異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)   作:岸若まみず

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第114話 泥まみれ いつか掴むよ 栄冠を 後編

暑さは全く和らがぬままに、暦の上だけでは夏も終わりに近づいた頃。

 

自在投手(ピッチングマシーン)での練習効果や、勧誘(スカウト)による新しい選手の拡充などによって、我が(・・)シェンカー大蠍団(スコーピオンズ)の環境には変化が芽生え始めていた。

 

 

「今日勝てばシェンカー(うち)は何位だっけぇ?」

 

「いちいち聞くなよそんな事、あと六回勝たなきゃまだまだ最下位だよ」

 

「しかしあちぃなぁ今日は、敵の栗毛団(ブラウンヘッズ)もよくあんな毛の生えた帽子被ってられるよなぁ」

 

 

まずは戦績だが、これはたいして変わらず。

 

効率的な練習も始まったばかりで、選手が入ったと言っても昨日今日野球を始めたような連中だ、それでは勝率が上がるわけもない。

 

しかし、戦績は変わらずといっても、チームの空気はがらっと変わっていた。

 

 

「チャンスだぞー! シィダー!」

 

「打て打てーっ!」

 

「かっとばせーっ!」

 

 

第一に、試合での応援が増えた。

 

うどんの実演販売の後も、手を変え品を変え繰り返し催し物(イベント)を行った事によって、野球そのものへの認知が広がったのだ。

 

元々平民リーグの試合にもそこそこ客は入っていたのだが、今の大蠍団(スコーピオンズ)の試合は席が全部埋まる事があるほどの客入りだった。

 

そうして人気が出れば、自然と野球をやりたいという者も増え、選手層も厚くなるというもの。

 

正直、この流れは止めたくないものだ。

 

 

「シェンカーの四番の選手はあれ、服に何を貼ってるんだ?」

 

「ワッペンか? アストロバックスって書いてあるように見えるけど……」

 

 

第二に、出資者(スポンサー)がついた。

 

演劇の舞台でも野球の試合でも、興行というものには持続性が必要だ。

 

たとえ試合が選手の生業でなくとも、団の事全てを彼らの手弁当で賄っていくというのは健全ではない。

 

もちろん大蠍団(スコーピオンズ)の運営には元々シェンカーからいくばくかの金が出ているし、あまり収益性を求めすぎるというのも、選手たちの立場上良くないというのは重々承知。

 

しかしながら道具や制服の補修などでは、どうしても選手に負担がかかってくる。

 

そういう部分をなんとかしてやれないものか?

 

そうサワディ・シェンカーに掛け合ったところ……

 

「ではシェンカーの事業の広告塔として使う代わりに予算をつけましょう」と言って、彼は四番の選手の制服に経営する喫茶店の名前を入れたのだ。

 

あんなものに商売の上での効果があるとは思わないが……

 

まぁたしかに、そういう形での支援ならばシェンカーの中からのやっかみも減るだろう。

 

単なる商売上手な造魔研究者だと思っていたが、あの男、なかなかどうしてそれだけではないようだ。

 

 

「あたしらだけこんな贅沢していいのかなぁ?」

 

「いいのいいの、これも宣伝になるってご主人さまが言ってたんだってさ」

 

「この焼き菓子、食べたかったんだぁ~」

 

クタ爺(・・・)も食べる?」

 

「いや、私はいい」

 

 

そして、これは三番目というよりは二番目の付録となるが……

 

ベンチには宣伝の一環として実際に喫茶店の商品が提供され、選手たちが自由に食べていいという事になった。

 

菓子程度……とは思うが、実際平民が菓子を口にする機会というのはそう多くないようで、選手たちはこれを他のどんな事よりも喜んでいた。

 

この光景を見て、一人でも選手を志す者が増えれば嬉しいのだが……

 

じりじりと頭を焦がす陽の光を帽子越しに感じながら、私は試合中にそんな事ばかりを考えていたのだった。

 

 

 

 

 

とはいえ球団をとりまく空気が変われば、中の人間の動きも変わってくるもの。

 

夏も終わりに差し掛かる頃になると、戦績はじわじわと伸び始めた。

 

 

「サミィ、クワンに伝令を頼む。剣星団(ソードスターズ)のあの打者は臆病だ、顔の近くに一球投げ込んでやれば腰が引ける」

 

「了解! クタ爺!」

 

「よくそういう事覚えてんねー」

 

「戦というものは、よく敵を知ることが大切だ」

 

「ご主人様もなんか昔そんな事言ってたなぁ」

 

「ほう、そうなのか」

 

「敵と己と百回戦だっけ?」

 

「敵の尻を百回殴るんじゃなかったかな?」

 

 

なかなか攻撃的な事を言う。

 

戦えぬ男と聞いていたが、どこかで聞きかじったかな。

 

そんな話をしている間にも伝令が走り、投手のクワンはこちらを向いて頷きを返す。

 

