異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)   作:岸若まみず

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残業の発生具合が読めないので、もうあんまり投稿予告はしないようにします。

すいませんでした。

ちょっと長くなっちゃいました。


第54話 秋晴れの 空を仰げば 雲高し 後編

秋の高い空から吹き下ろす風が赤茶けた地面を削り、吹き上がる土煙が俺のジャケットをうっすらと汚す。

 

この劇場建設予定地はいずれ全面を石畳で舗装する予定だが、今はまだその目処すら立っていない。

 

なんせ未だ土地代を支払い中なのだ、上物の着工にはまだしばらくの準備期間がいるだろう。

 

これも個人的な趣味でやっていることだから許される事だろうな、組織の一員としてこんな悠長なことやってたら即クビだ。

 

まあ今の所問題はないんだ、気長にやるとしよう。

 

そんな劇場建設予定地にでーんと構えられた、マジカル・シェンカー・グループの練兵場。

 

今日、そこには大勢の人がひしめき合っていた。

 

 

『東ィー!紅のメンチ組ィー!』

 

「ウォォォォォォォッ!!」

 

「頭領ーっ!!」

 

「やったりましょーっ!」

 

『西ィー!白のロース組ィー!』

 

「姐さーんっ!」

 

「副頭領ーっ!」

 

「姐御ーっ!」

 

 

赤い鉢巻をした鱗人族のメンチと白い鉢巻をした魚人族のロースが向かい合って立つと、その後ろにはぞろぞろとチームの面々が並んだ。

 

各々動きやすそうな格好をして、腕や頭に鉢巻を巻いている。

 

冒険者や警備組だけじゃなく事務や販売も含めたチーム分けで、ほぼ全員集合だから凄まじい人の多さだ。

 

これちゃんと捌けるのかな?

 

紅には筆頭奴隷のチキンが、白には管理職候補のジレンが入ってるけど、ちょっと心配だ。

 

奴隷達のひしめく練兵場の左右に設置された席には観客達が座り、歓声を飛ばしたり口笛を吹いたりしている。

 

この観客は選手達が招待してきた街の人達だ。

 

見せる相手がいたほうがやる気が出るかと思ってこういう形にしたが……

 

万が一客達が勝手にうちの土地をうろついても大丈夫なように、一旦椎茸畑の木を地下に収納したりと色々大変だった。

 

 

「エール、エールぅ〜、おつまみ〜」

 

「あ、こっちエールふたつ!」

 

「まいどっ!」

 

 

観客席ではビールやおつまみを持った売り子が練り歩いていて、おもてなしもバッチリだ。

 

もちろん金は取ってるけど。

 

 

『宣誓ー!我々選手一同はーっ!正々堂々と敵をぶちのめし、負けてもあんまり(・・・・)恨まない事を誓います!』

 

 

微妙に物騒な選手宣誓が終わり、早速第一競技の徒競走が始まった。

 

五十メートル、百メートル、そしてトラック一周の四百メートル。

 

ドヤドヤと押し合いながらスタートラインに並んだ選手八人が、スタート前のカウントと共に気合を高めていく。

 

バックでは音楽隊の奏でる勇ましい曲が流れていて、いい緊張感だ。

 

 

『位置について!三、ニ、一……』

 

 

ビィー!と鳴るホイッスルに背中を押されるように駆け出した八人の中から、金色の毛玉が飛び出す。

 

四足で走ってるんじゃないかってぐらいの前傾姿勢で地面を蹴りながら独走し、そのまま他の走者に三秒近く差をつけてゴールテープを切った。

 

 

『おおっとぉー!ごぼう抜きだーっ!あれは郵便部のカクラだっ!』

 

 

どうやら郵便部の子らしい。

 

緩くウェーブした豊かな金髪を背負う猫人族の彼女は、声援を貰ってはにかみながら客席に手を振っている。

 

結局カクラは、五十メートルだけではなく、百メートルでも四百メートルでも圧倒的な速さでトロフィーを掻っ攫っていった。

 

 

『速いっ!速すぎるぞっ!どういう足をしているんだっ!』

 

「韋駄天だねぇ」

 

