異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)   作:岸若まみず

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第1話 異世界で 上前はねて 生きていく

現代日本で社畜として働き、過労死したはずの俺は、気づいたら異世界へと転生していた。

 

しかもディストピアSFや粘菌生物の支配する世界なんかじゃなく、魔法あり異種族あり奴隷ありの所謂ファンタジー世界だ。

 

最初は単純にラッキーって思ったね、ノーフォーク農法を広めたり、石鹸作ったりして知識チートで楽に過ごしてやるんだってさ。

 

でも必要は成功の母っていうか、みんなの欲しがるものはどこでも同じっていうか、そんな感じなわけで。

 

農地が痩せない麦を大昔の魔法使いが作ってたり、石鹸に代わるような商品作物が普通に流通してたりで、俺の野望は5歳にして打ち砕かれたのだった。

 

幸い俺は地方都市の城塞内に店を構える商家の三男坊。

 

働かなくても育ててもらえたし、適当に四則演算をやってのけたら親が舞い上がって神童扱い。

 

末は官吏か魔導師かって事で、ちょっといいとこの魔導学校に入れて貰えることになった。

 

タダで学歴おいしいです。

 

ちなみにこの世界の魔法使いは知識階級しかなれないって事で、上流階級は魔法を使える人がほとんどだ。

 

だからちょっといいとこの坊っちゃん嬢ちゃんは才能があろうがなかろうが、みんな魔法と高等教育を教える魔法学校に入ることになる。

 

冒険者の魔法使いなんかは、そこのドロップアウターか没落した家かってとこだ。

 

そんなわけで、都市内の魔法学校に通うことになったわけなんですが。

 

もうね、わかってたんだけどね。

 

俺の魔法の才能……普通ですわ。

 

なんか超偉そうな貴族の子弟達に馬鹿にされちゃうぐらいには攻撃魔法が苦手で。

 

なんかお尻が弱点っぽい、ドリルヘアの上級貴族のご令嬢にライバル認定されちゃうぐらいには支援魔法が得意。

 

得意と苦手で差し引き0って感じ。

 

あとは社会通念的なあれで、この国じゃ男魔導師は攻撃魔法が使えないと認めてもらえない感じだから職業軍人としては絶望的って感じかな。

 

俺は軍隊入る気ないからいいんだけどさ。

 

教師からは「お前が女だったら主席だったかもな」と言われたけど、主席になんかなっても実家はしがない政商ですし。

 

いやー、参ったわ、金回りだけの家だからなー、そこらへんの貴族より稼いでるけど大した事ないんだよなー (棒)

 

そんなわけでほどほどのヘイトとほどほどの期待を背負いながら学生をやってたんだが……

 

俺は10歳にして、新しい商売の種を思いついたのであった。

 

 

 

 

 

前世の俺は社畜だった。

 

昼も夜も過労死ラインもなく働きながら、終業時間の2、3時間前に悠々と役員車に乗って帰っていく役員を羨望の目で見つめていたものだ。

 

今世の俺はドでかい商会のお坊ちゃんだ。

 

役員待遇で兄貴の下について楽できるかもしれないが、もしかしたら兄貴の気分次第では社畜並にコキ使われるかもしれない。

 

そんなのはごめんだ。

 

そして何より、張り詰めた社畜からぬるま湯のお坊ちゃまへと一気に生活が変わった俺は、もう自分で働くというのが嫌になっていた。

 

俺の持つ回復魔法の才能を使えば楽々で治療院なんかを経営して生きていけるのかもしれないが、回復魔法を使うことすら嫌なのだ。

 

できたら巨大な劇場を建てて、一番いい席で催し物を寝転びながら見続ける生活がしたい。

 

何もせずに出てきた飯を食って、涼しい所で微睡む生活をしたい。

 

猫かなんか飼って、一緒に日向ぼっこしてたら一日が終わるような生活をしたい。

 

そこで俺は考えたのだ。

 

『安く買った奴隷を冒険者にして、上前をはねて生きていこう』と。

 

