星屑の狭間で   作:トーマス・ライカー

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記者会見後の昼食会とその後・・・・

それから約20分後・・私は9階のスカイ・ラウンジで・・ハーマン・バーカー常務と、エリック・カンデル・フロア・ファースト・チーフと共に・・昼食の卓を囲んでいた。

9階のスカイ・ラウンジに入った事は、これまでに3回あったが昼食の席に着いた事は無かった・・。

気が抜けたような感覚がまだ残っている・・目の前にはジンジャーエールの注がれたグラスがあった・・今気が付いたかのように手に取って、二口飲んだ・・。

右手側にパーカー常務が座っていて、左手側にエリック・カンデルが座っていた・・。

高級そうで面倒臭そうなランチ・メニューが多かったが、一番食べ易そうな定食風のランチを頼んだ・・常務はハーフ・ボトルのロゼ・ワインを頼んで、私達にも勧めたが私は車で帰宅するからと辞退した・・。

「・・アドルさん・・今日はお疲れ様でした・・ご苦労様でした・・これでマスコミも・・役員会や大口株主の方々も、暫くは静かにしていてくれるでしょう・・しかし、このゲーム大会に関わる事が、これ程の反応を引き出す事になるとは・・予想外でしたね・・」

「・・全くですね・・」

エリック・カンデルもそう応じてライト・ビールのグラスに口を着けた・・・。

「・・ところでアドルさん・・運営本部に公開を許可したのは、どこまでだったのですか・・?・・」    「・・顔と名前と年齢だけです・・」

「・・なるほど・・ですがそれから僅か数時間で、勤務先、ワークアドレス、パーソナルアドレスも割れましたね・・もう貴方の今の住所も・・ご家族の住所も探り出されているでしょう・・今日の会見は社としての会見でしたので・・個人情報の公開について、釘を刺すと言う事には・・敢えて言及しませんでしたが、今後アドルさんの個人情報が次々と晒されるようでしたら・・また対応を考えないといけなくなりますね・・・」

「・・そうですね・・」

「・・まあ、そのような事態になっても・・社として適宜・適切にサポートさせて頂きますので・・心配しないで下さいね・・」

「・・分かりました・・宜しくお願いします・・・」

「・・今日は、これから直帰ですか・・?・・」  「・・はい・・」

「・・気を付けて帰って下さい・・奥様に連絡を執られて・・様子を訊いてあげた方が良いと思いますね・・要望とか報告とか連絡とか・・直接、私やファースト・チーフに通話を繋いでくれても構わないのですけれども・・スケジュール的にすれ違いになる可能性もありますので・・どうでしょうね、チーフ・カンデル・・?・・秘書室から誰か・・アドルさんに付いて貰いましょうか・・?・・」

「・・そうですね・・そうして頂ける方が、時間の節約と言いますか・・タイム・ロスの防止には・・なると思いますね・・」

「・・いや、そんな・・私の為に秘書室の方の手を煩わせてしまうのは・・・」

「・・いや、アドルさん・・社として貴方のバックアップを全面的に展開して行うには・・必要な人員配置と思います・・秘書室のチーフには私から今日中に話をしますので・・一両日中には、アドルさん専任の副官と言いますか・・セクレタリィが決まるでしょう・・・」

「・・分かりました・・」 「・・じゃあ、頂きましょう・・冷めちゃいますから・・・」

それから暫くは3人とも無言で、昼食に取り掛かった・・。

それから30分後・・3人ともデザートのプディングまで食べ終わって、コーヒーを飲んでいた・・。

「・・アドルさん・・土曜日は、何時に行かれるのですか・・?・・」

「・・出来るだけ早朝から行こうと思っています・・」

「・・そうですか・・報告書のフォーマットは、後程チーフからでも渡るようにしますので・・宜しくお願いします・・」    「・・分かりました・・」

「・・それでは、今日はここまで、と言う事で・・」

常務の言葉を受けて3人ともナプキンで口を拭うと、立ち上がった・・。

もう昼休みは終わっていたので、自分の職場のフロアまで降りた私は、フロア・チーフに午後から帰る旨を伝えた・・同僚たちは私と顔を合わせると、労いの言葉を掛けてくれた。最後に自分のデスクに寄ると、グラハム・スコットは自分のデスクで仕事をしていたが、直ぐに立って来てくれた・・。