『何ですか?イダテンって』

 

 

隣に座るアナウンサー役の山羊人属、ヤシモが俺の独り言に食いついてきた。

 

モヤシに似た名前のこいつは完全に名が体を表しているタイプで、割と心配なぐらいガリガリなんだ。

 

それでいて人より食い意地がはってるから、多分太らない体質なんだろうな。

 

 

「走るのが速いやつのことだよ」

 

『へぇー……それでは皆様!紅組、イダテンのカクラに大きな拍手を!』

 

「おおーっ!」

 

「速すぎるぞあいつ!」

 

『これで紅組は一歩先行です、白組は次の競技で巻き返せるかっ!』

 

「くそったれーっ!」

 

「しっかりやれーっ!」

 

「カクラーっ!やるじゃねぇか!」

 

「いよっ!郵便部の星!」

 

 

白組からヤジが飛び、紅組からは声援が飛んだ。

 

多少ガラが悪いのは大目に見ようじゃないか、観客も楽しんでるみたいだし。

 

次の競技は二人三脚。

 

二人がチームとなり内側の脚を縛り合ってゴールを目指す、意外と難しい競技だ。

 

 

『位置についてーっ!三、二、一……』

 

 

ビィーッ!と鳴ったホイッスルと同時に走り出した女たち。

 

一歩目で全員が転んだ。

 

 

「なにやってんだーっ!」

 

「真面目にやれーっ!」

 

「うるせーっ!てめぇがやってみろ!」

 

「バカ!早く立て!」

 

 

客席からはヤジが飛び、もうグラウンドはてんやわんやだ。

 

立ち上がってもう一度走ろうとするチーム、這ったまま進むチーム、内側の後ろ脚を捨てて四つん這いで進むチーム、各チームごとの攻略法を試しているようで、見ている分には面白い。

 

結局ゴール付近まで接戦が続き、だんごになったままテープを切って白組が勝利を収めた。

 

その後もいくつか走る系の競技は続き、俺は酒を飲みながら女たちがはしゃぎ回って走るのを見ていた。

 

今やっているのは謎解き競争だ。

 

走者が走り、お題を取って自陣に持ち帰る。

 

そして各陣営の知能自慢が謎を解き、ここ放送席まで答えを言いに来るのだ。

 

 

「えー、なんだっけ……犬小屋の中!」

 

『犬小屋の中、違います!』

 

「えー!なんでだよ!」

 

 

走者の魚人族の失敗に、紅組陣営から非難の声が上がる。

 

 

「ちがーう!」

 

「バカ!ちゃんと覚えて行けよ!帰ってこーい!」

 

「戻れー!戻れー!」

 

 

回答者の魚人族はメンチに肩車されて紅組の旗を振りまくるチキンの元にもんどりうって走り、入れ違いで放送席に転がり込んできたのは白組の走者。

 

 

「えっと、えっと……燃えた城!」

 

『燃えた城、違います!』

 

「え?なんで!?」

 

 

白組からも「戻れー!」とコールが上がる。

 

総指揮をやっている虎の猫人族のイスカが後ろでオロオロしているのを感じる、そんなに難しい問題を用意したわけじゃないからな。

 

冒険者組の瞬間記憶力のなさを舐めていたのが失敗だったか……

 

結局この後ラリーは何度も続き、これまでで一番時間のかかった競技となった。

 

やはり走者と回答者は分けた方が良かったかな……

 

まあ盛り上がるには盛り上がったから、要検討だな。

 

 

 

この競技が終わった所で、昼休憩の時間となった。

 

昼休憩と言っても本当にただ休憩するだけじゃない。

 

競技に出るのに不向きな種族の子達や、有志の集まりでのパフォーマンスの披露の時間でもあるのだ。

 

 

「ピュゥーッ……」

 

 

空からボンゴの歌が響き、うちにいる鳥人族十数名による編隊飛行のパフォーマンスが始まった。

 

キラキラと物理的に日光を反射する衣装を身に纏った乙女たちを、観客たちは拍手喝采で出迎える。

 

彼女たちは要所要所で隊列を組み換えたり、背中に背負った発煙筒で色とりどりの雲を引いたりと、あの手この手で見上げる人々の目を楽しませた。

 

そうして小一時間ほど飛び続けた飛行隊は、低空で何かをパラパラと客席にばら撒いてから帰っていったようだ。

 

なんなんだろうか?