五回表、ツーアウトで二塁三塁に走者を背負った状況の彼女は、指示通り打者の近くへと球を投げ込んだ。

 

よし、腰が引けたな。

 

クワンはそのまま内角へ二球投げ込み、得意のフォークボールで打者を切って落とした。

 

まだまだ投球は安定しているが、そろそろ疲れも見える……

 

この間サワディ・スレイラから聞き出した、中継ぎというものに交代させるか。

 

 

「クワン」

 

「どったのクタ爺」

 

 

ベンチへ戻ってきたクワンは、口の中でガムというものを噛みながら首をかしげた。

 

頭が良くなるとか、集中力が増すとかという謳い文句で売られているものらしいが……

 

その商品の宣伝ワッペンが、ちょうど彼女の胸元に貼られていた。

 

 

「さきほどの回は素晴らしかった、次の回はタシバと交代して休んでくれ」

 

「ええ? まだ投げれるけどなぁ」

 

「肩は消耗品だと君らの主人が言っていたぞ。それに、これは相手の目を慣れさせないためでもある」

 

「ふーん。じゃ、タシバが滅多打ちにされたらまた戻るね」

 

 

兎人族のクワンは、手と耳をぴこぴこと振りながら控えの席へ向かっていった。

 

先発に、中継ぎに、抑えだったか。

 

言われてみればなかなか理に適った考え方だが、あの男もよく思いついたものだ。

 

結局この日のシェンカー大蠍団(スコーピオンズ)対冒険者ギルド剣星団(ソードスターズ)の試合は、三対一で大蠍団(スコーピオンズ)の勝ち。

 

団の成績もついに最下位を脱出というところまできており、この日皆で行ったウォトラという女が経営する隠れ家のような飲み屋では、皆で大いに盛り上がったものだ。

 

 

 

 

 

そして辺境に秋の気配が漂い始めた頃、王都から私への使者がやって来た。

 

この都市の領主であるスノア家の持つ迎賓館にわざわざ私を呼び出し、王都への帰還を促してきたのは……

 

私の脚本家としての弟子であるアーロンだった。

 

 

「つまり、私にチームを放り出して戻れと?」

 

「チーム? 何のチームですか? 夏の公演の演目が決められないと困ると、支配人が……」

 

「国立にはバンクルを残してきただろう、彼と決めてくれればいい」

 

「バンクルさんじゃあ後援会の方々も納得しませんよ、とにかく会議の日だけでも王都に戻って頂かないと……」

 

 

平民リーグは冬の終わりまで続くのだ、まだまだここで離れるわけにはいかない。

 

だが、後援会の名を出されると……戻らないとも言えなくなってしまう。

 

芸術に後援者(パトロン)は欠かせないものだ。

 

そしてそれらを納得させて気持ちよく金を出させる事は、国立劇場の脚本家である私の仕事であった。

 

リーグ中ではあるが……致し方あるまい。

 

 

「……では、私は戻ろう。その間、お前はここへ残れ」

 

「えっ? こんな田舎へ残って何を?」

 

記録(スコア)をつけるのだ、私がいない間のな」

 

「記録って、何のですか?」

 

「野球のだ」

 

「へ? 野球ですか?」

 

 

野球は戦争と同じで、情報を制した物が半歩先んじる世界だ。

 

不在中にチームへ関われないのは仕方がないにしても、情報戦では遅れを取りたくはなかった。

 

 

 

そうして弟子に情報収集を任せて戻った王都で待っていたのは、代り映えしない面子での、代わり映えしない会議だった。

 

同じ面子が同じ事を言い合うだけの、十年ほど前から何も変わらない、何の意味もない会議だ。

 

だが、会議とは得てしてそういうもの。

 

決まっている事を確認し合う作業だが、行わなければ行わないで問題が出るもの。

 

……しかし、その日の会議はいつもと少し違っていた。

 

 

「つまらないわ。今上がっている演目じゃあ、あまりに進歩がないんじゃないかしら?」

 

 

国立劇場の理事に名を連ねる貴人のうちの一人。

 

とても子供を生んだばかりには見えない、第二王子の娘であるカリーヤ姫が、カビの生えた演目を推す古狸たちを尻目にそう言い放ったのだ。

 

 

「……恐れながら姫様、国立よりも進歩的な劇場はどこにもありませぬ」

 

「然様でございます、国立は常に最先端、最高峰でございます」

 

 

古狸たちが言い訳のように喋る言葉を丸ごと無視して、姫様はこう続けた。

 

 

「この間、地方で芝居を見たのだけれど、なかなか斬新でよかったわ。そこは女ばかりの劇団で、男の役も女がやるの」

 

「女ばかり……? いけませぬなぁ姫様、国立は奇をてらうばかりの芝居小屋とは違いますぞ」

 

「芝居小屋の方がましじゃあないかしら? 地方で見たものは、お友達にも薦めたくなる芝居だったのだけれど……きっと今の国立の劇じゃあ、誘ったって誰も来ないわ。だって私が生まれる前から、ずっと同じような演目をやっているのだもの」

