異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)   作:岸若まみず

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ゆるふわ地下奴隷の話です。


第27話 地下の穴 地道に掘って 進めてる

「石出たぞ、モッコもってこい」

 

「あいよっ!」

 

「しーっ、静かにしろ、夜だぞ。この上は民家なんだから」

 

 

 

私達は穴を掘っている。

 

なんの穴かわからないけど、ご主人様のため。

 

地下だけど、ご主人様の作った光る魔物を壁に埋め込んでいるから外みたいに明るいし、謎の筒から空気も送られてきてるから安心だ。

 

モッコに石を積んでいると、入り口の方から支え用の木が運ばれてきた。

 

床と天井の間に挟んで穴を補強する用の木だ。

 

うちの穴はこの木の支えを贅沢に使ってるから、天井も高くて崩落してくる心配がなさそうだ。

 

ご主人様が定期的に魔法で固めてるって話だしね。

 

鉱山なんかじゃ崩落で毎年何百人も人が死ぬっていうもの。

 

鉱山に売られなくて良かった〜。

 

 

 

「ありゃ、水が出たぞ」

 

「あー、またかぁ。埋めろ埋めろ、方角変えるぞ。すぐにチキンさん呼んでこい」

 

 

 

一番奥で水が出たらしい。

 

ああ、たしかに掘る土から湿った匂いが強くなってたもんね。

 

よくわかんないんだけど、土を掘ってるとたまに水が出たり、大きな岩が出たりするんだよね。

 

そういうのを避けて掘るから、だんだんとこの穴はぐにゃぐにゃになっていく。

 

最終的に決まった場所に着けばいいらしいんだけど、この調子でほんとにつくのかな?

 

チキンさんの話じゃまだ都市の外縁にも達してないらしいけど。

 

 

 

「こっちが北です」

 

 

 

運ばれてきた支えの木を使えるように微調整していると、鳥神の加護を持った山羊人族のオピカが監督のチキンさんと一緒にやってきた。

 

測量担当と3人で相談しながら地図の書き直しをしてる。

 

方角がわかるだけの鳥神の加護なんて、海以外じゃ役に立たないと思ってたけど、丘でも役に立つんだなぁ。

 

さすが学のある人は何でも役立てるもんだ。

 

 

 

 

 

「一旦休憩だってよ、みんな行くぞ」

 

 

 

チキンさんから休憩の指示が出たみたい。

 

現場責任者である牛人族のジーリンちゃんがそう宣言して、皆で一緒に入り口の方にある休憩所に向かって歩く。

 

延々と続く穴を、小声でお喋りしながら歩いていく。

 

 

 

「やっぱりラーゲがいると進みが違うよね」

 

「さっすが穴掘り名人」

 

「えぇ〜、そんなことないよ」

 

 

 

私は犬の神の加護を貰ってるみたいなんだけど、おかげで穴を掘るのが早くてみんなに穴掘り名人って呼んでもらえてる。

 

名人だなんて照れくさいんだけどな。

 

ほんとは穴掘りじゃピクルスさんには勝てないんだけど、ちょっと嬉しい。

 

足が悪くて売られちゃったんだけど、私でもこうして役に立てる場所があったんだなぁ。

 

 

 

穴掘りの仕事では軽食が出たりする。

 

これがなかなか侮れないんだ。

 

ご主人様が作った試作の料理だったり、作ったはいいけど製品にならなかった食べ物だったりする。

 

色々出るけど、美味しくないことなんてなかなかないもんね。

 

 

 

「最近のこれ、あたし意外と嫌いじゃないんだ」

 

「わたしも〜」

 

「そのまま齧っても、パリッとしてて美味しいよね」

 

 

 

最近の配給食である揚げ麺を丼に入れて、地上から下ろしてもらったお湯を注ぐ。

 

鶏の脂が溶けていい匂いがしてくる。

 

しばらく待ったらお湯を切る。

 

それから別の鍋のソースをかけたら、もう食べられるようになっちゃうの。

 

麺を茹でなくても柔らかくなるんだよね。

 

魔法みたい。

 

魔法使いのご主人様が作ったから、ほんとにそうなのかも。

 

 

 

「これさ、ご主人は失敗作だって言ってたらしいけどさ、普通のペペロンチーノより香ばしくて美味いよな」

 

「わたしもそう思う。麺に元からちょっと味が付いてるから、お湯をカップに入れたらスープにもなるしね〜」

 

「これも売ったらいいのに『お湯だけじゃ味付けが上手くいかないから』って駄目になったんだって」

 

「そっかぁ」

 

「もったいないな〜」

 

「お偉いさんの考えることはわかんねぇな」

 

「そうだよねぇ〜」

 

 

 

私達がペペロンチーノをすすっていると、地上から喫茶店勤務の子が降りてきた。

 

今はもう夜だから、あの可愛い制服じゃなくて普段着なんだけど、髪とか爪とかの磨かれ方が全然違うんだよね。

 

普段着でも喫茶店の子達は一目で見分けがついちゃう。

 

憧れの的なんだよね。

 

なんかお肌を綺麗にする水?みたいなのを貰ってるらしいんだけど、それをつけたら私達もああいう風になれるのかな。

 

嗅ぎなれない甘い匂いもするし、ちょっと気になるなぁ。

 

 

 

「お疲れ様。これ店の余り、皆で食べて」

 

「おっ、甘パンかぁ」

 

「やった〜」

 

「今日はほんと運がいいね」

 

 

 

地下で仕事してると、たまにこうして店の余りのお菓子を貰えるんだ。

 

表の店のお菓子は高くてなかなか手が出ないから、これは役得ってやつらしい。

 

くんくん、今日の甘パンは紅茶が練り込まれてるのか、これは美味しそうだ。

 

奥からはまだ人がやってくる気配はない。

 

これを食べたら一眠りしちゃおうかな。

 

 

 

 

 

「おまたせ、方角決まったわよ。もう少しだから頑張ってね」

 

 

 

ご飯を食べてからひっくり返って寝ていた私達をチキンさんが起こして、上に登っていった。

 

ジーリンちゃんは大きいあくびをひとつして、シャベルを肩に担ぐ。

 

 

 

「もうちょいやったら時間だろ、今日は得したな」

 

「そうだね〜」

 

「甘パン美味しかったし、今日は当たりだなぁ」

 

「ふぁ〜眠い〜」

 

 

 

穴掘りの仕事は時間が決まってるから、進みが遅くても手当が出るんだ。

 

もちろん真面目にやらないと外されちゃうから手を抜く子なんていないんだけど、岩とか水とかで時間がかかるとその分のんびりできるからね。

 

軽食も出るし、余りのお菓子を貰えたりするし、おいしい仕事だよ。

 

この仕事、もうしばらく続いたらいいなぁ。

 

なんのために掘ってんのかわかんないけど。

 




秘密裏にやっているので道がグニャグニャすぎて輸送にトロッコとか使えません。

換気用の管を壁に這わせる専門家軍団がいたり、日当を上げるための測量家研修とかがあったりと、地下帝国も脳筋の楽園ではありません。


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