 

 

『えー、手元の資料によりますと、飛行隊が最後にばら撒いた包みは手作りのお菓子とのことです』

 

 

なんだお菓子か。

 

空を見上げると、一人だけ残って旋回していたボンゴと目が合う。

 

彼女は急降下してくると、俺の上にもさっきの包みをひとつ投下して仲間の元へと帰っていった。

 

包みを開けると、小さいサーターアンダギーみたいなのが入っている。

 

ひとつつまんで食べてみる、ほのかに蜂蜜の味がした。

 

うん、素朴で美味いな。

 

 

 

その後も紅と白のエール交換、音楽隊によるマーチングの披露があって、午後の部が再開された。

 

ちなみにお昼は大行列になっていたうどん屋台のかけうどん大盛りに、揚げ物を乗せまくって食べた。

 

これが今街でも大人気らしい。

 

俺もこういう飯は大好きだから、街で流行ってくれるのは嬉しい限りだ。

 

 

『次の種目は棒引きです!地面に置かれた十五本の棒を自陣へと奪い合い、相手よりも多くの棒を手に入れた組の勝ちとなります!』

 

「よーっし!」

 

「やるぞっ!」

 

「ちゃんと作戦通りにやれよ!」

 

「作戦ってなんだっけ?棒を……棒を持ってくる?」

 

「ぶっ殺せーっ!」

 

「うらーっ!!」

 

『殺さないでください!直接攻撃はルール違反ですよ!』

 

 

五十人対五十人の競技は選手が並んだだけでも壮観だ。

 

朝からずっとやってきたせいか、こいつらが熱くなりやすすぎるのかわからないが、選手達からはすごい熱気を感じる。

 

なんか全員目がギラギラしていて、対抗心が加熱しすぎているような気もするが、俺の気のせいかな?

 

ともかく気合満々の選手たちに否が応でも期待は高まり、客席からも選手の名前の声援が飛んだ。

 

 

『位置についてっ!三、二、一……』

 

 

ホイッスルと共に百人の女達が一斉に駆け出した。

 

ほぼ全員が棒を無視して真っ向からぶつかり合い、大きな土煙が上がった。

 

 

「頂上決戦ということか」

 

「あんたとやり合うことになるとはねっ!」

 

 

戦線の一番先ではメンチとロースがお互いの腕の鱗をジャキジャキ鳴らして殴り合い、大変な騒ぎだ。

 

 

「棒取れーっ!棒ーっ!」

 

「下ーっ!下下ーっ!細い木のやつ持ってこーいっ!」

 

 

紅白それぞれの待機席からは軍師役のチキンとジレンの悲痛な声が響く。

 

しかし現場では誰も気にしていない、完全に棒をまたいで50人対50人の大合戦だ。

 

 

「お願いします……」

 

 

後ろで指示を出していたイスカが、ヤシモから取り上げた拡声魔導具のマイクを俺の前に置いた。

 

無意識なんだろうか、長い尻尾が俺の背中をシュルシュルと撫でている。

 

彼女の不安をひしひしと感じるな。

 

 

『えー、直接攻撃は禁止です、殴ったり蹴ったりしないよう』

 

 

俺の言葉に、100の瞳が一斉に放送席の方を向いた。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

一瞬の沈黙の後、女達は再び互いに向き合い……

 

がっぷり四つに組んで押し合いを始めた。

 

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

「こなくそおおおおおおおっ!」

 

「押せ押せ押せ押せ!」

 

「こいつら全員向こうに押し返せ!!」

 

『そういうルールではありませんっ!棒を奪い合ってください!』

 

 

アナウンサーのヤシモの声なんて誰も聞いていない。

 

待機席からも「棒ーっ!!」「下向けーっ!下ーっ!」と声が飛ぶが、全員シカトだ。

 

しかし、ルール無視でも客席は大喜び。

 