 

 

恐らく姫様が言っているのは、私も行ったことのあるトルキイバの双子座という劇場の事だろう。

 

そういえば、あれもサワディ・スレイラの関わる劇場だったか……

 

 

「しかし、伝統ある国立劇場が……」

 

「伝統は結構! だけど、いつまでも古い鎧と槍に拘っていて、戦に勝てるものかしら? このままでは国立は、地方の劇場にも劣る扱いになっていくかもしれないわよ」

 

 

若い姫様には分からぬかもしれぬが……

 

伝統を守っていくという事は、他の劇場よりも余裕のある国立の役割というもの。

 

とはいえ、最近の演目や配役は保守に走りすぎて退屈なのも事実だ。

 

ここは一つ姫様に加勢致して、皆に少し危機感を与えておくとしようか。

 

 

「たしかに、姫様の言う通り最近の地方劇場は馬鹿にできませぬな。先日招かれた劇場では魔具による演出が多彩で、観劇者もうら若き婦女子ばかりでした」

 

「スピネル殿までそのような……」

 

「そうだ! スピネル爺が新作を書いたらどうかしら?」

 

「新作ですかな?」

 

「そう、ちょうど爺が今夢中になってるものがあるじゃない。ああいうものを題材に書いてみれば、他所に取られた若者たちも少しは戻ってくるんじゃないの?」

 

「野球を……ですか」

 

「いけませぬいけませぬ。わけのわからぬ田舎者の球遊びなど、国立にはふさわしくありませぬ」

 

 

旧知の間柄の面々からは「若い頃とは別人のように落ち着いた」と言われる事もある私であるが……

 

今夢中になっているものを正面からけなされると、さすがに気分を害するところがあった。

 

 

「……野球という題材が国立にふさわしいかふさわしくないか、決めるのは貴殿ではないと存じるが?」

 

「そのような事、論ずるにも値せぬかと存じまするが……」

 

 

古狸の一人と私が視線で火花を散らす中、パンと手を叩く音が響いた。

 

 

「いいじゃない、それを確かめるためにも書いてみれば。もう何百回も聞いたような古い戦役の話なんかより、野球の話の方がよっぽどいいわ」

 

「しかし姫様、わざわざ新作をやらずとも……支援者の方々より再演を望まれている演目はいくつもございます」

 

「なら一昨年の春公演みたいに、特別公演としてもう一本やればいいじゃない。はい決定、夏の公演は二本。一本はスピネル爺の新作ね」

 

 

姫様がそう言い切ってしまえば、この場に否やを言える者はいない。

 

まぁ、姫様といえどそう何度も使える強権ではないが、古狸共を黙らせるぐらいの効果はある。

 

しかし、野球の演劇か。

 

面白そうではあるが、サワディ・シェンカーからの依頼の劇もまだ書いていないのだ。

 

そんなものを書いている暇はないのだが……

 

いや、待てよ?

 

『王都で劇にされるほどの遊び』

 

もしやそう言って選手を口説けば、もっともっと大蠍団(スコーピオンズ)に選手を呼べるのではないか?

 

思えばシェンカーの奴隷たちには、ことのほか演劇に明るい人間が多い。

 

南部が誇る野球の文化が国立で劇になっていると話せば、興味を持つものも多いだろう。

 

もしかすれば、これは存外本当に、球団強化の起爆剤になるやもしれぬな。

 

私はそんな事を考えながら、つまらぬ会議を聞き流し……

 

それが終われば早々に土産の菓子を買い込んで、トルキイバへの列車へと乗り込んだ。

 

そうして頭の中で劇の内容を揉みながら、まんじりともせずに窓の外の景色を見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

トルキイバへと戻った私は、さっそく劇を書くための取材を開始した。

 

場所はシェンカー大蠍団(スコーピオンズ)の練習場。

 

また負けが込み始めていた球団の立て直しを同時に進めながら、私は練習場の片隅にあるベンチで投手のタシバから話を聞いていた。

 

指導者(コーチ)というあだ名まで持つ、無類の教え上手である山羊人族のタシバ。

 

そんな彼女が昨年の夏に主人の命を受け、貴族リーグのとある投手を鍛えたという話を小耳に挟んだ事があったからだ。

 

 

「そんでぇ、その時ロボス様が投げたのがナックルっていう魔球で……」

 

「そのナックルというのは……?」

 

 

町でも語り草になったという、陸軍派のスレイラ白光線団(ホワイトビームス)と海軍派のザルクド流野球部の因縁の対決。

 

なんとなくの噂として概要を知っていただけのその話は、詳しく聞いてみればなかなかどうして面白い内容だった。

 

野球というものを全く知らない貴族が、野球がなければ絶対に関わらなかったであろう相手に鍛えられ、ずぶの素人から立派な投手へと成長していく。

 

これは劇の題材としても素晴らしい話で、少し配役を整えて本を叩けば、きっと野球の普及に相応しい劇に仕上がるだろう。

 