「・・お疲れ様です・・堂々と話してましたね・・」

「・・ライヴで中継していたのか・・?・・」やれやれと言った感じで言うと・・、

「・・そりゃあ、お昼でしたからね・・帰るんですよね・・?・・」

「・・ああ・・明日も休もうかなって感じもしてるけどな・・」

「・・良いんじゃないんですか・・明日いっぱいは何もしなくても良いぐらいには進めておきましたから・・」

「・・本当にありがとうな・・感謝してるよ・・」

「・・良いんですよ・・いつもお世話になってますから・・・」

「・・うん・・やっぱり明日も休むわ・・チーフにそう言ってから帰る・・何かあったらデスクにメモでも残して置いてくれ・・じゃあ、お疲れさん・・お先に・・」

「・・お疲れ様でした・・気を付けて・・・」

最後に左手を挙げて合図すると、もう一度フロア・チーフに声を掛けて1階に降りた・・。

1階のカフェテリアでコーヒーを飲みながら一服してから帰ろうかと思って、軽く中を覗いて見たが・・マスコミ関係者のように観える人はいないようだった・・。

もしもいたら面倒な事になるかな、と思って入り口の辺りで迷っていると、顔見知りのウエイトレスと眼が合ったので、ハンドサインで《・・マスコミの人はいる・・?・・》と訊くと《・・いない・・》らしいので、入った。

いつも座る席に座って、シナモン・コーヒーを頼んだ・・。

灰皿を引き寄せて一服点ける・・半分ほど灰にしたぐらいでコーヒーが来た・・。

カップを半分ほど空にしたぐらいで、一本を灰皿で揉み潰す・・シナモンの香りと共に残りのコーヒーの味と香りを楽しんでいると、人の気配に気付いた(・まさか・・)。

「・・すみません・・相席してもよろしいでしょうか・・?・・」

(・・うっ・・やっぱり・・)「・・あ・・はい・・ええ・・どうぞ・・」

「・・ありがとうございます・・アドル・エルクさん・・」

「・・記者さんですか・・?・・会見場にいらっしゃいましたか・・?・・」

「・・ええ・・いましたが、座っていたのはずっと後ろの席でした・・初めまして・・モリー・イーノスと申します・・フリー・ライターをしています・・」

そう言いながら自分のメディア・カードを私の目の前に置いたが、私は視線を左に逸らしたままだった・・。

「・・宜しければ・・少しお話を伺いたいのですが・・・」

「・・私への取材でしたら、会社の広報部に訊いて下さい・・私自身が個人としてお話する事も、質問に答える事も許可されておりませんので・・」

そう答えてバッグを手に取り立ち上がって出て行こうとしたが、次に発せられた彼女の言葉に、思わず足を止めてその時に初めて彼女の顔を見た・・。

「・・勝ちたくないですか、アドルさん・・?・・私は貴方を勝たせる事の出来る情報を持っています・・」

・・モリー・イーノス・・年の頃は24.5才だろうか・・?・・若手の女優かタレントと言っても充分に通用するような美人だ・・ライト・ブラウンに少しカーマインが入ったような色の、ナチュラルにカールさせたセミロングの髪だったが・・意志の強さを感じさせる眼が、真っ直ぐ私の顔を見据えている・・。

「・・どう言う事ですか、それは・・?・・」

「・・まあ座って下さい・・それとも、奥の席に移りましょうか・・?・・」

「・・いや、ここは会社の中なのでこれ以上はマズいです・・後程私から連絡します・・」

それだけ言うと、彼女が先程テーブルに置いたメディア・カードを手に取り、バッグを抱えて急いで外に出た・・。

そのまま従業員の駐車スペースに入り、自分のエレカーに乗り込むと直ぐにスタートさせた・・大通りに出て最初の大きい交差点の手前で、信号待ちの渋滞に捉まったので一息吐くと、胸ボケットに取り敢えず突っ込んでいた彼女のメディア・カードを取り出す・・。

余白に手書きで何かが一行書き付けてあったのでよく見ると、サイバースペースの中での個人用クラウド・データ格納庫のURLコードのようなものと、そこにアクセスして閲覧するためのパスコードのようなものだった・・・。

メディア・カードを胸ポケットに戻すと私は、渋滞で停車している間にナビの検索で近場の端末ショップを見付け、ロックしてコースを設定した・・。

ショップで買ったのは、使い捨ての安い携帯端末だ・・すぐその端末でデータ格納庫にアクセスする・・データ・カテゴリーの中に『待ち合わせ場所』があったので閲覧すると、私が月に2回ほど休日に訪れる小さいカフェの名前と住所と電話番号があった・・。

何か見張られているような感覚を覚えて思わず周りを小さく見渡してしまったが、そのカフェの記事に『A・E・・2時間後に』とだけコメントすると、総てを閉じて端末の電源も切って帰路に就いた・・・。

帰宅するとシャワーを浴び、下着姿のままジンジャーエールの瓶を取り出すと、一息で半分ほど呑んでから、ソファに深く座った・・・。

クロノ・メーターを見遣ると、出るなら20分後ぐらいまでには出ないと待ち合わせ時間に間に合わなくなる時刻だった・・。

私は立ち上がって身支度を整えると、先程購入した端末と普段使っている端末と、普段は使っていない端末の3つをバッグに入れ、そのまま携えて部屋を出た・・。

 


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