幸いにしてこの街の周りは動植物の資源豊かな土地が点在しているし、なんなら南の川を越えた所には摩訶不思議なダンジョンを擁した自治区だってある。

 

はっきり言って冒険者として稼ぐならば、これ以上ないってほどに立地がいい。

 

事業成功の秘訣は立地にあるという、俺はこの土地の名士の息子としての立場をしゃぶり尽くす心積もりでいた。

 

 

 

「坊っちゃん、本当に大丈夫ですかい?あっしの懐は当てにしないでくださいよ?」

 

「わかってるって、何度も言うな」

 

 

 

俺、ことサワディ・シェンカー(10)は商会の丁稚を引きつれて、実家の懇意にしている奴隷商へとやってきていた。

 

無論冷やかしではない、今日のために社長である親父に計画を話し、10歳児には破格の小遣いを引き出してきたのだ。

 

具体的に言えば今後の小遣い10年分だ、今から行う事業に失敗すれば俺は灰色の10代を過ごすことになるだろう。

 

もし駄目なら俺は絶望のあまり、盗んだ俊馬で走りだしてしまうかも……

 

なんてことを考えていたら、奴隷商が応接室へと入ってきた。

 

 

 

「お待たせ致しましたサワディ様、このペルセウス、貴方様と取引できる日を首を長くしてお待ちしておりました」

 

 

 

奴隷商の爺さんは若いころの祖父に世話になったらしい、そしてなぜか俺の誕生パーティーの皆勤者でもある、ストーカーかな?

 

 

 

「ああ、俺も爺さんから奴隷を買うのを楽しみにしてたよ、今日はよろしく頼む」

 

「かしこまりました……しかし、本当に欠損奴隷でよろしかったのですかな?」

 

「ああ、欠損のある若い女奴隷だ」

 

「坊っちゃんも若いのに変な趣味してるね……」

 

 

 

家の丁稚が後ろで何か言っているが気にしない、俺は支援魔法、つまり能力上昇魔法(バフ)や回復魔法の類が大得意なのだ。

 

つまり欠損があろうと自分で治せるわけだ。

 

奴隷商は在庫がはけるし、俺は安く買えるし、奴隷にゃ恩も売れるし、社会貢献にもなる。

 

売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よしだ。

 

ん?なんで女限定なのかって?

 

男なんかそばに置きたくないからだよ。

 

爺さんが手を叩くと、奴隷商の丁稚が3人の女を連れてきた。

 

全裸で壁際に立たされた女達は順番に自分の名前と経歴を言っていく。

 

 

 

「バーグです、26歳、元娼婦、毒を貰っちまったんで鼻がありません。あと右目が見えません」

 

 

 

栗色の長い髪を持った人族の女だ、言葉の通り鼻がなく右目が白く濁っている。

 

 

 

「バンズです、13歳、元冒険者、右手がありません、左耳も聞こえません」

 

 

 

まとまらない藍色の短髪の先がツンツンとあちらこちらを向いている猫人族だ、右手と左耳は切り落とされている。

 

 

 

「ピクルスです、10歳、農民でした、左後ろ脚が動きません、あと目がほとんど見えません」

 

 

 

栗毛の馬部分に栗毛のウェーブヘアを持つ人間部分が乗っているケンタウロスだ、思いっきり目を細めている。

 

 

 

「どうでしょう?普通の奴隷も一度見てみませんか?」

 

 

 

腕を組んで考え込んでいると、奴隷商の爺さんが聞いてきた。

 

なんのかんの言っても実物を見れば気が変わるだろうと思っているんだろうが、答えはNOだ。

 

 

 

「ピクルスを貰おうか、服を着せてくれ」

 

「ええっ!?」

 

 

 

丁稚が後ろで驚いた声を上げている。

 

 

 

「坊っちゃん……歩けないケンタウロスなんか買ってどうやって連れて帰るんですか?俺は抱え上げられませんよ?」

 

「心配ない」

 

 

 

