないでもない言葉が数々聞こえてきた。

 

不味い、これは逃げておいた方が良かったか…?

 

苦笑いを顔に浮かべる間も無く、博士と呼ばれたその女性は、男の隣で目を丸くさせてジッとその様子を見ていた少女へとダイビング!

 

無論、そんな変態にこの子を触らせるわけにはいかない。

ということで、抱き上げて躱させたのだが。

 

「……いっっっったぁぁぁああいいい!!!!!」

 

派手な音を立てて、白衣の女性がシャッターに突っ込む。

相当痛かったようで、先程よりも大きな声で痛そうに叫ぶ。

シャッターに勢いよく衝突したせいで、額には擦り傷ができ鼻がひん曲がって鼻血が出てしまっている。

少女は少し可哀想とでも思ったのか狼狽えた様子で女性と男の顔を交互に見ている。

 

その博士の様子をうっとりとした表情で見ていた美男子には相当引いたようだが。

 

 

「……さて、と。」

 

大分落ち着いた女性は、ひん曲がった鼻を無理矢理戻した後に手で血を抑えている。

口調や姿勢から格好を付けているのは分かるのだが、痛さで足をプルプル震わせているせいで台無しだ。

 

助手と名乗った美男子は、とうとうその様子を動画に撮り始めた。

ニコニコといい笑顔で。

 

話を戻そう。

 

この女性は古宮、という博士らしい。

少女を作ったと聞いた時、男はかなり驚いたのだが、危害を加えるつもりはなさそうだったためそのまま話を聞き続ける事にしたようだ。

 

どうやら、この博士は少女に惚れ込んでいるらしく脱走したというのを聞いて真っ先に刺客を差し向けたらしい。

その話がよじれによじれて、男の抹殺と少女の誘拐命令になっていたらしい。

 

実際は少女を連れ戻して一緒に居ることができればそれでいいようなので、とりあえず悪いやつではなさそうだ。

 

しかし、こちらにも少しは保護者としての意地がある。

ここ数日間の間に渡って癒し続けられた身としては、そう易々と引き渡すわけにはいかない。

が、あちらが生み出した、謂わば親と言うのならばこちらはただの誘拐犯だ。

できれば平和的に解決したいのだが…

 

「あ。」

 

「…どうかしたか、佐藤。」

 

「いや、一緒に暮らせば解決じゃんか。」

 

「…ああ、確かに。…私もそれは思った。」

 

「え?」

訳が分からんぞ、そう思っていたならなぜ誘拐ムーブをかましていたというのだ。

 

「ダメです。博士の側に居ることができる男は僕だけですので。」

 

ああ、成る程。

助手が、こういうやつなわけか。

そりゃ美人の博士にも男は寄り付かないだろう。

 

「あれ、既婚者だったのか?」

 

と、思ったら左手の薬指に指輪が。

いや、それだけで決めつけるのはあれだが、つい声に出てしまった。

 

「は?…んなわけないだろう。」

 

と、随分ドライな返答。

うんまあ、察してはいたけど、

 

「じゃあその指輪は装飾品か?」

 

とは言ったものの考えるとこの博士がアクセサリーを着けるとはなんとなく思えない。

それよりも、なんで着けてる本人が一番困惑してるんだ。

 

なぜか助手がニタニタしているのだが。

 

さては、この助手。

 

「僕が着けました。ピッタリフィットする様に作らせたので違和感は少ない筈ですよ。…ほら、博士は僕のものですから。ね?」

 

「」

 

「」

 

「はかせは、じょしゅさんのおよめさんなの?」

 

「ええ、そうですよ。」

 

やめろ、我が子の教育によくない。

こんなやばい恋心のやつに影響されるのはよくない。

 

「ちょっと、古宮博士。お前の助手どうにかしてくれよ…」

 

堪らず博士に懇願する。

多分、博士にはどうにもならんからここまでになってしまっているんだろうが。

 

「無理。どうにかなる奴ならとっくの昔に置いて行ってるわ。」

 

あ、やっぱり。

 

「えー?はかせは、じょしゅさんのこと、きらいなの?」

 

やめてあげなさい、そんな純粋な目でキッツイことを聞くんじゃない。

ほら、博士が困っている。

この助手相手にはどっちの答えも曲解されてバッドエンドになるやつだから!

 

数秒の沈黙の後、博士が遂に口を開く。

 

「あー、別に嫌いじゃあないけどな、夫婦ではない。」

 

「やっぱり博士は僕のこと好きなんですよね!ね!あれだけ激しく愛を交わしたんだから!ね!」

 

助手の目はキラキラしてる。

博士の目は死んでる。

少女の目は謎の空気に目を泳がせている。

 

面倒な事に巻き込まれる前に帰ってしまおうかとも考えたが、博士の視線が痛かったので止めておいた。

 

「馬鹿!あれはお前が無理矢理!!」

 

「博士だって抵抗しなかったじゃないですか!」

 

「睡眠薬のせいで身体が怠かったんじゃい!」

 

「ねー、なんのおはなし?」

 

 

 

うむ、今日も平和だな。

 

奴等が痴話喧嘩をしている間に逃げよう。

 




カオスなのは仕様です。
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