 

「やれやれーっ!」

 

「メンチの姉さんーっ!勝てーっ!」

 

「ロースの姉御ーっ!負けるなーっ!」

 

 

俺はマイクを再び奪い取り、各組の軍師向けに放送を行った。

 

 

『えー、チキン、ジレン、特例で参加を認めます』

 

「うおーっ!」

 

「あっ!チキンさんずるいっ!」

 

 

結局棒は軍師二人での奪い合いになり、途中でジレンが争いに巻き込まれてノビてしまったため、紅組のチキンの勝利となったのだった。

 

やっぱり予行演習は必要だったかな……これも要検討だ。

 

さて、正直不安だが競技を先へ進めようか。

 

 

『次の競技は玉入れ、玉入れです。立てた竿の先の籠に自分の組の色の玉を投げ入れ、量が多かった方が勝ちとなります』

 

 

俺はまたマイクを奪い取って言った。

 

 

『相手の玉を奪うな、相手に触るな、竿にも触るな、以上』

 

「うぃーっ!!」

 

「わかりましたーっ!」

 

 

グラウンドからは元気な声が返ってくるが、信じていいのか?

 

疑惑の残る中、玉入れが始まった。

 

 

「入れろ入れろーっ!」

 

「入らないっ!」

 

「いっぱい投げろ!」

 

 

下からポンポン玉を投げる選手たちに一安心だが、しばらく競技が続いた後で急に白組が集まって相談を始めた。

 

何をする気だ?

 

 

「玉集めろーっ!」

 

 

全員で玉を集め、一人が大量に玉を持った。

 

そしてバレーのレシーブの姿勢で固まっている選手に向かって走り、彼女の組んだ手に足をかけた。

 

レシーブ側はその勢いを殺さないように手をはね上げ、玉を持った選手も膝のばねを使って空中に飛び出す。

 

少し方向がズレたのかダンクシュートのようにとはいかなかったが、籠の少し上からダイレクトに玉を叩き込むことに成功した。

 

 

「よっしゃああああああ!!」

 

「着地ーっ!」

 

「ああああああっ!」

 

 

叫びながらも無事受け身を取って着地した選手は、すぐさま次の玉を集めだす。

 

なんちゅう危険な事をするんだ……

 

感化されたのか、反対の組も同じような事をし始める。

 

客席は「いいぞーっ!」「やれーっ!」と大盛り上がりだ。

 

その後も三人がかりで肩車をしてみたり、人間階段を作ってみたりと、大変な創意工夫だった。

 

玉入れってああいうアクロバットな競技だったか?

 

もう来年は競技自体禁止にしてやるからな。

 

あいつら、怪我したら誰が治すと思ってんだ。

 

その後も大縄跳びや馬跳び競争などの競技を大騒ぎで行い、選手はもちろん運営サイドも大いに疲弊したところで残りニ種目となった。

 

 

『次の競技は綱引き、綱引きです。綱の真ん中、その真ん中が各組の側にある白線を越えたら、その白線の勝ちになります』

 

 

もうアナウンサーのヤシモも疲れちゃって、説明もよくわかんない感じになっちゃってるな。

 

まあシンプルな競技だから大丈夫だろ。

 

 

「うおーっ!勝つのは紅組ぃーっ!!」

 

「シャーッ!」

 

「紅組の奴らを引き倒せーっ!」

 

「白が勝つようにしろ!」

 

 

ぶっちゃけもうこの時点で得点差があって紅組の勝ちは決まってるんだけど、みんな気にもしてない。

 

まあラストの競技で白も巻き返せるようにしてあるんだけどね。

 

クイズ番組みたいなもんだ、最終問題答えたやつが勝ち、その方が盛り上がっていいだろ。

 

やらされてる方はたまんないだろうけどな。

 

 

『位置についてー!三、ニ、一……』

 

 

フピーッ!と鳴った間抜けなホイッスルで、各チーム十人の力自慢達が一斉に綱を引いた。

 

 

「やっちまえーっ!」

 

「頑張れーっ!」

 

「負けるなーっ!」

 

「引け引け引けーっ!」

 

 