奴隷商の用意した契約書にサインして、奴隷契約魔法を使ってもらい、想像していたよりもはるかに少ない金を払ってフィニッシュだ。

 

俺との初商売のご祝儀価格かと思ったが、そもそも欠損奴隷はほとんど売り物にならないからどこも抱えたがらないらしい。

 

俺はピクルスを座らせ、左後ろ脚をペンの先でつついて、痛みはあるか?と聞く。

 

何も感じないとの事だったので、おそらく脊髄レベルでの障害があるのだろうと当たりをつける。

 

ピクルスの尻尾の付け根あたりから、治癒魔力を流しながら人間部の首の根元めがけてなぞっていく。

 

馬部分の背骨の一部で違和感があり手が止まる。

 

両手を当てて治癒魔力を流し込んでいくと、ピクルスが痛い痛いと騒ぎ始めたので間違いないだろう。

 

狭窄されていた脊髄が正常な形に戻っていっているのだ。

 

違和感がなくなった所で魔力の放出をやめ、ピクルスに立ち上がるように指示した。

 

 

 

「ああっ!動く!左後ろ脚が動きます!!」

 

 

 

ピクルスは泣きながら左後ろ脚をピクピク動かす。

 

そりゃあずーっと動かなかったんだ、関節は固まってるし筋肉だってついてない、健康に歩くにはリハビリが必要だ。

 

とはいえ少しぐらいは曲げ伸ばしをできるようになったのだ、奴隷商から家までは時間をかければ歩いていけそうだった。

 

 

 

 

 

あれから2週間が経った、俺は学生だから自分の事業にガッツリ関われるのは週に2日の休みだけだ。

 

ピクルスには毎日たらふく飯を食わせ、夜は脚に治療魔術をかけ、日中はリハビリのために家の庭中を歩き回らせた。

 

日中は脚が痛くなってもとにかく歩けと言ってある、どうせ夜治療すれば無理した分も治るからだ。

 

その結果、たったの2週間で左後ろ脚は他の脚と同じぐらい太くなり、馬部分の毛並みが良くなり、なぜか身長まで伸びた。

 

夜は従業員用の風呂場で体を洗ってやったり、馬部分にブラッシングをしてやったりしたので結構仲良くなれたんじゃないかな、おそらく、多分だけど。

 

そんなピクルスを連れ出して、今日は商会近くの工房へと来ていた。

 

 

 

「サワディ様、ここはどこですか?」

 

「ここは知り合いのオッサンがやってる工房だ、お前の眼鏡を取りに来たんだよ」

 

「ああっ!あの目が良くなる魔法具ですね!」

 

 

 

ピクルスの目の悪さは病気ではなかった。

 

なんと神に与えられし加護の一部だったのだ。

 

ピクルス用の武器防具、それと日常用の服を作るために高級職人を呼んだのだが、そいつが神殿の坊主以外では珍しい、ステータス魔法を使える魔法使いだったのだ。

 

そいついわく、ピクルスには土竜の神の加護がついていたらしい。

 

 

 

『土竜の神の加護』

 

効果

 

・穴を掘るのが非常に早くなる

 

・泳ぎが上手くなる

 

・鼻が良くなる

 

・目が悪くなる

 

 

 

俗にいう使えない加護だ。

 

これが人間についてたらそいつは穴掘り名人として名を馳せていたかもしれないが、ケンタウロスは穴が掘れない、獣人種は元々鼻もいいしデメリットの方が大きいのだ。

 

という事で、デメリットを消すためにピクルスには眼鏡を装備させる事にしたのだった。

 

家に来た工房のオッサンがつけさせた検眼用の眼鏡をつけてはしゃいでいたピクルスはなかなかに愛らしかった。

 

 

 

「おう、できてるぜぃ」

 

 

 

ワイルドぶるくせに線の細いオッサンが店の奥からゴーグル型の眼鏡を出してくる。

 

冒険者がよくつけるタイプの眼鏡で、曇りづらく割れづらく頭の後ろにバンドで止めるのでズレづらい、ヒット商品らしい。

 