その日から私は、監督業以外の時間を全て使い……

 

スレイラ白光線団(ホワイトビームス)とザルクド流野球部への、更なる取材に精を出した。

 

 

「イーズ君、その時君は何を思って外角低めにリードを?」

 

「やはり本塁打(ホームラン)になりにくい場所だからでしょうか……まぁ、相方のロボス殿が『コーチに教えてもらった魔法の場所だ』と言っていたのが頭によぎったというのもありましたが……」

 

「魔法の場所ね……たしかに勝負をかけるにはいい場所だ」

 

 

バッテリーからの聞き取りや、貴族リーグ発足以来全ての試合の記録をつけているという熱狂的な野球ファンの協力を得て、資料はどんどん集まっていく。

 

残念ながら、この話で負けた側のザルクド流からは取材を拒否されてしまったが……

 

まぁそこは想像で膨らませるとしよう。

 

面倒だったのは、題材としての使用許可を求めた際、姫様の夫であるアレックス・スレイラから条件を付けられた事だ。

 

まさか話の中で、スレイラとザルクドがリーグ優勝(・・・・・)を争っていた事にしろとはな……

 

去年のスレイラ白光線団(ホワイトビームス)のリーグ順位は下から二番目で、ザルクド流にもこの一戦しか勝てていないというのに、図々しいものだ。

 

まぁ、その妻である姫様が書けと命じて始まった話だ、それもよかろう。

 

私にはスレイラもザルクドも関係がない。

 

この劇でシェンカー内の野球人口が増えれば、それで良いのだ。

 

そうして書き終えた話を王都へと送り、私は晴れ晴れとした気持ちで秋の平民リーグを大蠍団(スコーピオンズ)と共に駆け抜けていた。

 

ついに最下位を脱出した大蠍団(スコーピオンズ)は勢いに乗っていて、冒険者選手がいない時でも堅実に勝ちを拾える日が出てきている。

 

そんな順風満帆な球団のベンチで、隣りにいたシィダが「そういえば」という感じでこう尋ねてきた。

 

 

「そういやさぁ、クタ爺、こないだ書いてるって言ってた野球の劇はどうなったの?」

 

「ん? ああ、あれはもう依頼主に送ったよ」

 

「そっかぁ……じゃあクタ爺そろそろいなくなっちゃうんだ」

 

「ん? ……どうしてだい?」

 

「え? だってクタ爺って、野球の劇を書くために監督やってくれてたんでしょ?」

 

「…………」

 

 

そういえば、監督に就任する際にそのような事を言ったような気もするな。

 

まずいな、こんなところで監督を降ろされてしまっては困るぞ。

 

 

「……いやシィダ、実はな。そっちは形がついたから、これからは監督に専念しようかと思っていたところなんだよ」

 

「えっ? そりゃあ嬉しいけどさぁ、クタ爺の仕事は大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫、どこにいても劇は書ける。心配は無用だ」

 

「まぁほんとに困ったらさぁ、サワディ様に言ったら劇の仕事くれると思うし……そん時は言ってくれたら、あたしからも頼んでやるよ」

 

「……ああ、ありがとう」

 

 

彼女にはいつも気を使ってもらってありがたい限りだが、恐らくその世話になる事はないだろう。

 

これまでの国立劇場の作家としての稼ぎもあるし、息子も娘もすでに立派に独立してくれている。

 

私にはこうして片田舎で暮らしていく分には、十分すぎるぐらいのゆとりがあるのだ。

 

それこそ、死ぬまでここの団員に勝利の宴を奢り続けても問題ない。

 

監督業という楽しみもあるし、このあたりは気候もいいし、なんならもう終の棲家と決めて家を買ってもいいぐらいだ。

 

それならば、どうせなら球場の近くがいい、あとは書斎と庭と……投球練習場(ブルペン)があってもいいな。

 

そう考えて、不動産の相場などを調べ始めていた……

 

そんな浮かれた私の元にサワディ・スレイラがやってきたのは、平民リーグに先行している貴族リーグが終盤に入った、秋の終わりの頃だった。

 

 

「スピネル様。カリーヤ姫様より、まずは春までに私の双子座にて試演を行えとの連絡がまいりました」

 

「双子座といえば、球場裏の劇場かね。それで、役者に関しては何と?」

 

「ひとまず当方のシェンカー歌劇団、白光組に演じさせよと」

 

「なるほど」

 

 

朧気にではあるが、この老骨にも姫様の考えが読めてきた。

 

恐らく姫様は、国立に新風を吹き込むために、王都にも女子だけの歌劇団を作りたいのだ。

 

そしてそのための布石として、双子座の女子歌劇団を使うおつもりなのであろう。

 

姫様のお考えの部分は想像にすぎないが、これは私にとっても僥倖と言えた。

 

トルキイバにて試演が行われるという事は、そこにシェンカーの娘たちを連れて来れば……

 