大きな声援が飛ぶが、綱の真ん中は微動だにしない。

 

お互い完全に力が拮抗していて、顔を真っ赤にして綱を引く女達からはかけ声すらも上がらなかった。

 

 

『おおっとおー!これは!完全に!力が釣り合っている!綱は微動だにしません!』

 

 

少しだけ紅に行ったかと思えば、同じだけ白に戻る。

 

それを繰り返すこと五分。

 

応援の声もだんだん鳴りを潜め、客席が心配そうにざわめき出した頃に両陣営スリップダウンでの幕引きとなった。

 

正直こいつらの根性を舐めていた。

 

時間制限を考えてなかった俺の責任だな。

 

急いで現場に赴いて再生魔法を使ったので大事はなかったが、再生魔法で体力は回復しづらい。

 

ダウンした中にはラスト競技の騎馬戦にも参加予定の選手が何人もいたので、急遽代役を立てることになってしまった。

 

 

「イスカ、お前も騎馬戦に参加してくれ。お前ぐらいの背丈がないと駄目なんだ」

 

「いや、そのぅ……」

 

 

運動会の総指揮を取るイスカをこうして徴発に来たのは、紅組軍師のチキンだった。

 

まぁイスカはガタイだけはいいからな。

 

騎馬戦でも馬役ならヘタレでも大丈夫だと思うが……

 

イスカはさっきまでの荒っぽい競技を見て、完全に尻込みしてしまっているようだ。

 

怖いからって俺の腕にしっぽを絡めるな。

 

 

「イスカ、行けよ」

 

 

俺の言葉に、腕に巻き付いたしっぽがビクッと震えた。

 

 

「管理職っていうのは、下のケツを拭くのも仕事だ。何でもやる気持ちでいないと駄目だ」

 

「そうだぞイスカ、ご主人様の言うとおりだ」

 

「は、はい……」

 

 

しゅるりと、俺の腕から黒と黄色のしっぽが離れた。

 

うなだれたしっぽを引きずるようにして、上着を脱いだイスカはチキンに連れられていった。

 

しかし、管理職は下の責任を取る、か……

 

知らないプロジェクト……

 

会ったこともない客……

 

俺だけの土下座……

 

うっ、頭が……

 

……まあいい、この世界じゃ俺は管理職をすっ飛ばして社長なんだ。

 

社員への責任は賃金や福利厚生で取ればいい。

 

問題は社員に根性の座った暴力団員みたいな奴が多い事だが……

 

まぁ、なるべく恨まれないように頑張るしかないか。

 

 

『最後の競技となります!騎馬戦です!四人一組で行う競技で、三人が馬を作り、一人が騎士役として上に乗ります!騎士はかぶった帽子を奪われると脱落!この競技では特例として、最後に残った騎士の組に十点が与えられます!』

 

 

辻褄合わせだが、これがないと消化試合になっちゃうしな。

 

ま、あくまで余興だから。

 

 

『なお、ケンタウルスのピクルス嬢と鳥人族のボンゴ嬢は急遽欠員の出た白組への特別参加ということで、二人一組での参加となります」

 

「ボンゴちゃーん!」

 

「ピクルスーっ!」

 

 

観客から声が上がってるな。

 

ピクルスは他と身体能力が隔絶していて、これまで出番がなかったから嬉しそうだ。

 

 

『最後の競技です!それでは位置についてっ!三、ニ、一……』

 

 

ピーッと笛が鳴った瞬間一斉に駆け出した馬達が、グラウンドの中央で激突した。

 

なんでああ荒っぽいんだ……

 

かなり強い当たりだったのに、崩壊した馬はイスカの入った班だけ。

 

やっぱりいくらガタイは良くても肉体労働者達のパワーについていけなかったか……

 

 

「帽子よこせーっ!」

 

「取れるもんなら取ってみろ!」

 

「…………じ……ま……」

 

「あーっ!帽子がーっ!」

 

『熾烈な争いが続いております!ボンゴ、ピクルス組強い!ボンゴ、ピクルス組が強すぎる!』

 

 