ピクルスを床に座らせて、椅子に登って眼鏡を付けさせてやると、物凄い勢いでキョロキョロ店内を見回し始めた。

 

 

 

「また調整がいるならいつでも来なっ」

 

 

 

ヴィジュアル系な見た目にぶっきらぼうな態度が似合わないオッサンに別れを告げ、俺たちは家路についた。

 

 

 

「どうだい?よく見える世界はさ」

 

 

 

答えはなかった。

 

家に帰りつくまで、ピクルスは鼻をすすって泣いていた。

 

 

 

 

 

また2週間が経った。

 

あれからピクルスを方々に連れ回して馬用の重鎧や人間の上半身用の革鎧、それから手槍や荷鞍などを用意してやった。

 

それからは家に勤める元冒険者の用心棒のオッサンなんかに槍の使い方や戦闘の心得なんかを習わせていた。

 

そして今日、ついに俺の金儲け計画の第一歩が踏み出されるのであった。

 

 

 

町の冒険者ギルドはよくあるファンタジーのテンプレ的な『ならず者が酒飲んで二階の宿屋で寝る』的な建物ではなく、カウンターと待合ソファが並ぶ市役所みたいな建物だった。

 

もちろん美人な受付嬢もいない。

 

受付には腕カバーを付けたオッサン達が立ち、受付のちょっと前ではこれまたオッサンが整理券を配っている。

 

 

 

『27番の方、2番窓口へお越しください』

 

 

 

案内アナウンスすらおばちゃんの声だった。

 

俺は冒険者ギルドへの興味を無くした。

 

 

 

「あのっ、サワディ様。これは何番なんですか?」

 

 

 

ピクルスが握った紙を俺に見せてくる、そういえばこいつは文字が読めなかったな。

 

 

 

「27番だな」

 

「27って……ああっ!呼ばれてるっ!」

 

 

 

ピクルスは慌てて窓口へと駆けていった。

 

登録自体は家で記入してきた書類があれば問題ないはずだ。

 

とにかく俺は、この夢のない建物からさっさと立ち去りたかった。

 

かったるかったので外で露店のジュースを飲んで待っていると、疲労困憊といった様子のピクルスが出入り口から出てきた。

 

 

 

「サワディ様、これ、お家の人と一緒に読めって……」

 

 

 

くしゃくしゃになった紙を伸ばして読んでみると、どうやら禁止事項や注意事項をまとめた物らしい。

 

ざっくばらんに言えば『悪い事はするな、他の人と仲良く、わからないことは職員に聞こう(暇なときね)』という感じだった。

 

詳しい事はうちの用心棒のおっさんに聞くことにしよう、元冒険者だしな。

 

 

 

3日後の朝、俺はピクルスが昨日ギルドから貰ってきた常設依頼の目録に目を通していた。

 

これは金を払えば職員が書いてくれるものだ。

 

 

 

「うーん、やはり最初は薬草採集かな?オベロン」

 

「薬草採集と一緒に包丁狸の討伐も受けた方がいい、1日薬草採ってりゃ2匹は見かけるからな」

 

 

 

オベロンというのはうちの用心棒のオッサンで、片目を無くしてから冒険者を引退して幼馴染と世帯を持ってうちに勤め始めたらしい。

 

片目治してやるから俺の事業手伝ってくれって言ったら快諾してくれて、今はピクルスの教官役やら俺の相談役やらをしてもらってる。

 

 

 

「いや、良く考えたらそもそもケンタウロスに薬草採集なんかできるのか?地面に手が届かないんじゃないか?」

 

「何言ってんだ坊っちゃん、普通の馬でも地面の草食って生きてんだぞ。ケンタウロスなら余裕だ。もちろん深い穴なんかは掘れんがな」

 

「ふーん、そういうもんかな。おいピクルス!決まったぞ!」

 

 

 

鎧や荷鞍を身に着けて、家の中庭を落ち着きのない様子でぐるぐる回っていたピクルスがこっちへ駆けてきた。

 

 

 