王都で劇にされたのだと言って口説くよりも、もっと直接的に未来の野球部員を掘り起こす事ができるからだ。

 

 

「では、その劇団、新作の劇のため借り受けよう」

 

「光栄であります」

 

 

こうして、私はトルキイバで野球と舞台、二つの監督業を兼任する事となったのだった。

 

全く見知らぬ役者ばかりの劇団を指揮するというのは若い頃以来だが、なかなか骨が折れる仕事だ。

 

とはいえ、劇団員や館内作業員の中にもたまに野球部に出てくれる人間がいたため、一から信頼関係を作っていくというわけではなかったのが救いだった。

 

どんどん寒くなっていく町の中、練習場と球場、そして劇場を朝から晩までぐるぐると回りながら、王都から呼び出したアーロンと共に球団と劇団を同時に仕上げていく。

 

 

「全然動きが違う! 選手役は全員明日の朝から実際に練習に参加するように!」

 

「ええっ!? 実際に野球をやるんですか?」

 

「本当は練習試合でも組みたいところだが今はリーグ中だ、実際の試合の流れを掴ませるために紅白戦をやってもらおう」

 

 

野球に悩み、演劇に悩み、演劇の中の野球に悩み、また現実の野球に悩む。

 

老骨にはなかなか厳しい日々にはなったのだが……ともかく私はやり遂げた。

 

雪もちらつき、平民リーグが最終局面に差し掛かろうという頃。

 

シェンカー大蠍団(スコーピオンズ)は最下位の八位からぐーんと順位を上げ、上位クラス入りをかけて農家連合金穂団(ゴールデンスパイク)と熾烈な四位争奪戦を繰り広げ……

 

双子座の方には、姫様が連れてきた国立の支援者たちの前に、最低限の稽古をなんとか納めた駆け出し劇団が立っていたのだった。

 

『スレイラとザルクド。その宿命の対決と、許されぬ恋……』

 

そんな短い紹介文しかない単純な劇が、私の新作だ。

 

リーグ下位のスレイラの寄子(よりこ)にしてズブの野球の素人であるロボスが、尋常ならざる努力をして投手として強豪であるザルクド流に勝つ。

 

これはただそれだけの話を俗に膨らませて、野球の普及劇としても纏めたものだ。

 

オーナーの特別席らしい最上階にはこっそりとシェンカーの者たちを招いてあり、そのほかの観客席にはわざわざ王都からやって来た姫様を含む、地位も名誉もある演劇好きたちがずらっと並んでいる……

 

そんな独特の緊張感を湛えた劇場の舞台の背景は、普段我々が使っている野球練習場。

 

そしてその前には軍服を着た男役が一人、野球のユニフォームを着た女役が二人立っていた。

 

 

『は、野球……でありますか?』

 

『そうだ、ロボス少尉。貴様には、野球をやってもらう!』

 

 

金髪を腰まで伸ばした女優が演じるローラ・スレイラが、この劇団の花形であるヨマネス演じる主人公ロボスに、野球選手になる事を任務として命じる。

 

そしてその教育役として付けられるのが、うちの球団のタシバが元になった役、野球令嬢のアニマという女だ。

 

 

『アニマ』

 

『はい』

 

『ロボス少尉、彼女はイロイル家のアニマだ。いい投手(ピッチャー)だったのだが……ある試合でひどいピッチャー返しを食らってな。それ以来心の傷(イップス)ができて、打手(バッター)を相手にするとまともに投げられなくなってしまったのだ』

 

『ですけれど、人に野球を教える事はできますわ。コーチとして、ロボス様をお導き致します』

 

『コ、コーチ……ですか?』

 

『ええ、指導員のようなものとお考えください。しっかり、投手(ピッチャー)として鍛えて差し上げますわ』

 

 

タシバには悪いが、恋愛ものにしたかったので役どころを貴族令嬢に変えさせてもらった。

 

これも野球の普及のためだ、シェンカー家にて野球指導員であるコーチの立場にある彼女も否とは言うまい。

 

 

『では、改めてペンペン・ロボスに命じる。冬まで続く野球戦役にて、なんとしてもザルクド流に勝利せよ!』

 

『はっ!』

 

 

そうして、ローラ・スレイラ役が引っ込むと同時にカコンッ! というバットの音が鳴り、歓声と共に壮大な曲が流れだす。

 

舞台にはスレイラ白光線団(ホワイトビームス)のユニフォームを元にした衣装を着た女たちが現れ、バットやグローブを振って曲に合わせて踊り始める。

 

そしてその背景に、サワディ・スレイラの作ったという演出魔具によって文字が浮かび上がっていく。

 

 

【『球場に結ぶ恋』】

 

【劇団:シェンカー歌劇団・白光組】

 

【総合演出:ディディ・サワー】

 

【主演:夜霧のヨマネス】

 

 

今日はシェンカーの者たちも来ているからな、脚本家である私の名前は外してもらった。

 