ピクルスの肩に乗ったボンゴは、敵の手をスイスイかわしながら帽子を掠め取ってはピクルスの頭に乗せていく。

 

まさに人馬一体、いや鳥馬一体か。

 

とにかく阿吽の呼吸で二人が動き、片っ端から帽子を掻っ攫っていく。

 

白組リーダーのロースも苦笑いだ。

 

 

『あっという間に白優勢!白優勢です!』

 

「ふんっ!」

 

「あーっ!帽子がーっ!」

 

『おっと!紅組のメンチ選手も強いっ!さすがの頭領!貫禄があります!』

 

 

蹴散らされた紅組の騎馬の奥から、真打ちのメンチの騎馬が登場して手近な帽子を奪い取った。

 

メンチの騎馬は普段から一緒に活動している冒険者達で固められ、チームワークはバッチリだ。

 

そしてその前に立ちはだかったのは白組リーダー、ロースの騎馬。

 

 

「メンチっ!決着つけるよ!」

 

「かかってくるがいい」

 

 

メンチとロース、リーダー同士の決戦が始まり、客席の盛り上がりは耳に痛いほどだ。

 

鱗のある腕同士が打ち合い、そらし、組み、弾く。

 

足が止まっているからこその、上半身の技術だけを集約した特殊な戦いを、会場中が固唾を飲んで見守っていた。

 

メンチの直突きを首の鱗で滑らせたロースが、その腕に一本貫手を放つ。

 

鋭い指先が刺さる前に、腕を回転させて弾きながら戻すメンチ、高速で行われるやり取りを全て把握するのは至難の業だ。

 

突きの構えを取るメンチと、迎撃で後の先を取るつもりなのか脇を締めて手刀を作るロース。

 

緊張感が高まっていく。

 

が、次の瞬間、メンチの帽子は頭の上からかき消えていた。

 

いつの間にか、他の紅組の騎士は全員帽子を取られていて……

 

メンチのかぶっていた最後の帽子は、ピクルスに足を掴まれて逆さ吊りにされたボンゴが、片手で頭の帽子を抑えながら胸に抱え持っていた。

 

 

『試合終了ーっ!!』

 

 

ドンドンドンドンドン!!と太鼓が打ち鳴らされる。

 

 

「え?最後どうなったの?」

 

『えー、最後ですが、おそらくピクルス選手がボンゴ選手の足を持って振り回し、メンチ選手の間合いの外から帽子を取ったものだと思われます!』

 

「なんじゃそりゃ……」

 

 

同僚を鎖鎌みたいに使うなよ……

 

もう来年はピクルス、ボンゴペアは禁止だな。

 

強すぎるわ。

 

 

『優勝は白組、優勝は白組です!』

 

 

ピクルスとボンゴの周りには白組のメンバー達が集まって、ワーキャー言いながら騒いでいる。

 

元気な奴らだ。

 

俺は今日一日、見てるだけなのに疲れたよ。

 

 

『それでは、閉会式を行います。選手一同……いや、歩ける選手は放送席前まで集まってください』

 

 

そうか、まだ閉会式があるんだった……

 

朝から夕方までドタバタやって、この後はこのままここで火たいて、フォークダンスとバーベキューの打ち上げだろ?

 

一体どんだけ体力ある前提でスケジュール組んだんだよ。

 

この運動会を考えたバカの顔を見てみたいよ……

 

あ、俺か。

 

そんなら来年は絶対用事作って出ないように……って、俺が出ることに意味がある大会なんだっけ……

 

八方塞がりだ!

 

次からはもう少し考えて行事を作ろう……

 

一日中熱気に当てられてヘトヘトの俺は、うなだれたままロースに背中を押されて連れて行かれ……

 

閉会の挨拶が終わったあとは、なぜか白組の奴らに一生懸命胴上げをされていた……

 

なんでこいつらこんなに元気なんだよ!

 

夜を告げる冷たい風が体にぴゅうっと吹きつけ、俺と選手たちの間の温度差をさらに広げる。

 

完全に頭の冷えた俺は胴上げを止めることもできぬまま、来年のこの日よ来てくれるなと、ただただそう思うだけなのであった。




ちくわ天

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