「薬草採集と包丁狸の討伐を受けろ。丸をつけておいたからギルドの人に薬草の形と生えている所、包丁狸の特徴なんかを聞くんだぞ。お金が必要ならこの袋から出すように」

 

 

 

俺はピクルスにそう命じて学校へと向かう。

 

冒険者稼業はしばらくの間、今日と同じように俺が受ける依頼を決めてオベロンが意見してピクルスが必死こいて働くというサイクルで回すことにしている。

 

今の俺の本分は奴隷の管理ではない、学業だ。

 

事業を始める時に「学校には真面目に行くこと」と親父とお袋に約束をしてしまったしな。

 

俺は前世では親を大切にしなかったから社畜になった時に助けてもらえなかった、今世の親とは仲良くする事に決めているのだ。

 

 

 

 

 

それから3ヶ月が経った。

 

3日に1回休みを挟みながらコツコツ働いたピクルスは、包丁狸と突撃鶏という害獣を毎日安定して狩れるようになっていた。

 

ちなみに包丁狸というのは、しっぽが刃物のように固く鋭くなっているやたら好戦的な狸で。

 

突撃鶏というのは、体当たりしかできないやたら好戦的で巨大な鶏だ。

 

どっちも繁殖力が旺盛で毎年アホみたいに増える上に、装備の整わない新人にとってはそこそこ手強い相手らしい。

 

冒険者の50人に1人ぐらいはこの手の好戦的な小動物に殺されるそうだ。

 

街道周りにこの動物たちが増えると流通に影響があるため、都市がギルドに依頼して数を減らしてもらっているというわけだ。

 

 

 

「うーん、1ヶ月でだいたい金貨3枚の稼ぎで、経費を差っ引くと金貨2枚、積み立て金引いて利益は銀貨5枚ってとこか」

 

 

 

ちなみにこっちの物価でいうとだいたい銅貨1枚1千円、銀貨1枚1万円、金貨1枚10万円ってとこだ。

 

月5万はガキの小遣いにしちゃ多いが、俺の小遣いとしては物足りない。

 

休日の午後にはクラスの女の子と芝居小屋に行きたいし、学校帰りの買い食いの店だってもう少しグレードを上げて開拓していきたい。

 

近所を回って治癒魔法で小銭を稼ぐのも手だが、俺はもっと単純に考えた。

 

奴隷1人で銀貨5枚なら、奴隷2人なら10枚だ。

 

 

 

 

 

久々の奴隷商館へと、俺はピクルスと一緒にやって来ていた。

 

ピクルスは奴隷商館に行くのを嫌がり、しきりに自分が売られるのかどうかを聞いてきたが、売るわけがない。

 

お前の相棒を探しに行くんだよ、と背中を撫でながら連れてきたのだ。

 

 

 

「本日紹介いたしますのは、この3名です」

 

 

 

奴隷商人のペルセウスがそう言うと、丁稚が女を3人部屋に連れてきた。

 

 

 

「カルボです、18歳、元冒険者、片足がありません」

 

 

 

ストレートの黒髪を腰まで伸ばした黒目の犬人族の女だ、右足が付け根からなく、杖をついている。

 

 

 

「ボンゴです、16歳、元狩人、羽がなく飛べません、右腕もありません」

 

 

 

椅子に座らされた金髪の鳥人族だ、鳥人族自慢の羽がなく、右腕も肘から先がない、うつろな目をしている。

 

 

 

「ゴルゴです、14歳、農民でした、耳が聞こえません」

 

 

 

目が大きく、小柄でおどおどした人族の女だ、耳も聴こえないようだが身体には他にも細かい傷が多い。

 

 

 

「今は欠損奴隷はこの3人だけでして、よろしければご希望の欠損奴隷をお探ししますが……」

 

 

 

誰にしようか迷っているとペルセウスがそう言ってきたが、俺は手を振って断った。

 

 

 

「今はまだいい、ボンゴを貰おう」

 

 

 

ボンゴはピクルスより遥かに安かった。

 

