異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)   作:岸若まみず

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第17話 功績は 人に譲れど 益高し

俺は天才だ。

 

いや、こういう事を言うとバカだと思われるかもしれないが、本当に天才なのだ。

 

狭い世界ではあるが、単純に支援や再生魔法の出力が一番強く、研究でも前世の記憶抜きにしても閃きが止まらないのだ。

 

人にはできない事ができるというのは、単純に心を豊かにしてくれる。

 

だが一方で俺はこう理解もしていた。

 

武力や後ろ盾のない天才など、単なる金貨の入ったしゃべる袋である。

 

有力者にこれ幸いと捕まり、中身を取り出されて捨てられるだけだ。

 

その点、俺も無駄に年食っていて幸いだった。

 

功績を他人になすりつけて利益だけをかっさらう方法に、きちんと当たりをつけていたのだ。

 

 

 

「こりゃまた凄いものを作ったね、魔結晶を交換する事で長期間動く造魔か」

 

 

 

午後の魔導学園、造魔術研究所。

 

この研究所の長であるマリノ教授が、普通とは違うロボットっぽい見た目のホムンクルスを手のひらの上で弄んでいる。

 

俺の作った『燃料交換式』の造魔だ。

 

教授の隣でそいつを見ていた、俺の指導担当である金髪の理系女子クリス・ホールデンは、気に入らなさそうに鼻を鳴らした。

 

 

 

「ふん、商家者の強欲というのは際限がないな」

 

「いやいや、そうバカにしたものではないよホールデン。造魔の性能や美麗さを追求するのではなく、使い勝手を良くする。こういう下民的な発想は我々に欠けていたものかもしれないね」

 

「わかりませんね。造魔は使い捨ての魔法生物、その都度作ればいいではありませんか」

 

 

 

造魔は基本的に使い捨てだ。

 

そもそもが魔法生物を維持する膨大なコストを抑えるために開発されたもので、まぁ手榴弾や地雷みたいなものと思ってもらえればいい。

 

もちろん庶民の感覚からすれば驚異の高コストなのだが、庶民とお上の金銭感覚が隔絶しているのはどの世界も同じだということだ。

 

 

 

「それもそうだけどね。ほら、たとえば我々は研究者だというのに、時に造魔を量産する労働者としての扱いを受ける事があるだろう。簡単なインプやカーバンクルなどであっても、人からの依頼で沢山作るような場合はなかなか骨なものだよ」

 

「むぅ、それはたしかにそうですが……」

 

「そういう時にね、この魔結晶交換式の造魔を渡しておけば、相手は魔結晶を交換するだけで済むから我々は手を煩わせられない。そうだろう?シェンカー」

 

「はい、その通りです」

 

 

 

やはり、この教授はわかってる(・・・・・)

 

ふんぞり返って攻撃魔法をぶちかますだけの貴族とは違う、造魔術なんてマイナー学問(・・・・・・)を支えてきただけのことはあるな。

 

効率化や低コスト化の価値を理解してくれている。

 

 

 

「この造魔、寿命はいかほどだい?」

 

「先週試験的に作ったバイコーンは、1日1度の魔結晶交換で未だに生存しております」

 

「少なくとも1週間も持つなら素晴らしいね」

 

 

 

不機嫌そうな顔になったクリス先輩に、不意に背中を小突かれた。

 

 

 

「おい、指導担当の私はそれを聞いていなかったんだが?」

 

「すみませんクリス先輩、お忙しいと思いましたので分析が済んでからお話しようと思っていました」

 

 

 

物には言い時ってものがある。

 

魔導学園サバイブ術の基本だ。

 

 

 

「いやいや、私が『調子はどうだい?』などと聞いたから開発途中のものを見せてくれたんだろう。君は悪くないよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

俺は先輩と教授の間でペコペコ頭を下げ続ける。

 

 

 

「それで、この技術なんだが、もし良かったら今季の学生研究の枠でやってみないか?」

 

「よろしいのですか?」

 

 

 

これは僥倖だった。

 

ほんとは『クリス先輩から貰ったヒントで……』とか、『クリス先輩の指導のおかげで……』とか、『平民の私ではこのテーマは重責に過ぎる……』とか言って無理やり成果をクリス先輩に押し付けようとしていたのだ。

 

こりゃ手間が省けた。

 

平民がこういう将来の功績に直結する成果を出して、軋轢がないわけがないからな。

 

今は良くても、後で進退に響いてくる、そういうものだ。

 

 

 

「マリノ教授、彼にはまだ早すぎます」

 

「いやいや、そこは君が指導員として面倒を見てやってくれよ。いらぬ横槍が入らないよう、どうせ論文の表書きは君の名前で進めるつもりだったんだ」

 

 

 

そうそう。

 

 

 

「……むぅ、たしかにまぁ、そういう事ならばやぶさかではないですが」

 

「その方がシェンカーも助かるだろう、口だけの貴種の相手などする必要もないとは思うが、余計な波風は立たぬほうがいい」

 

「そうですね、私もできれば名前は出ない方が……」

 

「そうだろ、ホールデン、予算をつけるから君の名前で人員や資材を調達して進めていってくれ」

 

「わかりました」

 

 

 

不承不承だがまんざらでもないといった様子のクリス先輩に「よろしくおねがいします」と深々と頭を下げる。

 

 

 

「まぁこの私が関わるのだ、大船に乗った気持ちでいろ」

 

「はい」

 

 

 

護身完了だ。

 

平民にとっての学業とは、成績は良くて当たり前。

 

常に他人の気まぐれな悪意による退学(クビ)との戦いなのだ。

 

俺は立身出世なんか興味ないけど、向上心のありすぎる人なんかだと大変なんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると、ちょうど造魔バイコーンの魔結晶交換をやっていた。

 

背中に設けられたハッチから、うちの丁稚が魔結晶をザラザラと流し込んでいる。

 

そう、この技術の素晴らしいところは造魔の維持に魔法使いの手が必要ないところだ。

 

これなら術者は作りっぱなしでいい。

 

楽さは全てに優先される、楽は正義なのだ。

 

 

 

「サワディ坊っちゃん、お帰りで」

 

「ああ」

 

 

 

番頭は何やら機嫌が良さそうだ。

 

 

 

「あのバイコーンには先日から粉挽きをさせていましたが、やはりなかなか効率がいいですね」

 

「そりゃそうだ、うちは魔結晶を自前で調達できるんだからな」

 

 

 

相場が上下して調達しにくい魔結晶でも、うちの冒険者に取ってこさせれば常に安定供給、常に底値だ。

 

実家にいた粉挽き奴隷達も辛い仕事が減り、経営側も別の仕事を割り振ることができる。

 

Win-Winである。

 

ついでに俺も奴隷の飯用の小麦が安く買えてWin-Win-Winだ

 

やはり造魔術は小銭稼ぎには最適の学問だな。

 

 

 

「つきましてはもう2、3匹……」

 

「おいおいコキ使ってくれるなよ」

 

 

 

ま、いいけどさ。

 

まだまだ秘匿技術なんだから、外には出すなよ。




異世界チートイキリ主人公エピソード3

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