トルキイバにいる間は……私は脚本家のスピネルではなく、野球監督のクタ爺(・・・)でいたいのだ。

 

そして客たちが見慣れぬ女だらけの劇団や、もっと見慣れぬサワディ・シェンカーのトンチキな演出に戸惑っている間に、話はどんどん進んでいく。

 

コーチのアニマとの試合観戦で野球の概要を教わったロボスは、練習場にて改めて投手の基本を教わっていた。

 

 

『良くって、ロボス様。三つですわ。ピッチャーとはバッターから、三つのストライクを取れば勝ちなのです!』

 

『三つですね』

 

 

サワディ・スレイラの演出魔具によって、舞台の上に白く浮かび上がったホームベース。

 

そこに向かって、演者の手元から白い光の球が飛ぶ。

 

この劇場に備えられた唯一無二の演出魔具群のおかげで、この劇は十全に野球を演出する事ができていた。

 

ただ、扱いの難しい魔具の設定を短時間で詰めていくために、ヘボな演出家を使う羽目になってしまったが……まぁそこも痛し痒しと言ったところだろうか。

 

既に演出魔具を国立へ譲り受ける話は付いているから、それも今回だけと思えば我慢もできる。

 

 

『なんだ、ストライクを取るのなんて簡単じゃあないですか。コーチ、この程度の事は誰にでもできるんじゃあないですか?』

 

『ロボス様がそう思われるならば、それでよいのです』

 

 

そして、その後にやってきた肝心要の試合の場面で、観客席からどよめきが上がった。

 

それは舞台の背景が、試合の進行に応じて目まぐるしく変わっていったためだ。

 

観客席を向いて立つロボスの後ろ、背景の中に描かれた塁へ、ヒットを打った者が走っていき、そのまた後ろに描かれた観客も、展開に応じて動きを変える。

 

サワディ・スレイラはこれを『アニメーション』などと言っていたか……

 

なるほど演出の腕はともかく、国家反逆罪級の頭脳は伊達ではないようだ。

 

 

『一体……今は何回なんだ? 俺は試合が終わるまでに、あと何回点を取られればいい……』

 

『ふっ、スレイラのピッチャーなど恐るるに足りず! 我らがザルクド流の打線に向かうところ敵なしだぁ!!』

 

 

ピッチャーの役目を軽く見ていたロボスは滅多打ちに合い、ザルクド流打線への復讐を誓う。

 

そしてその特訓の中で育まれる、コーチであるアニマとの愛……

 

しかし、二人を阻むものは時間。

 

彼女はロボスと出会ったあの時から、すでに結婚が決まっていたのだ。

 

そしてリーグが終われば他の都市へと嫁いでいくアニマと、魔球『ナックル』の研究をするロボス。

 

 

『こうしてあなたと練習できるのも、雪が降るまで……ですか』

 

『アニマコーチ、本当に行ってしまわれるのですか? 西方の最前線は今も一進一退の攻防を繰り返しているとか……御婦人が向かわれるには危険な場所です』

 

『家の決めた事ですわ。人は皆、己の本分を懸命に果たさなければなりません。ロボス様はザルクド流に勝つ事、そして(わたくし)は……まだ見ぬ旦那様をお支えする事』

 

『それでも、見も知らぬ男に嫁ぐなど……あなたほどのコーチは他におられません! どうかトルキイバへ留まり、これからも後進をお育てください! そうすればきっと……野球史に残る名コーチとして、その名を残せましょう!』

 

『それでも……ですわ。我が家にはもう、子供は私しかいません。名を残す前に、血を残さなければならないのです』

 

『そうですか……では、俺がアニマコーチの最後の生徒として! 見事コーチの名を残してみせましょう! そしてコーチの子が野球選手になった時、必ずこの魔球をお伝え致します!』

 

『……ありがとう、ロボス様』

 

 

そして場面は最終決戦、リーグ優勝をかけたスレイラ白光線団(ホワイトビームス)とザルクド流野球部の試合に移る。

 

ローラ・スレイラとライミィ・ザルクドの一騎打ちの露払いとして、他の回の投球を任されるロボス。

 

九回表ザルクド側の攻撃、点数は一対一、そして三人目の打者はライミィ・ザルクド。

 

本来はローラ・スレイラがマウンド入りする状況で、ロボスは彼女に投球を任された。

 

 

『次の打席、私は必ず本塁打(ホームラン)を打つ。ライミィ・ザルクドを抑えてくれるか?』

 

『我がコーチ、アニマ嬢の名にかけて!』

 

 

そして始まる、燃え尽きるような投球。

 

不規則に曲がる魔球『ナックル』を武器に二人を切って落としたロボスは、ライミィ・ザルクドへの投球で追い込まれる。

 

あと一球のストライクが遠く、極度の緊張からもはや応援席の楽隊の音楽も聞こえない……

 

そんな状況で、どこからかアニマの声だけが耳に飛び込んでくる。

 

 