ぶっちゃけ死にかけているからだろう。

 

鳥人族は羽ばたかないと血が腐って死ぬと聞いたことがあるしな。

 

多分買い取りもほとんど捨て値だったはずだ。

 

 

 

「この子、ほんとに治るんですか?」

 

 

 

ボンゴを背に乗せたケンタウルスのピクルスは不安そうに聞くが、まあ多分大丈夫だろう。

 

無理でも気にならないぐらいの値段だったけど。

 

 

 

俺はそれから毎日ボンゴに流動食を食わせ、治癒魔法で背中の根本から少しづつ羽を生やしていった。

 

ボンゴの朦朧としていた意識も1週間ほどでかなり明瞭になり、かんたんな受け答えもできるようになっていた。

 

なんだかんだと1ヶ月で羽も右腕も生えて完治、さすが俺、丸儲けだ。

 

欠損奴隷ビジネスはやめらんないぜ。

 

 

 

 

 

とはいえ大変なのはリハビリテーションだ。

 

とりあえずピクルスと同じように、回復は魔法だよりでスパルタでやらせることにした。

 

下手に飛ばせて墜落したらまた治療しなければいけないが、まぁなくなった所から羽を生やすのよりはマシだろう。

 

ボンゴは毎日何かに取り憑かれたかのように朝から晩まで羽をばたつかせながらうちの中庭をうろつきまわって、使用人達を気味悪がらせた。

 

俺は夕方学校から帰ってから治癒魔法をかけてやるのだが、どうも鳥人族ってのは飛ぶために色んなとこが脆くできてるらしい。

 

空を住処にする鳥人族が無理に地べたを這いずり回ってるせいか、結構骨に細かいヒビが入ったりしていてなかなか痛々しい。

 

それでもうわ言のように「飛びたい……」と言いながらリハビリをしているのは、やはり鳥人族にとって飛ぶ事というのはアイデンティティなのだろう。

 

冒険から帰ったピクルスも心配そうに、深夜まで続く彼女のリハビリに付き合ってやっていた。

 

 

 

 

 

2ヶ月後。

 

春の訪れと共に全治のときが来た。

 

空を見上げると元気に飛び回り、幻影燕と追いかけっこをするボンゴの姿がある。

 

どうも彼女は鳥人族の中でもかなり飛ぶのが速い氏族の出のようで、郵便配達の鳥人の倍ぐらいの速さで飛んでいる。

 

そりゃあ、あの速度で墜落したら羽も手足も失くすわな。

 

納得だ。

 

 

 

「おーい!いい加減に冒険者ギルドに行くぞー!」

 

 

 

叫ぶ俺の傍らでは、使い込んだ槍が案外サマになっている先輩冒険者奴隷のピクルスが我関せずといった様子で露店の肉串を食べている。

 

こいつは去年買ったときよりも30センチは背が高くなり、尻も脚もでっぷり太く肥え、スパイク付きの蹄鉄がむやみにカッコイイ。

 

なかなかツワモノっぽい見た目になってきたが、ギルドでの等級はまだまだ下の下だ。

 

なんせ1年間小型害獣しか狩ってないからな。

 

この事業のアドバイザーであるオベロンが「仲間が揃うまでは無理をしないほうがいい」と言ったからそれを愚直に守らせたのだ。

 

俺はゆっくりでも投資した分が安定して返ってくればそれでいいからな。

 

それでもボンゴ次第ではあるが、これからはもう少し冒険の幅が広げられるだろう。

 

頑張ってくれ、かわいい奴隷戦士たち。

 

俺をたっぷり儲けさせてくれよ。

 

俺の夢は自分の劇場を持ち、毎日一番いい席で寝転がって暮らすことだ。

 

俺の名はサワディ・シェンカー。

 

爽やかなサワディさんとでも覚えてくれ。




オリジナルの練習です。

キャラ作りって難しいです。

異世界も難しい。

生きていくのも難しいです。

年度末の手を逃れた作者を待っていたのは、また地獄だったって感じです。

おすし

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