異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)   作:岸若まみず

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ゆるふわ地下帝国


第29話 奴隷たち 地下帝国を 満喫す

うちのご主人様にも困ったものだ。

 

数ヶ月前から急に都市の物件を買いだして、何人かの技能奴隷が商売を任されることになった。 

 

 

 

「儲かれば何でもいいから」

 

 

 

と言っていたが、儲かる商売ができるぐらいなら奴隷には落ちないものだ。

 

幸い筆頭知識奴隷のチキンさんがやり手で、私達の得意な事の組み合わせで商売の種を考えてくれたから良かったんだけど。

 

これをもし1人で、徒手空拳で挑まされて失敗をしたかと思うとぞっとしない。

 

もう1度売られるのはまっぴら御免だよ。

 

シェンカー一家ぐらい居心地が良いところは他にないんだからね。

 

 

 

私が得意なのは木の細工。

 

ブローチやら小物やら、何でも作る。

 

特に得意なのは彫刻で、箱の表面に細かい模様を入れるなんてのは大好きで何時間でもやってられる。

 

相方のナバの得意な事は絵だ。

 

昔は結構家が裕福だったとかで、絵の手習いをしていたらしい。

 

絵の方は良いのか悪いのかわかんないような出来だけど、色付けは上手い。

 

私が作って、ナバが色を付ける。

 

商売はちょっとした小物屋だ。

 

 

 

 

 

「あらいいわねこの髪留め」

 

「たしかに、陽の光を集めたような君の髪にぴったりだよ」

 

「やだもう、ピエールったら」

 

「ほんとさ、ジェニー。ここにあるもの、何でも買ってあげるよ」

 

 

 

マヌケな男の顔をあんまり見ないようにしながら営業……スマイル?で接客をする。

 

ご主人様から、接客は笑顔でするようにとご達しがあったからね。

 

今日はよそに貸される子が多くて、この店まで人が回って来なかったから私が売り場に立ってるんだけど、普段は売り子が来てくれるんだ。

 

正直売り場の仕事は苦手なんだよな。

 

 

 

「店員さん、このブローチ貰おうかな。愛しい人に」

 

「かしこまりました」

 

 

 

お前こないだ別の女と来てたろと思いながらも、商売だから笑顔で対応する。

 

商売は大変だ。

 

自分ひとりでやってたら、早々に店は潰れてただろうな。

 

 

 

接客が終わったら前掛けをつけて、また木を彫る。

 

今やっているのは猫の透かし彫りをしたお香立てだ。

 

なかなかの売れ筋で、今月ももう十個は作ってる。

 

作るたびにデキが良くなっていくから、売れるものはもっと売れるようになる。

 

そういうところは商売の楽しいところだな。

 

あたしはやっぱり工事現場でがれき運ぶよりも、こっちの方が断然いい。

 

 

 

「ただいま〜マモイ、ご飯貰ってきたよ〜」

 

「お帰り」

 

 

 

ナバがシェンカー一家の本部から帰ってきた。

 

本部に行けば昼と夜は飯が貰えるんだ。

 

遠い所にある拠点なら飯代渡されて自分で食えって言われるらしいけど、本部の飯は美味いからあたしはこっちのほうがいい。

 

今日はゲハゲハの揚げ物とおっきなパンだ。

 

ゲハゲハは川なんかによくいる魚なんだけど、どっかの拠点に池を作って増やしてるらしい。

 

ご主人様は「川魚は泥臭いから」って言ってたらしいけど、庶民は魚なんかあんまり食べないからわかんないや。

 

いざ増やしてみたら増えすぎて、私らの食事にも出るようになっちゃったんだけどね。

 

売ると相場がどうだとか……上の人らもあれでまぁ色々(しがらみ)があるんだなぁ。

 

 

 

「ご飯取りに行くときも()使わしてくれたらいいのにね」

 

「ありゃ内緒だから万が一にもバレないようにって事でしょ。人に言えないようにあたしらに色々魔法かけるぐらいなんだからさ」

 

「便利なんだけどなぁ」

 

「けじめだよ、けじめ」

 

 

 

下の工事はずーっと続いてて、うちの建物の奥にも下への隠し通路がある。

 

たまに作業員が休憩しに上がってくるけど、店のものは移動とかに使わないように言われてるんだよね。

 

まぁ、移動に使えないだけで色々と(・・・)使い道はあるんだけど。

 

 

 

 

 

夜になると町はすっかり暗くなる。

 

魔結晶を食って光を出す魔具もあるけど、魔具なんて高級品に庶民が手を出せるわけがない。

 

となると光を取るには油灯か蝋燭なんだけど、そんなに明るくないし、ずーっと使うにはやっぱり金がかさむ。

 

道端の魔導灯はあるけど、さすがにその下で夜中に何かやってたりすると怪しくてしょっぴかれちゃう。

 

その点地下は最高だ。

 

いつでも煌々と明るいし、寒くも暑くもない。

 

空気の流れもあるし友達も通りかかる。

 

毎日入り浸りになるのもしょうがないよな。

 

 

 

「今日はロースの姉御が一人で暴れ鳥竜を相手取ったらしいよ」

 

「へぇ〜」

 

「つがいに出くわしたらしくてね。ロースの姉御が一匹任せろっつって、あの赤染めの十字槍で突いては離れ突いては離れの大活躍でね」

 

「やっぱり凄いなぁ」

 

「町でもうちの冒険者組はすっかり一目置かれてんだよね」

 

「借金取りに連れ出されてたりするもんねぇ」

 

「こりゃあたしも冒険者になっときゃ良かったかなぁ」

 

「あんたじゃ死んじゃうって」

 

 

 

地下で友達のストーロとバカ話をしていると、本部の方から足音が聞こえてきた。

 

 

 

「もう休憩終わりかな?」

 

「頑張ってね」

 

 

 

曲がり角からシャベルを持った人達がどんどんやってくる。

 

 

 

「おうっマモイ、また残業やってんのか?」

 

「あんま店広げんなよ」

 

「ストーロ、休憩終わりだぞ」

 

「おっ、じゃあ行ってくるね」

 

 

 

どんどん人が奥に吸い込まれていって、あっという間に通路は私一人になった。

 

あれだけ人がいると声を抑えていても多少はうるさいんだけど、天井や壁に貼ってある防音材ってのが音を抑えてくれるらしい。

 

偉い人ってのは色々考えるもんだよな。

 

さて、私は趣味の人形彫りを進めようかな。

 

 

 

「おっ、マモイじゃん。今日は店どうだった?お茶とお菓子持ってきてあげたぞ〜」

 

 

 

と思ったら今度は隣の拠点の奴だ。

 

 

 

「おー、二人もいた、誰かいないかなって歩き回ってたんだよ。マモイは毎日いるよね」

 

 

 

反対側からは西の拠点の奴もやってきた。

 

毎日毎日各地の地下通路から誰かしらがやってきて、全然作業が進まない。

 

ま、楽しいからいいか。

 

今日の夜も、長くなりそうだな。




30話の後に資料集を挟む予定です

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