『……ばって……! 頑張って!! ロボス様!!』

 

『見ていてください……アニマコーチ!』

 

 

そうして投げられたのは、魔球ではなく全力のストレート。

 

 

『ストライクッ! バッターアウッ!』

 

『うおーっ!!』

 

 

ライミィ・ザルクドは見事に空振り三振となり、締めはローラ・スレイラの単発本塁打(ホームラン)で試合は終わった。

 

そうしてスレイラはリーグ優勝を果たし、ロボスとアニマにも別れの時がやって来る。

 

真っ赤な大陸横断鉄道を背景に、トルキイバの駅に立つ二人に魔具によって作られた雪が降り注ぐ。

 

 

『……コーチ、どうか西方へ行ってもお元気で』

 

『ロボス様も、どうかお元気で』

 

『旦那さんに悪いので、手紙は書けません。その代わりに、野球新聞を取り寄せてください』

 

『それは……何よりの便りになりそうですね』

 

 

そう言って、アニマはコートのポケットから白球を取り出し、ロボスへと放った。

 

 

『コーチ、これは?』

 

『私の恋心。トルキイバへ置いていきます』

 

『…………』

 

『私はこれから、男としてじゃなく、指導した選手としてのあなたを愛するわ』

 

『……俺も、女としてではなく、野球を教わったコーチとしてのあなたを愛そう』

 

『二人の愛は、いつでも球場にあるわ……だから私の事、忘れないでね』

 

『……きっと、マウンドに立つたび、あなたを思い出します』

 

 

そんなロボスの言葉に笑みだけを返し、アニマは振り返る事なく列車へと向かう。

 

そして降り注ぐ雪だけが強くなる中を、舞台幕が静かに降りていった。

 

正直言って、不安要素はいくらでもあった。

 

初めての題材に、初めての演出、そして初めての劇場に劇団、大ゴケしてもおかしくない状況だ。

 

しかし、上演後の劇場の反応は、その不安を拭い去ってくれるようなものだった。

 

まだ幕も降りきらぬうちから観客席からは大きな拍手が鳴り響き、絶賛の意を表する光の帯の魔法もたくさん飛び交っている。

 

それを見て、深い溜め息が自然と漏れた。

 

どうやら野球の魅力は、しっかりと伝わったようだ。

 

今日はこの劇場の奇妙な行事である役者による握手会というものもないため、役者たちはたっぷりと挨拶(カーテンコール)を行う事になっている。

 

私はその間に、姫様や古狸たちが座っている一階中央の席へと向かう。

 

一応これは国立でやるかどうかの試演なのだ、記憶が新しいうちに感想を聞いておかなければな。

 

まぁ、古狸たちが座るあたりからも光の帯は飛んでいたから、問題はないだろうが……

 

 

「スピネル爺、こっちよ、こっち」

 

 

手を振って呼ばれた場所へと歩いて行くと、そこには喜色満面の姫様と、なんとなく面白くなさそうな顔の古狸たちが待っていた。

 

 

「すっごく良かったわ! これまで一度も見た事のないような、凄い舞台だった!」

 

「それはようございました」

 

 

舞台を見ている間は年相応の振る舞いをなさる姫様に続いて、古狸たちもありがたい批評をくれる。

 

 

「口惜しいが、正直言ってここまでの物とは思わなんだ。素晴らしかったよ」

 

「左様、さすがにここまでやられては、我々も帽子を脱ぐ他あるまい」

 

 

そうだろうそうだろう。

 

野球の素晴らしさには、たとえどのような人間とて蒙を啓かれる他なかろう。

 

 

「まさか、こんな革新的な舞台装置(・・・・)を用意してくるとは……」

 

「……舞台装置?」

 

「ああ、スピネル殿の探究心には頭が下がる思いだ」

 

「まさかこのような田舎に籠もって、あのような装置の開発をされていたとは……」

 

「ディディ・サワーと言いましたかな? あの演出家は素晴らしい、スピネル殿が育てられたのだろうか?」

 

「聞けばあの装置類もすでに国立へ導入する用意をされているとか、ぜひディディ・サワー氏も共に招聘しましょう」

 

「あのエスカレーターとかいう動く階段も斬新だ、ぜひあちらも導入したい」

 

 

こやつら(・・・・)は……一体何を言っているのだ?

 

演出にはたしかに凝ったが、それもこれも全ては舞台で野球を表現するための道具でしかない。

 

私は道具の感想を聞いているのではないのだ。

 

 

「……して、劇の内容の方は如何か?」

 

 

そう聞くと、彼らは「なぜそんな事を聞くのだ?」とでも言いたげな表情を浮かべた。

 

 

「……内容ですか。まぁ、たまにはああいった毛色の違う劇も悪くはないかと……」

 

「悪所通いの劇などと比べれば、ずいぶん爽やかでよろしいのでは……」

 

「人の死なない劇というのも、悪くはないですな」

 

 

古狸共はそんな全く熱のない批評を口にして、また舞台装置の話に戻っていった。

 

……どうやら、野球の素晴らしさは正しく伝わっていないようだ。

 

それから他の招待客の元も回って感想を求めてみたが、どの客も口から出るのは演出の話ばかり。

 

もしかしたら私は演出に凝りすぎて、野球の布教という主目的を損なってしまったのかもしれない……

 

だとすれば、試合に勝って勝負に負けるとはまさにこの事だ。

 

肩を落として姫様の元へ戻ると、そこではちょうど審査の正式な結論が出たところのようだった。

 

 

「とにかく、夏の新作はこの劇で決まりね!」

 

「それはようございますが、劇団はいかがいたしましょう?」

 

「ディディ・サワーは駄目だけど、この劇団はこのまま国立に連れていきましょう。新しい風は新しい顔に吹かせたいわ。いいわよね? スピネル爺」

 

「姫様、しかしこの劇団はこの劇場付きの……」

 

「大丈夫、義弟君に言って借りるから」

 

「サワディ氏は承知しますかな?」

 

「そうねぇ……飴として、この劇の公演を正式にやらせてあげればいいんじゃないかしら? それで練り上がった劇団を夏に借りて、秋にはちゃーんと返すから大丈夫よ」

 

 

まぁ、持ち主に了承を取るならば大丈夫か……

 

姫様とサワディ・スレイラは近い親戚同士であるし、無理が言えるところもあるのだろう。

 

それにこの劇団がそのまま行くのならば、私が稽古に立ち会う必要もない。

 

つまり夏から始まる来期のリーグに、今度は最初から関われるという事だ。

 

 

 

 

 

そんな来期への楽しみを胸に今期の最終局面を走り抜け、ついにリーグ最終戦の日がやってきた。

 

しかもこの試合は、農家連合金穂団(ゴールデンスパイク)との四位決定戦でもある。

 

絶対に落とせない試合ではあるが、選手たちの士気も旺盛。

 

そして客の入りも、今期最高と言えるものだった。

 

 

「凄い事になってるよ! 今観客が入り切らなくて、外にまでズラッと並んでるんだってさ!」

 

「そうか、見届人が多いのは僥倖だ。しっかりと有終の美を飾らねばな……」

 

「この観客はやっぱあれだぁ、先週から始まったあの劇が原因かなぁ?」

 

「……かもしれんな」

 

 

先週に双子座での一般上演が開始された『球場に結ぶ恋』は、私の要望で脚本家名を隠したにも関わらず、なかなかの人入りを見せていた。

 

そして劇を見終わった観客たちはそのまますぐ近くにあるこの野球場へと詰めかけ、上演開始以来野球場は大賑わいだ。

 

演出に凝りすぎ、手段と目的を違えたかと思った事もあったが……

 

結果的にあの劇は、きちんと野球の普及に寄与したというわけだ。

 

現に我がシェンカー大蠍団(スコーピオンズ)にも入団希望者が詰めかけ、大詰めのリーグ戦に加えて新人の育成で団はてんてこ舞い、嬉しい悲鳴が止まらない状態だった。

 

 

「なんか最近……どこ歩いてても声かけられるんスけど……」

 

「タシバは大変だよなぁ、しばらく外じゃあコーチなんて呼ばない方がいいかもなぁ」

 

 

まぁ、ヒロイン役のモデルがうちのタシバだという話が広まり、大蠍団(スコーピオンズ)の試合に特別多くの観客が来場したのは計算外ではあったが……

 

この注目の中で勝てば、更にシェンカー大蠍団(スコーピオンズ)の名が上がる事は確かだ。

 

そんな皮算用を頭の中でしていると、打席に立っていたサミィが打球を打ち上げ……そのままアウトになった。

 

 

「あっちゃー、せっかく塁埋めたのに点は入らずかい……」

 

「さぁさぁ! 泣いても笑っても今期リーグはあと一イニング。最後の守備も気張っていこうじゃないか!」

 

「おおっ!」

 

「クタ爺、今日の打ち上げは友達もみんな連れてっていいんだっけ?」

 

「いいとも! もちろん、試合に勝てばだが……」

 

「勝つ勝つぅ! 店の酒全部飲み干すぞぉーっ!」

 

 

ちらほらと雪の降る、真冬の野球場。

 

雪なんか気にも留めない、熱いファンたちが送る声援が響き、選手たちは笑顔で駆けていく。

 

このまま劇のように勝利で終わるか、それとも負けて土に膝をつくのか。

 

きっとそのどちらでも、野球をするのは楽しく。

 

楽しい遊びだからこそ、観客は選手たちの輝きに魅せられるのだろう。

 

そして私の劇を見てここに集ってくれた人たちにも同じように楽しんで貰えれば、そんなに嬉しい事はない。

 

そんな事を考えながら、私は控えの選手たちと共に……

 

おそらくこのシーズン最後の守備位置につく選手たちへと、喉が枯れんばかりの声援を送ったのだった。

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